陽菜の奪還に成功した人志は、陽菜の身柄を樹に託し、大妖怪バサラとの因縁に決着を着ける為に一対一の戦いを臨んだ。
バサラはその要件に応じて妖魔帝国本部の地下にある戦闘訓練場へと場所を変えた。
「しかし解せねえな…あの場で俺の手から陽菜を奪い返した時、お前には氷華の一族の末裔や伊達恭次郎という強い味方がいるにも関わらず、わざわざ俺とサシの勝負に持ち込んだ…。何故、陽菜を連れて逃げようとしなかった?」
「…仮に陽菜を連れて逃げたとしても、お前は何が何でも逃がさないだろうし、お前ほどの実力者から逃げ切る事はほぼ不可能だろうよ…。それに、これから陽菜や戦友達と共に生きていく為に…お前は何としてもこの手で倒さなくてはならない…。だから俺は、お前に戦いを挑んだ…。」
バサラは、大妖怪である自分よりも格下の人間に無謀な戦いを挑まれた事に失笑しながら向かっていった。
「フッ…身の程知らずが…。」
人志の生命の炎とバサラの全てを捻じ切る暴風。
四年前のカモミール襲撃からの因縁の死闘が遂に勃発した。
一方で、大広間にて愛菜と凍哉と伊達は警護の妖怪達との戦いに身を投じていた。
順調に敵を薙ぎ倒していってるように見えたが、凍哉の身体に異変が生じた。
「ぐっ…!!」
突然身体中に激痛が走り、敵に隙を突かれそうになったところを愛菜に助けられた。
「凍哉!大丈夫か!?」
「…すまない…。」
「何処か具合でも悪いのか?あんた程の実力者が、こうも敵に簡単に隙を見せるなんて…!」
伊達は、凍哉の首に付けられた噛み跡を見て、彼の因縁の宿敵である大妖怪ヒスイの仕業だと瞬時に見抜いた。
そして、愛菜も大妖怪オロチの猛毒から解毒したとはいえ、かなり体力を消耗している事も見抜き、伊達は凍哉と愛菜を守る為に黒雷で敵を一網打尽にする。
その中で、人志に陽菜の身柄を託された樹は、陽菜を抱き抱えて大急ぎで本部から脱出しようとしていた。
(やっと、やっと陽菜さんを助け出す事が出来たんだ…!人志さんや愛菜さん、みんなの為にも僕が責任をもって絶対に無事に送り届けなければ!!)
「樹さん…」
「え、あ、はい、何でしょう?」
「本当にこのままでいいんでしょうか…」
「え…?」
「人志は…私を助けてくれた後、大妖怪であるバサラに戦いを挑んだ…。私を助ける為に、あんなにボロボロになってまであのバサラと戦おうとしている…。このままじゃ人志や他の人達が殺されてしまう…。」
人志と共に戦っている仲間の事で不安になっている陽菜に、樹は安心させる為にメッセージを送った。
「不安になる気持ちは分かります…でも、人志さんはあの頃より格段に強くなっています。愛菜さんや凍哉さん、伊達さんといった強力な味方も作って、今こうして陽菜さんを助け出す事に成功したんですから…。ですから、人志さんは絶対に勝ちますよ…!あとそれと、陽菜さん…今までの辛いことや悲しいことは、全部一人で背負い込まずに、僕達の肩にも背負わせてください…。僕達は、最後まで貴方の味方ですから!!」
樹の強いメッセージを聞いて、陽菜は心の底から安堵し、感謝の言葉を送った。
「…本当に、ありがとうございます…。」
樹と陽菜が仲間の勝利を信じる中、人志はバサラと互角に渡り合っていた。
選定の時とは違い、人志はここまで数多の死線を潜り抜け、強さは大妖怪と同じレベルに近づきつつあった。
「なるほど…この俺に啖呵を切るだけの実力はしっかり備えてきているようだな…。だが、お前がどんなに頑張っても俺との力の差は決して埋められはしない。今から、その証拠を見せてやるよ。」
そう言い放ったバサラは、両手に烈風を纏わせ、人志に向かって放った。
「烈風双裂斬!!」
二つの烈風を前に、人志は雷の性質変化で回避しようとするも、烈風は当たるまで何処までも追尾し続ける。
そして、バサラはそこから更に畳み掛けた。
「烈風崩斬波!!」
人志は襲い掛かる強大な烈風を前に、雷から炎に性質変化して、烈風崩斬波を焼き尽くした。
だが、強大な烈風に気を取られてしまい、追尾する二つの烈風が襲い掛かる。
(くっ…間に合わない…!!)
二つの烈風をもろに直撃し、重いダメージを負ってしまった人志。
「なあ人志…何故人間がどんなに努力しても妖怪に勝てないのか、教えてやろうか?
お前らとは住む環境が違いすぎるんだよ。俺達妖怪が住む魔界は、お前ら人間共が住む世界とは空気や重力は重く、腐った血と肉が混じり合った風が吹き続ける…正に魔境だ。
そんな最高な環境下で互いに命を削り合い、殺し合い、奪い合う…それが俺達妖怪にとっての日常だ。この時点でお前ら家畜共のようなナヨナヨした日常とは、天と地ほどの差がある。
強いだの弱いだの、正義だの悪だの、そんなもんは結果に至った奴らが語るのさ…
所詮負け犬はこの世の真理を語れねえ。」
絶対的な力の差を見せられ、倒れてしまう人志。
意識が遠のいていく中、人志に走馬灯がよぎった。
カモミールで橘茜との約束や、怪童との競い合い、そして、全てを失った日からの己への魂の誓いを。
幼少の頃、やりたい事や叶えたい夢が何もなかった人志は、人々の平和と幸福を守る為に血と汗を流しながら鍛錬に励む怪童を羨望の眼差しで見ていた。
虚ろな自分とは違って生き生きとしている怪童を誇らしく思っていた。
そんな人志に、橘茜は「焦らなくていい、少しずつでいいから、自分にとって正しいと信じられる道を進んでください。」と、助言を伝えた。
人志は、怪童と競い合いながら少しずつ、少しずつ、自分の空虚な心をパズルのピースのように埋め続けていった。
それがあの頃の自分にとって正しいと信じられる道だと信じていたからだ。
次第に空虚な心を埋めていった時、人志はカモミールでの日々で生まれて初めて生きる意味を見出し、やっと人間らしくなってきた感覚を覚えた。
だがあの日、全てを失った時、自分にとって大切なものたちを失う悲しみや痛み、苦しみを知り、人志の空虚な心は満たされたのであった。
それから人志は、血と汗と涙を流しながら、己の魂に誓った。
「もう二度と大切なものを失わぬように、もう二度と大切な人を悲しませないように、この生命の炎を最後まで燃やし続ける」と…。
人志は、血を流しながらも立ち上がり、己をも燃やし尽くす程の真紅の炎を身に纏い、メラメラと眼を光らせていた。
「な…何だ…!!その炎は…!!」
次第に炎は強まり、遂には地下戦闘訓練場を貫き、天をも衝く程にまで達していった。
その強大な炎柱から発する強大な熱気と生気に、本部にいる全ての者達は驚きを隠さずにはいられなかった。
「な…何て凄まじい熱気だ…これは間違いなく、人志さんの炎の性質変化の…!!」
「人志…!!」
その炎は、己自身をも焼き尽くす程に燃え上がり、他を圧倒するほど盛んであるものであった。それはまさに、
「気炎万丈」
「くっ…!!死にぞこないが!!!」
バサラは、メラメラと激しく燃え上がる人志に強大な暴風を放った。
だが、その暴風は人志には届かず、全て焼き尽くされてしまった。
「何だと…!!」
人志は、自身を燃やしながら目に映らぬ程の速度でバサラに突撃し攻めていった。
「気炎万丈 “炎威”」
すると次の瞬間、バサラの腕が一瞬で燃やされ、その勢いでバサラの肉体全てを焼き尽くさんとしていた。
「ぐああっ!!」
バサラは急いで炎を自身の妖力で消そうとしたが、全く消えずにいた。
人志の「気炎万丈」は未完成ながらも炎の性質変化の究極の形であり、対象を完全に燃やし尽くすまでは絶対に消えない。
その事を悟ったバサラは、自分の腕を切断して難を逃れた。
そうしなければとっくに終わっていた事になる。
人志は、眼前の宿敵に向かって、こう強く言い放った。
「本気を出せ…バサラ…。」
「…何だと…!?」
「今のお前に勝っても、俺にとっては何の意味もない…死力を尽くして俺と戦え…。今日、俺はここで…大妖怪バサラという生涯最大の宿敵を超えていく…!!」
「!?」
言葉通りに、人志はバサラを大妖怪として敬意を表して本気でかかってこいと強く言い放った。
その言葉を受け取ったバサラは、人志を絶対に倒さなければならない強敵と認め、遂に本気を出した。
これまでの暴風とは一味も二味も違う狂風を纏い、人志を完膚なきまでに叩き潰す事を決意する。
守るべき人の為、己の野望の為、互いに譲れない思いが、今まさに火花を散らし激しくぶつかり合った。