星になったタシュケントちゃんとデバフのジェノくん。 作:光蜥蜴
目出し帽を深くかぶり直す。「確か空港は金属探知機で通行止めになるが、駅は基本、大丈夫なはずだよな」ルールと常識は似て非なるものだ。仮にあってもこの世界の金属探知機では反応しないはずだ。
やましいことなぞなにもないが、この不安は例えば札束が詰め込まれたアタッシュケースを持ち込み、駅員に見つかったら警察沙汰にならないだろうか、というのと同種の不安だ。なにも違法性はないはずなので、堂々としていることが大事なはずだ。
朝霜(持ちこんでいるものは銃刀法違反っつう次元ではねえけど)
駅の改札口をくぐり、エスカレーターに乗って、ホームへと出る。冬休みとはいえ平日の昼間だからか、ホームに人はまばらだ。制服の警官を傍目に列へと並ぶ。電光掲示板を見て、再度、路線を確認しておく。
朝霜「しっかし、舞台が海に限定されねえってだけでこうも出会えねえものか」
この世界に来ている仲間がいても、今回の仕様的に目的がばらける。管理妖精をぶっ潰したいやつ、平穏に暮らしたいやつ、いずれにしろ目的が一致しなければかつての仲間であろうと敵対関係になるし、深海棲艦と手を組むこともあり得る。
朝霜「あたいの白髪も黒に見えてるんだろうな……」
歯をかち鳴らす。愛嬌ともいわれた白髪の髪もギザ歯も、この世界からしたら異常であるはずなのだが、周りの人間には違和感なく迷彩がかかっているようなのだ。
この都合の良い異世界はなんなんだ。
朝霜「はあ」深いため息をつく。
三度目の転生だ。一度目の記憶は軍艦のもの、二度目の記憶は艦娘時の記憶だ。二度も役目を終えた船になにを望むのか。しかも今回は転生の上に異世界がつくときた。良い予感はしなかった。
朝霜(三部で最終章ってホントかな)
四号車の後ろのドアから車両の中へと入った。電光掲示板に流れる情報に、座席に座ってスマホに映る芸能人を眺めている青年がいる。
陸にあがれば、海の上で生きた身でも井の中の蛙だと知った。
バッグから生物図鑑を取り出してパラパラとめくる。今のところ唯一の趣味だった。一文無しの時に偶然、拾った本だが、見たことのない生物のメカニズムが事細かに記されていて面白かった。
朝霜「いつかペットショップとか本屋で働いてみてえもんだな」
この世界に第二次世界大戦の歴史はあれども、艦娘や深海棲艦のいない世界の歴史を歩んでいる。いわば、暁の水平線の向こう側の世界といっても過言ではないのだ。抱いた儚い夢も胸の奥にひっそりと忍ばせている。
駅に停車して、数人の乗降車を眺める。
景色はすでに田舎といってもいいくらいの自然に溢れていた。
2
隣に男が腰かけようとした直後だ。
こなれた殺意を感じて、反射的にその男の首を払った。
突然の動作に呆気に取られたのか、男はとっさに腰を曲げて回避した。朝霜の手刀はまとめていた男のポニィを払うのみだった。髪の毛が長く、ダークなスーツを着込んだ男だ。
朝霜「誰」
人差し指でトン、と首筋を叩かれた。その個所から痺れが波紋のように広がってゆく。口から吹き出る泡を拭う。男の人差し指の先にはなぜか針がついており、液体がぽたぽたと垂れていた。
朝霜「毒針?」
あ、ヤべえ、こいつ効果紋を持っていやがる。
この電車の中でドンパチする気か。「構わねえ」男の股間を蹴り上げるが、男は微動だにしない。昔、司令が男への必殺技といってたんだけどな。
「痛いですね……」
痛いで済むのはおかしい。艦娘の力からして普通の人間なら今ので股間から身体が砕けて死ぬ。
「あの、泉山光と申します。朝霜さん、ですよね。話をしましょう」男は隣の席に座る。
面倒だ。物事全てが、だ。
本来なら協力して倒して向こうの世界の平和を手にすればいいだけなのに、無駄に異世界の存在を知ると、人間は蜜に群がり、対立し合う。
朝霜「どうして殺さねえ。あたいは毒のせいで隙だらけだぞ」
泉山「その本を見て気が変わりました」男は柔らかく微笑むと、バッグの中の動物図鑑を指さした。「あなたは人間以外の動物の為に死ななければならない」
唐突かつ意味不明な話に狼狽するが、泉山は説明もなしに続ける。
泉山「あなた達が関わった戦争では空襲の際に動物園の動物の殺処分が決定されました。空爆により逃走し、その際の暴走を危惧した処置です」
ああ、一度目の時代の話か。
泉山「我が子のように愛してきた飼育員の手によって、熊は親子ともども槍で突き殺され、毒餌を食べない黒豹はワイヤーで絞殺されました」
朝霜「象は皮膚が分厚くて注射が効かないからと意図的に餓死させた」
二度目の生でどこかで読んだことがある。実話だったはずだ。二度目の生を受けた時から、自分の艦船としての記憶が途切れた後の歴史を調べることは必然だった。恐らくほとんどの仲間がそうしている。海でなく、陸の歴史の知識もそれなりに備わっている。
泉山「象は当時から皮膚が薄く血管のある耳から採血をしていたはず。当時は物資も食料も不足していたのは身を以て思い知っているでしょう。つまり、動物ですら飲まず食わずで耐えているんだぞ。そうやって当時の戦争のプロバガンダに利用されたに過ぎない」
悲劇の話は耳たこだ。二度目の生で人類の破滅さえ見た彼女にとっては戯言だ。
朝霜「だからなんだってんだ」
戦争はダメなことですってか。厳密には違う。人を殺すのがダメなのだ。その戦争が起きる仕組みの根本を全く潰せずにいて、また別のプロパガンダに発展しているのが人の歴史のように朝霜には思える。人が人を殺すのは避けられない。真理の気配すら感じる。
泉山「だから、あなた達は駆除されなければならない」
彼が胸のポケットから鉄片を取り出した。その鉄片が誰のモノかまでは分からないが、仲間の断片であることは分かる。恐らくこの男に狩られた誰かなのだろう。要は殺しても死なない為、殺して鉄片化させるつもりのようだ。
ハハ、と心の中で笑う。
こんな風に鉄屑になれば引き揚げられた軍艦のように大事に保管されるのだろう。しかし、肉体を持って意思があり、人智を超える力を有していれば、そんな温かな結末は途端に難しい。
朝霜「今度こそあたいは自分の幸せをつかむ」
泉山を全力で突き飛ばして駆けだした。
泉山「大人しくコレクションされてください」
何の考えもなく走ったからか、方向を間違えた。車掌室のほうに来た。騒ぎを駆けつけたからか、車掌室が開いた。
泉山「すみませんすみません、邪魔です」
乗客に謝りながら、隙間を縫うように追ってくる。
朝霜「この唐突なエンカウント仕様がクソ過ぎんだよな」
窓を叩き割る。窓ぶちをつかむと、鉄棒の逆上がりの要領で車両の屋根上にのぼる。ここなら時間を稼げるだろう。
電車の上で座り込む。さすがに飛び降りる勇気はないが、路線的にはもうすぐ湖が見えるはずだ。そこに飛び込み、艤装を展開するか。
泉山「待ってくださいよ」
朝霜「のぼってくるのかよ」
泉山「任務で手に入れた輸送中の鉄片があるはずです」
やっぱり狙いはソレか。絶対に渡せない。
朝霜「その動物属性付与の力、面白いな」
朝霜「深海棲艦は動物判定されてんのか」
その艤装を観ればその効果紋は誰を建造して烙印したものかも一目瞭然だった。
隆々とした腕を地面につけて、計四本の足で立っている。禍々しい背の光輪も含めて、間違いなく深海日棲姫の艤装だった。
さすがにあいつと恰好は違う。
あいつは格衣や陰陽服のような着物から伸びた骨の手、その指の先は獣のかぎ爪のように伸びている。あの白い顔はお面を思わせるものの、麻呂眉と瞳には艶紅を塗ってあるかのような赤いラインがあった。目はつむったままだが、一目で分かり、撤退したくなるほどに人間離れした強力な異形だった。
泉山はあくまで艤装のみを真似ているのだが、その砲撃の威力を考えるとまず勝てない。
朝霜「はあ」
何度目のため息だ。
上手く行けばみんなこっちで生きていけるのに。食べ物が腐るほど溢れたこの世界で、みんなで美味えもんを食えるだけで、泣いて幸せを感じられるほどのはずだ。殺し合いの戦いから解放された上で、だ。
泉山「いずれにしろ、昔からの例に漏れず、相手の力量を測れもせずに突撃してくる間抜けな童は潔く朽ち果てれば良いんです。他人のために屍晒すのはあなた達の得意分野のはずです」
泉山が砲塔の角度を変えたのを見て、飛び降りる。
着水する前に艤装を展開した。
転覆を上手く免れて、そのまま面舵全開で逃走を図る。首を少し捩って後方を確認する。泉山も電車から飛び降りていたが、着地失敗したのか、地面に寝そべっている。
朝霜「なんとか無事に……って嘘だろ!?」
泉山は起き上がり、艤装を液に戻し、人間形態に戻ると、爆発的な速度で走り始めた。
前方不注意だ。大樹に身体がぶつかる。艤装はこの程度では損傷しまい。損傷したのは身体のほうだ。ギザ歯がボロボロと欠けた。
朝霜「やり返してやら!」
艤装砲撃。どれだけ身体能力が高くても人間では砲弾は躱せまい。実際、回避はできなかったようで、男に直撃、か細い身体が吹き飛んだ。木っ端みじんにならない以上、なにか種はあるのだが、考えるより、撤退を優先し、すぐさま湖へと戻る。
あいつはとにかくなにかしらの効果紋で陸の上を早く移動したのだ。湖の上のほうがマシじゃねえかな、という考えゆえなのだが、
朝霜「なんだこいつ……!」
聴音機から反応を感知した。水の中をおよそ人間が出せる速度を超えて進んでいる。
すぐ近くだ。足元の水を見下ろした時、右足に鋭い痛みが走る。
朝霜「カジキ……?」
鋭利に伸びた針のような口が右足が貫かれている。次の瞬間、カジキから人の形に戻った。足をつかまれ、海中に引きずり込まれる。艤装展開中のあたいを引きずり込んでくるパワーだ。
泉山「恨みっこなしで」
気持ち悪いカラフルな色合いだった。
いや、その色合いは知ってる。
男は貯めた力を開放するように、拳を繰り出した。みぞおちに拳が減り込み、その後、水中で光が発生する。吹き飛び、水面から陸地へと水揚げされる。
朝霜「……けほっ」
深紅の命の塊を口から吐き散らす。
泉山「艦の娘様といえど、即死損傷のはずですが、心臓を狙えば良かったです」
朝霜「……なんかの毒針、チーター、カジキ、シャコだろ」
露出した男の左手の甲が証明している。
朝霜「【ENCHANT・Animal】」
その文字が虹色に輝いている。虹色の効果紋は初めてお目にかかる。下手したらこいつ自体が深海日棲姫よりも強いまである。
泉山「動物、お好きな人なので、なるべく苦しまないように」
突如として屈託なく、好意的に笑う。
朝霜「あたいは、命が好きなんだよ」
可愛く、強く、不思議な命がこの世にはたくさんいる。趣味といえる趣味がなかったので、暇潰しには持ってこいだった。男は嬉々とした顔を浮かべた。
泉山「シャコの猛烈な加速度の打撃は水中の水分子を分解するんですよ。その際の莫大なエネルギーの放出量は太陽の表面温度に等しいほどだ。この打撃の後に行われるキャビテーションによる追撃は打撃自体よりも強烈という」
朝霜「キャビテーション気泡だろ?」
泉山「はい。さすがは艦船の擬人化生命体です」
軍艦のスクリューのプロペラが劣化する原因だかんな。騒音がひどいため、高速ステルス潜水艦の設計をすれば悩まされる課題であることが知識として頭にあった。
泉山「最も、シャコの構造を真ねて放ったその一撃をまともに急所に喰らって、今まだ鉄片化していないあなたのタフさには呆れ返るのみです。急所に当たれば深海日棲姫も一撃で鉄片化したとっておきですが」
腕が自壊しているが、機能の一貫だったはずだ。あえてヒビが入ることでバラバラになるのを遅らせる構造をしているのだ。図鑑に書いてあった。
泉山の動物属性のエンチャントは強力そうだが、その反面、使い勝手は悪そうだ。もしも自由に付与できるのなら、この身を蟻にでも変えちまえばいいだけだ。なにか制限がある。
朝霜「敗けだ敗け」
さすがにこいつを倒すどころか逃げる手段も思い浮かばない。
敗けだが、負けを受け入れるのはまだ早い。兵士として戦っていた時代、この程度で根をあげていたらただのお荷物である。命ある限り独りでも抵抗し続けなければ、また悲劇で終わってしまう。
泉山「鉄片を渡してください。大人しく投降したのなら」
朝霜「この鉄片で建造できる兵士を知っている風だよな」
朝霜「日進さんも終末期に人間が造ったこいつのヤバさをよく知らねえはずだ」
穴の開いたバッグから覗いている鉄片を抜き取った。
朝霜「ソ連の兵器が眠ってる」
泉山「艦娘ですよね。世間でいう小悪魔系みたいな子です?」
そのニュアンスから艦娘に抱くイメージが伝わってくる。言い換えれば、悪いやつじゃないだろ、だった。だから制御はできるし、交渉も可能だろう、と踏んでいるのが透けて見える。ここに眠るのは管理妖精相手に時間を稼げた唯一無二の『星の兵器』だ。
朝霜「お前もなにか未知の魔法でやりたいことあんだろ?」
泉山「ええ。家族、同胞に報いるためにこの世から密輸を葬り去ること、ですかね」
仇を討つのではなく、報いるため。建設的な復讐動機なこった。
あたいもろくな死に方はできねえよなあ、とは思う。むしろ客観的にはそこらの死刑囚が可愛くみえるほど、遥かに人を害している艦船としての記憶がある。艦娘や深海製管の存在し得ないこの世界なら、と思ったが、上手くは行かないようだ。
泉山「王手」
朝霜「お前の相棒さ、深海日棲姫だろ。社会に溶け込んでんの?」
泉山「彼女は面白いですよ。そうですね。とある世間話、少子高齢化について」
笑った。ケタケタ、といった擬音が聞こえそうな嗤いだ。
姫種はまず人に仕えるような生物種ではないが、損得を思考することができる。深海棲艦の中でも人間らしく、社会全体のことも考えられるが、思考がストレートだ。
泉山「『ガキでもさらってこんか。婦女暴行犯でも野に解き放て。お前ら艦娘全員に出産ノルマでも課せ』」
そう。深海棲艦らしく、まるで人を観ていない。
朝霜「今となっては可愛く見える程だよ」
泉山という男の眉根が寄った。そろそろ、気づいただろうか。これほど、鉄片の危険度を語りながら、なぜ処理していないのか。
朝霜「こいつについてよく知らないなら聞いておけよ」
朝霜「通常、艦娘は資材で建造される際に核となる鉄片が形成される。深海に沈むとその核が変質し、深海棲艦となる訳だ。手前の相棒の場合は日進の反転存在な訳だ。艦娘、深海棲艦は性質が違うだけで核となる鉄片が木っ端みじんに砕ければ命として終わる」
朝霜「そもそもなんであたい等が人の形をしているか知ってるか」
泉山「溶鉱炉、ですか」
食いつきがいいな。こいつは動物の話となると、盲目的になるのかもしれない。
朝霜「資材がこんな風になるんだぜ。魔術生成するゴーレムとかそういうのに近えよな。炉の中であたい等は基本値まで設定され、固定されてんだ。あたいは何回、建造されても朝霜というあたいは朝霜という兵士のステイタスのままだ」
炉の中にはそのステイタス設定に介入した産物が効果紋だ。強化、弱体化。回復は入渠システム、付与は艦娘が人間に改造されるシステムを人間に混入させる手段から成り立っている。ここを詰めれば、あの海の真理が読み解けるのだ。
朝霜「エンチャント・ドラゴンは艦載機だ」
泉山がぽかん、とした顔になった。艦載機って妖精さんが操縦する小さな戦闘機、または深海棲艦型の禍々しい造形だもんな。その事情を説明する。
朝霜「あたいだってもともと資材だった。でも今、女の姿を模してる。深海棲艦もそうだけど、人と同じ感触なのにやけに頑丈だろ」
朝霜「肉も鱗も牙も全部、あたい等が人間を逸脱性能したのと同じだ。端的にいっちゃえば、あの竜は艦載機を肉付けして超強化したやつだ。見た目がファンタジーすぎて混乱すると思うけどさ」
海の仕様に関して他の管理妖精も思い当たる。バッファ・ケートス、クジラを模した管理妖精だ。あのバフ乗った一撃がインドネシアからイギリスまで貫通した時、思わず笑っちまった。あのクソ鯨が現れる前、太平洋深海棲姫のやつがいっていた。
『チクショウ! 私の艤装をパクったの誰だよオ!』とそう切れてた。思えばあのクソ鯨は太平洋深海棲姫の艤装を馬鹿でかくして要塞化した感じだ。なので、管理妖精はあたし達の仕様がモデルの可能性が高い。
泉山「理論はよく知りませんが」
朝霜「あたいも知的派じゃねえよ。ただよく思い知る立場にいただけだ」
朝霜「ドロドロになった資材のあたい等が人間化する過程で人間の能力を宿すんだよな。つまり溶鉱炉の力は人間にも影響する理屈がそこに発生しちまってたってわけ」
朝霜「手前らのように人の脅威となる性能値をさくっと用意しちまうのが建造炉だ。終末期が幕を開けたのは、人がその力の限界を究明しようとしたからなんだよ」
泉山「春川泰造ですか?」
好奇心が勝っているのか、まだまだ時間は稼げそうだ。
朝霜「ああ。一人の馬鹿が制御方法も定かではないままに水平線に勝利を刻むために」
朝霜「その力を内包した兵士を最後に建造した」
朝霜「その唯一の成功例がこの兵士に眠ってる」
朝霜「管理妖精はこの星が残る限り、命を終えることはない。星は自然を示しているそうだが、その自然には人間も含まれると来た」
つまり、星がなくなるまでは生き続ける。妖精は殺せても絶滅させる為には――
この星全ての命を葬り去る他ない。
人間では絶対に勝てない理由である。ソレをやろうとする存在の鼓動が脈打てば、地獄絵図が展開されるのみだ。あたいらは深海棲艦との闘いでも絶対にこの言葉を使わないようにしていたが、『戦争』で済めばマシだ。
朝霜「見逃せ。あたいはこの星の命全てを背負った輸送任務中なんだ」
泉山「どこへ」
朝霜「『コレ』の消し方を知ってそうな奴をこっちの世界で一人だけ知ってる。終末期に一人でここに逃げ込みやがった。今はもう司令も高齢のジジイだろうけど」
泉山「しかし、それほどまでに強い兵士なら効果紋のある人と協力することで」
朝霜「終末期、もっとも人間に酷使されたのはこいつだ」
朝霜「あたいが知るだけで無意味な作戦で三桁は沈まされている」
朝霜「使命から解き放たれた今、建造したら一人を公に殺して、その後にいもずる式に出てくる人間をまとめて殺せる。それができるやつなんだよ。分かってくれよ」
泉山「深海日棲姫さんから彼女の噂は聞いていますし、奪え、と命令したのも彼女ですが、確かにそうですね。彼女ならこの世界度外視で建造するはずです。危険ではありますね」
泉山「すみません、私、生まれた時から馬鹿なんですよ」
腕を組んで、目をつむる。こちらを気にしている風ではなかったので起き上がり、踵を返した。追いかけてくると思いきや、まだその場に突っ立ったままだ。
話せばわかるのならあれほどの騒ぎを起こす必要もなかったはずなのにな。
人間のくせに、暴力に関する価値観は深海棲艦よりといえよう。
朝霜「あの人間、出会った中では一番、強かったかな……」
虹色に輝く効果紋なんて初めて拝んだ。
エンチャント・アニマルっていう時点で化物染みてる。
あたいにエンチャントして蟻にでも変えなかった時点で色々と制限があるんだろうけどさ。