イシからの始まり   作:delin

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後日談:ゼノと会談まで

・太平洋横断中

 

「古来より船乗りにとって現在位置の把握は必須技能であった」

「どうしたんだよ突然」

「何もない大海原の中自分の場所を知るための技術、天測は言うに及ばず、地図の読み方、海路の把握など必要な事は多岐に及んだ」

「まあ、冒険すんならぜってえ必要だよな位置把握は。そうじゃねえとあっという間に迷子になっちまう」

「その通りだ、クロム。故に俺はこの船旅が命懸けのものだと思っていた、……いたのだが、な」

 

そこで龍水は一度言葉を切り操舵室の片隅へと目を向ける。

そこには伝声管があり、そこから千空の声が響きだす。

 

「現在地は北緯41度10分6秒、東経153度17分2秒、大体ルート通りだ。近くに低気圧は無し、航海は順調にいけそうだぜ」

「こんな指示されたルート通りに行けばいいだけの船旅になるなど想像もしなかったわ!」

 

思っていた自らの腕のみを信じての航海、そこから遠くかけ離れた現状に大きく不満を叫ぶ。

無論その方が安全かつ確実であるのは理解できるが、それでも『思ってたのと違う!』という気分らしい。

 

「これなら俺が船長である必要など無かったのではないか?」

 

進路に微調整を加えながら伝声管の先にいる千空へと愚痴る。

 

「馬鹿言え、分かるのは現在位置と雲の動きだけだぞ? それを元に方向を決めたりすんのは人間だ、それを正確にやれる奴がそう多い訳ねえだろ」

 

例えるなら車のナビと同じだ、機械によってルートを算出することは可能だがそれ通りに行けるかは運転手次第というわけである。

 

「そういやあさあ、一体どうやって現在地を調べてんだ? REIの奴はずっと同じ場所にいる訳じゃねえだろ?」

「んなもん簡単な話だぞ、ずっと同じ位置にいる奴用意すりゃいいだけだ」

「! 静止衛星か!」

「おう、REIの奴あのISSは自動で作ったって言いやがったからな、できるかもって思って言って見たらあっさり作りやがったぞ」

 

それを聞いた龍水の機嫌がわずかに持ち直す、このナビが必須だから作った訳ではない事に気づいたからである。

まあそれ以上にREIの凄さを再確認して、より欲しくなっただけかもしれないが。

 

「なあ、それって無茶だって桜子が言ってた奴じゃね?」

「REIに気づく前の話だろ、そいつは。一度できた事が二度目は無理なんてこたあねえだろ」

 

一度でもできたことが異常ではあるのだが現実に出来ているのだからしょうがない、利用できるものは最大限利用するだけである。

 

「千空、貴様の事だ、静止衛星の位置は太平洋上、目的地と石神村の間だろう?」

「正解だ、道中の状況が把握できるし、あっちが味方になったなら石神村と通信がしやすくなっからな」

「あれ? って事は今も石神村と通信できるのか?」

「おう、定時連絡って事で24時間毎に通信してっぞ」

 

因みに正確な時間計測は難しいが、24時間用の水時計を千空とREIの二人がかりで作成してたりする。

それを石神村に設置して日時計と併用で時間を測っているらしい。

 

「なあるほど、だから桜子を置いていける訳か。いつでも繋がれるもんな!」

「連絡担当は日替わりだっつーの、……アイツはそんな弱くねえっての」

 

クロムの揶揄いに呆れたようにツッコミを入れた後、ボソッと本音を漏らしピシャっと伝声管を閉める。

後半部分を聞かれた時の反応が予想できすぎていやだったのだろう、実際操舵室の二人の顔はニマニマといった風に歪んでいた。

 

「いやあ、聞きましたか龍水さん。あの千空がデレましたよ」

「いやあ、これはビックリだ。桜子への信頼が見て取れる言葉だったなあ」

 

二人揃ってニッヒッヒと笑う姿は、伝声管を閉じた千空の判断が全面的に正しかった証明と言える。

もしもまだ閉めていなかったら揶揄いの的だっただろう。

 

「んじゃあ、俺もやれる事やってくるわ。こっちは頼んだぜ?」

「ああ、船の方は任せるがいい。安全確実にアメリカまでたどり着いて見せよう」

 

ひとしきり笑った後、気合の乗った顔でそう交し合う。

ずっと同じように笑いあうため、日常を日常であり続けさせるため、やれる事をやる。

改めてその覚悟ができた、いや、再確認できた二人であった。

 

 

 

・アメリカ大陸にて

 

おう、俺は天才科学者のクロム様だ! 今俺は千空や司、それとゲンの四人でアメリカで目覚めた奴らの本拠地に来てる。

そして、

 

「と、いう訳だ。千空、君なら分かってくれるだろう? まあ、この状況下で断るなんて、愚かな真似を君がするとは思っていないが」

 

銃って奴を突きつけられて絶賛脅迫を受けてる最中だ!

とりあえず、落ち着くためにもこれまでの流れを思い出そう。

まずこっちの大陸にたどり着いてすぐに千空が、

 

「俺は日本からきた千空だ! 今からそっちに行くから準備して待っててくれ」

 

って電波を最大にして無差別に通信波を垂れ流したんだ。

んで、それやってすぐ後通信が入って、

 

「こうして声を交わすのは初めてだね千空、君ならばきっと目覚められると信じていたよ」

「そう言うって事はアンタがDR.Xだな? 改めてよろしくだな、さっきも言った通り今からそっちに行く。ああ、手土産程度は持ってくから楽しみにしててくれ」

「ああ、楽しみにしておくよ。迎えは要らなそうだから歓迎の準備だけ整えておこう」

 

そんなやりとりがあって、モーターボートに石化に関する資料とか農作物数種類やら他にも色々を積んで遥々相手の本拠地までやってきた訳だ。

で、俺たち四人ともこの部屋に通されてゼノって奴、あっちのリーダーに挨拶したんだ。

そこまではなんの問題もなかったはずだったんだが、ゼノの隣の奴がいきなり銃を構えた。

突然の事に慌てて動こうとする俺らを止めたのは司だった。

 

「動かないでくれ、彼相手では俺でも一人道連れにするのが関の山だ」

「スタンリー相手に一人は殺してみせると豪語するか……『スタンリー、どうかね? 彼を殺すならば犠牲を覚悟する必要があるかね?』

『だろうな、ゼノは守るがブロディは無理だ。つまり俺かブロディは死ぬな』

『自分の身は自分で守れってか?』

『違うぜブロディ、テメーか俺を捨て石にしなきゃゼノが死ぬってんだよ』

『バハハハ! そいつはそいつは、とんでもねえガキだな!』

『今おっぱじめるのはお互い損だな。ゼノ、こっちになんか要求してえ事があんだろ? とっとと話せよ』

「ああ端的に言えば……軍門に降れでよかったかな? 君達とは武力が違う、大人しく降伏すれば乱暴な真似はしないと誓おう」

「へえ、武力が違う、ねえ」

「そうだ。それに、だ、僕の目的を聞けば君なら賛同してくれると信じているよ」

「ほーん、んじゃあ、聞かせてもらおうじゃねえか」

 

そうしてゼノの演説が始まって、んでもってついさっき終わって愚かな真似云々のセリフが出てきたと。

……どうすんだよこの空気、司は両手で顔を覆っちまってるし千空は死んだ目で空を見上げてやがる。

いやまあ、気持ちはわかる、司の方は過去の自分の拡大再生産みたいなもんを見せられた訳だし、千空もロケットの先生って事で会うの楽しみにしてたのにコレだもんな。

なんかゲンの奴は顔が青いし、仕方ねえ、ここは俺が動くっきゃねえか!

 

「なあ、ドクターゼノ。質問してもいいか?」

「ああ、かまわないとも。知らない事を知ろうとする、とても重要な姿勢だよ」

「あんたは衆愚を導くつったけど、”どこ”に行きてえんだ?」

「どこ?」

「ああ、人手が欲しいってのは分かった。色々やるためにゃあ、人手ってのはいくらあっても足りねえのは知ってるからわかる。で、それでどんな世界を作りてえんだ?」

「……ああ、千空が連れてきただけはあるね、君は良い質問をする」

 

君なら簡単に幹部になれるだろう、なんて言われて少し嬉しかったのは秘密だ。

だって仕方ねえだろ? こいつはあの千空が自分以上って言う科学者なんだからよ。

 

「人類の、科学の進歩は旧世界では様々なものに阻まれてきたのだよ。そう、政治! 倫理! 衆愚どもの感情などというゴミ以下の価値もないもの達に! ……僕は二度とそのようなことがない世界を作り上げたいのだよ」

 

でも、やっぱ受け入れらんねえもんはあるよな!

 

「ドクターゼノよお、あんたは衆愚、衆愚っていうけどよ、そういう人たちが人間社会ってもんを作り上げてきたんじゃねえのか?」

「ほう?」

「普通の奴が一生懸命生きて、働いてきたからこそできたもんなんだ。それに育てられてきたってのに作り上げてくれた人達を馬鹿にすんのは違うんじゃねえか?」

「ふむ」

 

どことなく満足そうにうなずくと背もたれに体重を預けるゼノ、目がさっき語っていた時より輝いてる気がするのは気のせいか?

 

「僕が考えた事のない視点だね、なるほどとうなずける部分もある。だが、時代は、歴史は一部の天才が作り上げてきたものだよ」

「時代の流れ、その呼び水を生み出したのは確かに一部の天才かもしれない。だけど、流れは群衆が動いたからこそできたもの、そう思うけどね」

 

俺が反論を言おうとする前に司が先に口を開いていた、なんでい、さっきまで凹んでたくせに。

やっぱ、頭いいよな司ってよ、頼りになる奴だぜ。

 

「その通りだね、ならばこそその呼び水を生み出す役割は非常に重要なもの、正しい道を知るものこそ負うべきとは思わないかね」

「やめとけよゼノ、悪いこた言わねえから」

 

そんでもってようやく戻ってきやがったな千空、俺がやってたのは本来ならオメーの役割だったろうが!

しっかりやってくれよと目で訴えれば、あっちも分かってるよと目で返してくる。

 

「群衆って奴は片手間で動かしてどうにかなるもんじゃねえぞ」

「千空、君は僕にそれができないと思うかい?」

「できるだろうさ。ただし、科学者をやめればだがな」

「衆愚どもに道を教える事を随分と大変なものと認識しているんだね」

「千人にも満ちてない組織動かすのに毎日駆けずり回ってるやつ見りゃそりゃな。それと、そっちの下につくって話の前提条件間違ってるから訂正しておくぜ」

 

そう言って持ってきた手土産の一つをゼノに渡す千空、ゼノは怪訝そうな表情でそれを受け取り広げてみる。

 

「アンタならすぐにどの前提条件が間違っていたかわかると思うが、どうだ?」

 

見てしばらくは止まっていたゼノがやがて肩を震わせ始めた、そして段々と声が漏れ始めその声はついには大笑いになった。

 

「はっはっは! これは確かに僕が間違っていたな、ここまで詳細な“世界地図”があるという事は、だ。可能なんだろう? 神の杖が」

「伝家の宝刀は抜くもんじゃねえ、ちらつかせて動きを制限させるもんだぜ? できるかもって思わせるだけで十分だと思わねえか?」

「言質は与えないわけか、いいだろう、それで納得しようとも。『ブロディ、彼らと協力体制を敷く。細かい条件を詰めていってくれ』

『OKだボス、あんたが納得してるなら別にどっちでも構わねえさ』

 

ゼノが横の肌の黒いおっさんに声をかけると合わせて銃を構えてたやつも構えを解いた、会話自体は良く分かんなかったけどどうやら話がまとまったみたいだ。

 

「つーか、地図一枚で説得できんならとっととやってくれよ」

「わりーわりー、まっさか桜子の奴が言った天才が理不尽にぶつかると無理やり粉砕に走るってのがもろに当てはまるとは思わなくてよ」

 

色んな意味でショックだったんだよ、と肩をすくめながら言う千空の顔は嬉しいやら悲しいやらで大分複雑そうだった。

多分桜子に恩師の性格判定で負けたのが悔しかったんだと思う、なんか口げんかしてたって聞いたしな!

旅を終えたら桜子に言ってやろう、きっと盛大にからかってくれるはずだ。

その時が今から楽しみだなと思ったアメリカでの話だ。

 

 

 

・なんでゲンは顔を青くしてたの?

 

……三人とも気づいていないだろうし、アメリカ陣営はわかるわけないだろうけど、人類存亡の危機だったんだよね実は。

だってもしも千空ちゃんが死んでたらどうなってたと思う?

桜子ちゃんが復讐しない、なんてあるわけがない、そしてあの子は敵に容赦がないタイプだ。

俺が想定してたのは大砲とか毒ガスの類だから実際にはそれ以上のバイヤーな兵器を動かす事態になってたみたいだけど、ね。

とりあえず誰かにしゃべる気はないけれど、今まで以上に千空ちゃんの身の安全を確保しようと思う。

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