電脳戦隊バーチャマン   作:憶 常昌

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最終話  飛べ! バーチャマン

 人の願いは儚く、しかしてそれは何より深く。平和を望むその声に、自ら応えた者たちがいた。

 

 人類は知り、そして忘れぬだろう。彼らの戦いを、強き命の輝きを。

 

 時に199X年10月7日午前8時43分27秒。

 第一シェルターが吹き飛ぶ轟音が、タングラムの秘密基地を揺るがした。

 

 

「どおおりゃあああ!」

 

 閃光一発、シェルターを突き破って踊り込むライデン!

 

 鳥取砂丘の地下深く隠された基地の在処をやっとのことでつかんだ彼らは、ついに最後の戦いを挑んだのだった。

 

 なみいるザコを蹴散らし、突き進む五人! が、しかし。

 

「うわっ!?」

 

 剣呑な風切り音とともに前方から飛んできた何かを、先頭を走っていたテムジンは上体を大きく反らして何とかかわす。

 

 通路から出たそこは、やや広めの空間になっていた。反対側の壁には通路の続きだろう、矩形の扉が穿たれている。

 

 が、その前には、黒い死神の影が立ちはだかっていた。

 

「貴様ら……ついにこんな所までやってきたか……」

 

 テムジンの首を掻き切りそこねたブーメランを引き戻し、つぶやくスペシネフ。

 

「だが、ここは通さんぞ」

 

 次の瞬間、揺らめくように姿を消す!

 

「!? 右っ!」

 

 がきいっ!

 

 至近距離で振られた鎌を、即座に反応したテムジンがライフルでがっちりと受け止めた!

 

「……行けぇっ! ここは俺にまかせて!」

 

「なっ……!? 馬鹿な! お前だけ置いていけるか!」

 

 叫ぶサイファー。だが。

 

「なに言ってんだ! 時間がないんだぞ!」

 

 そう。バル=バドス博士の分析によれば、タングラムが完全に力を蓄え終えるのは、遅くとも今日の正午。それまでに叩かなければどうなるか……あまり考えたくないことではあった。

 

「なんとしてでもヤツを倒す。それが……俺達の使命だろう、レッド! 早く行け! 俺もすぐに追いつく!」

 

 目の前の死神から目をそらさずに叫ぶテムジン。

 

 一瞬の躊躇。しかし。

 

「……わかった……。この場は任せたぞ、ブルー! 行くぞみんな!」

 

 叫んで駆け出すサイファー。

 

「『すぐに追いつく』か……。私も甘く見られたものだな? だが、いずれにせよ行かせんよ!」

 

 ぱちりとスペシネフは指を鳴らす。と、呼ばれて湧き出る戦闘兵たち! ザコではあるが、数が多い。サイファーたち四人の足が止まる。

 

「仕方がない……。こいつらは、私が引き受ける!」

 

 言うと同時に最大出力でレーザーを放つライデン! 前方の敵がまとめてはじけとび、道が開いた。

 

「よし、先に行くぞ!」

 

「じゃーなっ」

 

「がんばってねー♪」

 

 すばやく、そこを駆け抜けて通路に飛び込む三人。その姿は、すぐにかすんで見えなくなった。

 

「う……。……もうちょっと、こう……『放っておけるか』とか、『無茶を言うな』とか、そういうセリフがだなあ……」

 

 何を期待してるんだ、お前は。ま、それだけ信頼されてるということにしておけよ。

 それに、そんなこと言ってる場合じゃないだろう。

 

「……えーいっ! まとめて叩きつぶしてくれるわーっ!」

 

 おう、がんばれよ~。

 

 

 

 対して。

 スペシネフとテムジンは、さっきから睨みあったままだった。

 

「……なぜだ?」

 

 ぽつり、とテムジンが口を開いた。

 

「どうして、お前のようなやつがこんなところにいるんだ……。何回もこうして対してきたけど……。この剣で感じたお前は、性根はそんなに悪い人間じゃないのに」

 

 君に人間を語られてもねえ……。

 

「……貴様が知る必要はないし、どうせわかりはしまい。……私は、あの方のためなら、何だって……」

 

 静かに語るスペシネフ。「あの方」とは、タングラムのことなのか。

 

 それとも?

 

 

「……」

 

 テムジンは、無言でライフルにビームソードを展開する。

 

 じり。

 

 じり。

 

 間合いが詰まる。

 

 

「やめとけよ……接近戦じゃ俺には勝てないぜ」

 

 言ってのけるテムジン。が、

 

「残念ながら、私とて遊んでいたわけではない……。貴様に対抗するために、新たな技を編み出してきたのだよ!」

 

「なにっ!?」

 

 突然構えを変えるスペシネフ、うろたえるテムジン!

 

「見よ! 必殺! メガスピンサイス!」

 

 メガスピンソードよろしく、すさまじい勢いで頭の上で鎌を回転させるスペシネフ!

 

「うわああああっ……あ?」

 

 ぐるぐるぐる。

 ぐるぐるぐる。

 

 ……当たらない。

 

 注。二人の身長はほぼ同じ。

 

 

 長いような、短いような沈黙が漂って。

 

 

「……しまったあああぁぁぁ!!」

 

「いっぺん死んでこいこのくそたわけえぇぇえ!!」

 

 ずどーん。

 

 壁を五、六枚ぶち抜いて風穴が通った。

 

 

 

 

 

「まじめに相手した俺がバカだったぜ……」

 

 息を切らせてつぶやく。ずいぶんと疲れたようだ。と、後ろから声がかかる。

 

「終わったか?」

 

 ライデンだ。振り返ると、彼はいそいそとそこらに散らばった自分の装甲版を身につけなおしている。

 

「わ、わっ! まだ見るんじゃない!」

 

 一体何を恥ずかしがってるんだか……。よくわからん男だ。

 

「また脱いだのか。早くしろよー」

 

 くるりとまた顔をそむけて言うテムジン。毎度のことなので、すでに慣れっこだ。

 

「あれだけの数だと、普段の状態じゃきついからな。流れレーザーが飛ばないように戦うのも、なかなか大変なんだぞ。恥ずかしいし……」

 

 ……だからその恥ずかしいってのはなんなんだ。

 

 彼のレーザーは大威力ゆえに使用タイミングを誤ると大変なことになる。まあ、彼の繊細な性格のおかげで、過去7回ほどストライカーを灼いた程度にとどまっているが。

 ……じゅーぶん多いかもしれない。

 

 

「終わった」

 

 腕を二、三度振って言うライデン。

 

「よし、みんなに追いつくぞ」

 

 ついさっき仲間が抜けていった通路へと、彼ら二人は駆けだした。

 

 

 

 

 

 

 

 一方。

 

 やっぱり同じようにすこし大きなフロア。こっちもこっちでにらみ合う兄弟一組。

 あー、不毛。

 

「……前に言ったな、バトラー。次は容赦しないと……。だが……」

 

「……リーダー」

 

 サイファーの言葉に、口を挟むストライカー。

 

「わかっている……。グリーン、お前に任せる」

 

「ああ、早く行ってくれ。ブルーたちが追いついてきたら、どやされるぜ」

 

「頼む」

 

 バトラーの横を駆け抜けて、先の通路へ消える二人。

 

 すれ違うとき、フェイが心配そうな顔でバトラーを見上げていたが……何を心配してたのかは考えないほうがよさそうだ。

 

 

「……もう、どうでもよくなったよ、兄貴……」

 

 そう言って、ストライカーはゆっくりと構えを取る。

 

「あんたは敵で、俺はそれを倒す。どんな理由があろうと……百歩譲って俺に原因があるとしても、許すわけにはいかない」

 

 あたりまえだって。

 

「そうだな……。もう、あのころの俺達には戻れん……」

 

 同じく、トンファーを構えるバトラー。

 

 空気が、凍り、そして。

 

 

 はじける!

 

 

「だぁっ!」

 

 最初に仕掛けたのはストライカー! 一気にダッシュで間合いを詰める。

 

 すかさず回り込んで背後を取ろうとするバトラーに、ストライカーはとっさに床を蹴って横に飛ぶ。振り向きざまに右手のランチャーを連射した!

 

 バトラーは。

 よけない!

 

「ぐわっ!」

 

 突進から直接トンファーを叩き込まれ、吹っ飛ぶストライカー。

 

「……温い」

 

 胸から煙を上げつつ一言呟き、怒涛の攻めに転じるバトラー。ストライカーはナイフを抜いて応じるが、押される一方だ。

 

 危うく回し蹴りをかわした背中が壁に当たる。後がない。

 

「くっ……そおおおお!」

 

 紙一重! 追撃のトンファーをかわして、背後へ回り込む! しかし。

 

「ふん!」

 

 突き出したナイフを軽くいなしたバトラーのサマーソルトが、再び彼を吹き飛ばしていた。

 

 

 

「甘いな……」

 

 ゆっくりと、立ち上がろうとする弟に近づくバトラー。

 

「……詰めが甘すぎる。お前はこんなものか? それとも、まだ迷いでもあるのか。そんなことで、俺を倒せるのか?」

 

「な……んだと……」

 

 なんとか体を支え、立ち上がるストライカーに、さらにバトラーは言葉を浴びせる。

 

「……お前の目の前にいるのは、なんだ! 兄か!? 味方か!? 敵だ! 倒すべき敵だ! ……お前の成すべき事はそんなに軽いのか! そんなことで戦士といえるのか!?」

 

「……黙れっ! ……あんたに……あんたに言われる筋合いはない! 仲間を裏切った、あんたにはなあ!」

 

 ぶん、と何かを振り払うように右腕を薙ぎ、ストライカーは叫んだ。

 

「関係ねえ! 関係ねえんだ! あんたを倒す! 俺が倒す!」

 

 血の叫びだ。さっきまでの彼とは、もはや目が違う。

 

「そうだ……それでいい」

 

 その様子を見て、バトラーは構えを取り直す。

 

 

 

 再び、睨み合う二人。

 

 そして。

 

「……ぐっ!?」

 

 踏み込もうとしたその瞬間、うめき声とともにバトラーの体が引きつった。

 

「な……ぐわっ!!」

 

 一瞬うろたえ、直後に同じく叫ぶストライカー!

 

「な……んだ……これはぁっ!」

 

 足元から、何か得体の知れないものが這い上がってきていた。フロアの床から湧き出すそれは、彼らの体にまとわり付き、V・コンバートされた装甲を少しずつ、しかし確実に侵し、溶かしてゆく。

 

「こ……これは、『バグ』……!」

 

 半ば呆然と叫ぶバトラー。タングラムが作り出した、対バーチャマン用の次元生物兵器。コントロールが不完全なために、未だ研究中のはずのものであった。

 

「な……んで? まだ、兄貴も、ここに……ぐっ!」

 

 苦痛に顔を歪めつつ、声を上げるストライカー。体が動かない。こいつらが侵しているのは装甲ではない。この時空に在る彼らの「存在」自体だ!

 

「そ……うか……ヤツめ……最初から、俺ごと……」

 

 くずおれ、片ひざをついて呟くバトラー。

 

「あ……兄貴……!」

 

 悲痛な瞳で、ストライカーはバトラーを見つめた。彼も、もう体を支えていられない。床に両手をついた。

 

 

 その時。

 

 

「……すまんな」

 

 

 そんな言葉が彼の耳に届いた。そして。

 

 どかっ!

 

「うぐっ!?」

 

 渾身の力で宙に跳び、放ったバトラーの蹴りが、ストライカーを吹き飛ばしていた。

 

 

 

「……! くそっ!」

 

 うめいて起き上がるストライカー。

 

「……!?」

 

 体が動く。今の衝撃で、彼の体にへばりついていたバグがはじきとばされたのだ。そして、蹴り飛ばされた彼のいる場所、そこは基地の奥へと続く通路の中だった。

 

「なっ……兄貴!」

 

 いまだバグに侵され、フロアに崩れるバトラーに駆け寄ろうとした瞬間。

 

 ずんっ!

 

 上から落ちてきた隔壁が、その姿を隠して立ちはだかった。

 

「なにっ!」

 

「行け……ストライカー……」

 

 驚愕に立ちすくむストライカーの耳に、壁のスピーカーから響く兄の声が届いた。

 

「お前には……まだ果たし終えぬ使命がある……。行け……ヤツのもとへ」

 

「そんな! 兄貴いぃ!」

 

 ナイフを抜き、何度も力任せに隔壁を切り付けるストライカー。分厚い特殊合金の壁は、しかしびくともしない。

 

「お前の兄は……一年前に死んだのだ……。ただ、あいつらに伝えてくれ……。すまなかった、と……」

 

 そして、声が途切れる。

 

 

 

「あ……兄貴……」

 

 返事はない。

 

「兄貴……」

 

 返事はない。

 

 

「兄貴ぃーっ!」

 

 

 力いっぱい隔壁を殴り付けるストライカー。ほかに誰もいない通路の中に、鈍い音だけが響いた。

 

「こんな……こんなことなら……寝顔に落書きなんかしなかったのに……!」

 

 ……お前もいっぺん死んでこい。

 

 

 

 

 

 

 

「いち」

 

「にぃ」

 

『さん!』

 

 どんっ!

 

 最奥の扉をぶち抜いて、円形の巨大なフロアに転がりこむサイファーとフェイイェン。

 

 とたんに大量の氷の固まりが降りそそぐ!

 

「はっ!」

 

「きゃー!」

 

 すかさず跳んでかわす二人。まちうけていたのは、まあ言うまでもない。

 

「あきらめの悪い連中だこと。ここまで来れたことは誉めてあげるけど、それも終わりよ」

 

 言って、エンジェランはゆっくりとその能力を開放し、背に黒い翼を生やす。

 

「この間はよくもオバサン呼ばわりしてくれたわね……。今日はたあっぷり生気を吸い取ってあげるわ。……そうよ……わたしはまだまだ若いのよ……。うふ、うふふふふふふ」

 

 両手をわにわにさせながら、その笑い方は怪しすぎるぞ。目据わってるし……。

 

「ふーんだ。くたびれかけたオバサンにはつかまらないもんねーだ」

 

 君もそこで挑発しなくてもいいだろうに。

 ほら、切れた。

 

「もう殺す! 絶対殺す!」

 

「きゃー! きゃー!」

 

 逃げるフェイに追うエンジェ、あきれて顔を覆っているサイファー……って黙って見てる場合か、こら。

 

 と、一条のレーザーが空を裂いて疾る!

 

「くっ!?」

 

 とっさにそれをかわし、エンジェランは光が来た方向を見やる。

 

 サイファーたちが入ってきたのとは別の扉から現れたのは、テムジンとライデンである。

 

「無事だったか」

 

 サイファーの顔がほころびる。

 

「ああ、どーやら間に合ったな。途中で隔壁が下りてて、遠回りさせられたけど。でもまあ……」

 

 言って、担いだライフルをエンジェランに突きつける。よっぽど気に入ってるな、そのポーズ。

 

「年貢の納め時だぜ」

 

「そうだ……」

 

 テムジンの言葉に続けて発された声は、サイファーの背後から来た。

 

「グリーン! ……バトラーは……」

 

 問うサイファーに、

 

「……死んだよ……ただし、殺したのは俺じゃない……」

 

 冷たく、低い声で呟くように話す。

 

「グリーン、それはどういう……」

 

「大した親玉だぜ……敵を始末するには味方ごとってか!? 許さねえ! 絶対に許さねえぞ!!」

 

 その言葉で、全員がことの成り行きを悟った。

 

「なっ……」

 

 一瞬、絶句するエンジェラン。が、

 

「あ……アレはもともとはお前たちの仲間……。そう、ただの道具よ。使い捨ての」

 

 冷静な、どこかうつろな声でそう言う。

 

 サイファーは違和感を覚えた。瞳に、生気がない。

 

 そして、逆上したストライカーが突っ込もうとした、その瞬間。

 

「そうダ。ただの使い捨てだヨ、役立たずだったがネ」

 

 頭上から声が振ってきた。

 

「!?」

 

 振り仰ぐと、そこには高い天井を隠してわだかまる闇の中、ゆっくりと降りてくる影!

 

 諸悪の根元、組織の総帥! 全世界の支配をもくろむ暴帝、タングラム!

 

「君たちは運がいイ、バーチャマン諸君。なにしロ、このワタシが全てを手に入れる瞬間に立ち会えるのだからねェ?」

 

「ま、まさか!?」

 

 うろたえるライデン。

 

「そうダ。『力』は全てワタシのものとなっタ。招待しよウ……永遠なるワタシの世界へ!」

 

 そうタングラムが叫んだ途端、音さえ立てて時空が歪む!

 

 

「……っ!」

 

 上も、下もない。何もなく全てがある、異様な気配。一瞬にして、彼らは得体の知れない空間へと引き込まれていた。

 

「ワタシの世界……C.I.S.へようこソ、諸君。残念だったねェ……。もう少し早けれバ、ワタシが完全な力を蓄える前ニ、最後の抵抗ぐらいはできたかもねェ?」

 

「な……なんだと!?」

 

 ストライカーが、怒りとも狼狽ともつかず叫ぶ。

 

「ここではワタシの力を存分に奮うことができル。因果律を動かシ、現実のあらゆる出来事に干渉シ、すべてを思いのままにする事ができル。神ダ! もはやワタシは神なのだヨ!」

 

 勝ちほこるタングラム。

 

「ほーっほっほっほ! もはや世界はタングラム様のもの! お前たちのしたこと、所詮はすべて無駄なあがきだったわね!」

 

 お前まで勝ちほこらんでいいのだ、エンジェラン。

 

「そうダ。そして神たる者ハ、すでに下僕を必要としなイ」

 

 そう言ったタングラムの「瞳」が妖しく輝く。

 

「うっ……な……タン……グラム様……!? あ……あああああああああ!!」

 

 突然、頭を押さえて悲鳴をあげるエンジェラン! ひとしきり痙攣し、くたり、とその体から力が抜ける。

 

「な……なにっ!? まさか、仲間を!」

 

 ライデンが予想外の事態に声を上げる。

 

「仲間……? ふン、多少使えるので洗脳して操っていただけの女ダ。思ったよりは役に立たなかったがナ」

 

 虚空に漂うエンジェランはもはやぴくりともしない。が、その髪の色が、暗い血の赤から淡い紫へと変わっていく。彼女を支配していたタングラムの「力」が抜けたのだ。

 

「……っ! てめえ、許さねえっ!」

 

 ライフルにビームソードを展開し、斬りかかるテムジン!

 

「許さなければ、なんだネ?」

 

 どがしっ!

 

 が、打ちつけられたタングラムの触手の一撃に吹き飛ばされる。

 

「ぐわっ!」

 

「確かに諸君もこの空間内にいるかラ、ワタシの完全な支配下にはなイ。だが、ワタシが100%の力を発揮できるこの空間デ、諸君ごときに傷つけられるわけはないのだヨ?」

 

 今度は、レーザーの一連射がライデンを打つ!

 

「うぉあっ!」

 

「フッフッフ、まだこの程度では死なないだろウ? 力を抑えてやっているんダ、もう少し楽しませてくれたまえヨ」

 

 そして、サイファー、ストライカー、フェイイェンにもその光条を飛ばす!

 

「うわ……!」

 

 しかし、それは到達寸前に出現した「壁」に阻まれた。

 

「なニ?」

 

「思いどおりには……させない! 私のできることは、小さいけれど……!」

 

 氷の壁を作って三人を守ったのは、いつのまに意識を取り戻したか、さっきまで倒れていたエンジェラン!

 

「貴様ア……。おとなしく寝ていればいいものヲ!」

 

 タングラムの瞳が赤から青に変わり、そしてひときわ太いレーザーが、エンジェランの作った壁を打ち砕いた!

 

「ああっ!」

 

「きゃあああ!」

 

 食らって吹き飛ぶ4人! 大きくはじかれ、再び気を失うエンジェラン。サイファーら三人はなんとか意識を保ったが……もはや、その身に反撃の余力は、ない。

 

「うっとおしイ……。遊びは終わりダ。死ネ」

 

 また、タングラムの瞳が青へと染まる。

 

 

 

 ライデンは、心の中で般若経を唱えていた。

 

 ストライカーは、兄と遊んだ日々の事を思い出していた。……良くない思い出はカットしてるな。

 

 テムジンは、干したままの洗濯物が気になっていた。

 

 サイファーは、同人誌の続きが出せないことを友人たちに詫びていた。

 

 フェイイェンは……言うまでもないか。

 

 

 そして。

 

 

 

「ぐわああああああア!!」

 

 次の瞬間響きわたった悲鳴は、しかしタングラム自身のものだった。

 

「バ……馬鹿ナ! 貴様ハ……貴様ハ、死んだはずだああア!! どこかラ、この空間へ入って来タ!?」

 

「あ……兄貴ぃ!」

 

 開ききったその瞳に渾身のトンファーを叩きこんだのは、バグに食われて消えたはずのバトラーだった!

 

 「力」の出力端末であると同時に、唯一にして最大の弱点である瞳に、最大級の衝撃を受けたのだ。さしものタングラムも、一瞬身動きが取れない。

 

「貴様のやりかたはよくわかった……。初めから約束を守る気はなかったんだな!」

 

 言って、再びトンファーを打ちつけるバトラー!

 

 恨みと怒りの乗った最強の鉄槌。五人は、半ば呆然とそれを見守るのみだ。

 

「ヒイイイイイ! ワ、わかっタ、考え直セ。約束どおリ、エンジェランの隠し撮り生写真はギャアアアアアアアアア!!!」

 

 言葉半ばにしてとどめの一撃をくらい、タングラムは断末魔の絶叫をあげる。……っておい?

 

 

「……貴様にそれ以上語る資格はない……。そのまま、砕けて消えろ」

 

 セリフだけはかっこいい……が。

 

 渋く決めたつもりのその背中に、一筋流れる冷や汗をみんな見逃さなかった。

 

 ま、そりゃそうだわな。

 

 

「おい……兄貴……」

 

 ……地獄の底から響くような声だ。

 

「ヤツは死んだ……が、同時に……この空間も崩れ始めている……」

 

 確かに、空間が異常に振動してるけどな。そんなんじゃごまかされんと思うぞ。

 

「どーゆーことだ、兄貴?」

 

 しっかり聞こえちまったんだから。

 

「早くここから逃げろ。『崩壊』に巻き込まれたら……どうなるかわからん」

 

 往生際が悪い。

 

「逃げるって、どこへ!」

 

「このくそ兄貴ーっ!!」

 

 空間が歪む悲鳴に、テムジンとストライカーの叫びが重なって。

 

 そして、すべてが砕け散った。

 

 

 

 もちっとつづく。

 

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