戦の鉄則   作:並木佑輔

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陽菜奪還編
第12話 奪還


殺るか殺られるかの過酷な戦況下の中で、半人前の霊能力者の少年は目を覚ました。

 

少年の目の前には、自分が守るべき対象の隻腕の男と一人の少女の見るも無惨な死体があった。

 

絶望し悲鳴を上げる少年は、その守るべき対象の二人を惨殺した悪鬼羅刹の魔の手が迫った。

 

そんな最悪の悪夢から少年は目を覚ました。

 

すると、辺りは何やら和の雰囲気を漂わせるような空間があり、傍には選定の戦いで傷ついた少年の体を癒す女将がいた。

 

『あら…ようやく目を覚ましましたか…。』

 

『ここは…?』

 

『ここは長寿館というしがない旅館でございます。

先の戦いで傷ついた後客人の方々をここで癒すよう、旦那様にそう言いつけられております。』

 

(という事は…人志さんと陽菜さんもここに…!)

 

樹は寝床から起き上がり、人志と陽菜を探しに旅館内を回り始めた。

 

まだ傷が治り切っていない樹は、痛みも相まって途中で転んでしまう。

 

『おい、大丈夫か?』

 

転んだ樹の前に、同じ選定で命懸けで戦った半人半鬼の少女・愛菜の姿があり、樹を助けようとしていた。

 

『…すみません…手を煩わせてしまって…。』

 

『いやいや、いいって事よ。

ところでさ、そんなに血眼になって何を探し回ってたんだよ?』

 

『それは…』

 

そこに、4人をこの長寿館に連れて行った張本人である男が、樹と愛菜の前に現れた。

 

『あいつなら今治療中だ。お前らの中で一番重傷だからな。』

 

(誰だ…このおっさん)

 

『ま…まさか…もしかして貴方は、『守天豪傑』の伊達恭次郎さん!?』

 

その伊達という男は、かつて人間と妖怪の全面戦争の時に名を馳せていた少数精鋭の霊能力者集団『守天豪傑』その最後の生き残りであり、現在はこの長寿館を経営している。

 

『そういう事だから、お前らは傷を癒す事だけに集中しろ。』

 

『ちょっと待ってよ。

あんた、一体何者なの?

何の目的であたし達をこんな所に連れて来たの?』

 

『お前、半妖だな。』

 

『…だったら何だよ…?』

 

『今のこのご時世、半妖は社会的に一切の居場所がねえからな…

選定に参加したのも金目当てだろう。』

 

『だったら何だってんだよ!あたしの質問に答えろ!』

 

『ちょ、ちょっと落ち着いてください!』

 

愛菜は伊達に対して不信感を抱き、険悪なムードに陥る。

 

そんな中、樹は伊達に対して一つ問い掛けた。

 

『あの…人志さんは今は治療中と聞いてますけど、陽菜さんは何処におられますか?』

 

『…拐われちまった…あのバサラにな…。』

 

『…!!そ…そんな…。』

 

事実を伝えた伊達は、樹と愛菜の前から姿を消した。

 

樹は、自分の非力さや無能さを恨み、その場で崩れ落ちていた。

 

愛菜は、精神的ショックで倒れ込んでいる樹を心配して、樹を担いで共に自分達の部屋に行こうとした。

 

『なあ…あんたの言う人志って、あのザクロを追い詰めた隻腕の男の事?

もう一人の陽菜っていう女の子は会った事ないし知らないけど…。』

 

『…はい…そうです…。』

 

『あたしさ…その人志っていう奴に大きな借りを作っちまってるんだ…。

だから、何としてでもそいつに借りを返さなくっちゃいけないんだ…。

そうでもしないと、あたしの気が済まないからね…。』

 

『…そうですか…。』

 

『そういや自己紹介がまだだったね。

あたしは愛菜。

あんたは?』

 

『樹と申します…。』

 

『そっか!これからよろしくな樹!

あとそれと、そんな敬語使わなくたっていいよ!

堅苦しいし、お互い気楽に行こう!』

 

お互い打ち解けあいながら、二人は傷を治す為床についた。

 

それからしばらくして、治療中だった人志が目を覚ました。

 

『おう…ようやくお目覚めかい…。』

 

『…伊達さん…!』

 

人志の目覚めの報せを聞いた樹と愛菜は、すぐさま人志のいる治療部屋へと足を運んだ。

 

『人志さん!!』

 

『樹…!良かった…お前が無事でいてくれて…。

それと、お前はあの時俺を援護してくれた…』

 

『愛菜っていうんだ。よろしくな!』

 

『なるほど…そういう事か…。

あの時あの場で倒れていた俺達を救ってくれたのは、伊達さん…貴方だったんですね…。』

 

『えっ、人志さん…あのお方と知り合いなんですか?』

 

『知り合いも何も、伊達さんは俺に戦いの術を徹底的に叩き込んでくれた

俺にとってもう一人の師とも言うべき人だ。』

 

共に戦った友とかつての師との再会を嬉しむ人志…だが、喜んでばかりはいられなかった。

 

『…そうだ…こうしちゃいられない…!!

陽菜を…救い出さなければ…!!』

 

まだ傷が治り切っていない人志は、拐われた陽菜を取り戻す為、起き上がろうとした。

 

だが、それを彼の師である伊達が制止した。

 

『伊達さん…そこを退いてください…!!

今こうしている間も、陽菜はバサラ達に殺されてしまうかもしれない…!!

俺は誓ったんだ!!もう二度と…絶対に失う訳には行かないと!!

だから、通してください!!伊達さん!!』

 

『お前ごときの木偶が行ったところで何になる?』

 

『…!!』

 

『聞こえなかったのか?戦友の一人も己の立てた誓いもロクに守れん木偶が、あの如何ともし難い力を持つ化け物共を相手取ったところで何になるって言ってんだ…

てめえは、あの時から何も成長しちゃいねえ…。』

 

否定しようのない事実を言い渡され、挫折する人志。

 

そんな人志に対し、伊達はある示談を持ちかけた。

 

『半端な覚悟で生き残れるほど、戦場(この世)は甘くねえぞ。

そこで提案だ

十日間 "地獄“に耐えられるか?』

 

『え…?』

 

『"地獄“って…何だよそれ…?』

 

突然持ちかけられた提案に戸惑う樹と愛菜…だが、一人だけその提案に何の迷いもなく乗ろうとする者がいた。

 

『…本当に…十日で足りるのですか…?』

 

『ああ…最もお前が十日まで生き残れればの話だがな。』

 

『…上等だ…必ず生き抜いてやる…その"地獄“とやらをな…!!』

 

守るべき大切な人をこの手に取り戻す為に、人志は伊達に持ちかけられた提案に乗る事を決意した。

 

『決まりだな。

じゃあ一日でも早く傷を治せよ。』

 

『伊達さん…一つ聞き忘れた事があります。』

 

『何だ?』

 

『凍哉は何処にいますか?』

 

『氷華の一族の末裔なら、もうここにはいねえ…

傷を癒した後何処かに飛んでっちまったよ。』

 

示談が成立した後、伊達は人志達の前から去った。

 

『人志さん…』

 

『どうした?樹』

 

『僕も…その十日間の"地獄“とやらにお供します!!

陽菜さんを守れなかったのは、決して人志さんだけの所為ではありません…あの時、僕が最後までちゃんと戦えていれば…!!

全ては、自分の未熟さと非力さが招き起こしたことです!!』

 

『樹…お前…』

 

『あたしもその"地獄“に参加する!!

それに人志!あんたには選定の時に大きな借りを作っちまってるからね!

あんたらの言うその陽菜って女の子を助けるのを、あたしも協力するよ!!

それであんたへの借りはチャラって事で!!』

 

『ありがとう…二人とも。』

 

こうして、三人は陽菜奪還を成し遂げる為に、地獄の鍛錬に赴く事を決意した。

 

一方その頃、氷華の一族の末裔・凍哉は、一人あてもなくけもの道を歩いていた。

 

曇り空を見上げて、閉じた眼を開けて睨み、天を覆う雲を華のように凍り付かせ塵にし、雲一つない晴天を作り出した。

 

全てを差し込む光に照らされながら、無数の氷の花びら舞い散るけもの道を、ただひたすら歩んでいった。

 

人志達は、これから始まる過酷な修業に備える為に、長寿館の美味な料理や温泉で英気を養った。

 

翌日、人志達は傷を完治させ、遂に伊達との十日間の命懸けの修行を開始する。

 

(待っていろ…陽菜!!)

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