電脳戦隊バーチャマン 作:憶 常昌
その日、ライデンはちょっと不機嫌だった。目玉焼きが堅かったからである。
その日、ストライカーは少し不機嫌だった。寝ぐせがうまく取れなかったからである。
その日、テムジンはだいぶ不機嫌だった。出玉が悪かったからである。
その日、フェイイェンはとても不機嫌だった。体重が○㎏増えていたからである。
その日、サイファーはかなり不機嫌だった。これから本を買って回ろうかと思った矢先に、バル=バドス博士から連絡が入ったからである。
暑い夏の日のことであった。
「よりによって今度はここか」
「まったく……どういう監視体制してたんだ?」
ぶつぶつ文句をたれるストライカーとテムジン。
「ともあれ……場所が場所だ。一気に叩くぞ」
視線は動かさずに、歩きながら言うサイファー。
「まーったく、じょーだんじゃないわよ。めんどくさい」
そーゆー問題かね、フェイイェン?
「とにかく許せん! 思い知らせてやらねばな!」
おう、やってやれライデン。
「行くぞ!」
サイファーの号令で駆け出す五人! そして背中に手を伸ばす!
『V・コンバート!!』
光に包まれ変身するバーチャマン! 駆けゆく先は、A国の軍事基地!
悪の組織の一大隊がその基地を占拠したのは、昼前のことだった。バーチャマンたちが駆けつける前に制圧は完了していたし、当然武器弾薬も豊富だった。何より、今までの作戦で最大の兵力が投入されていた。迎撃態勢は完璧だった。
しかし、ああしかし、今日の彼らは不機嫌だったのである。
合掌。
「こんのてめーら、パチンコ玉みたいに沸いて出やがってこんちくしょー!」
まとめて十人ほどメガスピンでたたっ斬るテムジン。やつあたり以外の何物でもないな。
「わたしを引きずり出したこと……地獄で後悔するがいい!」
やはりざくざく斬り倒しつつ駆け抜けるサイファー。かっこよく聞こえるが、よく考えると個人的な恨みだね、それは。
「むかつく、むかつく、むかつく! 今日は一割増しだからねーっ!」
だからってわざわざヒップアタックか? 一割ってことは……やめとこう。
ともあれ、ひたすらストレス発散にいそしむ五人であった。
どかばきぐしゃどかばきぐしゃどかばきぐしゃ。
……少し時間を進めようか。
どかばきぐしゃどかばきぐしゃ。
おお、まだやってたか。
「はーっ、はーっ。こ、ここね……中央管制室」
息を荒げて、目の前の扉をにらむフェイ。
「ブルー、頼むぜ」
場所をあけて構えるストライカー。
「おう!」
そして、テムジンがソードで扉を切り裂く!
『うおおおおおおっ!』
すかさず中に飛び込み、武器を乱射するライデンとストライカー! だが、予想された反撃はなかった。
「む?」
部屋の中を見回すライデンの視線が、ひときわ高くしつらえられた指揮官席の上で停まる。そこには、派手な衣装の人影があった。
「いやまったく……諸君らの力には毎度毎度驚かされるよ」
どこか人を馬鹿にしたような口調で、肩をすくめる。それにしても派手な男だね、こいつは。いっぺんつや消しをかけてこい。
「貴様は……タングラムの参謀、アジム!」
ぎりっとにらんで叫ぶサイファー。
「また会ったね、諸君。今度見るときは死体で、と思っていたのだがね。なかなかどうしてうまくいかないものだ……。やや詰めが甘かったかな」
いや……詰めがどうこうという問題じゃないと思うが……。
「……ここで何をするつもりだったのかはしらんが、ここまでだ。観念するんだな」
びしりと言い放つライデン。
「観念? だれが? ははは、これで私を追い詰めたつもりかね?」
その、人を見下した目付きをどうにかしろ。高い位置にいるからってだけじゃあるまい。
「ここから逃げられるつもりでいるのか?」
「テムジンくん、君はひとつ忘れているようだ……私の能力をね」
言って、空中に円筒状のフィールドを作り上げるアジム!
「『ゲート』か。それはありがたい。我々を貴様たちの根城までわざわざ案内してくれるわけか?」
皮肉っぽい笑みとともに言うサイファー。
「確かに、貴女の言うとおり、このゲートはすぐには閉じてくれない……。だから、その間ちょっと諸君には足止めをくっていただこう」
「足止めだと? 俺たちを足止めできるようなやつが、お前の配下にいるのか?」
「いるとも、バーチャグリーン……ストライカーくん。君のよく知っている男だよ」
ぱちりと指を鳴らす。いちいち気障なやつだ。
と、ゲートの中からもう一人の人影が現れた。
それを見たストライカーが……いや、五人全員の表情が驚愕に凍りついた。
「あ……兄貴!?」
喉の奥から声を絞り出すストライカー。
そう、そこに立っていたのは初代バーチャグリーンにしてストライカーの実の兄、今は行方不明になっていたはずのバトラーその人だったのだ!
話は一年前にさかのぼる。
共に「バーチャマン」を結成し、正義の戦士と誓ったグリーン……バトラーが失踪したのだ。誰にも何も言わず、そぶりすら見せず唐突に「消えた」のである。八方捜索の手を尽くしたものの手掛かりはつかめず、結局、バーチャマンを維持するために、「ミサイルマスター」と呼ばれし、かのベルグドル師のもとで修行をつんでいた弟ストライカーが、二代目としてその座を継いだのだ。
その日からなんの音沙汰もなかったのである。そう、今日までは。
しばらく、誰も口をきかなかった。
バーチャマンたち五人は凍りついたままだったし、バトラーはただ押し黙ったままだった。そして、そんな彼らの様子をアジムは一人にやにやしながら見ていた。
「どういう……ことだよ……。兄貴……」
最初に声を発したのはストライカーだった。
「……バトラー、一体これは」
「なんでだよ兄貴! なんで、そいつらの仲間に……!? 答えろよ兄貴!」
サイファーの言葉をさえぎって叫ぶ。わけがわからないといった表情だ。
そんな弟の様子を見ていたバトラーは、しかし静かに口を開き、
「……お前に言う必要はない」
「バトラー、てめー!」
「まて」
突っかかろうとしたテムジンを抑えるサイファー。ストライカーに任せるつもりなのだろうが、それでいいのか本当に?
「ふっ……。感動の再会、と言ったところかな。さて、私は一足先に失礼させてもらうよ。バトラーくん、足止めをよろしく」
「わかった……」
なんだ、見物していかないのか?
「めったにない座興だ、あとでゆっくり見せてもらうよ。では、さらばだ」
……ビデオ回してるのか、周到な。
そう言ってアジムはゲートへ消える。バトラーはゲートへの道をさえぎる形で立ち、トンファーを構えた。
「どうして……? 兄貴……あんなに正義に燃えてた兄貴じゃないか……それが、どうしてこんな……」
「……」
バトラー、無言。
「まさか……もしかして、やっぱり……」
「ストライカー? 心当たりでも……」
いぶかしげな顔をするライデン。
「……やっぱり、俺のほうがたくさんチョコレートもらったからなのか!?」
すっこけぇぇぇぇぇっ!
たまらずその場にこける四人。
しかしバトラー、無言。
「そ……それとも、兄貴が大事にしてたプラモデル壊したの、俺だってこと隠してたからか!? それとも……」
もはや立ち上がる気にもならない四人。
やはりバトラー、無言。こめかみがぴくぴくしてるけど。
「それともやっぱり、兄貴がとっておいたスイカを食っちまったから」
「あんたバカぁ!?」
ごめすっ。
……なにもそんな分厚い本の、しかも背表紙で脳天を殴らなくてもいいと思うんだがね、フェイちゃん。だいたいそれ、どこに持ってたんだ? 表紙に「エターナルファンタジーⅦ」とか書いてある。某RPGの登場キャラクターが裸で抱きあっ……どっかで見た絵だ。
「ピンク……それ、私の本……」
眉間に指を押し当てていうサイファー。どうりで見たことあると思った。
「……来てたのか? 今日」
「うん、行ったらちょうどコスプレして回ってるって言われたの。あのねあのね、ほかにもたくさん買ったんだよ~♪ 後で見よ♪」
そんな会話をしてる場合か。
ライデン、壁に頭を叩き付けてるんじゃない。これが現実だ。
「とにかく兄貴!」
おお、復活したか。
「いったい何がどうなってるんだよ!」
「どけ、グリーン……」
らちが開かないと見て、ストライカーを押しのけて前へ出るサイファー。早めに気づけ。
「……とにかく。そこを通してもらおう」
すっ、と展開したサーベルを突きつける。
「……それは、できん」
トンファーの輝きが増す。
同時に踏み込む!
「おおっ!」
「はあっ!」
残光が閃いた。
そして。
同時に飛びすさる二人。
「リーダー!」
「レッド! 大丈夫か!?」
「……なぜだ?」
声をかけるストライカーとテムジンを無視して問うサイファー。
サイファーのブレードは、かわしたバトラーの頭の上をかすめて過ぎた。
バトラーのトンファーは……届いていない。もう一歩踏み込めば、間違いなく当たったはずなのに。
「『足止め』が、俺の受けた命令だ……」
そう言って、ゲートのほうを見やるバトラー。そろそろ、フィールドは消えかけている。
「バトラー……あんたは……」
納得のいくような、いかないような顔でつぶやくテムジン。
しばらくのにらみ合いのあと。
「……今日のところは、退こう。だがしかし……」
ブレードを消して言うサイファー。
「レッド!?」
「おい! いいのか!?」
声を上げたテムジンとライデンをすっ、と手で制し、言葉をつなぐ。
「……だがしかし、冬にも……いや、今度このようなことがあれば、その時は……容赦はしない」
おい、冬ってなんだ冬って。
そんなサイファーの顔をしばし無表情な瞳で見つめて。
そして、かつての友はゲートと共に消えた。
「……なんということだ……こんなことになるとは……」
左手で顔を覆って嘆くライデン。
「……関係ない。手強い敵が一人増えた……それだけだ」
つぶやくサイファー。表情は、見えない。
「そんな簡単に割り切れるかよ……」
突き立てたライフルにもたれかかるテムジン。
「う~……最後に会ったとき、おごってもらう約束してたのになあ……」
体重のことはもう忘れたようだね。
「くそっ……やっぱり、俺がブランコから突き落としたのを根に持ってたのかっ!」
君たち、そのハリセンはどこから出したんだね。
なんという運命の悪戯か、敵として彼らの前に現れたバトラーの真意とは!?
果たしてストライカーは兄を超えることができるのか!
しかし、彼らは背を向けることは許されない! 地球の未来を守るのは、彼ら以外にいないのだから!
つづく!