イシからの始まり   作:delin

95 / 101
勝てぬ相手とは

「つまり、いつかの頭首が銀狼そっくりだった、そういう事ね?」

「は、銀狼殿は頭首様に瓜二つでございます」

 

想定外にすぎたがために固まっていた一同だが、すぐに我にかえり石化から戻った男、松風に現在の状況を説明することにした。

驚き戸惑う松風であったが、自身が生きていた時代から数百年の時が流れている事実をどうにか飲み込めた。

そして何故解除直後のような行動に出たのか、という質問に答え終わったのがつい先程の事だ。

 

「別人だってのは分かるな、んなご立派な奴じゃねえもんなあ銀狼?」

「いや、この頃は大分良くはなっているぞ? まあ松風が語る頭首殿とは流石に比べられんが……」

「ほっといて!? 違いが酷いなんて事ぐらい自分が一番分かってるよう!」

 

松風の語る頭首様と銀狼の差にマグマが揶揄い、金狼がフォローにならぬフォローをし、銀狼が叫ぶ。

それを見ながら松風は思う、『ああ、やはり別人なのだな』と。

頭首様は立派な御人だった、故にああも気安く語れる相手など誰もいなかった。

立場が無ければあのように笑っておられたのだろうか、頭の片隅でそう考えながら次に話すべき事を語り始める。

なぜ自分が石化していたか、その理由についてだ。

松風にとっては敗北の苦い記憶、後世に伝えるべき警告であったが彼らにとっては別の意味を見いだしていた。

 

「……まさかの瓢箪からコマ」

「こりゃ月が無人の可能性大いにあるぞ」

「その結論に至った過程を説明してくれないか? いや、なんとなくはわかるけども」

 

自分達だけで納得する二人に司が声をかければすぐ説明が始まった。

 

「松風のいう頭首様も口にしてたろ、ここまで人が扱いやすくできている物なのに、なんでWHYマンの思惑通りに作動してねえんだ?」

「? 争い合わせるため、ではないと?」

「それが目的だったら、最初の石化が地球全土を覆う物だったっていうのが変なのよ。だって島の中だけの方が争う可能性低いのよ? わざわざ目的達成の確率が低い所だけでやる理由はないでしょ」

「アフリカにばらまきゃ民族同士で、ロシア、もしくは中国とアメリカに落としゃ世界規模で戦争の始まりだ。あちらさんは燕での実験を世界各地で行なってた、だってのに紛争の火種があちこちにあった事を理解できていなかったとは思えねえだろ」

「つまり石化の目的は別にあって、島に降らせた時のは失敗、もしくは想定外だったのでは? っていうのが今の情報の中から想像できるかな」

 

そこまで聞いたところで松風は地面を強く叩いた、今のが仮に正解であった場合、

 

「我々が争う羽目になったのは、賊の、人間のせいでしかない、……そういう事なのですな」

 

声に込められた無念の想いが形となっていないのが不思議なほどであった、血を吐くような声に皆かける言葉が見つからない。

 

「そ、そんなの気にしなくていいんじゃない、かな?」

 

そんな重苦しい雰囲気の中で声を出したのは銀狼だった。

 

「ほら、我々って言っても松風はやってないんだからさ、そんな他の人がやった事にまで責任感じる必要ないでしょ? ね?」

 

おそらく嫌な雰囲気を打破したかったのだろう、務めて明るい声で忘れるように勧める銀狼。

 

「いえ、賊達を思い止まらせる事ができなかったのは我らの不徳、責任がないとはとても言えますまい」

 

しかし、松風はそれに頷かず雰囲気は重苦しくなるばかり。

致し方ない事だろう、彼にとってはつい先ほどの事すぐに振り切れるはずなどない。

少しでも考える頭があるなら、時間を置くしかない事が理解できるはずだ。

事実、その場の流れはそっとしておこうという流れであった。

 

「ええい! 無いったら無いの、それを分かれよ真面目武者!」

 

しかしバカは空気を読まなかった!

各々の心中で、いや空気読めよ、それは罵倒なのか?、っていうかそっとしといてやれよ、などのツッコミが吹き荒れるが銀狼には届かない!

空気は吸う物! 読む物じゃない! これぞゲス奥義『野暮天』!

 

「松風みたいなことを言いだしたら僕が逃げた責任を千空が負わなきゃいけなくなるでしょ!」

「いやオメー何を言い出してやがる」

「なんだよ! 下が暴れた責任を上が負うって言うなら千空は村長なんだから間違ってないでしょ!!」

「確かにその図式だとそうなる、のか? いや、なにか致命的な部分が間違ってる気がするんだが……」

「松風が言ってる事が間違ってるんだからこれでいいんだよ!」

 

いいのか? いいのかも、などと場の空気が押し流され始めていた。

まったく、バカはいつでも思わぬ道を押し通りやがる、愉快な気分で呆然とする松風に声をかける。

 

「つーわけだ、オメーが悔やみ続けるとなんでか俺にとばっちりがくっから諦めて銀狼の言う通りにしてくれや」

「え、えっと、今のお話をそのまま通されるので?」

「おう、理屈にもなってねえ理屈だが……」

 

ちらっと横目でバカへと視線を向ける、銀狼は鼻息も荒く酷く興奮している。

 

「通さねえと、コイツぜってえ諦めねえぞ?」

 

松風は思わず天を仰ぐ、

 

(ああ、頭首様、自分はどうすれば良いのでしょうか?)

 

記憶の中の主に問いかける、昔もこんな事があっただろうか?

ああ、あった、子供らに囲まれて苦笑されながらこう口にされたのだ。

 

「……頭首様はおっしゃっておりましたな、泣く子には勝てぬ、と。銀狼殿、貴殿の言う通りにいたしましょう、私たちに賊の行いへの責はないと認めます」

「へ? いいの」

「そうでないと嫌なのでしょう? それに、時は数百年もすぎているとの事。怨みも憎しみも、意味を成さぬなら忘れまする」

 

そう口にする松風の表情は、もはや知る者もいないがその時の頭首とそっくりであった。

松風の言葉にいやっほうと無闇矢鱈とハイテンションにはしゃぐ銀狼、周りからの呆れたような視線も気づかないようだ。

 

「疲れからくるドーパミンの過剰分泌かなあ、あれ」

「ランナーズハイならぬワーカーズハイですか、どこで電源が落ちますかねえ」

「無理を通せば道理は引っ込むだったか、あそこまでひでえ押し通しは初めて見たがな」

 

ただ、その呆れの視線は大分好意的なものだったが。

無理矢理でも後悔を振り切らせた、その事はまあプラスだろうと皆が思ったが故のものである。

その視線の先ではしゃぐ銀狼がピタリと止まり、そのままパタリと倒れこむ。

 

「力尽きたねえ、まあ俺との試合を避けたいがために無茶してたんだし、当たり前っちゃ当たり前か」

「とりあえず寝床へ放り込んでくる、この後は松風が分かる顔から目覚めさせるのだろう? それなら人数は必要ないだろう、俺はそのまま漁の手伝いに行ってくる」

「そうだね、松風さんの他に司がいれば大丈夫でしょ。島に残さない石像達だけど船に積み込むのは後でいいし」

 

島の住民が一気に増えたため食料不足が懸念され、島の小船が総出で漁に出ている最中である。

その状態で更に住民を増やすわけにはいかず、ここにある石像達は本土に新しく作る村の住民予定であった。

その代表になれそうな人材が上手く手に入った、その事をこっそりと喜ぶ桜子。

苦労する羽目になるだろうなと倒れた銀狼の横で大慌てな松風を見て思うのだった。

尚、その思惑は外れ新たな代表を選ぶのに苦労するのは未来の話である。

 

 

松風の目覚めからしばらく後の事、目覚めさせる石像を選び終え船に積み込みも終わり、本土に向けて出港した船の中での事である。

 

「ねえ、俺もう怪我一つない健康体なんだけど、なんで軟禁に近い状態なの?」

「そうだねえ、島で無茶をしすぎたせいじゃないかねえ」

「いや、石化解除の修復でホントにピンピンしてるんだけど、好きに移動しちゃダメ?」

「スイカの泣き顔を見たくないから駄目だよ、あの子の不安がほぐれるまでは我慢しな。それに、こんなの船に乗ってる間だけだよ」

 

なぜかゲンは船室に閉じ込められ行動が制限されていた。

いや、理由は簡単である、ゲンが槍を胸に受けた一件はスイカにトラウマに近いものを植えつけたのだ。

幸いにも酷いものではないため、しばらくすれば癒える程度の心の傷だろう。

が、すぐには忘れられるものではない。

なので、しばらくの間ゲンは行動に制限がかけられているのだ。

好き好んで危険な真似をするゲンではないが、居場所が分からないとスイカのトラウマが癒えるのが遅くなりかねない。

それはゲンも理解している、別にやる事がなくて退屈な程度だし一日ぐらい我慢できる。

先程の会話もただのぼやきで本気で好き勝手動き回るつもりはない。

問題は……と考えた所で扉が開き何かがゲンへと飛び込んでくる。

それは小さなもので成人男性であるゲンなら問題なく受け止められる、と言うかここ数日ですっかり慣れてしまったものだ。

飛び込んできたもの、綺麗な金髪に翠の衣装を纏ったそれがゲンを見上げながら声をかけてくる。

 

「ゲン、調子はどうなんだよ?」

「絶好調だよスイカちゃん、だからここにいるだけだと退屈だねえ」

「退屈でも諦めるんだよ、ゲンは無茶するんだから」

「あの時だけなんだけどねえ、まあスイカちゃんの気の済むまで付き合うよ」

 

胸元へのダイブに慣れてしまうのは不味くないだろうか、そんな感想を思いながらこの頃の問題、スイカちゃんの距離感がおかしい問題を考え始めた。

思えばあの時、スイカの泣きながらのダイブを受けて気絶し、石化から戻った時からおかしくなっていた。

それからは気づけば横にいて手を繋いでいたり、起きたら布団に潜り込んでいたり、誰かと喋っていると近くにいたりと、いつの間にか側にいるようになっていた。

別に慕われる事が嫌ではないのだが、くっつき過ぎではないだろうか?

ちょっと男女差について理解しているのか不安になる、水浴びについてきたりはしないから分かってはいるとは思うが……。

今も自分の胸元へと顔を埋めて満足気な声を漏らす姿を見ると、本当に大丈夫か? と聞きたくなる。

なぜか誰に聞いても大丈夫だろと答えてくるが、もう少し年が経てば慎みを持たせないと……。

ゲンは知らない、スイカを庇ったあの時の事が語り草になっている事を。

ゲンは知らない、その男っぷりに彼ならば仕方ないとスイカファンクラブが認めている事を。

スイカが心の中でお嫁さんになれるのに後四年かー、と思っている事を。

ゲンは知らない。

 




御前試合の参加年齢制限は14歳以上、石神村の成人年齢も同一であると考えます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。