電脳戦隊バーチャマン 作:憶 常昌
「青木ヶ原? って……あの、富士山麓の樹海?」
そう言ってノートから目を上げ、テムジンは隣に座る美女の横顔を見た。
「そうだ。そんなところに何があるのかは知らないが」
ノートを取る手を休めず答えるサイファー。
午前の最後の講義である。テストの時さえいれば単位がくる授業なので、真面目に出席してかつ目を覚ましている学生は数えるほどしかいない。がら空きの、現実としては不必要に大きな講義室の最後列。彼らの会話に耳を向ける者はいない。
「ストライカーとライデンには?」
「さっき伝えた。この授業が終わりしだい現場に向かうぞ」
「えーと、次は……『鶏化現象の傾向と対策』か。さぼっても問題ねーな」
ないことはないと思うぞ。
青木ヶ原周辺で、彼らと対立する悪の組織の偵察兵が暗躍しているのが確認されたのは、今日の昼前のことだった。その目的は定かではないが、バル=バドス博士から連絡を受けたサイファーは、とりあえず現場に確認に行くことを決めたのである。
「別に今から行ってもいいんじゃないか?」
教壇を親指で指し示して言うテムジン。教授はさっきから講義を脱線して、エンターテナーとしてのメーカーの姿勢がどーたらと言っている。もはや陶酔モードに入っているらしい。
「我々はいいが、今の時限はストライカーは『空爆実験』、ライデンは『読みの科学』で、どちらも必修だからな。進級に関わるというからあまり無理も言えない。それに……」
ちらりとテムジンを挟んだ反対側の席を見る。
「お前、『それ』をどうにかできるか?」
彼のとなりの席ではピンクのおさげのフェイイェンが、気持ちよさげにすぴょすぴょ寝息を立てていた。毎日、チャイムが鳴ると同時にこれである。君、一日に12時間は寝てるだろ。
「うっ……」
言葉に詰まるテムジン。
無論、彼にその安眠を妨げてその結果起こる事態を甘受できる度胸も根性もありはしない。絶対にない。なかば自虐癖のケのあるライデンならともかく。
しばしフェイの寝顔を眺めていたテムジンだが、やがて大きくため息をつくと、腕を枕に机につっぷした。お前まで寝てどーする。
授業はとっくに脱線したままだが、サイファーは依然としてノートに向かっている。どうやら他の授業の内職のようだ……と思ったら、何だねそのマンガ原稿用紙は?
「……もう食べられないの、サイファーぁ……あたしがもらっちゃうよ……」
実に君らしい寝言だね、フェイイェンちゃん。
「うーん……やっぱり見えない……」
何の夢を見てるのかね、テムジンくん?
サイファーは黙々とペン入れを進めている。……上手いな。
講義室に教授の独り語りが響く。
やや、時間が流れて。
ストライカー、ライデンと合流した彼らは、一路富士山へと向かった。
昼なお暗い密林の中、下生えを踏む音がする。
およそこの場に似つかわしくないフレアスカートの女性と、でかい鎌を背負った死神の影。いわずと知れた悪の女幹部エンジェランと側近スペシネフであるが、今日はもう一人、その後ろに異形の巨体が付き従っていた。
「……ここね」
何やら計器を使って座標を確認していたらしいエンジェランが立ち止まる。
「ここですか……」
鎌をおろして問うスペシネフ。
「そう。このポイントの地下1000メートルにあるマグマだまりを開放すれば、ここから溶岩が噴き出るだけでなく、その影響は富士山自身にも及び、やがてそれは太古より繰り返されてきた大噴火の引き金となる……ふふふ……ホーッホッホッホ!」
なにもそこで高笑いせんでもよかろうが。性格の悪さ丸出しだぞ。
「世界の混乱こそ、われわれの益となる。さあ始めなさい、ドリル魔神ドルドレイ!」
「了解~」
ずずいっと出てきたのは、後ろに控えていた巨人。のそのそ動いて左腕のばかでっかいドリルを地面に突き立てようとした、その時。
「そうはさせるか!」
いつからそこにいたのか、声とともに樹上から降ってきたのはバーチャブルー、テムジン! そのままの勢いでソードをドリル魔神の脳天に叩き付ける!
すかっ。
「おおっ!?」
「『おおっ!?』っじゃないへたくそ!」
どちゅーん。
わざわざレーザーでつっこみを入れるサイファー。……いや、フォローしようとしたらドルドレイとの直線状にテムジンがいたからか。それならそれで4WAYレーザーにしとけばいいのに。
ともあれ、レーザーをまともにくらってすっとぶドリル魔神、とテムジン。
「なっ……! お前たち、どうやって嗅ぎ付けた!?」
うろたえるエンジェラン。んな人目を引く格好で見つからないほうが不思議なんだがね。
「天知る地知る人ぞ知る! いかな悪行をたくらもうとも、我ら五人のあるかぎり、この世の平和は乱させんぞ!」
大見栄きりすぎだ、ライデン。
「……おのれ、どこまでも邪魔を……。ドルドレイ、作業はあとよ。まずはこやつらを叩きふせなさい!」
「おお~」
むくりと起き上がり、五人に向き直る。レーザーがたいして効いていない。見た目どおりに硬い体だ。
そしておもむろにダッシュで突っ込む!
「げっ……やべっ!」
テムジンが叫んだのと、ドリル魔神の体が炎に包まれたのはどちらが先だったか。
「あぅあっ!」
「どえ~っ!」
「うごっ!」
思わぬ速攻に虚を突かれた五人。サイファーはかわそうとしたところを引っかけられ、テムジンとライデンはあっけなく跳ね飛ばされる!
「きゃああ!」
がきいっ!
だがしかし! 立ちすくんだフェイの目の前で、その猛進は食い止められていた。
「ふ……温いな!」
がっちり特攻をブロックしたのは、ストライカー。にっと不敵な笑みを浮かべる。
「う~?」
「てめえはぁ……これでもくらってろっ!」
ばきっ!
力いっぱい殴りとばすストライカー。巨体がとんでいく、その先には……。
「えっ?」
エンジェランは、どうして急に日がかげったのか、一瞬理解できなかった。まあ、もともと薄暗かったし……。
「きゃああああ!」
どっすーん。むぎゅ。
「あ~? なんかやわらかいぞ~?」
そりゃ、お前はいいだろうがね。
「どっ……どきなさい……」
クッションにされたエンジェランは息も絶え絶えだ。そりゃきつかろうて。逆ならともかく。
「エンジェラン様! ご無事ですか!?」
無事かどーか見りゃわかるだろーが、スペシネフ。仮にも側近なら事前に何とかしたらどうだ。
「大丈夫、みんな!?」
「……ああ、なんとかな」
フェイの声に立ち上がるサイファー。ライデンも復活している。さすがにタフだ。テムジンは……やっぱり膝が笑ってるが……まあいいか。
「いくぞ! フォーメーションVだ!」
『おおっ!』
前から順に、ストライカー、サイファー、テムジン、ライデン、フェイイェンが一直線に並ぶ。
「う? う?」
ようやく起き上がったドルドレイを、その先にとらえた!
「みんな、ファイトぉ~!」
『くらえ、必殺! メガバーチャキャノン!』
説明せねばなるまい!
メガバーチャキャノンとは、ライデンのレーザーをテムジンのソードに収束、展開したソードをカタパルトにS.L.C.を、さらにそれを踏み台にしてハイパータックルを放つ、バーチャマン第二の必殺技である! フェイの役目? 応援。
どっかあああん!
「うんにょら~!」
「きゃ~!」
「どわ~!」
まともに食らって再度すっ飛ぶドルドレイ! エンジェランとスペシネフも、その余波で吹き飛ばされている。
『よしっ!』
ガッツポーズでキメる五人。
「くっ……! まだ終わらんぞ!」
起き上がり、どこからか小さな箱を取り出すスペシネフ。真ん中にボタンが一つついている。
「スペシネフ、それは!」
「今使わずにいつ使うのです! ドルドレイ、巨大化モード発動! ポチッとな!」
ぐっとボタンを押すスペシネフ。とたんに、ばきばきと木がなぎ倒されてゆく!
「んぅお~!」
むっくむっく膨れて、数十倍の大きさになったドルドレイが雄たけびをあげる!
「げえっ! こ、こりゃ首が疲れるぜ!」
見上げて叫ぶテムジン。うろたえる理由が違うだろーに。
「くっ、こうなったら……。呼ぶぞ! あれを!」
『おお!』
サイファーの声に、手首の通信機を口によせ、五人は叫ぶ!
『来い! グレート・バドス!!』
ごおおおおおおおおおおおお!
はるか小笠原の海に沈む基地から、雲を切り裂き飛んでくる! 白い体の巨大ロボ! バーチャマン最後の切り札、グレート・バドス!
ちなみに海底用と宇宙用に別バージョンもある。
ずずぅん。
腕を組んですっくと降り立つグレート・バドス! すかさずコクピットに乗り込む五人!
「く……、やっかいなものを! 叩き潰しなさいドルドレイ!」
いつのまに登ったか、木のてっぺんに立って命令を下すエンジェラン。
「おお~!」
ドリルを振りかざして殴りかかるドルドレイ!
「食らうか!」
ステップをふんでかわすグレート・バドス。すかさずビームブレードを展開し、回転しながら斬りつける! だが、敵もさる者。がっちりガードされた。
なおも殴りあいを続ける二体の巨人。だが、お互いに「一発」を警戒してなかなか決着がつかない。時間とともに、木々だけがなぎ倒されていく。ドルドレイはともかく、環境破壊してることに気づいてるか、お前ら?
が、膠着した状況に先に切れたのはエンジェランだった。
「……ええい、そんなやつ相手に何をてこずってるの! 真面目にやりなさいよこのちゃぶ台!」
彼女がそう叫んだとたん、ドルドレイの動きがぴた、と止まった。
ゆっくり、後ろを振り向く。
「ちゃぶ台~!?」
目が据わってるねえ。
ずいっとエンジェランに向かって一歩踏み出すちゃぶ台。もといドルドレイ。これは怖い。
言ってはいけないことを言ってしまったことに、彼女はようやく気付いた。遅すぎだってーの。
「え……あ、あのね、えっと今のはその、口が少し、だからちょっとまって、ってきゃああああああああ!」
むんずとエンジェランをその万力のような……って万力か。ともあれ右手で掴むドルドレイ。サイズを考えなければ、お人形さん遊びしてるようにしか見えないな。
「大~激~怒~!」
そのままぶんぶん振り回してから、力いっぱい投げ飛ばす。
「あ~~~れ~~~~~~!!」
きらーん。
エンジェランは星になった。因果応報かくあるべし、迷わず成仏。
「エ、エンジェラン様!」
今まで事態についていけずに呆然としていたスペシネフは、ようやく我に返ったかと思うと慌ててエンジェランが投げとばされた方角へとすっとんでいって消えた。お前もたいがい反応鈍いぞ。
さて。
敵が仲間割れして、うち二人はどっかへ消えてしまい。
残った強敵は、今こちらに背を向けている。
当然やることは一つだ。
「今だ! やるぞ!」
そうそう、早くやっちまえサイファー。
「何をやるの~」
そこでそーゆーつっこみを入れるか、フェイイェン。
「俺、リフレクトレーザーはやだな~」
わがまま言ってる場合か、テムジン? 気持ちはわからんでもないが。
「じゃあ、やっぱりあれだろ、あれ」
指示語だけでしゃべるんじゃない、ストライカー。
「あれだな、わかった」
本当にそれだけでわかったのか、ライデン?
「よし、やるぞ! 準備はいいか!」
わかったらしい。便利な連中だね。
肩いからせて……いや、あれ以上いからせようがない肩なんだが、まあ言葉のあやだ。まだ怒り覚めやらぬ様子で突っ立っていたドルドレイの背中に向けて、グレート・バドスはその右腕をおもむろに構える!
『食らえ、正義の鉄拳! ロケットパーンチ!!!』
どっこーん!
「なんじゃこりゃ~!!」
そして、ドルドレイの断末魔が富士の樹海に響いた。
「終わったな」
夕日を見つめてつぶやくストライカー。
「とりあえずはな。奴らがこれであきらめるとは思えん」
同じく夕日を眺めて言うライデン。まあ当然だね。
「なーに、何回出て来ようが返り討ちにしてやるさ! この俺がいるかぎりな!」
テムジン、その前提が正しいかどうかはよく考えてみようね。
「うーむ……今からで締め切りに間に合うだろうか」
何を心配してるんだね、サイファー。
「ねーおなかすいたよー」
わかったわかった。
五人の活躍によって、富士噴火計画は阻止された。
だがしかし、世界を手中に納めるため、敵は次々と彼らの前に立ちはだかるであろう!
行け、電脳戦隊バーチャマン! 地球の平和は君たちにかかっているのだ!
あ~不安。
つづく!