イシからの始まり   作:delin

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桜咲く

本土へと戻って数日ほど目が回るほど忙しかった、島での滞在期間が予定より長引いた影響である。

積んできた石像を一つ一つ一つ目覚めさせて現状説明したり、時には説得したり、時には説得(物理)になったり、かなり現実を飲み込ませるのに苦労したりした。

その後も戸籍を作ったり、住居を建てたり、ルールを覚えさせたり、最低限生活可能な状況を整えたりとやる事は非常に多かった。

石神村の方でも、戻るのが遅くなった事で私達がやる予定だった事を電話での指示付きで村の人達にやってもらったり、それに伴い想定外の事も起きたり、それが判明したのが戻ってからだったりとこちらもやるべき事が山積みだった。

島の方だって放置はできない、住民が増えた事で住居や食料が必要だったし、目覚めた人達からすると浦島太郎状態なんだからそのギャップに対するケアが必要だったり、折角作った戸籍だって利用方法が曖昧では宝の持ち腐れだからシャトルさんにその辺の説明したり、ソユーズが読めるように半分以上平仮名で書いたせいで区切りが分からず、何度も電話がかかってきたりとこちらもすべき作業が膨大だった。

そして今日はそんな大変な状況を一段落させ、皆の慰労と新たな住民たちが馴染めるように花見をする日であった。

花見自体は前々から予定しておりある程度の準備はできていたが、花を咲かせる環境作り、去年使った電熱線をまた利用して周辺を暖かくするのに随分苦労したようだ。

おかげで花が咲くか微妙であったが前日には大分咲き始め、今日にはお花見ができる程度には咲いている予想である。

そんな日の朝、私は杠に起こされるまで完全に眠り込んでいた。

 

「桜子ちゃん、起きて、桜子ちゃん! もう朝だよ!」

 

ゆさゆさと揺すられる感覚で少しずつ目が覚めていく、疲れが出たのだろうかどうにも体がだるく動かしづらい。

二度寝がしたいぐらいだが、起こされてる現状できるわけもないので仕方なく起き上がる。

 

「もう、昨日何時まで起きてたの? もう7時を回ってるよ?」

「昨日は、0時過ぎまで新村の住居状況の一覧を作ってた……」

 

寝ぼけ眼を擦りながらあまり働かない頭で素直にそう答える。

 

「桜子ちゃん、遅くまで起きていないようにって言ったの誰だっけ?」

「私です、ごめんなさい」

 

石化前の世界ではないのだから、電気のバッテリーを無駄にしないために無理な徹夜などは控えた方が良い。

そう皆に言ったのは確かに私である、しかし言い訳させて欲しい。

今日はお休みだからそれを気兼ねなく楽しみたかったのだ、やる事が残っていると気になってしまって休みに集中できないじゃない。

そう言おうと思ったがやめておいた、絶対にすぐに終わらせなきゃいけない事だったかと聞かれたらNOというしかないからだ。

でも次からはすぐに片付けられるよう事務処理できる人を復活させよう、七海財閥ならそういう人間のアテがいくらでもあるだろうから声をかけて……。

そんな事を考えながら杠に連れられて井戸まで来るとコハクがいた、去年と同じく貨物状態で移動かーと思っているとコハクがギョッとした顔をして私を指差す。

 

「桜子、血が……!」

 

血? 怪我なんてしてる訳が……、そう思いながら下を見ると足にはツーっと流れる一筋の血が……。

 

「えええぇぇぇぇ!?」

「これって月の、ってコハクちゃん見てないで着替えと生理用品とってきて!」

「分かった!」

 

私自身はすごく混乱していたが、杠が的確な指示と行動をしてくれたので洗濯物の手間が一つ増えた程度で済んだ。

お礼を言えたのは運ばれている最中であったが。

 

 

杠には感謝しかない、混乱があれだけで済んだのは彼女のおかげである。

私だけだったら下手すると血塗れの見た目スプラッタになっていたかもしれない、それを避けられたのだ、感謝以外出ようもない。

 

「だけど、そのよかったねっていう目をずっとし続けるのはやめて!

後コハクも! 私は大丈夫だから! こんな風に運ばれ続けたら他の人達から何があったんだって心配されるでしょうが!」

「桜子、一人で歩けないのは大丈夫とは言わんぞ。それに君が運ばれて移動するのはいつもの事だろう、心配せずとも誰も気にしないぞ」

 

今もお腹に腹巻きと懐炉をつけっぱなしな身としては文句がつけづらいが、さすがに恥ずかしいので下ろして欲しい。

後歩けないわけではない、いつもの半分から三分の一ぐらいの速さなだけである。

 

「それは大丈夫って言わないよ、大人しく運ばれててね」

「はい」

 

いや、大抵の痛みには慣れていたんだけど、これはさすがに初めてだ。

世の女性達は毎月こんな痛みに耐えていたのかと思うと本当に頭が下がる、真面目に死の記憶以外にこれより辛いものなかったんだけど。

 

「桜子、今の君ほど辛そうな状況は見た事がないからな? 普通はそこまでにはならないぞ?」

「初めてなせいかなあ、横になってもらってた方がよかったかも」

「今更だし、気にしなくていいよ。座りっぱなしになりそうだし、帰りも運んで欲しいけど」

 

本気で怠くて仕方ない、来月以降はもう少し楽になるんだろうか?

同じくらいだと色々支障が出そうだなあ、それならば予定を少しいじって……などなど今後の事をツラツラと考えるうちに花見会場まで着いたようだ。

去年と同じく綺麗に咲いている桜を見ると、それに意識を持ってかれたのか痛みが遠く。

これなら今日一日我慢できそうだ。

そして千空やマグマらの悪ノリによって作られてしまった一段高い席、名称お誕生日席に設置される私。

ちなみに命名はゲンだ、あの野郎私がスイカを焚きつけたと思っているらしい。

火種は自身で撒いたものだし、焚きつけたのは私だけでなく船に乗っていた女性陣全員だというのに、まったくいい迷惑である。

 

「おおっ、今日の主役の到着だな」

「去年ならともかく今年はただの名目の一つでしょ」

 

からかい交じりの声に反論しつつ周囲を見渡す、村の人達は全員いるだろうけど新村の皆さんはどこかな?

あ、料理の並んでるっぽいテーブルに皆くぎ付けだ、見えないように布がかぶさってるけどいい匂いだろうから仕方ないよね。

っていうかよく覗かずにいるなあ……後ろに松風さんがいる状態でやる奴はいないか。

今日の料理は何を出すのか私は知らないがフランソワさんが監修しているのだ、ご馳走ばかりなのは間違いないだろう。

凄い消費量の報告書がきそうでちょっと怖いけど、物資は使うためにあるんだから今日使う分はどのぐらいになっても目をつむる所存である。

お誕生日席の下で千空がマイクをとった、一応名目上の主役と言える私が設置されたから宴の始まりの挨拶をするんだろう。

 

「おーう全員お疲れさん、今日は日頃の作業お疲れさんっていうのと新顔連中との顔合わせが主な目的だな。あと、ついでにここに置かれてる幸運の座敷童の誕生日おめっとさんって言っとく」

 

千空の物言いにはははと笑いが起こる、まったく千空はいつも通りの調子である。

でも、本気で祝ってくれてるのはわかる、ただ真っ直ぐ言うのが照れくさいだけなのだ。

あの移植手術からなんとなく千空の感情が読み取れるようになっていた、これまでも予想は出来てたけど今だと確信できるレベルである。

このアホ毛実は何かの電波でも受信してるんじゃなかろうか? そんなわけないか。

おそらくはあの時流れ込んできた千空の記憶のおかげで、何を思ってるのかの予測の精度が上がったんだろう。

 

「あんま長々と喋って腹を空かせすぎた奴らから恨まれても困っからな、とっとと宴会を始めるぜ、乾杯!」

 

マイクと逆側の手の盃を高く掲げてそう言えば、『乾杯』と皆で綺麗な唱和が起きた。

どうやらこの掛け声は島でも伝えられてきたようだ、新村の人達も自然に唱和していた。

 

「よう、随分と遅かったじゃねえか。夜更かしで起きれなかったか?」

「ご名答、全部片づけときたかったのよね」

「だろうな、夜遅くまで明かりがついてたの見えたぜ? ほどほどにしときゃ良かったのによ。まあ、とりあえず誕生日おめっとさん」

 

そこで言葉を切ると訝し気に首をひねる千空。

 

「顔色悪いぞ、マジで体調良くねえのか?」

「ちょっと忙しかったしね、一段落してるし当分は仕事量減らすつもり」

 

そこまで顔に出てないと思ったんだけど、相変わらずの観察眼である。

 

「杠に怒られるような無茶すんなよ、この頃のアイツ怒ると怖えんだからよ」

「もうすでに軽く怒られ済みだからこれ以上やらないって」

 

そんな風に笑い合っているうちに料理にかかってた布が除けられたみたいで歓声が上がるのが聞こえた。

そちらに目を向け一つの料理が目に入り、つい私の動きは止まってしまった。

 

「流石に驚いたみてえだな、もち米なんぞいつ見つけたんだかなあ」

「報告聞いてないんだけど?」

「大樹が回収した中に混ざってたらしいぞ、フランソワが気づいて仕分けしたらしいぜ」

 

なんでこのタイミングでお赤飯が出てくるのか、偶然にしたって出来過ぎだろう。

杠がお赤飯片手にこっちに向かってくる、私の状況と石化前の習慣知ってるの杠だけだからお祝いでもってきたかったんだろうけど、千空に気づかれかねないから後にして欲しい。

お赤飯の量は少ないみたいだから持ってくるのに不自然さはないけどさ、千空が不思議そうにしてるじゃないか。

 

「杠の奴なんで赤飯だけ先に持ってきたんだ?」

「もち米なんて貴重な物、次に手に入るのいつか分かんないからじゃない?」

 

だ、誰か千空を呼びにこーい! ここから連れていけ、この調子で千空に情報収集させるんじゃない!

あああ、杠がフランソワさんに何か頼んでる、でも小声で口元を覆ってるから大丈夫か?

 

「あの方向、ホルモン系か……後野菜だな。何を作ってもらおうとしてんだ?」

 

保管場所を完全に覚えているのね、そりゃそうだよね、私いない時は物資の管理担当は千空がやってるもんね。

上を向いて千空が何か呟き、私の顔をジッと見てくる。

 

「……何?」

 

なるべくなんでもないように振る舞う、いや、徹夜に近い事をした後ろめたさを考える。

そしたら突然額に手を当ててこられた、これって体温を測ってる? 風邪を疑ってるんだよね?

 

「桜子……おめでとう、だな」

 

あああああ!! 気づかれたぁぁぁぁ!!! 今私の顔は完熟トマトのように真っ赤だろう。

気づいた事を間接的にでも伝えるなよ! いや、普通は分かんないかもだけど!

 

「~~~~! ……ありがと」

 

恥ずかしさでいっぱいであまり千空の顔を見れなかったが、後々になって惜しい事をした、そう思うほどその時の彼の笑顔は優しいものだった。

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