星になったタシュケントちゃんとデバフのジェノくん。   作:光蜥蜴

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❦ー2話

 

 

時雨「ああ、君もいたんだ。イギリスのジャーヴィスの妹さん」

 

ジェーナス「ジェーナスね。あなたのような冷静かつ常識的判断ができる仲間は歓迎するわ。ぜひともタシュケントのブレーキ役を担って欲しいわね」

 

時雨「……大丈夫なの? 君、死神のような噂を聞いたけども」

 

ジェーナス「失礼ね……」

 

時雨「スルーはできないよ。寒河江君は知ってるんだよね?」

 

 事情を説明した。

 

時雨「確かにエンチャントドラゴンを倒したのも納得できる……」

 

ジェーナス「少なくとも管理妖精戦ではタシュケントより強いから」

 

ジェーナス「あれ、ジェノ君、どこか行くの?」

 

ジェノ「亜斗ちゃん……友達の家、呼び出しくらった」

 

ジェーナス「お邪魔じゃないなら、ついていってもいいかしら。ずっと留守番していたせいで外の空気を吸いたいし」

 

ジェノ「構わないよ。とりあえず話だけだから、すぐに戻ってくる予定だけど」

 

 要件は会ってからしたいとのことだ。一応、亜斗に聞いてみたが、構わないとのことだ。亜斗は気にするどころか、西洋の女の子だ、と大歓迎するだろう。

 

西柴「俺は待っていりゃいいのか」

 

ジェノ「お願いします」

 

タシュケント「西柴さんはあたしとこれからの話かな」

 

 後は任せて玄関先でジェーナスを待つ。

 

 ジェーナスが支度に15分もかけた。化粧はしていないみたいだけども、ラフなサロペットに髪をシュシュで留めたり、とオシャレをしている。

 

ジェーナス「似合う?」

 

ジェノ「うん、可愛らしい。海兵服よりもそっちのが良いよ」

 

ジェーナス「ふふ、ジャヴィの私服をトレースしただけだけどね」

 

 年相応に見えてとても可愛い。

 

2

 

亜斗「ジェノっち、お前、次から次へと可愛い女の子はべらせてんな」

 

 出会い頭にそれだ。「はべらせてはいない。ホームステイみたいなもの?」

 

亜斗「わっかりやすい嘘つくな。まあ、犯罪じゃないならいいけどさ」

 

亜斗「でもこの子はすごく私好みの子です。妹に超欲しい」

 

 ジェーナスは笑うだけだ。良かった。あなたのほうが可愛らしい、とか、私のほうが背が高いし、あなたが妹じゃない、とでもいわなかったのは素直に助かる。そのワードは背丈が低く童顔のスリム体型の亜斗にとって禁句なのだ。

 

 ワン、と犬が駆けつけてきた。チョコの毛色をしたラブラドールだ。ジェーナスは少し眉を潜めた。所属していた犬猫ボラ関連では嫌な思い出もあったのかもしれない。

 

亜斗「犬、嫌い?」

 

ジェーナス「いいえ。頭が良い犬ならなお好きよ。時雨とかね」

 

 犬扱いするなよ。確かに犬っぽい子ではあったけど。

 

ジェノ「犬、飼ったんだ?」

 

亜斗「……タシュケントちゃんも犬か猫かでいえば犬だよね」

 

ジェーナス「会ったことあるんだ……」

 

ジェノ「あ、そうだ。タシュケントに僕の過去のこと話しただろ?」

 

亜斗「ごっめーん。最初、なーんか怪しい子だなって思ったから釘を刺す意味でね。憂のやつもいたよ。でも良い子なんでしょ。なら問題ないはずだ。許せ」

 

ジェノ「まあ、家にいればいずれバレることではなかったから」

 

 仏壇を観て気になってはいたことだろうからな。

 

 家の中へとあがって、リビングへと移動する。

 

 親御さんは留守にしているらしいが、テレビの前のソファに夢島さんが座っていた。その隣には白いふちの眼鏡をかけたやせ型の男が肩を抱いている。男のほうは婚約者だろう。

 

写真で観た顔そのままだった。雰囲気が重苦しい。式を控えた新婚の空気じゃない。

 

夢島「あ、寒河江先輩……」

 

 そう呼ばれた後に、男のほうがいった。

 

「君のせいなのか」

 

 一体なにを、と聞く前に言葉が続いた。

 

「潤の足が壊れた。まるで昔と同じだ」

 

 一瞬で脳内が疑問符で埋め尽くされる。まずなぜ壊れたのか。理由がよく分からない。それと君のせい、というからには、タシュケント達のことや効果紋のことを知っているのだろうか。どう言葉を発せばいいか迷っていると、犬が口を広げた。

 

「寒河江君とはつくづく縁がありますね」

 

 ぎょっとして更に混乱した。

 

「泉山です。実は亜斗さんとは昔からの友達なんですよ」

 

 アニマルエンチャントか。確かにあの団体は亜斗も属しているし、創設者だ。この泉山が縁を持っているのもあり得ない話ではないが、となると、この泉山が亜斗達に戦争のことを話したという線が濃厚になってきた。完全に巻き込むつもりなのか。

 

ジェーナス「すでに知っている風ね。ごまかせなさそう……」

 

ジェーナス「泉山だっけ。あんたなんで話したのよ?」

 

泉山「私は亜斗さんの家に寄った時、この二人がすでにいました。事情を聞けば、効果紋で治癒していた可能性が高いですからね。事情を説明しました。病院に行ったところで無駄でしょうからね。そのほうがなにかとよろしいでしょう」

 

泉山「私も軽はずみでしたが、なぜか改変能力が作用しません。部外者であるお三人に改変浄化が作用しない。私のほうはお二方よりもそっちのほうが気になります」

 

ジェーナス「呆れた」ジェーナスが本性を曝け出す。「情報を知るだけでは作用しないのよ。問題なのは行動を起こして関わった時よ。戸間のやつだって私達のことを知っていたわ。喋ったことといい、あなた、頭に欠陥あるんじゃない?」

 

 辛口だ。いっていること自体は同意する。

 

亜斗「責める気はないし、私もまだ飲み込めてなんかいないけど」

 

亜斗「原因は分かる? 大事なのは治す方法ではあるけど」

 

ジェノ「飯田さんがヒールの効果紋を持っていた」名前は出したくなかったが、致し方ない。「飯田さんは夢島さんの脚を効果紋で治したっていってて、その効果紋は他の人に移った。時間としては三時間ほど前だ。時間は一致する?」

 

夢島「するや……」

 

「飯田か」

 

 男のほうはスマホを手に取ったが、腕をつかんでそれを制する。

 

ジェノ「飯田さんはもう関わり合いになりたくないといってドロップアウトしました。あなたと同じく愛する女性と子のためです。僕としては巻き込んでほしくはありません。その責任は僕が負いますので、ご容赦して頂けませんか」

 

「つまり、あなたが治していただけるってことですか?」

 

ジェノ「……ええ」

 

「どういう方法で」

 

 言葉に詰まる。永続的に直す方法ってあるのかな。恐らく効果紋に代償はあるというのは真実だ。飯田の効果紋は常時、発動していたのだ。だからこそ、彼の効果紋が途絶えた時、夢島さんの足が元の状態に戻った。それがこの状況では濃厚といえた。

 

泉山「あなたにとって彼女はただのつがいですか?」

 

 突然、場の空気が凍るような発言をした。

 

泉山「夫婦のきずなって妻が足が動かなくなったことで終わるのですか。終わらず支え合うからこそ、私は人間の雄と雌の愛には一目を置いていました。ほとんどの動物は本能て雌を守るわけですが、人間にはその本能を補助的役割として機能させるナニカがある」

 

 いっていることは分かるのだが、そういう問題じゃないだろう。現実問題が山積みなのだ。気合いだけでは乗り越えていけないリアルがある。

 

「きっと親に反対される。結婚式も難しくなってしまう」

 

泉山「……はあ」

 その程度か、とでもいいたげだな。

 

夢島「たっくんは一度、帰りなよ」珍しい強い声音だ。「またすぐ連絡するから」

 

 彼氏君の顔が少し怖くなり、口を開きかけたところを制している。「少し頭を冷やしてくる、連絡、待ってるよ」とリビングを出ていった。亜斗と一緒に見送った。

 

 そのあと、リビングから盛大な音がして戻る。

 

 夢島さんが倒れている。ジェーナスが駆け寄って「大丈夫?」と声をかけていた。立とうとしたのだろうか。同じく声をかけようとしたが、

 

「あっはっは……立てもしないや」

 

 と夢島さんの笑った顔が見えた。

 

夢島「寒河江さんはどうして介護始めたんですかあ?」

 

 とうとつにそんなことを聞いてくる。

 

ジェノ「親の介護をした時期があったんだ。それがきっかけだった」

 

夢島「私と逆ですね。私は介護をされた経験があったからですー……」

 

夢島「隣の病室のおばあちゃんに車椅子をよく押してもらっていました。その人は癌だったんですけど、ことあるごとに私の背中に手を当てていうんです」

 

夢島「『わたしの命を少しでもあなたにあげたいわ』って。あの頃は苦笑いで返してましたけど」

 

夢島「周りからは『優しくしないといけない子だ』とかそんな目でばっか見られて、友達なんかもいなくて、一人で漫画や小説やドラマを観てばっかりだったんです」

 

夢島「この足が奇跡的に治った時、福祉の学校に行って、そこでたっくんと出会ったんですが、夢のような学校生活でした。ああ、たっくんは福祉サポートの会社に勤めているんですよ。話がすごく合って、夢のような生活を手に入れたわけですが」

 

 夢島さんは目に涙を溜めて、いう。

 

夢島「普通の恋もできなかったあの頃に、戻りたくない」

 

 うめき声まであげる彼女に、かける言葉がなかった。

 

夢島「先輩、もう一度、魔法をかけてください……」

 

 返す言葉が見当たらない。一時的に直す方法なら、ある。それこそシェアなり、健康な体を共有する。西柴に頼んでもう一度、ヒールをかけてもらう。その代償はあるかもしれない。飯田のように命が削られていく恐れも無視はできない。

 

ジェノ「一時的に、治す方法しかない」

 

ジェノ「しかも恐らく僕に代償がある。飯田さんは君を治してから体調不良が続いたようで、それがきっかけでドロップアウトを希望したんだ。君がそれを願うのなら僕は協力するよ。隠すのは不誠実だと思ったから代償のこともいったけど、その上でいう」

 

ジェノ「僕のことは気にしなくていい」

 

ジェノ「それが僕の嘘偽りない気持ちだから」

 

 亜斗とジェーナスがなにかいいたそうだったが、一様に口を引き結ぶ。

 

夢島「では、このままでいいです」

 

 そう答えた。悩んだ素振りもなかった。

 

夢島「命を削る、だなんて表現をされたら、無理です。寒河江先輩にはとてもお世話になったし、なにより私のせいで、私のような人生を寒河江先輩が送るはめになったら、と思うとそっちのほうがイヤです。飯田君にもお礼をいわないとダメですね……」

 

亜斗「……彼とはどうするのさ」

 

夢島「破断ですよ。だって、向こうのご両親はいい人達なんですけど、口を酸っぱくしていってきたのが、本当に足は治っているんだね、でしたから。たっくんは両親との縁を切ってまで私とくっつくとは思えませんし、なによりたっくんにも迷惑をかけるなら」

 

夢島「他の誰かと幸せになって欲しいです……」

 

 彼女は手に入れた全てを手放す覚悟を決めている。

 

 その涙と鼻水混じりに強がった笑顔がとても見ていられなかった。

 

ジェーナス「やめておきなさい」

 

 効果紋を発動させようとした左手を痛いほどに握られた。

 

亜斗「今日は帰りなよ。夢島ちゃん、とりあえず今日は泊まっていってね」

 

 亜斗がウインクした。強がりだろう。

 

 何の言葉もかけられなかったな。

 

 やっぱり現実は管理妖精より遥かに強かった。

 

3

 

時雨「ボク達が口を挟むことじゃないね」

 

西柴「気が合うな。まだ若えし、人生を諦めるにはまだ早い。そんだけのことだろ」

 

 ダメだ。時雨はドライで、西柴は歳ゆえに達観している風だった。

 

時雨「ボク達が優先すべきは管理妖精を沈めて改装図を手に入れること。少なくともボクはその志をともにできる君達だからこそ手を組もうと思ったんだ」

 

ジェーナス「時雨あなたねえ、私達は力を貸してもらっている立場なのよ?」

 

時雨「嫌ならドロップアウトすればいい。それにボクは力を貸してもらっている立場であると同時に、力を貸している立場でもある。効果紋という形でね。だから、ボク達は対等であれる。その二人は生きてる。これだけで幸せになる可能性が残されているよ」

 

 冷静な指摘ではあるものの、少し感情的だ。

 

時雨「でも、ボク達の仲間はそうじゃない。不幸を数えたらキリがないし、人助けも同じくだ。己が定めた目的を優先するべきだ。これがボクの考え方。間違ってるかい?」

 

西柴「時雨、そこは違えな。そこまでドライに割り切れるやつは意外と少ないぞ」

 

 意外なところから反論が飛んできた。

 

 進行形で日本酒を煽っているから、まともなこというとは思えないが。

 

西柴「海に情はあったか?」

 

時雨「なに。海に限らず、自然は無慈悲だと思うけど?」

 

西柴「そうだ。その無慈悲な自然の中で人も生きているわけだ。無慈悲な環境で生きてえのかよ。だったら手前、俺ら人間が情を持つしかねえだろうが」

 

時雨「西柴さんはそもそも命を賭けてまでやる気があるのかな」

 

西柴「敵対とか生死とか気にしてお前らの事情に首を突っ込めるかよ。お前らは事情がややこしいものの、関与した後の選択はいたってシンプルだ。生きて莫大なナニカを得るか、道中敗けて死ぬかの二択だろうが」

 

 時雨が眉間に皺を寄せた。

 

西柴「手前みてえな性格のやつはよくいるよ。物事に対して慎重でまずは傍観を決め込むんだろ、そして結果に対して喜びよりも消極的な安堵が勝るから感情的にはならない。聞くが時雨お前さ、まさか命を大事にするみてえなこというつもりねえよな?」」

 

西柴「長生きしてえのか。手前の事情を知っていてなお、挑んで戦って死んだら悲しむ人しかいないのか。姉妹どころか守る人間も失った手前にはもうなにもねえだろうが」

 

時雨「でも、先に逝ったみんなはきっとボクが生きてつかむ幸せを」

 

西柴「なおさら線を引けよ。いつまで死者に人生を振り回される?」

 

時雨「死んでない!」

 

西柴「手前と喋っていたら管理妖精をぶっ殺してえ感情が一番、大きく伝わるわ」

 

時雨「ボクの鼻っ面を押さないでくれ」

 

西柴「復讐に生きたやつを俺は何人も見てきた。ろくな結果にならねえ。後悔はないとほざくやつもいるが、その後の人生は分かるな。気持ちは分かるが、俺には刹那的快楽にしか見えねえ。そうして生きるのなら止めねえけど、お前は多分、そいつらとは違う」

 

西柴「無駄に敵を作る発言は自重したほうがいいぞ」

 

西柴「命はここぞという時に使うために、だ」

 

西柴「じゃねえと無駄に散らすだけだ」

 

西柴「手前の人生だっていつまで経っても虚しく過ぎていくだけだぜ」

 

 時雨の頭のあほ毛がぴょこぴょこと動いた。その髪には神経でも通ってるのか。

 

ジェーナス「この酒飲み刑事、良いこというじゃない」

 

西柴「無職のさすらい人だよ。刑事はもう辞めっから」

 

 全くだ。相棒の手綱を握ることができそうな人でよかった。

 

時雨「タシュケントがさっきから座禅を組んで無言なのが気になるけど」

 

 そう名を呼ばれると、カッと大きく目を見開いた。

 

タシュケント「同志の後輩の件、解決する助力はしよう」

 

時雨「君までそんなこというとは意外だな」

 

タシュケント「あたし達が敗北を喫した理由はなんだと思う?」

 

時雨「そんなの決まってる」

 

 まず時雨が挙げたのは管理妖精の強襲と常軌を逸したその殲滅能力だ。軍資金や軍や民間の制度や体勢、指揮系統、そして作戦立案における人員についてまでと細かい。タシュケントとジェーナスは同じく「まあ……」と応えても、同意はしていない風である。

 

タシュケント「その思考回路で再構築しても未来の結末は一緒だと思うんだ」

 

タシュケント「何のために戦っていたんだい?」

 

時雨「それはもちろん尊い国民の命や財産を守るために」

 

タシュケント「それは君が選ばされていた訳でなく、心から望んだ願いなのかな?」

 

時雨「違う」鋭い声だった。意外と感情の起伏が激しい。「建造された時は従っていたよ。一度目の記憶があるからね。でもこの身体で生きていく内に個性が芽生えて、役割には疑問視している。戦況が不利になるほど、余裕がある時だって」

 

時雨「軍の人間はドライで薄汚かった」

 

タシュケント「同感だ。でもね、時雨君」

 

タシュケント「命を賭けて守るに値する人間もいる。君だって知っているはずだ。ほとんど一度目の記憶だろうから、知ったかぶりかもしれないが、あたし達は人を模した」

 

タシュケント「今、かつて触れられなかった日常があるわけだ。価値観も視点も百聞は一見にしかず、百閒は一触にしかず、だよ。もう少しだけ色々な人と出会うたびに、考え方も変化してあたし達はあたし達の役割に初めて魂を燃やすことができるかもしれない」

 

ジェーナス「それ、けっこう甘ったれた発言よね。私はアルヴィンと過ごしていてサラリーマンとかよく出会ったけれど、みんな仕事に熱心だったわ。私達ってそこからクリアしてなかったんだなあって思ったこともあるわ。あの時は少なくとも鎮守府のみんな、だったし」

 

 時雨は西柴に視線を向けた。

 

西柴「んだよ」酒を煽って、コント番組を観ている。

 

 深いため息をつく。その後に目が合った。君はそうなのか。と尋ねられているみたいだ。本当に飯田とはあまり関係しなかったんだな、と思った。あの人は仕事熱心だ。

 

タシュケント「同志はもちろんだ。罵倒に暴力、そして服の袖に排泄物つけて汗にまみれで、なお熱心にがんばっている。全く」彼女は棚から紙切れを取り出してひらひらと振った。「あたし達の半分以下の給料でよくやるよって思う。同じくやりがい搾取だ」

 

 西柴がその紙切れに目をやり、いう。

 

西柴「お前ら月にそんなにもらってたのか?」

 

時雨「ボク達は身よりがない。散財する暇もあまりない。そして死ぬ危険性も高い。ボク達のお給料なんか国庫行きや寄付も珍しくない。もともと色々な思惑が絡んだ設定になってる」

 

西柴「……なるほどねえ」

 

タシュケント「管理妖精を倒すことに全力傾倒は否定しないけど、時雨君はいったね。尊い人間じゃない。人間の尊い命や財産を守るために目標設定をするべきだ。あたし達の職種は他職と連携する必要のある職種だ。社会に触れて知ることも大事だ」

 

タシュケント「今回その先に得るものがあれば、それはきっと役に立つ経験だ」

 

タシュケント「少なくともあたしは同志が好きだから悩みごとを解決してあげたいと思うよ。不思議と鎮守府のみんなとはまた違った気持ちなんだ」

 

 邪気のない笑みでいわれると、こっちが照れる。

 

時雨「その気持ちが論理的に戦争にどう役立つか説明できるかい? その寒河江君との関係が鎮守府のみなのことよりもずっと大事だといえるのなら納得できるかもしれない」

 

ジェーナス「容赦なく冷や水をぶっかけてきたわね」肩をすくめる。「時雨、あなた焦りすぎよ。論理的だとか、止まない雨はない、とか抽象的に例えるあなたがらしくないわね」

 

時雨「今でもそう思うよ。止まない雨はないんだ」

 

時雨「けどさ、また降り注ぐのがオチなわけで」

 

時雨「それは人が降らす血の雨も一緒だとボク達は知っているはずだ」

 

時雨「否定したい訳じゃない。ただボク達は後、何度死ねば幸せになれるんだろう?」

 

 タシュケントとは馬が合わなさそうだ。目的だけを考えたらドライに割り切って改造図を集めきることを最優先にするという時雨の意見も分かる。

 

時雨「今回の人助けは当人同士の問題でボク達が口を出すことじゃない」

 

時雨「別にみんなの意見は理解できるさ。少なくともタシュケントやジェーナスと同じ範囲でね。でも、それは本当にままごとの域を出ない。なぜなら」

 

時雨「ボク達艦娘は女として男を愛する感情が持てないからだ」

 

時雨「知ってたかい?」

 

ジェノ「……実はそこのこと自体は知ってる」

 

 吸収した知識の中にあったし、タシュケントを建造した時、彼女はこうもいった。子を産めない。それは嘘ではない。生殖本能が彼女達にはないのだ。それが恋愛感情にどう影響するのかまでは説明できなかったものの、艦娘の存在意義はあくまで争いだった。そこが彼女達を縛り付ける軍艦の部分でもある。

 

タシュケント「けど、不思議と人を好きになることもある」

 

タシュケント「じゃなきゃ指輪なんかみんなその場で砕くよ。あの些細な性能向上よりも他に思うことがあるから、受け取る。その好意はあたし達にとっては光だ」

 

時雨「……分かったよ。そこまでいうのなら今はまだ動くのはやめよう」

 

時雨「どうせボク達は君達なしじゃ管理妖精も倒せないだろうし」

 

 折れたのか、時雨はその場に座った。

 

ジェーナス「難儀な話よね。私達が抱いた親愛の情は人のそれと比べる方法がないもの」

 

 比べるものでもないが、彼女達は艦娘だからこそ、気になるところでもあるのだろう。かといって、今回の夢島さんの件は関わることができない。あくまで二人の問題だ。結婚となると、これから二人で直面する試練も多く、お互いを信じあえるかの点に尽きる。

 

ジェーナス「あーあ、式は出てみたかったなあ」

 

ジェーナス「男女が永遠の愛を誓うところは見てみたい」

 

 同じく。まだ結婚式には出たことないんだよね。

 

西柴「式自体は割と茶番だったぞ。離婚経験のある俺からいえばな」

 

 バツイチだったのかよ。

 

4

 

 翌朝、タシュケントに散歩に誘われた。どうせ夕方からの挙式の出席予定はパアで予定は真っ白だ。時雨のいう通り、切り替えたほうがいいのかもしれないが、行く末が気になって仕方がなかった。夢島さんは一緒に仕事をしてきた後輩だから尚更だった。

 

タシュケント「飯田さんもその奥さんも、同志の後輩もその夫も地元で育って結ばれたうえ、式の日もかぶるだなんて運命的だよね。良い運命かどうかは知らないけど」

 

 歩いて訪れたのは結婚式場だ。面白いのは、二つの式場が道路を挟んで二つあったことだ。両方が教会を携えた洋風の建物だが、飯田さん達の式場はブライダルだけでもなく、葬式も扱っている企業のようだ。従業員が走り回ってる。こっちは式があるもんな。

 

「おはようございます。カップルさん達ですか? 美談美女ですね」

 

 その声に振り向いた。夢島さん達の挙式場の従業員の女性なのだろう。

 男と女二人で式場をぼさっと眺めていたらそういう誤解も受けるか。しかし、なんだか観光総裁のプロの方からそういう風にみられるのは、なんだか変に意識してしまう。

 

ジェノ・タシュケント「い、いや、違いますよ」

 

 声が重なった。タシュケントも同じく変に意識してしまったようだ。

 

「なんだか、ういういしいですね」と女性は笑った。

 

ジェノ「実はそちらで行われる予定だった新婦さんと同じ職場でして」

 

「あ、そうでございますか。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

 

ジェノ「寒河江と申します」

 

「寒河江様とお連れのタシュケント様でございますか。お伺いしております」

 

 照れ臭くて話を逸らそうとしたのだが、予想外の言葉が返ってきた。

 

「本日はよろしくお願い致します」

 

 へ? とタシュケントとまた声が重なった。

 

5

 

亜斗《住所は間違いないけど、ごたついて連絡が行ってないだけかも》

 

ジェノ「だから亜斗に電話したんだよ。違った場合、夢島さんを傷つける」

 

 とにかく走った。式の予定はキャンセルになっていない。当日でごたついて連絡がまだされていないのか、それとも別の原因があるのか。亜斗からあれからの事情を聞いたところ、夢島さんの両親には足のことは連絡が行って、職場にも連絡は入れたとのこと。休職退職の話はまた後日に、ということで夢島さんは今、私立病院で受診中のようだ。

 

 夢島さんの彼氏の名前は佐藤卓というようで、地元だけあって家も離れてはいない。

 

 和風の料亭みたいな家だ。庭も広く池には水車やこけおどしまである。その門前でスーツ姿を着た佐藤が突っ立っていた。空を見上げていた。寒空からは少しだけ雪が降り始めている。タシュケントが「雪だ。雪は良いよね。醜いものを白くかくしてくれるから」と訳の分からないことをいった。

 

佐藤「あ、君達は昨日の、ええと、寒河江さんでしたっけ。隣の子は」

 

タシュケント「タシュケント。名前の感想は要らないよ。同、いや、寒河江君のツレ」

 

ジェノ「さっき式場に行きました。キャンセルしていないんですか」

 

佐藤「していない。挙げる予定だからな」

 

 だが、彼の声は弱々しい。

 

佐藤「実は俺の母親が昔に事故で利き腕が不自由になったんだ。だから母さんは親父に迷惑をかけた、と思ってる。家だって最初はボロアパートだった。俺の親は俺一人育てるのにも苦労してきたんだ。だからこそ、足が不自由だった瑞希との結婚は難しい面もある」

 

佐藤「一晩かけて言葉は練ってきた。それを報告する」

 

ジェノ「冷や水浴びせるつもりじゃないですけど、ダメだったら?」

 

佐藤「親との縁が切れるだろう。でも本音をいうと親にも祝福して欲しいよ」

 

 だから、彼はここにいる。少なくとも彼は結婚を諦めるつもりはないようだ。良心に認められなくても、挙式を強行する気だった。

 

 ベクトルが違うが、その覚悟の大変さは分かる。親を介護していた自分にはその父親や佐藤さんの気持ちが少しだけ分かる気がした。大変だけど、相手が好きならそれは幸福でもあるはずなのだ。この結婚、みんなに祝ってもらいたいな、と思った時、お声がかかった。

 

「あら、お友達?」

 

佐藤「母さん。瑞希のほうの職場の先輩とそのお友達だよ」

 

「そう。瑞希ちゃんの。寒いでしょう。あがって温かいものでも飲んでいって」

 

佐藤「……そうだな。あがってくれ」

 

 いいのかよ。大事な話の邪魔じゃないかな、と断ろうとも思ったが、「あたしも観たいけど、同志も観て損はないんじゃないの。将来、参考になるかもよ?」ならないよ。母親はその時、生きているかも分からない。

 

 しかし、好奇心はある。ドラマでしか観たことないシチュエーションだった。

 

 お言葉に甘えて敷居をまたがせてもらうとした。

 

6

 

 絵に描いたような和室で湯のみに入った温かい緑茶を飲みながら、タシュケントと一緒に今か今かとその時を待ちわびる。緊張してお互い、座布団の上に正座だった。

 母上様が父まで呼びつけて、その厳格な雰囲気になんだかより緊張が重なる。父のほうが破顔一笑する。

 

「楽にしてください。私、いかついのは見た目だけですから」

 

タシュケント「初めまして。同志、場を和ませよう」

 

ジェノ「ああ」

 

 といっても、いきなりギャグをかます気はなかった。やるべきことは良い空気を作ることだろう。夢島さんの話をした。職場のことを中心に、だ。介護現場は個人情報も多くあるので、利用者の情報も話せないので、介護と夢島さんの話をお三方にした。

 

 話が途切れた時、卓さんが両親に向き直り、言葉を発した。

 

佐藤「親父、おふくろ、聞いて欲しい」

 

 そして昨夜のことを話し始めた。上手く練られているし、タシュケント達の事情は上手くかくしている。しかし、彼の言葉で不味い点が一つだけあった。その説明で矛盾している点を指摘されていた。

 

 夢島さんの脚が完全に治ったという話だったはずだ、という点だ。

 

 彼の両親は目を丸くして、そこを突いてきた。それは結婚を認めて欲しくて、そういっただけだ、と素直に頭を下げていた。しかし、両親は黙り込む。場に流れる空気は決していいものじゃない。やっぱり、と危惧していたが、タシュケントが口をはさんだ。

 

タシュケント「お二人の気持ちを尊重、する場面ではないんですか」

 

「そうしたいのはやまやまなんだが」

 

 目をつむって腕を組む。こちらの立場はあくまで夢島さんのほうなのだ。こちらの気を悪くしないようストレートな物言いは避けてくれている。タシュケントが「なら」と声を発したので、口を塞ぐ。「ここは僕達がでしゃばる場面じゃないよ」

 

「申し訳ないが……私達は認められないよ」

 

 塞いだ手をどけて、タシュケントがいう。

 

タシュケント「ハンデがあるから? それを」

 

「それもまた不幸だけではなかったと思える日がくるだろう。しかし、そこにたどり着くまでに困難は確実にあるんだ。瑞希ちゃんもそこをよく知ってる。昔の母さんと同じようなことを気にしていた」

 

「今の腹を決めた卓には関係ないわな。俺も当時はそうだった」

 

「瑞希ちゃんに対してこいつが応えられるか、という疑問が拭えん」

 

「息子のことは私が一番よく知ってる。こいつにそんな甲斐性がないし、こいつの好きは三日続くのが珍しいほどだ。聞けば瑞希ちゃんは本当に息子によくしてくれている。あんな良い娘さんはこいつにはもったいないくらいだ。その期待に応えられるのだろうか」

 

 真剣なまなざしで息子を見つめる。

 対して、深呼吸をしてから、いう。

 

佐藤「交際を始めたのは五年前だけど、四年前からバイト、就職してからも金は貯めてる。そんなに給料は高くないけど俺も就職できた。やっていける。二人には頼らない」

 

佐藤「なにより俺は本気だ」

 

佐藤「認めてくれなくても、俺は式をあげる」

 

佐藤「けど、俺をここまで育ててくれた二人にも祝って欲しいから話にきた」

 

佐藤「頼みます。瑞希との結婚を改めて、認めて欲しい」

 

 そういって頭を下げた。

 

 父親は低いうなり声をあげる。母親のほうは口元に手を当てて笑っている。こっちのほうは聞けば、認める、といってくれそうなオーラを醸しだしている。父親のほうだろう。母親は右手が麻痺しているのか、固定具をつけているし、その妻と一緒に暮らしてきた父親は苦労を知っているのだろう。その苦労を背負えるのか、まだ疑問視している。

 

 もうひと押し必要だ。

 

 夢島さんの脚を一時的に治す使い方はジェーナスには止められた。それが正しいと思ったから、衝動を理性で抑え込んだ。

 

 しかし、この場面なら。

 

 タシュケントが与えてくれたシェアの力なら、と思った。

 

ジェノ「卓さん、彼女との良い思い出を思い浮かべながら」

 

ジェノ「話して欲しいです」

 

タシュケント「なるほど! 卓君、それできっと成功するよ!」

 

佐藤「えー……まあ、わらにもすがってみっか」

 

 迷わず、効果紋を使う。

 

 少しでもいい。二人が歩んできた日々や想いを魔法のように共有できれば、と思った。二人の出会いも、ともに過ごしてきた記念日も、彼がプロポーズをした日の情景も、だ。両親もその風景が見えたようだ。驚いた様子だが、彼が細かに語ってくれているので、想像力が豊かですねってことで。効果紋の能力だとは親御さんは思うまい。

 

 時間にして30分くらいだろうか。二人の思い出の波が止むと、母のほうがいう。

 

「大丈夫ですよ。あなただって私を幸せにしてくれたじゃないですか」

 

「私だってあなたを幸せにできたじゃないですか」

 

「その私達の息子ですから」

 

 その母の言葉は強かった。

 

「瑞希ちゃんを幸せにすると誓えるか」

 

佐藤「もちろんだ。式場でみんなの前で誓う」

 

「じゃあ、いいよ」

 

 軽い。そういって、また破顔一笑だ。

 

 このことを伝えなければならないな。聞けば、卓さんは式場に先に行ってやることがあるようだ。とのことなので夢島さんへの報告は頼まれたので快諾した。

 

タシュケント「花嫁の輸送護衛か」

 

 少し代償にびびっていたけど、身体の不調も感じなかった。

 

 むしろ心身ともに絶好調だった。

 

7

 

タシュケント「なんで亜斗ちゃんも夢島ちゃんも電話に出ないんだろ」

 

ジェノ「亜斗のほうは職場に休日出勤してる。最後に連絡が入ってたのは早出の休憩時間だったし、その旨のことが連絡きてたからね」

 

 ただでさえ自分の穴が開いているうえ、夢島さんがあの状況だ。職場から連絡がかかってきても不思議じゃない。ある程度は事務所の人達で回せるだろうけども、地獄のような忙しさだろうな。ただ今は亜斗よりも問題は花嫁輸送任務のほうだ。

 

ジェノ「卓さんからの連絡も出てくれないみたいだし」

 

タシュケント「最初から諦めるつもりないって伝えておけばよかったのに」

 

 タクシーを使ったのだが、道が渋滞していて時間がかかった。途中で降りて走ったのだけども、一時間ほどかかってしまった。もう正午を回っていて挙式まで二時間と少ししかなかった。病院でなにがあったか知らないけども、卓さんのほうからも連絡をかけてもらったのだが、繋がらないという踏んだり蹴ったり。

 

ジェノ「この超人的身体能力には感謝だ。喋りながらでも息が切れないよ」

 

 市立病院に到着した。受付は長蛇の列だった。急ぎとはいえ割り込むのも気が引ける。周囲に目を向けると、首からカードをぶらさげた女性がいて、見知った顔だった。

 

「あれ、寒河江君じゃない?」

 

 向こうから声をかけてきた。

 

タシュケント「知り合い?」

 

ジェノ「前に整体屋さんをやっていて世話になってたんだ」

 

 腰痛予防のためにお世話になっていた。今は病院で働いているとは知っていた。一年ぶりくらいだが、覚えていてくれたらしい。渡りに船だ。「あの!」と事情を伝えて夢島さんのことを伝えた。さすがに驚いたのか「ドラマかよ」と笑っていた。

 

 協力を快諾してくれてスタッフルームに直行してくれた。

 

タシュケント「なんか同志って可愛い人の知り合いが多いだね」

 

ジェノ「最近になって特に増えた」

 

「二階の整形外科の先生のところに行ってたって! それと今、病院に佐藤さんって方から連絡がかかってきて夢島さんと寒河江君の名前を出したみたい!」

 

ジェノ「助かりました! またすぐかけるってお返事で!」

 

 あなた達、静かにね、とたしなめられたので、頭を下げておく。

 

 階段をのぼって目的地に直行だ。整形外科のエリアから少し外れた談話ルームに夢島さんの姿を見かけた。そばにいる人達はご両親だろうか。外からでも分かる。空気が重そうだった。その証拠に扉を開いた人がそそくさと扉を閉めて、踵を返すありさまだ。

 

タシュケント「失礼」扉を豪快に空けた。「花嫁さん、式が始まるよ」

 

夢島「ええとどなた……って寒河江君?」

 

 一晩で、やつれた気がする。夢島さんがご両親と思われる人達に「職場の先輩とそのお友達、かな。結婚式に呼んだ人だよ」と説明していた。

 

 父親と思われる人が「娘のこともひと段落したし、佐藤さんに連絡を入れようと思っていたとことだが、さっきの隣のお嬢さんの言葉は」

 

ジェノ「急な事態ですから。佐藤さんがご両親とお話することに時間を割かれてお伝えするのが遅くなりましたが、新婦のほうは御両親ともに結婚式に参加します」

 

「「「マジで今日?」」」

 

 夢島さん一家の声と表情が綺麗にハーモニー。

 

タシュケント「良い男を見つけたね。彼の啖呵はかっこよかった!」

 

夢島「げ、千里先輩の家で充電してなかったから携帯の切れてたんだよね」

 

「俺も仕事帰りに大慌てで来たから電池が切れきちまってた」

 

「私も私も。病院に公衆電話もあるし、まあ、いっかって」

 

 面白いご家庭だな。夢島さんのぽわぽわした性格の理由が分かった気がするよ。自分のスマホから卓さんの携帯にかけて親御さんに渡す。

 

 二人が話している間に、式場までの公道が恐ろしい渋滞を起こしていること。

 

 雪のせいか事故もあってなおさら。

 

 しかし、ここから車いすを引いていくよりは途中まで車を使ったほうが速い、介護タクシーはすでに来てもらってることを伝えた。

 

夢島「この前、私がおばあちゃん転倒させて急搬した時もそうだけど」

 

夢島「寒河江先輩、人をフォローするのうますぎですよ。私も見習いたいです……」

 

ジェノ「僕を育ててくれた先輩がすごかっただけ」

 

 向こうとの話は終わったらしく、これからの予定を聞いた。夢島さんのご両親は式の準備は家にしてあり、正装に着替えるだけだという。家の距離的には空いている方向なので車でいいだろう。「間に合わなさそうだったら途中から母さん抱えて走るよ」冗談なのか本気なのか分からなかったので「分かりました」と笑顔で返しておいたよ。

 

タシュケント「よし、じゃあ行こう!」

 

 と、車いすの後ろに回って押したが、「うん?」と進まないことに戸惑っている。そりゃブレーキかかっているから進まないよな。「代わるよ。慣れてるし」ブレーキを解除して車いすを押した。「悪いけど、行儀よく押すのは病院の中だけ」

 

 病院の正面玄関の外には介護タクシーが止まっている。

 

タシュケント「あれ、いつの間にか雪がやんでるね。晴天だ」

 

 車内まで車いすを運んで、シートベルトをつける。

 

「事情は聞いてます。空いていそうな裏道を選んでいきますね」

 

ジェノ「お願いします」

 

 長く過ごした地元だし、空いた道を選ばきゃな。

 

8

 

ジェノ「見てきた。車の列がすごく長いよ。ここで降りよう」

 

 それでも渋滞には巻き込まれてしまった。理由は主に二つだ。この町も都市化してきてあちこちにお店が出来て利便性が高くなり、帰省した人達も同じことを考えてルートを選んでいたということ、そして濡れた路面が凍り始めて事故が起きた様子だった。

 

 メーターの支払いを済ませて、タクシーから車いすを降ろす。

 

ジェノ「さて急ぐよ。ここから安全運転で三十分以上はかかるけど」

 

タシュケント「新婦さんだと何時までに行かなきゃならないの?」

 

夢島「メイクとかあるから二時間前にはって説明を受けましたけど、最悪でも三十分前には到着しなきゃどうがんばっても仕立てで遅れるっていわれましたあ」

 

ジェノ「……抱えて走ろうか?」

 

 今の運動能力ならそっちのほうが速い気もする。

 

タシュケント「ダメだ。絶対ダメだ。主にロマンの問題でね」

 

 真顔で強く首を横にブンブンと振る。

 

タシュケント「今日、彼女を初めて抱えるのは新婦のほうがいい」

 

タシュケント「どうしてもというのならあたしが抱えるけどおススメしない」

 

夢島「わがままをいえば、ですけど……」

 

ジェノ「そのわがままは通してあげなくちゃね。任せて」

 

 ということで車いすを引いて目的地に向かう。道中、地元だからか、夢島さんが卓さんとの思い出を語ってくれた。「昔にここは猫カフェがあったんですよ、野良猫拾ってやってたみたいですけどね」とか「秋の季節に学校の帰りに帰ると、庭の柿をくれるおじいちゃんの家もあったよね」とか「今はマンションだけど、この空き地で告白を受けました!」とか。聞いていると諸行無常だ。思い出の場所は呆気なく金になってるな。

 

タシュケント「ヤバい、時間がもう残り五分しかないよ!」

 

 もう近いんだけどな。なるべく仕立ての時間は長いほうがいいだろうし、やっぱり急ぐしかないよな。路面が凍っているから事故を考えると走って押すのも怖い。「同志、あたしが押すよ! 近道しよう!」とのことなので交代した。

 

ジェノ「ちょっとそこはダメだって!」

 

 タシュケントが選んだルートは直線だ。近道ではあるが、突撃していった場所は飯田さん達の結婚式場だった。駐車場の車の数を見ても、今、式を挙げてる最中なのでは。

 

夢島「飯田君だし、大丈夫大丈夫。奥さんとも馴染みだし通行程度許してくれるさあ。ここ大きいからぐるって回るのすごく時間かかるしね」

 

タシュケント「とのことだし!」

 

夢島「捕まってるから、タシュケントちゃんもっと早く押していいよ!」

 

タシュケント「よしきた!」

 

 なら、いいか。後を走ってついていく。建物の横から走りぬけると、開けっ広げな芝生の内庭に出た。大勢の正装の人達がいる。タキシード姿の飯田さんの姿もあった。嫁さんは綺麗だな。どうやったらあんな美人と結婚までこぎつけるのか。

 

ジェノ「ブーケトスかな?」

 

タシュケント「うわあ! すごくブーケ欲しい!」

 

 といいつつも観ている余裕はないだろう。人だかりのそばを通って抜ける。みんな花嫁のほうに夢中でこちらには気がついていないようだ。

 

 ただ飯田さんは気づいたようで、首を傾げた。そうだよな、車いすに乗っているって嫌な予感がよぎるよな。

 

 花嫁が投げたブーケが空に舞う瞬間を観た。

 

 なんという偶然なのか。そのブーケがちょうどこちらに飛んできた。花嫁さんのノーコンである。タシュケントが機転を利かせて車いすを押す速度をあげる。

 

 すると、すっぽりと夢島さんの両手の中に収まる。

 

飯田「夢島。お前どうしたんだよ!?」

 

夢島「ふたりとも結婚おめでとう!」

 

夢島「花嫁ちゃん、この花束ありがとうね!」

 

 夢島さんはブーケを片手に掲げて、

 

夢島「後で新しいの投げて誰かに返しとくよー!」

 

 そのままブーケを持ち逃げだ。飯田さんもその奥さんも笑っていた。

 

 近道のおかげで、一分くらいで到着だ。

 

9

 

 入口で待っていた従業員の指示に従ってタシュケントが車いすを押した。すでにご両親は到着していたという。親父さんが汗を拭いているところを見ると、本当に奥さんを抱えて走ったまである。「花嫁、到着!」周りのスタッフの動きにブーストがかかる。

 

佐藤「寒河江さん、ありがとうございます!」

 

佐藤「瑞希、早く準備してこい!」

 

夢島「たっくん、ごめん! てっきり中止かと思ってた!」

 

佐藤「気にするな。これからもっと努力して信頼してもらえるようにすっからさ1」

 

タシュケント「ねえねえ、仕立てるところ、観させてもらえないかな?」

 

夢島「もっちろん!」

 

 どうやら無事に式は挙げられそうだ。近くのソファに腰を下ろして一息をつく。一般入場はまだ一時間以上ある。休憩したら家に帰ってスーツに着替えてご祝儀を用意しよう。

 

 ジェーナスのスマホにかけて事情を説明し、挙式が行われることを告げた。

 

ジェーナス《行く! 絶対に行く! すぐ準備するわ!》

 

 好奇心の塊。やっぱり女の子って興味あるんだな。

 

 亜斗にも同様の連絡をしておいた。

 

亜斗《行く! もう早番終わるから絶対行くぞ! すぐ準備する!》

 

 同じ反応が帰ってきたので通話を切る。

 

 新郎新婦のご両親とあいさつを交わした。

 

 深く頭を下げられた。恐縮だ。夢島さんの話をしようと思ったけど、彼女はもう介護ができないことを想うと躊躇われたので、本当に挨拶程度で後は受け身に返答した。そろそろタシュケントも連れて家に帰って支度しようとすると、

 

夢島「タシュケントちゃんも魔法が使えたんだ!」

 

 能力を披露した後のような感想の叫びだった。

 

 タシュケントが出てくると、笑う。

 

ジェノ「なにかしたの?」

 

タシュケント「車いすだから用意していたドレスがちょっとね」

 

タシュケント「あたしさ、建造された時には可愛い服を着てたでしょ?」

 

タシュケント「代わりに炉の力でドレスをデザインしてプレゼントしてあげた!」

 

ジェノ「素晴らしいフォロー」

 

 大幅に変更がかかる面もあるかもしれないな。そこの心配はせずに後は純粋に祝福する知人としての待遇を受けさせてもらおう。タシュケントと一緒に大慌てで帰宅する。

 

 白い吐息をまき散らしながら、二人で走った。

 

 

10

 

 

ジェーナス「準備した!」

 

 亜斗の家に行ったときの可愛い私服にポーチだ。御祝儀、といって渡されたのが、とんでもない大金で焦る。「気持ちよね。このくらいはあるわ!」

 

ジェノ「君はアルヴィンさんと一緒にいたせいか金銭感覚がおかしい」

 

タシュケント「どのくらいが一般的なの?」

 

ジェノ「三万から五万の間って聞いたことある」

 

タシュケント・ジェーナス「少なっ」

 

 ブルジョワどもめ。

 

 少なすぎる、と食い下がるので、協議する。

 

 結果、数字の8に落ち着いた。タシュケントとジェーナスが「エターナルと似ていて良さそう」との理由だ。まあ、いいか。数字の8は末広がりで縁起もよさそうだ。

 

 自室のクローゼットを開けて、スーツに着替える。

 

 私服での仕事だから相変わらずネクタイを締めるのに慣れないな。

 

ジェノ「よし、向かおうか」

 

タシュケント「同志はスーツ似合うね!」

 

ジェーナス「そうね、雰囲気にダークカラーがマッチする」

 

 なんだかジェーナスからは褒められている気がいないが、まあいいや。

 

 亜斗から連絡がかかってきた。「今から準備するから一緒に行こうよ!」とのこと。

 

 なので亜斗の到着を待つとした。車で来るとさ。

 

11

 

 挙式には無事に間に合った。ギリギリだけどね。

 

 受付で改めてご両親に挨拶して御祝儀を渡した。教会の建物までスタッフの案内を受ける。その道中、スタッフさんの視線はちらちらとジェーナスに向けられていた。もろイギリス人の金髪の子供だからか、珍しがっている様子だ。

 

「ヨーロッパのお嬢さんですか?」

 

ジェーナス「アイアムブリティッシュ! だけど日本語もオーケー!」

 

「かーわいーいー。天使みたいな子ですね……式場も映えるというものです」

 

 確かに洋風の建物が似合う。

 

亜斗「なあんか若い子多いからか、結婚する子も多いよね」

 

ジェノ「そうだねえ。僕なんか先日まで彼氏いることも知らなかったよ」

 

タシュケント「よし、なんとなく式の流れはつかめた! 今後に活かせそうな経験だ!」

 

ジェーナス「そうね。私達って女性の仲間がすっごく多いものね!」

 

タシュケント・ジェーナス「これからたくさんあるかも!」

 

 めでたい空気に触発されてハイテンションな様子だ。艦娘って洋式と和式の晴れ着が似合いそうな人も多いし、全員、可愛い系か綺麗系だもんな。個性のクセは強そうだけども。

 

 そして入場だ。新婦側なので左側の席だった。新郎側からの列席者からの注目を浴びる。

 その視線を浴びているのはやっぱりもろ西洋少女のジェーナスだ。「可愛い」という声が何回も聞こえてくる。この国際色豊かな集団を見たら関係性は気になるよな。

 

 ジェーナスは笑顔で「綺麗な人達ね! 披露宴でお話しましょ!」と手を振った。そのコミュ力の高さがうらやましい。親族の後ろに座る。時間はちょうど良かったらしく、そのあとすぐに司会者の牧師が入ってくる。タシュケントとジェーナスは見慣れているからか、特に反応はない。しかし、そわそわしっ放しだ。

 

ジェーナス「ねえねえ、どこでキスするの?」

 

タシュケント「誓いの言葉の後じゃない? まだ生で観たことないよね」

 

亜斗「望むのなら今ここで私がしてあげよう」

 

ジェーナス「さてはあなた面白キャラね?」

 

 と、亜斗の発言に突っ込もうとしたところ、牧師の開会の辞が始まった。

 

 起立のお声がけがかかって立ち上がる。

 

 新郎の卓さんが入場してきた。ウエディングロードを歩いてきて、聖壇前に立った。なんだか静粛な空気だ。卒業式とはまた違って心がそわそわするな。

 

 新婦の夢島さんが入場した。

 

ジェノ・亜斗「お、おお……」

 

 正直、あれ本当に夢島さんだよな、と自問自答してしまうほどに神聖に綺麗だ。

 

 白色のドレスは工夫して仕立ててあって車いすのうえで飾られたフラワーアートのようだった。タシュケントが用意したというドレスのデザインに才能を感じる。

 女性スタッフが車いすを押して夢島さんの隣で父親が手を引いて、ゆっくりと進んでいる。

 

 聖壇前の階段も上手く、のぼっている。車いすの扱い方を知ってた。

 

 そして牧師の合図で一様に讃美歌を歌う。ジェーナスとタシュケントが最初は英語で謳い出して、そのあと、つたなく日本語で皆の後を追うように歌っていた。ちょっと二人とも日本語での歌詞を知らなかったのか、きょどっていて面白かった。

 

 そして聖書朗読と祈祷の儀式が行われる。

 

 そしてとうとうタシュケントとジェーナスが待ち焦がれていた誓約の場面だ。

 

 水を打ったように静まり返った中、牧師が問いかけを始めた。

 

佐藤「はい、誓います」

 

夢島「はい、誓います!」

 

 元気いっぱいだ。夢島さんらしくて笑った。

 

 そして婚姻の誓約を指輪を交換しあって、目に見える形にする。

 

ジェーナス「空気で分かるわ……!」

 

タシュケント「そろそろだ……!」

 

 二人とも膝の上で拳を丸めて背中がピンとなっている。

 

 卓さんがその場に片膝をついた。夢島さんの目線に合わせたのだろう。二人が立ち上がっているのが一般的だけど、これはこれでなんだか恰好よかった。

 

 そして、新郎が新婦のベールをあげる。

 

タシュケント・ジェーナス「く、くる……!」

 

 いちいち興奮しすぎ。

 

 そしてゆっくりとした速度で卓さんが夢島さんに誓いのキスをした。

 

タシュケント「ハラショー……!」

 

 タシュケントは満面の笑顔で眺めていて、

 

ジェーナス「きゃあ……!」

 

 ジェーナスは顔を真っ赤にして両手で顔を覆っていた。指の隙間からばっちり見ていたけどな。二人ともいちいち反応が可愛らしくて笑える。なんだか駆逐を可愛がっていた提督さん達の気持ちがよく分かった気がする。

 

亜斗「なんと可愛らしい初心な反応……」

 

 全く持って同じ感想だ。

 

 牧師による結婚宣言が行われ、証明書にサインを行った。

 

 滞り式が終わって新郎新婦の退場が始まる。

 

 ジェーナスが眉間に皺を寄せていった。

 

ジェーナス「私達のカッコカリと違い過ぎるわ……!」

 

タシュケント「全くだよ。あれはひどすぎたんだ」

 

ジェノ「どんな感じだったの?」

 

ジェーナス「館内放送で呼び出されて、執務室で指輪どうぞはいって感じ!」

 

タシュケント「フォローしておくと、単純に仕事の意味合いもあったからね」

 

亜斗「ねえ、後で私もジェノっち達のこと聞いてもいいかな?」

 

ジェノ「……そうだね」

 

 そろそろ隠してもおけないだろう。知らせないと逆に怖いまである。 

 

 残るは披露宴だ。そして亜斗が突貫だけど、プレゼントを用意してきたらしい。夢島さんと交流の深かった職場のおじいちゃんおばあちゃんから祝福の手紙を書いてもらったとのことだった。「めっちゃテキトーに仕事して準備した」おい。

 

 卓さんの友人や職場の人達のテンションが高かった。そしてなぜかちらちらとよくこっちを見ている。というかしゃべりかけてきた。国際色豊かだもんな。それとタシュケントに声をかける男性も多かった。二人とも対応が上手くて感心する。

 

「あの、夢島さんのお友達ですか?」

 

亜斗「えっと、私、です?」

 

 としゃべりかけてきたのが、中肉中背の笑顔が素敵な男の子だった。

 

 これは亜斗に春が到来するのではないか、と期待した。

 

「俺の娘とすごくよく似てて親近感わきます」

 

 っく、残念極まりない。

 

亜斗「こう見えても二十歳超えてますって! よくjcに間違われますけどね!」

 

「あ、俺、すごくタイプです!」

 

 なんだか披露宴なのにもう二次会の雰囲気だな。

 

 空気は柔らかいほうが好きなのでけっこうなことだ。

 

 それからお色直しした新譜がやってきてお決まりの両親への感謝のお手紙や二人の馴れ初めに対する質問が飛んで、神父の客人の男性陣が「ひゅーひゅー」とからかっていた。色々な綺麗な感情が入りみだる結婚式だ。

 

 夢島さんのお手紙はもらい泣きしてしまった。

 

 自分の脚のことで苦労して生きてきた人生を綴りながら、卓さんとの馴れ初めから今までのこと、両親に育ててもらったことに対するありがとうの言葉だ。タシュケントとジェーナスは少し真顔だ。ここら辺は二人には共感しづらい部分なのかもしれない。

 

 ここは二人へのプレゼント。

 

 シェアの能力を使った。夢島さんの心情を共有した。きっとこれから二人が生きていくにおいて、きっと役に立つのではないかな、と思った。二人はずっと笑っていた顔をうつむけて、泣いてしまった。しまった。逆に水を差してしまったのかもしれない。

 

 タシュケントとジェーナスは涙を服の袖で拭いて、顔をあげた。

 

 二人とも、困ったような顔で人を観ていた。

 

 

 

 




次回、対馬ちゃんやっと目覚める。

そこから朝霜達のこととか、対決管理妖精バッファ・ケートスとか、効果紋持ちの演習とか、ジェノが桜紋を持てた秘密だとか、そんな感じになる予定です。

台本形式の軽いギャグ書きたくなってきたので、この話の番外編作るかぷらずまさんのほうの番外編か旅行編を更新するかも……です(*´∀`)ヨテイハミテイ
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