戦の鉄則   作:並木佑輔

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第9話 雪華舞い散り、氷華咲き誇る

突如選定に乱入してきた謎の少年…その少年の正体は、かつて妖怪達からその強大すぎる能力を恐れられ、妖怪・鬼・吸血鬼の全勢力を挙げて滅ぼした『氷華の一族』の末裔であった。

 

少年は、殺された同胞達の仇を取る為に復讐を誓い、今日まで妖怪達を殺し回ってきた。

 

『な…何者だ貴様!!』

 

『氷華の一族…と言えば分かるか…?』

 

『な…!?氷華の一族だと!?

あり得ない…!!あの時、確かに我々が全勢力を挙げて完全に滅ぼしたはず…!!』

 

エースは動揺を隠せずにいた。

 

少年は、エースの背後に瞬時に回って、蹴りを入れた。

 

『ぐあっ…!!』

 

エースは、すぐさま態勢を立て直し、自身の能力『イマジン・アイ』で少年の記憶の中にいる強大なビジョンを投影した。

 

それは、氷華の一族を滅ぼした最大の元凶である"羅刹一座“の大妖怪の一人…吸血鬼を超越した吸血鬼・ヒスイという者である。

 

その容姿は、長い黒髪に、黒く淀んだ瞳をしていて、赤と黒の入り混じったドレスを身に纏っていた妖艶な女性であった。

 

『俺のイマジン・アイは、相手の記憶の中にあるビジョンを投影する力を有する!

今俺は、貴様の記憶の中にある"羅刹一座“の大妖怪の一人にして最大・最凶のお方であるヒスイ様を投影した!!

これで、今度こそ忌々しい一族の血を根絶やしにしてくれる!!

覚悟しろ!!!!』

 

少年の記憶の中のヒスイを投影し、勝利を確信したエース。

 

だが、少年は表情一つ変えずに沈着冷静に振る舞っていた。

 

『投影したものとは言え、それは所詮ただのまやかしに過ぎん…。

本物のあいつは…もっと禍々しく、そして底無しの恐怖と強さを持ち合わせていた…。』

 

『な…何!!?』

 

『見せてやる…お前のようなただの贋作を作り出すくだらない眼とは違う…

魔を秘めた真の眼の力をな…。』

 

そう言い放った少年は、さっきまで閉じていた眼を開眼させ、力を解放した。

 

その眼の瞳孔は、まるで華の形をした雪の結晶のようなものであった。

 

少年が開眼し、力を解放すると、その眼に写ったありとあらゆるものが凍りついて華のように咲き、そして瞬時に塵と化し、無数の氷の花びらが舞い散っていった。

 

それはあまりにも残酷で、そしてとても美しい…

 

これこそが、氷華の一族最大の能力『雪華の眼』である。

 

圧倒的な強さを誇示する少年…しかしそこに、少年の復讐を止めるべく実力者揃いの妖怪、鬼、吸血鬼達が急遽駆けつけてきた。

 

『そこから一歩も動くな!!氷華の一族の末裔!!

お前は今我々に完全に包囲されている!!

一歩でも動けば、即刻貴様の首を刎ねるぞ!!』

 

実力者揃いの妖怪達の包囲網を張られ、身動きが出来なくなった…と思いきや、少年は敵の妖怪達にふと語りかけた。

 

『先に戦争を仕掛けてきたのは…お前らのほうだ…。』

 

『…何?』

 

『お前達は、何故俺達一族の血を根絶やしにしようとする…?

お前達には、何も危害や迷惑をかけていなかったというのに…。』

 

『黙れ!!貴様ら一族は存在そのものが害悪なのだ!!

恨むなら貴様のその呪われた血族を恨むがいい!!』

 

妖怪達は、忌々しい呪われた血族の血を完全に絶やす為に、眼前の末裔に向かって行った。

 

少年は、理不尽に命を奪われた同胞達の無念を晴らす為、仇を取る為、向かってくる妖怪達を瞬時に凍り付かせ、塵にした。

 

少年の圧倒的な強さに怯まず、攻撃の手を止めない妖怪達…だが、その力の差は歴然だった。

 

少年のその細身の肉体からは想像もつかぬような圧倒的な身体能力と体術で、妖怪はおろか、圧倒的なパワーとタフネスを誇る鬼や、その圧倒的なパワーとタフネスを待ち合わせた上に再生能力を持つ吸血鬼をも遥かに凌駕した。

 

その時、エースに騙され気絶された陽菜が意識を取り戻した。

 

意識を取り戻し、樹の無事を確認した陽菜…しかしその眼前には、無数の氷の花びらが舞い散る中に一人立ち尽くす白銀の少年の姿があった。

 

陽菜は、その少年を見て何故か既視感を覚え、突然頭にノイズが生じた。

 

(何でだろう…あの人とは初対面のはずなのに…

"私はこの人のことを知っている“)

 

そして、遂に人志が陽菜と樹の元にようやく辿り着いた。

 

『陽菜!!樹!!無事か!!』

 

『人志!!私は大丈夫!それよりも樹さんが…』

 

人志は、まだ回復しきっていない樹に自身の生命エネルギーを分け与え、回復させた。

 

だがそこに、少年が突然陽菜の元に近づいてきた。

 

『お前…"ただの人間ではない“…。

微々たる物だが、妖気らしきものを感じる…。

それに…お前とは初めて会ったはずなのに、妙に既視感がある…。』

 

『…え?』

 

少年は、陽菜の喉元に手を差し向けようとする。

 

が、人志が少年の手を掴み制止した。

 

『お前は一体何者だ…それに、"陽菜はただの人間じゃない“だと…?

お前は陽菜の何を知っている…?』

 

少年は、人志の手を振り解き、自身の素性と名を露わにする。

 

『氷華の一族の末裔…名を凍哉…。』

 

『それ以上陽菜に近づいてみろ…その時はお前の鳩尾に拳を容赦無く叩き込む!!』

 

人志は、凍哉に警告し、敵意を露わにする。

 

『やめておけ…見たところお前は相当の実力者であろうが所詮は人間…。

それに、ここまで辿り着くのに相当なエネルギーを消費し、疲弊しきっているように見える…

俺と戦おうなどとは考えるな…。』

 

『…陽菜…樹と一緒に下がっていろ…。』

 

陽菜は、人志の言う通りに樹と一緒に下がり、人志の戦いを見届けようとした。

 

だが人志は、連戦に次ぐ連戦で疲弊しきっている。

 

(氷華の一族…随分昔に茜先生から聞いた事がある…。

その力は、妖怪の中でも最上級種族の吸血鬼をも遥かに凌駕するということを…

今俺に残された生命エネルギーはかなり少ない…

速攻でカタを着ける以外この状況を乗り切る手段は無い!)

 

人志は、自身の生命エネルギーの性質を雷に変化させ、超高速で動き回って残像を作り出し、凍哉を翻弄し隙を作ろうと画策する。

 

雷は、火力自体は炎よりも低いが、炎と違って少ないエネルギーでも使用する事が出来るので、使い勝手が良い。

 

『生命エネルギーの性質変化か…。』

 

凍哉は、人志の雷の残像を全て凍らせて瞬時に塵にした。

 

隙を見出した人志は、凍哉に決定的な一撃を与える為、すぐさま炎に性質変化させ、一気に背後に回り渾身の一撃を喰らわせようとする。

 

だが、凍哉はそれを完全に見切り、人志の渾身の一撃をいなし、すぐさまカウンターを喰らわせ、人志を吹っ飛ばした。

 

『ぐっ…がはっ…!!』

 

『だから…やめておけと言ったのだ…。』

 

『人志!!!!』

 

凍哉のカウンターをもろに喰らい倒れた人志。

 

『俺は、一族の最後の生き残りとして殺された同胞達の無念を晴らす為に、復讐を成就しなければならない…。

それを邪魔をする者は…たとえ誰が相手だろうと凍り付かせ塵にする…。』

 

人志を吹っ飛ばした凍哉は、陽菜の元に近づき、その正体を探ろうとする。

 

人志は意識が朦朧とする中、凍哉の行動原理を僅かながら聞いた時、ある人物が脳裏に浮かんだ。

 

それは、かつて共に『カモミール』で過ごしたかつての戦友・怪童であった。

 

怪童と凍哉の行動原理は、人志には何処か似通っているように思えた。

 

『カモミール』で共に過ごしてきた茜先生や仲間達を無惨に殺された過去を持つ怪童と、妖怪達に呪われた血族と見做され、同胞達の命を理不尽に奪われた過去を持つ凍哉。

 

そしてそれは人志も同じ、『カモミール』で育てられ、何もなかった自分に名を与えた恩師と、その仲間達の命を尽く踏みにじられた過去を持っているので、仇を取りたい、復讐をしたいという気持ちは、同じ経験をした人志にとっては痛い程分かる事であった。

 

しかしそんな人志は、自分の大切な人達の命を奪った者よりも、親友の暴走を止められず、大切な人達も守れなかった自分自身が何よりも許せないでいた。

 

己の非力さを激しく痛感した人志は、意識が朦朧としながらも今一度士気を奮起させ、立ち上がろうとしていた…。

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