戦の鉄則   作:並木佑輔

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第22話 もう二度と

羅刹一座の大妖怪・妖狐のミコモと、守天豪傑の最後の生き残り 伊達恭次郎の死闘が始まった。

 

まずミコモが先手を取り、莫大な妖気で作り出したエネルギー弾で次々と伊達に襲い掛かる。

 

対する伊達は、難なく繰り出される攻撃を躱しきった。

 

「素晴らしい俊敏さね。惚れ惚れしちゃうわあ♡…けれど、次は避け切れるかしらあ?」

 

不穏な空気が漂う中、ミコモは更にエネルギー弾を作り出した。

 

しかし、今度のは唯のエネルギー弾ではなく、ミコモの「魂奪」の能力で作り出したものであり、ちょっとでも掠ったらその魂を彼女に奪われてしまうという危険な代物であった。

 

伊達は、ミコモの危険な能力を見抜き全力で回避し切ろうと動く。

 

だが、そのあまりにも圧倒的な物量の弾が伊達に襲い掛かり避け切れず命中し、その魂をミコモに奪われ抜け殻と化してしまった。

 

伊達の魂を奪ったミコモは、心おきなく魂を味わいながら食した。

 

「んん~♡見た目通り渋くて苦い感じ♡」

 

すると次の瞬間、ミコモの体内に激しい電流が流れ始めた。

 

体内に起こった激しい電流にもがき苦しみ、やがてはその苦痛に耐えかね、ミコモは今まで喰らってきた魂魄達を吐き出した。

 

そして、伊達の魂魄は肉体へと戻っていき、復活を遂げた。

 

「お…おかしい…こんなこと、今までなかったのに…貴方一体何をしたの!?」

 

「こちとら長年伊達に修羅場と経験を重ねてないからな…お前さんのような戦争を経験していない駄女狐にそう簡単にやられるようなタマじゃねえんだよ俺は…。」

 

「全然質問の答えになってないわよ!!どうやって私の能力から逃れたのかって聞いてるのよ!!」

 

侮辱され取り乱すミコモを見て、伊達は呆れながらも答えた。

 

「やれやれ…お前さん本当に大妖怪かよ…敵がそんな簡単に己の手の内を明かす訳がねえだろう。」

 

「いいから答えろって言ってんのよ!!!」

 

深くため息をつきながら、伊達は答えに応じた。

 

「じゃあ、特別に見せてやるよ。守天豪傑が最後の一人 伊達恭次郎の“黒雷”をな!」

 

そう言い放った瞬間、突如空一面が雷雲に覆われ、次々と落雷が降ってきた。

 

一方で陽菜奪還に向かっている樹と愛菜は、突然天候が悪化した事に驚きを隠せずにいた。

 

「な…何だ?一体何が起こったんだよ!?」

 

「分かりません…分かりませんが、今は先を急ぎましょう!」

 

しかしもう一方で、陽菜の元へと急ぐ人志には、何が起こったのかが分かっていた。

 

(黒雷か…伊達さんが今まさに本気を出しているという証拠だ…。)

 

突然起きた出来事や伊達の未知の能力の前に、ミコモは戦慄していた。

 

次の瞬間、雷雲から麒麟の姿をした漆黒の雷が伊達の頭上に降りかかり、その漆黒の雷の麒麟を己の肉体に吸収し纏い、急激にパワーアップした。

 

「雷神演武」

 

「な…何よそれ…!」

 

「説明は一切しねえぞ…こっちも先を急いでいるもんなんでな…速攻でカタを着けさせてもらうぜ。」

 

刹那、ミコモの頭上に漆黒の雷が一気に降り注いだ。

 

間一髪躱したが、更に雷の大群がミコモに次々と襲い掛かる。

 

落雷をただひたすら避ける事で精一杯なミコモに、伊達が一瞬で背後に回って重い一撃を与えた。

 

「ぐぁっ!!い…いつの間に!?」

 

「実戦で敵の背後を取ることなんざ常套手段だぜ?」

 

背中に重い一撃を喰らってしまったミコモは、次から次へと襲い掛かる雷を避け切れずに更にダメージを蓄積してしまう。

 

ミコモは、ダメージを回復させる為に自身の妖力を消費して再生しようとするが、何故か再生出来ずにいた。

 

それは、伊達の黒雷によるもので妖怪の持つ回復・再生能力を麻痺させ阻害させる効果によって、ミコモは回復を封じられてしまったのだ。

 

伊達は前言通りに速攻で終わらせる為に、『黒雷大神』という絶技で漆黒の雷の麒麟が如く突進し、ミコモを木っ端微塵にし勝利した。

 

ミコモを撃破した伊達は、人志達に加勢する為に動き出した。

 

各々が陽菜奪還や陽菜の秘めたる能力を追求する中、一人の男は唯一そんなことなど歯牙にもかけなかった。

 

人々が妖怪達に食い荒らされる時代を終わらせる為に、怪童は一歩ずつ前へ進み続けていた。

 

そんな怪童の前に、大妖怪”鬼神”のヒノマルと、氷華の一族を滅ぼした元凶である”超越者”のヒスイが立ちはだかった。

 

「ヒスイ殿、この坊主が彼の有名な妖怪殺しの怪童ですかい?」

 

「ええそうよ。この子が正真正銘、怪童君よ。」

 

「それにしては随分とまあ酷くボロボロじゃございやせんか?今にも出血多量で死にそうだ。」

 

ヒノマルの言う通り、怪童は先の强 華蓮との戦いで酷く傷付いており、夥しいほど出血が止まらずにいた。

 

もはや死に体である怪童に、ヒノマルはせめてもの情けで楽に逝かせる為に巨拳を叩き込んだ。

 

がしかし、怪童はそれを片手で容易に受け止めてのけた。

 

人の身で鬼の力を受け止めた怪童に、ヒノマルは驚愕しながらも関心を抱き始めた。

 

「おお…!満身創痍でありながら、わしに引けを取らない程の膂力!!」

 

ヒノマルは、妖怪の中でも怪力無双と呼ばれる鬼達の頂点に立つ男である。

 

そんなとてつもなく強大な鬼の拳を、一人のちっぽけな人間が受け止めた。

 

種族として圧倒的に劣り、尚且つ妖怪達の食料にすぎない人間がだ。

 

そんな取るに足らない一人の人間である怪童に、鬼神ヒノマルは酷く気に入った。

 

だが、どんなに強くても所詮は人間。

 

妖怪達のように長い年月は生きられず、すぐに壊れてしまう脆弱な種族である事を重々承知しているヒノマルは、怪童にある提案を持ちかけた。

 

「怪童よ!!貴様は人とは思えぬ程に恐ろしく強い!!だが、そのままでは貴様はどうあがいても出血多量で死ぬ!それだけは何としても見過ごす訳にはいかぬ!!わしらと同族になれ!!貴様のような逸材は千年経ってもそうは生まれてこない!!人間のまま腐らせるには、あまりにも名残惜しい!!だからこそ、貴様は劣等種の人間としてではなく、妖怪として生を謳歌し、我らとともにこの世の全てを蹂躙し尽くす資格がある!!どうだ怪童!!貴様の返事を今ここで聞かせてくれ!!」

 

ヒノマルに高い能力と強さを買われ、妖怪になるよう要求された怪童は、即座にこう答えた。

 

「確かに、お前の言う通り人間は妖怪達の腹を満たす為だけに存在している脆弱な生き物だ…だが、お前ら妖怪が脆弱な人間達を喰い尽くしているように…俺達人間も豚や牛や鶏というもっと脆弱な生き物を糧にして今日も生きている…。所詮この世は喰うか喰われるかだ…。お前ら妖怪は常に人の皮を被っておきながら人々を騙し、嘲笑い、大切な家族や友人を奪い貪り尽くさんとしている…。俺は戦士として、そんな化け物共から人々の平和と幸福を守り通さねばならない責務がある!!全ては弱き人々の平和と幸せの為に…!!俺は、お前ら化け物共を一人残らず喰い尽くす為に生まれ落ちてきた人間 怪童だ!!!!」

 

一点の曇りの無い眼をギラギラと鈍く光らせながら、怪童はヒノマルの要求を拒否した。

 

「そうか…だがますます貴様を気に入ったぞ!!こうなったら、お前を殺してでも我が同胞に招き入れようぞ!!」

 

次の瞬間、ヒノマルは一瞬で怪童の懐に入り、またも巨拳を叩き込んだが、怪童はそれをまたしても容易に受け止め、二人は取っ組み合いを始めた。

 

それはただの取っ組み合いとはあまりにも度し難く、二人の膂力のせめぎ合いは空間に亀裂を生じさせる程の凄まじいものであった。

 

ヒスイは、そんな圧倒的な力と力のぶつかり合いをまるで観客のように楽しもうとしていた。

 

一方、本部内部にて、バサラは度重なる実験を経て徐々に陽菜の秘めたる能力や正体に近づきつつあった。

 

これまでに人体解剖や薬物摂取など、様々な手段を用いてきた。

 

遂に、実験は最終段階に移ることとなった。

 

それは、自分の命令に忠実で能力を存分に発揮出来るように、陽菜の精神を崩壊させる事であった。

 

バサラは部下の精神操作系の能力者と共に、本部の中枢の大広間へと場所を変え早速実行しようとした。

 

陽菜は、これから自分がどういう結末を迎えるのかを理解していた。

 

というよりも、自らこうなる事を望んでいたかのように、悔いはないと感じていた。

 

(私はこれまで…多くの人達に守られ、生かされてきた…。そして、私のせいで…多くの大切な人達を傷付け、死なせてしまった…。だからもうこれで…終わってもいい…。茜先生…カモミールのみんな…伊達さん…樹さん…人志…。怪童……。みんな…本当にごめんなさい……。)

 

陽菜はゆっくりと目を閉じ、その生涯に幕を下ろそうとした。

 

その時、大広間に激しい衝突が起き、警護の妖怪達が吹っ飛ばされた。

 

隻腕の霊能力者 人志が、遂に陽菜の元に辿り着いたのである。

 

「陽菜…迎えに来たぞ!!」

 

「人志…!!」

 

「隻腕の小僧…!!警護の者共!あの小僧を殺せ!!」

 

陽菜を奪い返す為に、人志は警護の妖怪達を相手にひたすら立ち向かった。

 

「待っていろ、陽菜!!」

 

ボロボロになりながらも、自分を助ける為に戦っている人志の姿に、陽菜は涙を流しながら人志に強く訴えた。

 

「どうして……どうしてここに来たの!?何で私なんかを助けに来たの!?私のせいで…これまで多くの人達が傷付いて死んでいった…。私が生きていたら、また多くの人達が傷付き死んでしまう…!!もうこれ以上…私のせいで私以外の人達が死んでいくのは見たくないの!!だからもう…私はここで死ななくてはならないの!!」

 

自分の秘められた能力のせいでこれ以上犠牲者を増やさないように、バサラに死ぬまで利用される事を陽菜は選んだ。

 

だが人志は、自分を犠牲にしようとする陽菜を止める為に警護の妖怪達をなぎ倒しながら、陽菜に伝えようとした。

 

「陽菜…お前は昔から、人を大切に思う心を人一倍強く持っている…。カモミールの茜先生やみんなとの思い出を、誰よりも大切に心の内にしまっているお前だからこそだ…。だからこそ、あの日全てを失った時誰よりも悲しんでいたのは、他でもないお前自身なんだ…。そんな優しい心を持つお前が、自分以外の大切な人達を死なせない為に自ら犠牲になろうとしているところを、同じ悲しみや痛みを体験した俺が…見過ごせる訳がないだろう…!!」

 

陽菜を救い出す為に死力を尽くす人志だが、多勢に無勢で徐々に警護の妖怪達に圧し潰されそうになっていた。

 

万事休すかに見えたその時、巨大な大木が警護の妖怪達に向かって一斉に降りかかってきた。

 

樹と愛菜が、大広間から流れ出る人志の生命エネルギーを便りに馳せ参じたのである。

 

「人志さん!!/人志!!」

 

「お前ら…!!よく無事でいてくれた!!」

 

「あたしらだけじゃないよ!!」

 

巨大な大木の一斉攻撃に続いて、凍哉の氷結と伊達の黒雷が妖怪達を薙ぎ払っていった。

 

「凍哉…!!伊達さん…!!」

 

「ここは俺達が引き受ける…。」

 

「お前はさっさとケリを着けてこい。」

 

戦友達と師に背中を押され、人志は陽菜を救う為に突き進んだ。

 

それを阻止する為、バサラは自身の能力で暴風を起こし、人志を跡形も残さずに捻じ切ろうとする。

 

しかし、人志は炎の生命エネルギーを纏いながらバサラの暴風を焼き尽くし、バサラと側近の能力者にダメージを与え、遂に陽菜を救い出した。

 

「人志……。」

 

「今まで本当に辛かっただろう…苦しかっただろう…悲しかっただろう…。だが、もう大丈夫だ…。俺達と一緒に帰るぞ…陽菜!!」

 

人志に片腕で優しく抱擁された陽菜は、大粒の涙を流しながら人志達に感謝の言葉を口にした。

 

「ありがとう……!!」

 

「礼を言うにはまだ早い…俺には、まだやり残した事がある…。」

 

そう言い放った人志は、陽菜の身柄を樹に渡した。

 

「樹!陽菜を無事に長寿館まで送り届けてくれ!お前にしか頼めない仕事だ!」

 

「え…!?人志さんはどうするつもりですか!?」

 

かつてカモミールを襲撃し、全てを壊していった因縁の宿敵、大妖怪バサラを睨み付け、人志は樹に陽菜を託した。

 

「俺には、どうしても決着を着けねばならない相手がいる…。無理矢理ですまないが、頼んだぞ!樹!!」

 

「でも人志さん…!!」

 

「樹!ここはあたし達が引き受けるから、あんたは陽菜ちゃんを早く連れて行ってやりな!」

 

「…はい!!陽菜さんは、必ず僕が守り抜いてみせます!!」

 

人志に託された樹は、陽菜を抱き抱えて先へ行った。

 

その後、人志はバサラとの戦いに仲間を巻き込ませない為に場所を変えようと、バサラに催促した。

 

バサラはその催促を受けて、本部の大広間から地下戦闘訓練場へと場所を変えた。

 

バサラは、人志の炎でやられた傷を妖力を消費して治癒し、万全の状態で人志との戦いに臨もうとしていた。

 

「血迷ったか小僧…てめえ如きが本気でこの俺にサシで勝てるとでも思ってるのかよ?」

 

「勝てる勝てないの話じゃねえ…。もう二度と失わぬように…俺はお前とのこれまでの因縁に決着を着ける!!今この場で!!!」

 

陽菜や戦友達との未来の為、人志は闘志を燃やし大妖怪バサラに挑む。

 

今ここに、最大の死闘の幕が切って落とされた。

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