イシからの始まり   作:delin

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サルベージ

サルベージには深く潜れる肺活量と素早く潜行できるパワー、その二つが必要だ。

となると一番は大樹、となるのだが先に氷月を復活させる事になった。

 

「体内の毒まで無毒化してくれるとすっげー助かるんだがなあ、無理だったら自然排出するまで人工呼吸だ」

 

ガタッ!! そんな音を立てて立ち上がるのは、皆の想像通りほむらである。

 

「その役目は私が……!」

 

食い気味である、全力すぎて先の発言をした千空が引いている。

というか何も言わずにいるせいでじわじわと詰め寄ってきており、合わせて千空も後ろに少しずつ後退している。

 

「人工呼吸といってもそれ用の道具を使うのだろう、ほむらの想像するような方法ではあるまい」

 

呆れながらの龍水のツッコミで大人しく下がるほむら。

その顔はいつもの無表情なのだが、どことなく残念そうな雰囲気があるのは気のせいだろうか。

 

「ふむ、フグ毒が自然排出されるまで生命維持に努める、それは理解できるのだが、なぜ氷月からなのだ?」

「単純にフグ毒の対処法は知ってるが、カエンタケの方の対処法を知らねえってだけだ。この順番でも無毒化してくれてねえなら心構えができる程度だが、わざわざやべえ方からやる理由はねえだろ」

 

後司と大樹だと素で耐えきりそうな気がしてな、最後に千空が付け加えたセリフに皆から苦笑がもれる。

まったく冗談に聞こえないのが逆に笑いどころだろう。

まあ、ここまではいい、反対意見が出ることはない案件だ。

問題はここから、すなわち島への滞在期間の問題である。

 

「残るメリット、それがないとは言わんが、時間の浪費を行うデメリットを上回るものなのか?」

「復活液だって今回の件で消費してるんだし、わざわざ島のために使う理由はないんじゃないかな?」

 

島に対して良い印象は流石に持っていないらしい、反対意見に賛同する雰囲気が全体にある。

さて、ここからどうやって説得するか、そう千空が考えていると桜子が先に口を開いた。

 

「時間に関してはそこまで気にする必要ないかもしれないよ?」

「? どういう事だ? WHYマンに時間を与えるのは得策ではない、というのは共通認識だと思ったが」

「REIに観測してもらってるけど、動きがまったくないそうなの。何処かと通信した形跡もないらしいし、下手したら蛻の殻なんじゃって思うのよ」

「「「は?」」」

 

ちょっと予想外すぎる言葉に呆然となる一同、混乱が広まる前に千空が補足を入れる。

 

「少なくとも別の場所とやりとりしているのを観測できてはいねえらしい、電波以外でやりとりできるなら話は別だがな。そもそもおかしい事があんだよ、巨大隕石を対処していたREIを放置するって事がな」

「いやいや、それだったら誰が通信してきたっていうのさ。あれは確かに意図を持って発信されたものだよ?」

「ちょいちょい桜子と話してたんだがな、あっちの目的って謎すぎんだよ」

 

謎? 龍水達が首を傾げる。

WHYマンの目的など人類の絶滅に決まって……

 

「いや、確かにありえんな。人類を絶滅させたいならもっと簡単かつ早い方法がある」

「隕石に対処するREIを止めればいい、いや、石化じゃなくて放射線を地球上にばら撒けば十分、だよね」

「こんなもん作れる科学力あんなら、人類全員抹殺する方法なんぞよりどりみどりだろ? つまり、目的はそれじゃねえってこった」

「なら千空、君はなんだと予想するんだい?」

「情報不足でさーっぱりだ、人類消滅じゃねえってぐらいしか予想できねえよ。それでさえ今は未だ、って但し書き付きだ」

 

羽京の問いに千空は両手を上げて降参のポーズをとる、潔すぎる回答に聞いた羽京も苦笑いだ。

千空の話はなるほど、納得できる。

やれるのにやらない理由は一体なんなのか? 千空の回答はこうだ。

 

『俺が知るか』

 

身も蓋もなく簡略化すると今の話はそうなる。

人類絶滅が目的ではない、それだけは分かったのだが重要なのはそこではないのだ。

 

「で、それが何故誰もいないなどという予測に繋がるのだ?」

「孤独で居続けるってできる?」

 

龍水からの問いかけに桜子は逆に問い返す、質問の意図が一瞬分からなかった龍水だがすぐに気づいた。

 

「なるほど、家族との連絡ぐらい取れるならば取りたいものだからな。外部との通信がないならば誰もいない可能性もある訳か」

「そういう事。単独でなら個人的な繋がりと、複数人でいるなら上司と連絡を取り合うでしょ。特に、予想外な事態起きたなら何回も連絡を取り合って然るべきじゃない?」

「それがないという事は、無人の可能性もある、と。ならあのWHYは一体誰が?」

「基地の管理AIとかじゃない? 3700年動き続けるAIの実例はあるんだし」

 

なるほど説得力のある話だと一同が頷く、そんな中で千空だけ違う目線で頷いていた。

桜子自身は忘れているのだろうか? 石化前の境遇はほぼ孤立の状態で、独りで生きていたに近かった事を。

そして、気づいているだろうか? 独りは嫌なものであると認識が変わっている事に。

そんな事を考えていると何やら桜子から睨まれていた。

顔が少し赤い気がするが、まさか自分の思考を読みとった? 何故か一瞬そんな考えが浮かんだが、そんな事がある訳がない。

単純に今までの付き合いから推測されただけだろう、そう結論づけてとりあえずニヤッと笑って誤魔化す。

それに対して桜子は少しの間口を尖らせていたが、すぐに次の理由の話をし始めた。

 

「後は、最悪REIにお願いして、あっちの基地に質量攻撃すればいいかなって」

 

吹いた、全員が吹いた。

まるで漫画のように『ブーッ』という擬音が書かれるレベルで吹いた。

 

「おい千空! 桜子はお前の管轄だろう! なぜこんなになるまで放っておいた!」

「出会った当初からコイツはこんなだよ! 石化前の性格までは管轄外だっての!」

「さ、桜子ちゃんは本気じゃないよ、ね?」

「最悪の最悪、人類消滅の危機だったらやるしかないよね……」

「待って待って待ってー! 千空君起こんないよね、そんな事態起こんないよねえ!?」

「んなもんWHYマンに聞け!」

 

そこからはドタバタである、龍水に胸ぐらを掴まれシェイクされる千空や両肩を杠に掴まれやっぱりシェイクされる桜子。

そんな混沌とした状況で笑っている桜子とその頭上で揺れる髪、それがやけに千空の記憶に残ったのだった。

 

 

修復効果は願い通り毒の無効化までしてくれていたようで、氷月ら四人とも無事に石化から復活できた。

少し残念そうだったほむらはさておき、その後海に沈んでいる石像のサルベージが始まる。

 

「おい司、どっちが多くサルベージできるか勝負しねえか?」

「ふむ、この条件ならほぼ互角ぐらいかな。乗ったよマグマ、負けたら勝った方に奢るでいいかな」

「へえ、面白いことしようとしてるね。俺も混ぜて貰っていいかい?」

 

マグマが司に勝負を持ちかけモズが相乗りを希望したり、

 

「モズ君は中々のチャレンジャーですねえ、まあ彼なら勝ち目はありますか」

「師匠は参加はしないので?」

「体力や腕力では一歩劣りますからね、大人しく別の場所でサルベージしていますよ」

 

それを横目に見ながら氷月と金狼が話していたり、

 

「ところで銀狼は見ませんでしたか? 逃げたとは思いませんが……」

「銀狼君ならもうサルベージを始めてますよ」

「……なにを言ったのです?」

「なに、モズ君が銀狼君と一対一で試合をしたいと言っていたと伝えただけです」

 

銀狼が必死の形相で体力を使い切ろうと海に潜り続けていたり、

 

「それにしても分け方おかしくない?」

「あんだ? 男ども7、女ども3の割合でサルベージ範囲決めたのが不満か?」

「いや、沿岸部はそれでいい。なんなら男の方8でいいと思うけど、沖合全部を大樹って奴任せはおかしいと思わない?」

「まあ、あっちは羽京がついてるからね。これでもハンデが足らない気がするから、勝負参加はなしにしてほしいよ」

「大樹って奴はいったい何なんだよ」

 

モズが大樹の担当範囲に疑問をもったり、

 

「大樹が体力お化けだとは知っていたが、ここまでとは思わなかった。まさか船員総出でも受け取る方が間に合わんとは」

「石像見つけて場所を伝えたら、数分以内にはロープにかけてるんだけど……」

「この辺りは水がきれいでよく見えるからな! 大体の場所を教えてくれればすぐに見つけられるぞ!」

「あんま数沈んではいねえ、こりゃ予定を巻けるかもしれねえな」

 

案の定大樹がものすごい勢いでサルベージをしていたり、

 

「アカネ、デイジー、トウワタ、アイビー、イチハツ……あ、イチハツさんが三人もいるんだ、この集落」

「あの、全員の名前を一度聞いただけで覚えられたのですか?」

「あ、はい、私完全記憶能力持ってるので……すみませんが、次の紙束とってください」

「は、はい」

 

島の全員から名前を聞き取った桜子が戸籍作りで島の人を畏怖させたり、

 

「復活液に使うアルコールの濃度はこんなもんだが、覚えたか?」

「うーむ、とても強い酒精ですな、おそらくは覚えられたかと。ソユーズ、其方は?」

「俺は石神村で覚えてたから、大丈夫」

「そうか、ならば力を貸してくれ。……私の尻拭いのために、すまんな」

「俺、嬉しいんだ、……父さんの力になれるのが」

 

親子の初めての共同作業でアルコールを蒸留したり、

 

「……そうです、この石像は5年前私と一緒の船に乗っていた皆……!」

「んじゃ、まだ身内がいるな。優先の方に入れといてくれ」

 

石像の身元を確認して、身内がいる者を優先して復活させたりしていった。

 

 

「で、こんだけの数が残った、と」

 

今千空達の前には身元が不明な石像の群れが存在していた。

僅か数日程度でサルベージは終わりその後の身元確認も全て無事終わった今、思ったよりも大量の石像を前にその処遇をどうするか決めかねていた。

 

「どうしよう、石化装置が処罰用にも使われていたことを考えると、何割かは罪人なんだよね、多分」

「罪人だと何か問題かい?」

「ほら、暴れられたら……」

 

言いながら桜子が振り返る、周りには司、氷月、モズ、マグマ、金狼、コハクに後は先日体力を使い果たしてフラフラな銀狼。

 

「……暴れた人がトラウマになっちゃいそうだし?」

「よし問題ねえな、適当に一人復活させてみっか」

 

あわよくば一人目で石化装置の出所を突き止められるといいんだが、そんなことを思いながら左腕にひっかいたような傷のあった石像に復活液をかける。

そこまで都合のいい展開にはならずとも、剝がれ落ちた風化部分から多少は年代の特定ができるだろうと思っていた。

石化が解除されて彼が初めにした行動、それは、

 

「……頭首様(うえさま)! お助けすべき立場でありながらお救いいただいた事、面目次第もございません!! もしお許しいただけるなら、この松風改めて頭首様(うえさま)にお仕えいたしたく!」

 

銀狼の前で跪き家臣に志願する事だった。

流石に予想外過ぎて全員かたまってしまうのだった。

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