戦の鉄則   作:並木佑輔

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第25話 傷だらけの怪物

大妖怪バサラとの死闘を制した人志は、その後愛菜、凍哉、伊達と無事合流した。

 

「人志…!!勝ったんだな!?あのバサラに!!」

 

「…ああ…みんなも無事で、よかった…。」

 

「人の心配するより、自分の身体の心配をしたらどうだ?ほぼ満身創痍じゃねえか。」

 

「ははは…伊達さんにそれを言われたら、何も言い返せないな…。凍哉は、大丈夫か?」

 

「俺の事は気にするな…それよりも、樹と陽菜の元へ急ごう…敵の追手が来る前に。」

 

「ああ…そうだな…。」

 

「よし!!ここまで来たら後は本部から脱出するだけだ!!全員必ず生きて帰ろう!!」

 

仲間達と合流した人志は、樹と陽菜の元へと急いだ。

 

その頃、妖怪殺し 怪童は羅刹一座の大妖怪“鬼神”ヒノマルとの死闘は激化の一途を辿っていた。

 

怪童は人の身でありながら、大妖怪をも殺しかねない程の強さを持っており、“鬼神”と謳われるヒノマルは、満身創痍でありながら自分とほぼ互角に渡り合えている事に驚愕しながらもますます怪童に好感を持つようになった。

 

「素晴らしい…!!ますます貴様を我ら同族に迎え入れたくなったわ!!」

 

激しい力と力のせめぎ合いの果てに、怪童はヒノマルの巨体を投げて宙に浮かせ、血に塗れたその拳を鳩尾に叩き込み落とした。

 

その後、怪童は高見の見物にしゃれ込んでいるヒスイに指を指してこう言い放った。

 

「こいつを殺した後、次はお前だ…。」

 

死刑宣告を受けたヒスイは、妖しい笑みを浮かべながら怪童に指を指し警告をした。

 

「うしろ」

 

さっき地面に叩き落されたヒノマルが、瞬時に怪童の背後に現れ巨拳を放ち、怪童はそれを間一髪で回避した。

 

「その膂力、その意志、その胆力…やはり貴様は人間として腐らせるにはあまりに惜しすぎる…!!」

 

「その台詞はもう聞き飽きた…。」

 

ヒノマルはその巨拳を強く握りしめ、何故か眼前の敵にではなく虚空に放った。

 

すると、虚空に放った拳が空間に亀裂を生じさせ、怪童に致命的な一撃を喰らわせた。

 

普通なら拳の届くはずのない距離のはずなのに。

 

「これがわしの能力“空間打突”!!」

 

“空間打突”とは、空間そのものに拳を打ち込んでその空間全体に衝撃を発生させる能力。

 

“鬼神”と謳われるヒノマルの怪力による打撃は、まさに必殺の領域。

 

それを自身の能力で更に必中必殺のレベルにまで昇華させるという、

ヒノマルにしか為しえない恐ろしい合わせ技である。

 

「勝負あり…ってところかしら?」

 

死闘を制したヒノマルは、倒れ込んでいる怪童にゆっくりと近づき、同族に引き入れる為に自身の血を譲渡しようとしていた。

 

「怪童よ…人間という下らぬ種族から逸して今一度…いや、永遠にわしと心ゆくまで戯れようぞ。」

 

だが次の瞬間、怪童の拳がヒノマルの顔面を捉え、吹っ飛ばしてしまった。

 

「…驚いたぞ…!!わしの“空間打突”をまともに喰らって生きていられるのは、ヒスイ殿をおいて他にいないというのに…!!」

 

人の身で“空間打突”を耐え抜いた怪童を見て、ヒスイは驚きと興奮を抑える事が出来ずに、淫らに股を濡らしていた。

 

「たったの一撃で、俺を殺せるとでも思ったのか…?」

 

怪童は妖怪から人間を守る戦士の子として生を受け、3歳の頃から実母に厳しい鍛錬を積んできた。

 

怪童という名の由来は、本来なら並はずれて体が大きく力の強い子供を表すのだが、もう一つの由来は、どんなに強大で恐ろしい怪物にも負けず、人々の平和と安寧を守り通せる強い子供に育ってほしいという願いを込めたものである。

 

しかし4歳の時分、妖怪達による襲撃を受け、目の前で実母を陵辱され殺されてしまう。

 

結果、たった一人生き残った怪童は、己自身の弱さが実母を殺したと非力な自分を恨み、責め、自分を追い込みながら妖怪達と孤独に戦い続けてきた。

 

紆余曲折を経て、陽菜や人志との出会いや、橘茜と孤児達、カモミールという大切な居場所を見つけ、もう二度と大切なものを失わぬように、今まで以上に鍛錬を積み重ねてきた。

 

だがそれから数年後、羅刹一座の大妖怪バサラとその右腕ザクロが陽菜の秘められし能力を狙ってカモミールを襲撃してきた。

 

施設の創立者であり、守天豪傑の一人である橘茜は、施設内の年長者である人志と怪童に陽菜と子供達を避難させるように伝え、二人は施設から出来るだけ遠い場所に陽菜と子供達を避難させた。

 

避難させた後、怪童は恩師である橘茜が戦争の傷がまだ癒えておらず万全ではない事を知り、もう誰も殺させないと胸に強く誓った怪童は、恩師の元へ加勢しに行った。

 

だが、バサラに逆にその恩師の弱点として突かれ、足を引っ張る事になってしまい橘茜は致命傷を受けてしまったのである。

 

自分の不甲斐なさに憤りを感じた怪童は、単独でバサラに向かっていき、その強さに驚かされながらも結局歯が立たず敗北してしまい、結果共に育ってきた大切な子供達とカモミールを奪われてしまった。

 

その後、橘茜の戦友であり守天豪傑の一人である伊達恭次郎の治療を受けて、人志、陽菜、怪童の三人だけが生き残った。

 

血がにじむ程の鍛錬を積み重ねておきながら、結局何も守れていない、何も為せていない自分を戦士の出来損ないと自責の念に苛まれ、怪童は病室から出ていき、恩師の橘茜と共に育ってきた子供達の亡骸を全て己の手で埋葬し、計六十七基の墓標をカモミール跡地に建てた。

 

傷がまだ完全に癒えていない怪童が病室から出ていった事を知った人志と陽菜は、怪童の元へと急いで向かったのだが、怪童は二人に「俺が…この世から妖怪共を1人残らず殺し尽くす…。」と言い残し、二人の前から去ろうとする。

 

人志は、そんな心も身体もボロボロになり果てている親友を黙って見送る訳にはいかず、止める為に戦ったが敗れ、右腕を引きちぎられてしまい、怪童は人志と陽菜の前から去っていった。

 

人々を守る戦士として、最後まで責務を全うする為に…

 

怪童は人に仇なす怪物達を一人残らず殺し尽くす為に、己の胸を突き破り心臓を引きずり出し、咆哮を上げながら心臓を握り潰した。

 

怪童の突然の奇行にヒノマルとヒスイは驚愕を禁じ得なかった。

 

しかし次の瞬間、妖魔帝国本部全体の空間が暗闇に覆われ、怪童の頭上に満月のような眼球が血走りながら怪童を強く睨み付け、背後には大きく真っ赤な桜の木が生え、その木の下に赤く染まった小さな花たちが咲き誇った。

 

それは、怪童の隠された能力であり、最後の切り札…

その名も「戦戦兢兢」。

 

「空間全体が…塗り替えられている…!?」

 

ヒノマルが「戦戦兢兢」の異様な空間に戦慄している最中、ヒスイはすぐさま別空間に避難し、その能力を分析していた。

 

(自らの心臓を握り潰し、寿命の大半を犠牲にして空間全体を自身の心象風景に塗り替える…といった感じかしらね。)

 

怪童の底知れぬ執念と強さに、ヒノマルは震えながらも“空間打突”を放ち、今度こそ完全に殺そうとした。

 

だが全く効いてはおらず、寧ろ怪童の力がどんどん上昇していた。

 

「戦戦兢兢」は、寿命の大半を犠牲にするかわりに妖怪・鬼・吸血鬼といった人に仇なす怪物達のいかなる攻撃、いかなる能力をも喰らい、自身の力を激しく上昇させる効果を持つ。

 

「戦戦兢兢」に巻き込まれた妖怪・鬼・吸血鬼は、どんな手段や能力を用いても怪童を殺せず、その空間から抜け出す事も出来ない。悉く怪童に喰い尽くされるのみ。

 

(ヒノマル君…貴方はどうやらここまでみたいね…。)

 

己の死期を悟ったヒノマルは、眼前のたった一人のちっぽけな人間がどんな怪物をも喰らい尽くす怪物以上の存在に見えた。

 

鬼神と謳われた伝説の怪物が、血も肉も骨も、何千年と築き上げてきた力と威厳をも一つ残らず喰い尽くされた。

 

人の子の皮を被った傷だらけの怪物の手によって…。

 

その頃、陽菜を連れて本部から脱出しようとする樹の前に、突如謎の男が現れ行く手を阻む。

 

「あ…貴方は……!!?」

 

その男は、かつて人間と妖怪が争いながらも共存していた世界を平和へと導こうとした最高指導者「後藤博文」であった。

 

「そ…そんな馬鹿な…!!?貴方はもう……」

 

「後藤博文」と思われる男は、陽菜に向けて言葉を投げかけた。

 

「さあ、私と共に参ろう…

我らが『始祖』よ…。」

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