戦の鉄則   作:並木佑輔

21 / 62
第20話 誰が為に

羅刹一座の大妖怪達の圧倒的な強さの前に為す術がなく、窮地に陥った人志達。

 

オロチの猛毒に侵され窮地に立たされた愛菜を何とか救うべく樹は奮闘するが、事態は一向に悪化するばかりであった。

 

(早く…早く何とかこの状況を打破しないと、愛菜さんを…陽菜さんまでも救えなくなってしまう!!

だけど、相手は大妖怪!!

とても僕だけじゃ敵わない…!!

愛菜さんは猛毒で戦闘不能までに陥っている…!!

これでどうやって戦えばいいんだ…!!)

 

「さあ、そろそろ終わりにするか…ククク。」

 

打開策が思い浮かばぬまま、じりじりと追い詰められる樹。

 

絶体絶命の危機の中、猛毒に侵され吐血しながらも、愛菜はオロチに攻め続けようとしていた。

 

「驚いたな…私の猛毒に侵されてなお闘志を燃やし向かってくるとは…。」

 

「愛菜さん!!やめてください!!そんな状態で戦い続けたら、本当に死んでしまう!!」

 

「そん…な…ことは…わか…ってるよ…約束…したんだ…人志に、借りを…倍にして返す…。

そんでもって…絶対…生きて…」

 

次の瞬間、愛菜は吐血した。

 

「愛菜さん!!!!」

 

「ククク…何と強情な小娘よ…さっさと死を受け入れれば楽に済むというものを…。」

 

無茶をする愛菜を見るに堪えられない樹は、もうやめてくれと彼女に嘆いていた。

 

だが、愛菜は決して諦めずに懸命に立ち向かい、樹に言い放った。

 

「樹!!あたしらは陽菜ちゃんを奪還する為にここに来たんだろ!?こんなところで躓いていい訳ないよな!!」

 

「…!!」

 

「あたしらは絶対勝つ!!何が何でも勝つ!!!!

そして、絶対皆で生きて帰るんだァァ!!!!!!」

 

愛菜の魂の叫びに、樹は大粒の涙を流しながら応えた。

 

(情けない…僕だけが覚悟を決められていなかった…!!何の為にここまで頑張ってきたんだ僕は…!!)

 

心の中の迷いが晴れた樹は、愛菜と共に再び立ち上がり、目の前の巨大な壁を今まさに超えんとしていた。

 

「愚かな…大妖怪であるこの私に本気で敵うとでも?」

 

樹は、自身の血で今までの中で最も巨大な大木を創り出し、オロチに放った。

 

それに続いて、愛菜も自身の身体能力の全てとその大木を倍以上に強化し、全力で攻めていった。

 

だが、オロチは余裕綽々と二人の猛攻を軽くいなし、愛菜を吹っ飛ばし、研ぎ澄まされた牙で樹に咬みついた。

 

愛菜の中の猛毒はどんどん悪化していき、樹は咬みつかれ地面にどんどん血が滴っていく様を、オロチは嗤った。

 

「短い間だったが、貴様らとの戯れは実に楽しかったぞ。」

 

もはや勝負は決した…

 

だがしかし

 

「ぐっ…うう…」

 

「ほう…まだ息があったのか。」

 

「無駄口ばかり叩いてないで…さっさとケリを着ければよかったのに…」

 

「ああそうか やっと楽になろうと決心出来たのか。」

 

オロチが止めを刺そうとした次の瞬間、彼が立っている地面に滴っている樹の血が、巨大で鋭利な木々となり、オロチを串刺しにした。

 

「が…あ…ああ…」

 

「だから言っただろ…さっさとケリを着ければよかったんだって…。」

 

そして、愛菜はこれまで以上の何倍にも膨れ上がった力で、オロチを修復不可能になるまで何度も叩き込んだ。

 

二人はボロボロになりながらも、大妖怪との死闘を制した。

 

だが、愛菜の身体全体に猛毒がまわっていき、解毒する方法もなく、樹はどうすることも出来ずにいた。

 

その時、突如樹の前に一人の少年が現れた。

 

「よう樹、こうしてまたお前と会えるなんてよ…。」

 

「…か…和真!?な…何で…!!?」

 

一方、別空間にてヒスイにエネルギーを絞り尽くされそうになっていた凍哉は、自身の最大の能力『雪華の眼』でさえ通じず、どうすることも出来ずにいた。

 

「嗚呼…今、私はこれまでにない刺激と快楽に満ち溢れているわ…。

惨めで哀れで、そして誰よりも美しく儚い独りぼっちの凍哉君…

貴方は永遠に、私の物よ。」

 

意識が薄れていく中で、凍哉は走馬灯を見た。

 

幼少の時分、氷華の一族の一員である凍哉は、その異質で強大すぎる能力が原因で周りの妖怪達から恐れられ、忌み嫌われていた。

 

一族の故郷である「氷華の里」で凍哉は母に、「何故自分達一族は彼らに何も危害を加えていないのに存在を否定されるのか」と、聞き出した。

 

母は、「私達の中にある力が他にはない異質なものだからというのもあるけれど、それ以前に私達は他者とはどうあっても相容れない存在であるが故に認められないから」と、あやふやな答えで返した。

 

納得出来ない凍哉に対し、母は「でも、貴方は私達の中で最も特別な子だから、私達のようにはならない。きっと、貴方を受け入れてくれる人が、そう遠くない未来に現れると、私は思うわ。」と、そう言い放った。

 

時は流れ、故郷に羅刹一座の大妖怪・ヒスイ率いる妖怪集団が、凍哉達氷華の一族を根絶やしにする為に襲撃してきた。

 

結果、凍哉ただ一人だけが生き残り、家族や同胞達の命を踏みにじった者達に復讐を誓い、孤独に戦い続けた。

 

その後、選定にて人志と陽菜に出会い、彼との激闘を経て敗北した。

 

激闘の後、バサラの手により殺されそうになった時に人志に救われ、「生きろ」と言われた。

 

初めて人に己の存在を受け入れてくれた事が、凍哉の今までの人生に一筋の光を、凍てついた心を溶かしたのだ。

 

凍哉は心を燃やし、ヒスイの腕を強く握り凍らせ、突き放してのけた。

 

「あら…まだ私を気持ちよくさせてくれるの?

凍哉君、本当に良い子ね♡」

 

続けて凍哉は、無数の巨大な白銀の氷剣を生成し、ヒスイに一斉発射した。

 

それらを、ヒスイは漆黒の炎で全て溶かしてのけた。

 

「俺はもう…独りじゃない…。」

 

「ん?」

 

「俺よりも強い眼を持つ者に会った…その者は、愚直で燃え滾るような眼をしていた…。

その者に打ちのめされた時、こう言われたんだ…

『生きろ』と。」

 

「その者って確か、選定の時の隻腕の坊やのことね…?よかったじゃない、お友達が出来て。」

 

「憎悪で凍り付いた俺の心を溶かしてくれたあいつの為にも、お前には絶対に敗けられない…!!」

 

凍哉は心を燃やし、眼前の仇敵に真っ直ぐ向かっていった。

 

瞬時に巨大な氷壁を創り出し目くらましをして、ヒスイに致命の一撃を与えようと企てた。

 

ヒスイはすぐさま凍哉の狙いに気付き、一瞬で巨大な氷壁を黒い炎で溶かし、凍哉を炎で包み込んで溶解させた。

 

だがそれは、凍哉が創り出した氷の虚像であり、本物の彼はヒスイの背後に回り込み氷剣で刺し穿った。

 

因縁の対決に遂に決着が着いた…かに見えたが、凍哉の氷剣に貫かれたヒスイがドロドロに溶けて消えてしまった。

 

すると次の瞬間、ヒスイが凍哉の背後に現れ首元に咬みつき、印を付けた。

 

「ごめんなさいね…これから大事な仕事があるから、今回はお預け…。

でも近い内にまた会えるわ凍哉君…

次はもっと激しく戯れましょう…フフフ。」

 

「ま…待て…!!」

 

ヒスイは姿を消し、凍哉は別空間から出られたが、ヒスイに付けられた首元の印がジワジワと疼き始め、苦しんでいた。

 

その頃、人志はオニタケの無尽蔵なエネルギーを操る能力の前に為す術がなく、悪戦苦闘を強いられていた。

 

オニタケは速攻でケリを着ける為に、超高密度のエネルギーを大剣に帯びて、斬撃と同時に放った。

 

人志はすぐさま避けようとしたが、オニタケがエネルギー砲を放つ方向に樹と愛菜がいると自身の能力で感知した人志は、二人を死なせない為に自らそのエネルギー砲を受け止める決断を下した。

 

「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

己の全生命エネルギーを懸けて、人志はオニタケの放ったエネルギー砲を受け止め、倒れてしまった。

 

「俺の大剣を受け止めるとは、大したもんだな坊主!

て言っても、もう聞こえねえか…。」

 

意識が遠のいていく中、人志は回想にふけった。

 

四年前、バサラにカモミールを襲撃され、三人だけが生き残り、怪童に片腕を持ってかれ袂を分かたれたことを思い出した。

 

勝負に敗け、過ぎ去っていく怪童の背を見る事しか出来ず、陽菜は「行かないで」の一言も言えずに涙を流していた。

 

もう二度と失わないように…大切な人を泣かせないように…そして、今もなお孤高に戦い続けている戦友を救う為に、人志は立ち上がった。

 

「おお!まだやれるのかよ!?いいねいいねえその眼!!不屈の闘志ってやつか、俺の一番の好物だ!!」

 

気持ちが昂ったオニタケは、人志に向かって思い切り大剣を振り回していった。

 

人志は、微弱ながら生命エネルギーを練り、オニタケの攻撃をいなしながら攻撃を当てていった。

 

だがそれも長くは続かず、限界を迎えた人志は倒れ込み、指一本も動かせずにいた。

 

「何だよ、もう終わっちまうのかよ

締まらねえな。」

 

オニタケは最後の止めを刺そうとした次の瞬間、オニタケの身体に異変が生じた。

 

いつの間にか身体中が痺れ、エネルギーを練れなくなっていたのだ。

 

「な…何だよこれは!?てめえ何をしやがった!!?」

 

「…さっきお前に…攻撃を当てた時…雷の性質変化で、点穴を塞いだ…。

これでもう…お前はエネルギーを練れなくなったし、無理に放出しようとすれば…」

 

「てめえ...!!もう殺す!!」

 

今度こそ最後の止めを刺す為にエネルギーを放出しようとしたが、点穴を塞がれてしまいエネルギーは行き場を失くし、身体がどんどん膨張し破裂し、オニタケは死んだ。

 

勝ちはしたものの、人志はエネルギーを使い果たし、死の淵に追い込まれていた。

 

そんな中、突如人志の前に仇敵バサラが颯爽と現れた。

 

「正直言って、お前には驚かされているよ…まさかあのオニタケをも倒してしまうなんてな。」

 

「バ……サ……ラ……」

 

「ここまで一心不乱に戦い続けてきたお前に、この俺自らが敬意を表して楽にしてやる…光栄に思えよ…。」

 

虫の息の人志に止めを刺す為に、バサラは風で跡形もなく切り刻もうとした。

 

そこに、守天豪傑の最後の生き残り 伊達恭次郎が現れ、人志を救ったのであった。

 

「ほう…誰かと思えば、旧時代の負け犬じゃねえか。」

 

伊達は人志を担ぎ、傷を癒す為に急いで戦地から脱出しようと試みた。

 

だが、バサラはそれをただ黙って見逃すはずもなく、伊達諸共あの世に送る為に暴風を放ち、切り刻んだ。

 

「おいおい、その程度のスピードでこの俺から逃げ切れるとでも思ったのか!?」

 

しかしそれは、伊達の能力によって作り出された残像であり、人志を安全な場所まで送り込んだ。

 

「その程度の暴風で、俺を捉えられるとでも思ったのか?」

 

取り逃がしてしまったバサラは、仕方なく実験室に早々と戻っていった。

 

それぞれが死闘を迎えた中、怪童は大妖怪・强 華蓮(ジァン・カレン)に苦戦を強いられていた。

 

强の数千年積み上げてきた武術の結晶の前に、怪童はまるでサンドバックのようにただ拳や蹴りや手刀足刀を幾度も幾度も叩き込まれた。

 

强の攻撃は、まともに喰らってしまえば大妖怪であっても死に至らしめるものであるが、人の身である怪童は、ただ眼前に立ちはだかる敵から目をそらさず、鋭い眼光で睨みつけていた。

 

强は予知した…「この男は何としてでも今ここで始末しなければ、取り返しがつかなくなる」と…

 

强は、己の最大最強奥義「無双華僑」を持ってして、怪童を確実に仕留めようとした。

 

それは、数千年という長い年月の鍛錬を経て强が独自に編み出した絶技であり、拳、蹴り、手刀、足刀などのあらゆる拳技が一度に同時に無限に繰り出されるものであった。

 

これを前にして生きた猛者は一人たりとていない…そんな絶技を前に、怪童はただ立ち尽くしていた。

 

死闘は終わりを迎えようとしていた…一人の戦士の手によって…。

 

强の絶技「無双華僑」を自身に取り込み、怪童は体術において圧倒的な差で苦しめる强と同じ境地に立ち、相手と同様に無限に拳技を繰り出していったのだ。

 

結果、强は絶技を絶技で返され、肉片も残らずに怪童に削り取られてしまった。

 

大妖怪との死闘を制した怪童は、ボロボロになりながらもただ独り突き進んでいく…

怪物共から人々を守る戦士として、そして己の正義と信念を貫き通す為に…。

 

事態は過激の一途を辿る中、妖魔帝国本部の内部にて一通りの実験を終えた陽菜は、精神も肉体も消耗しきっており、その目にはもはや生気すら宿っていなかった。

 

陽菜は、自分がこれから辿る末路を自覚しながら、ポケットから一枚の写真を取り出した。

 

それは、カモミールにて人志と怪童と三人で一緒に撮った大切な写真であった…。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。