イシからの始まり   作:delin

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過去からの贈り物

イバラの石化を見届けた後、シャトルの先導で千空達はとある場所へと向かっていた。

それは宝箱があると思われる後宮……ではない。

そこはすでに確認し終わり、静的破砕剤を打ち込んだ後である。

今向かっている場所は代々頭首のみが入れる場所であり、シャトルの話だと頭首座を譲るために必要な技術の継承をそこで行っているらしい。

なんでも代々頭首のみに受け継がれてきた技術であり、とある物を保管し続けたり修復するための技術であるらしい。

多分口頭で説明されれば千空ならば分かるんだろうなとは思ったが、結局はその場所に行く事になるので説明は着いてからである。

 

「僅か二年であれほどの大船を作り上げこの島まで来られたとは、流石は継承すべき御方ですな」

「俺一人の力じゃねえっての、実際の作業はカセキや他の復活者だし、設計図だって龍水や桜子の知識が重要だったんだ、俺だけだったら手も足出ずにサバイバルだけで爺さんになってたっての」

「そのサバイバルを一人でできる人って何人いるのかなあ? 少なくとも私だったら数日で死んでると思うけど」

 

道中では現状の説明をしていたが、それが終わった後シャトルが千空達の今までの歩みを聞きたいと言ったので説明していた所だ。

そして、聞き終わっての感想が先程のシャトルのセリフである。

 

「改めて聞くとすごい話だよね、火を起こす道具を一から作るなんて俺できる自信ないよ」

「そうそう必要になるこっちゃねえよ、できねえのが当たり前だ。それにだソユーズ、オメーだって抜群の記憶力があんだろ? 知る機会があればオメーにもできる事だっての」

 

感嘆するソユーズに対して誰にでもできる可能性があると答える千空。

どうにも千空は自分の意思の強さだとか根性の強さだとかを計算に入れていない事が多い、桜子とソユーズは目だけで困ったものだと交し合う。

なんとなく馬鹿にされてる気でもしたのだろうか、その様子を見てふんと鼻を鳴らす千空。

そんな三人の姿を見てシャトルは安堵したように笑う、自分の息子は千空殿と仲良くやれているようだと。

そして最後の同行者はその隣でひたすら恐縮していた。

 

「その、本当によろしいのでしょうか、私ごときが御頭首様以外入ることを許されない場所に入るなど……」

「はっはっは、出る前にも言ったであろう? 今日でその理由が無くなるのだ、気にすることはない」

 

恐縮しきりなキリサメに鷹揚に気にすることはないと言うシャトル。

御頭首直々にお許しが出ているのだから本当に気にする必要はないのだが、真面目なキリサメはそれでも禁忌とされていた場所に踏み込むのは躊躇うようだ。

なぜこのメンバーで向かっているのかというと、シャトルと千空は説明は要らないだろう、桜子は千空でも鑑定できない場合を想定してであり他二人は荷物持ちである。

ついでにキリサメは道中で島の今までの事を話す役も担っていたりする。

 

「てゆーかキリサメさん、貴女以外に連れて来れる人いた?」

「それは……確かにおりませんが」

 

荷物持ちならば大樹が石化中であってもマグマや金狼がいるが、なぜ彼らが来ていないのか?

それは、禁足地へと関係者以外が足を踏み入れるのに難色を示す人が何人もいたからだ。

なので頭首のシャトル、その息子ソユーズ、継承すべき人の千空、そして忠実な側近のキリサメという人選である。

 

「今更ながらなんで私は着いて来てもいいって言われたんだろ? そりゃ、千空が分からない事を分かる可能性が一番高いのは私だけど」

「はっはっは、百物語を全て諳んじられる巫女殿が何をおっしゃる。私が頭首であるのはまず第一に百物語を語れるからですぞ? ならば貴女がここに入れるのは道理ではないですか」

「巫女ではないんですけど……、ややこしくなるだけなので後で説明します」

 

そういえば百物語のその百は千空へのメッセージ、つまり百物語を伝える立場の者以外が知ることはほぼないのだ。

シャトルが目覚めた時、思いっきりその話を持ちだして説得していた事を今更思い出した。

詳しく説明するのは難しいのでとりあえず後回しにする桜子であった。

 

 

「着きましたぞ、ここが頭首継承のための試験の場。石板の洞窟と名付けられております」

 

そうこうしている内に目覚目的地へと到着である。

目の前にはなんの変哲もない洞窟であった、一見すると、であるが。

 

「用があるのはその奥の壁、その向こうだなシャトル?」

「その通りです、あの向こう側に代々伝えられてきた物が眠っております」

 

シャトルが指差す先、洞窟の奥の壁はよく見ると周りの壁と色が明らかに違う。

そこの部分だけ新しめであるように見えるし、その周囲には新しめの壁と同じ材質の破片が転がっている。

これらが何を意味するか? それは、

 

「コンクリートの作り方が代々受け継がれてきた技術って訳か、あの壁を壊して作り直すのが継承の儀なんだろ?」

「お美事でございます、ご慧眼の通りあの壁を作り上げた時が継承の時でございました」

「こんだけヒントがありゃそら分かるさ、百夜の墓だってコンクリート製だったかんな。死ぬ前に墓石は普通作らねえだろ、だったら誰か別の奴がコンクリ作りをやったんだろうさ」

 

あっさりと秘中の秘を言い当てる千空に戦慄しているのは、しかしキリサメだけであった。

まあシャトルにとっては百物語を届けるべき相手であり、従うべき対象だ、どれだけ有能っぷりを見せられてもやはりという思いが先立つ。

残り二人はもっと単純、千空の能力の高さには慣れっこというだけである。

 

「んじゃ、ソユーズにキリサメ、悪いんだが壁の解体を頼むわ」

「うん、分かった。それじゃキリサメさん、俺は右からやってくから左からお願いするね」

 

いいながら背負っていたツルハシを下ろし、さっそく壁へと奮い始めるソユーズ。

キリサメも多少戸惑いながらもそれに続く。

そこまで分厚い壁でもなかったらしく、少しすると壁は取り払われその向こうの空間が見えてきた。

そこにあったのは石板の山、それも一体何枚あるのかも分からないほどの量であった。

 

「こいつが、代々伝えてきたってもんか。みたとこ壁と同じ材質……ってことは割れたりかけたりしてたら修復すんのもお役目か?」

「その通りでございます、そのために石板全てを記憶しておく……それもまた頭首の役割でありました」

 

そう語るシャトルの顔はどこか誇らしげで、それらは大変な作業ではあったがもういい思い出になっているようだ。

まあ、伝えるべき相手に届けることができたのだ、すべてが報われた気持ちなのだろう。

肝心の内容が役に立つ物である保証は実はなかったりするのだが、そのあたりは言わぬが花。

とりあえず一枚下ろしてもらい目を通すことにした。

 

「……なあシャトルにキリサメ、この島では文字ってやつは伝わってないはずだよなあ?」

「文字、ですか? ええ、何かを書いて残すという事はありませんが……」

「ここに文字が残ってんだよ、しかもこいつは……」

「キリル文字、ロシア語だよ、これ……」

 

なぜロシア語が、百夜の死んだ後に書かれているのか? まさか他にも生存者が? 一瞬そう考えるが、すぐに否定する。

なぜなら、

 

「いくつかスペルミス、っていうか字が間違ってる所がある。これ、多分百夜さん達の次の世代の人が作ったんだと思う」

 

文章をジッと読み耽っていた桜子がそう推測を述べる。

 

「書いてある内容にそれっぽい事でもあったか?」

「ううん、逆。書いてある内容、これ航海日誌だよ、ヤコフ・ニキーチン氏の」

 

桜子がした推測はこうだ、百夜は様々な物を未来に残そうとしていた。

その姿を見てヤコフ、ダリヤ夫妻の子が自分も何か残そうと思いヤコフ氏の航海日誌を石板に写本して残す。

それに必要な技術であるコンクリート作りの技術も当然伝わり、知識が力となる環境で百物語と合わせて自然と頭首の証になっていった……。

もちろん間違っている所もあるだろうが、大筋ではあっているのではなかろうか?

 

「あの親父……死んだ後まで働くこたねえだろうに。貴重な資料、ありがたく受け取るぜ」

 

島へと降りたってからの苦労の連続が偲ばれる内容を読みながら父の偉大さをしみじみ思う。

 

「シャトルも改めて礼を言わせてくれ、オメーらが伝え続けてくれたからこいつが失われずに済んだ」

「いえ、お役に立てたようで何よりです、先代達も報われましょう」

 

これらの石板は貴重な資料として船へと積み込まれ、後々まで永く保管する事が決定された。

 

 

千空達が後宮まで戻ってきた頃には静的破砕剤の効果は十分に発揮され、宝箱の中身も無事に回収された。

酒瓶いっぱいの砂金を見て驚き、さらにその中に含まれた白金の量に唖然としたり、残されたダイヤの指輪だった物を見てこれでレコードを作ったんだなとしんみりしたりした後、この島ですべき事は大旨終了したと言える状態になっていた。

 

「千空殿、この度は本当にありがとうございました。貴方方が来てくださらなければ全ては幻のように風化していたでしょう、ご迷惑をおかけした事、助けていただいた事、改めて感謝させて頂きます」

「かしこまる必要なんぞねえっての、俺らは俺らに必要なもん取りにきただけだ」

「そうでしたな、ならばこの後の島の事は我らにお任せを。千空殿らは使命をお果たしください、つつがなく終えられるようこの島より祈っております」

 

一通り百夜の、代々の頭首からの贈り物を確認した後シャトルが改めて礼を言い出す。

千空達がこの島に残る理由はもうないと理解しているからだろう、これで島の役割は終わりであると認識していた。

しかし、この島に住む者達はこれで終わりとはいかない、これからも生きていかなければならない。

イバラの残した傷痕は大きいが、だからといって投げ出すわけにもいかないのだ。

もしも千空達の力があれば島の復興、発展は大きく飛躍できる、本音を言えば過去に石化された者達も全て救ってほしい。

しかし、イバラの件で多大な苦労を千空達に負わせた事も合わせてこれ以上迷惑をかけることはできない、そうも感じていた。

シャトルの考えている事は千空も気づいており、どうするか少し悩んでいた。

時間をかけすぎればWHYマンが何をするかわからない、だがこの島の事を島の人間だけでやり切れるのか?

そんな悩みを頭の中だけで回す千空、その顔を覗き込みながら桜子が問いかける。

 

「ねえ千空、人手はいつだって不足気味だよね」

「まあな……」

 

これは事実だ。

 

「この島には今数百人規模の人間がいる訳だけど、欲しくならない?」

「そりゃあ、な」

 

教育からやる羽目になるので微妙ではある。

 

「一週間や二週間くらいここで手伝っても、十分お釣りが来る人手の量だと思うんだけど、どうかな?」

 

費やした時間分が取り戻せるのがいつかは不明だが、千空はあえて乗る事にした。

 

「悪くねえアイディアだな、ああ、人手といやあ海にたっくさん沈んでんじゃねえか」

 

ついでにシャトルが気にしている事も解消してしまおう。

 

「体力の凄まじいメンバーを投入すれば十日くらいで回収しきれるかな?」

「ま、そんなもんだろ。どうせ次の収穫まで待たなきゃ長期航海用の食料は足らねえんだ、ここで時間使ったって大した違いはねえ」

 

十日間かける価値があるのか? その時間を使って漁や狩猟をした方が早くはないだろうか? 時間をかけてしまって本当に大丈夫か?

それら全ての疑問をねじ伏せる、急がば回れだ、足元がおぼつかないのに走ったって転ぶだけ。

これが情に流された決断だとは理解している、だが人間は感情を無視して動けないのだ。

なら、きっとこれが自分にできる最大の速度だ、そう決めた。

 

「つー訳だ、島がある程度落ち着くまではいる事にすっからよろしく頼むわ」

「ありがたい事ですが……よろしいのですか? その、文明を取り戻すのでは……」

「あー、文明取り戻す為の一環だ、これも。人間の数が増えりゃそれだけやれることが増えっからな、なるったけ人手は確保してえんだよ」

「そう、なのですか? いえ、失礼いたしました。そもそも文明が何か私には分からぬ事、島のためにもなる事です、喜んで千空殿に従います」

 

まさか残って島の手助けをしてくれるなどとは思っていなかったシャトルは正直戸惑っていた。

だが、千空の言葉でなるほどと思いそれならば助けられた分は働きで返すつもりで頷いた。

 

「んじゃ、まずは龍水たちに納得してもらいに行くか」

「千空とシャトルさんの権威が効くから説得しやすい人手が沢山いるから、で納得してくれないかなあ?」

「石化装置がこの島にあった理由知ってる奴探し、でもいいかもしれねえな。いるかどうかも分かんねえけど」

「石化装置の使い方いつ知ったかによるんじゃない?」

「この島に誰か持ってきたのか、それとも流れ付きでもしたのか……情報無いところから推測すんのは無駄だな。ワンチャン知ってるやつ見つかることを祈るか」

 

そんな話をしながら龍水たちのいる船へと向かう二人、その背中にシャトルは感謝を込めてそっと頭を下げるのだった。

 

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