戦の鉄則   作:並木佑輔

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第26話 始祖

陽菜と共に妖魔帝国本部からの脱出に急ぐ樹の前に、死んだはずの後藤博文が突如として行く手を阻んだ。

 

「さあ、私と共に参ろう…

我らが『始祖』よ…。」

 

「そんな…貴方はとうに死んだはず…何故ここに…!?それに、『始祖』って…」

 

樹と陽菜は、あまりの出来事に驚きと恐怖で震えが止まらずにいた。

 

そんな時、樹のかつての親友である和真の名を騙る化け物が現れた。

 

「よお樹…また会ったな。」

 

「お…お前は、あの時確かに…」

 

次々と信じられない事が起こって混乱している樹。

 

そこに更に、羅刹一座の大妖怪・ヒスイが後藤の元に現れた。

 

「やあヒスイ 随分と楽しんできたようだね。」

 

「ええ とても素敵な時間を過ごしたわ。」

 

「樹君…その娘をこちらに引き渡してくれないかね。その娘にはとても大事な役割があるのだよ。」

 

未知の外敵に狙われる陽菜は、恐怖と不安で震えが止まらずにいた。

 

樹はそれを黙って見過ごす訳にはいかず、陽菜を安心させる為に強い意志で外敵に反発した。

 

「断る…!!陽菜さんは、誰にも渡さない!!」

 

「樹さん…」

 

それに対して、和真の名を騙る化け物が樹に向かって攻めてきた。

 

「おいおい、後藤様に対してその態度はねえだろ樹よ…。」

 

樹は自身の血を木に錬成させ陽菜を守る為の結界を張り、化け物に反撃した。

 

「陽菜さんには指一本も触れさせないぞ…!!」

 

だが、化け物は難なく躱し距離を詰め、拳で樹を殴りダメージを与えた。

 

「樹さん!!」

 

「相変わらず近接戦に弱いなお前は…」

 

「樹君…一つ言っておくが、君が今相対しているその者は紛れもなく、君のかつての親友である和真だよ。」

 

和真は、過去に樹と任務で凶悪な妖怪と対峙して敗れ攫われた後、その妖怪や後藤の手によって人間から妖怪へと驚異的な変貌を遂げてしまった。

 

そして今、こうしてかつて志を共にした親友と戦うという望まれない再会を果たしてしまったのだ。

 

「あの時お前に化け物と言われて凄くショックを受けたよ…やっとこうしてお前と再会できたというのに…お前は本当に酷い奴だよ…樹。」

 

今の和真の強さはあの時とは比べ物にならず、大妖怪とほぼ同等の強さを持っている。

 

今の樹ではまるで歯が立たない。

 

だが、それでも樹は人志との誓いを…陽菜を死んでも守り通す為に、目の前の強大な外敵達にその意志を見せた。

 

「僕は…人志さんに任されたんだ…「お前にしか頼めない仕事だ」と…。約束したんだ…愛菜さんと、「勝ってみんなで生きて帰ろう」と…。だから、お前らなんかに陽菜さんを渡す訳にも…やられる訳にもいかないんだ…!!陽菜さんは何としてでも必ず守り通す!!お前らは引っ込んでいろ!!!!」

 

人志との誓いと愛菜との約束の為、樹は自身の血で数多の大木を錬成し和真や後藤、ヒスイに放ち、それを囮にして木の種を和真に放ち体内から攻撃しようとした。

 

「おっと!その手はもう食わねえよ!」

 

木の種を躱され、またしても窮地に立たされた樹。

 

だが、樹の真の狙いはそこにあった。

 

最初に大木を放った時、和真や後藤達の下に自分の血を撒き、木の種による内部破壊を目的とした攻撃に見せかけたブラフを張っていたのだ。

 

狙い通り、樹は敵の下に撒いた血を鋭利な大木に錬成させ、和真を串刺しにした。

 

後藤とヒスイは、樹の真の狙いを看破し難なく避けるも感心した。

 

「ふ…ふざけやがって…!!」

 

「もういいよ和真。私が手を下す。」

 

醜態を晒した和真を見かねて、後藤は自ら樹を殺そうと赴いた。

 

「樹さん逃げて!!このままじゃ殺されてしまう!!」

 

「駄目だそんなことは…!!たとえ勝ち目のない戦いであろうと…僕は逃げるわけにはいかない…!!みんなの為にも…!!!」

 

迫りくる魔の手が樹に届く寸前、紅蓮の炎が後藤の行く手を阻んだ。

 

人志達が遂に駆けつけてくれたのである。

 

「樹…俺達の為によくやってくれた…あとは、俺達に任せろ!!」

 

人志・愛菜・伊達が後藤の相手をする中、凍哉は仇敵であるヒスイに向かっていった。

 

「ヒスイ!!!!」

 

「フフフ…また会えて嬉しいわ凍哉君…。」

 

そしてそのまま、凍哉はヒスイとの一対一の状況を作る為、別の場所に移動した。

 

人志は、陽菜を守る為に戦い傷付いた樹に自身の生命エネルギーを譲渡し回復させた後、愛菜の能力で力を倍増させてもらい、気炎万丈で後藤に向かっていった。

 

「気炎万丈“炎威”!!」

 

威力を倍に強化された“炎威”で、後藤を倒そうとする。

 

だが、後藤には全く効いておらず、何故か人志が損傷を受けていた。

 

何が起こっているのか全く訳が分からずにいる人志と愛菜。

 

そんな中、伊達は人志に続いて後藤に攻め入り、攻撃する直前にフェイントをかけて後藤の背後に回り強烈な一撃を与えた。

 

「やはりな…こいつの能力は任意のタイミングで相手の攻撃を跳ね返す…フェイントをかけといて正解だったぜ。」

 

手傷を負わされた後藤は、即座に再生させ自身の能力の一つである“衝撃反転”を見抜いた伊達を褒め称えた。

 

「いやいや…流石守天豪傑の一人として多くの修羅場を乗り越えただけの事はある…感服するよ伊達君。」

 

「お前に褒められても何も嬉しくねえ…そろそろ本題に移ってもらおうじゃねえか…後藤博文。」

 

「いいだろう…まず何から話そうか…そうだ人志君、君の大切な人の陽菜の事から話そうか…」

 

「…お前…陽菜の何を知っている…!?」

 

「妖怪の始祖…。伊達君から話は聞いているだろう?陽菜はあれの正体だよ…。」

 

「な…何…!?」

 

「能力を奪われ魔界の均衡が失われ滅びた時、始祖は一人の人間として転生し人間界に降りた…つまり、陽菜は始祖の転生体…生まれ変わりということだ。その能力を奪った者は、羅刹一座の大妖怪の一人…“超越者”ヒスイと、この私だ。」

 

「…陽菜が始祖だと…ふざけた事を抜かすな!!陽菜は、共にカモミールで育ってきた家族だぞ!!」

 

「私はあくまで事実を言ったまでだ…現に、君が選定にてバサラと対峙した時にも彼女はその力の片鱗を見せたではないか。」

 

「人志…そいつの言ってる事は本当だ…。もう一つ聞きたい事がある…何故殺されたはずのお前が今こうしてのうのうと生きているのかをな…。」

 

「始祖の能力を奪い人間界に降りた後、私は始祖の能力の根源を知るために研究を積み重ねた…その力の源は、数多の人と妖怪の命そのものだった…。私はこの偉大なる始祖の能力をもっと引き出す為に、死を偽装して戦争の引き金を引き多くの人と妖怪の命を始祖に捧げた。結果私やヒスイの中にある始祖の力は着々と増幅していった…実に心地いい感触だったよ。」

 

「目的は何だ?」

 

「始祖の能力を利用し人間や妖怪・鬼・吸血鬼とあらゆる全ての生物を超えた究極の生物へと進化させ、新時代を創設する…それが私の目的だ。」

 

「多くの人々や妖怪達…そして、俺の戦友達の命がてめえの自己中心的な目的の為に利用されたと思うと、これ以上ねえくらい反吐が出るぜ…。」

 

「その多くの命達がこの私の大いなる野望の為に犠牲になったのだ。私からすればこれ以上ないくらい名誉に値する事だよ…。ああそれと、私の計画の過程にて少し思わぬ誤算が生じてしまってな…」

 

「…誤算だと…!?」

 

「君と怪童の事だよ。四年前のカモミール襲撃の時、バサラによって恩師と子供達を殺された時、その命達が始祖である陽菜の中に流れ込み覚醒し、君らを能力者として目覚めさせたのだ…。始祖の『願望・意志を具現化させる』能力の影響を受けてな…。おかげで君と怪童は人間でありながら大妖怪をも超える能力と強さを身に着ける事が出来た。だが、始祖の能力の影響を受け強化された者はその能力の反動によって寿命を持っていかれる…君ら二人の寿命は、持ってあと数ヶ月といったところだろう…。まあ、バサラに始祖の在処を示唆したのは私だがね。」

 

「凍哉は…氷華の一族と陽菜とは何の関係がある…?」

 

「氷華の一族は、始祖の能力を守る為のいわば従者といったところだ。その末裔である凍哉は一族の中で最も強大な力を持っている…正直君らの中で彼が最も厄介だからね…ヒスイに任せておいて正解だったよ。」

 

「そうか…魔界を滅ぼしたのも、氷華の一族を滅ぼしたのも、カモミールでの大切な日々を壊したのも、この世界を地獄に変えたのも、全部…お前の仕業だったのか!!後藤!!!」

 

全ての元凶である後藤を前に怒りを露にする人志と仲間達。だがその中で、陽菜が最も激昂し能力を覚醒させ、眼を朱く光らせ後藤に殺意を向ける。

 

「返せ…茜先生を…子供達を…何もかも奪ったお前を、私は決して許さない…!!」

 

陽菜は、とてつもない程強大な衝撃波を後藤に放った。

 

だが、半分以上も奪われた今の始祖の力は全盛にはあまりに程遠く、押し負けてしまう。

 

そして、後藤は残りの力を根こそぎ奪う為に陽菜の首を絞め始末しようとする。

 

「ぐ…あ…あぁ…」

 

「陽菜!!」

 

「私の大いなる計画の礎となれ…始祖よ…。」

 

すると次の瞬間、後藤の魔の手が空間ごと削り取られた。

 

“鬼神”ヒノマルとの死闘を制した“妖怪殺し”怪童が、陽菜を抱き抱えて救ったのである。

 

「……怪童……!!」

 

「怪童…お前…!!」

 

カモミール襲撃から四年の時を経て遂に怪童と再会した陽菜は、彼への想いを涙ながらに訴えた。

 

「…怪童…やっと会えた…」

 

「……」

 

「ごめんなさい……私のせいで、貴方や人志を苦しませてしまって…本当にごめんなさい…。支えになれなくて…本当にごめんなさい…。貴方は昔から、戦士としての責務を果たす為に…人々を守る為に、自分がどんなに傷を負っても戦い続けてきた…。私は、そんな貴方の生き様がとても誇らしく思えた…。だけど、私は貴方が自分の事を顧みずに人々の為に戦い続けている姿を見て、ただ黙って見てる訳にはいかなかった…。せめて、貴方の背負っている傷を私も一緒に背負いたい…。だからもう…これ以上遠くに行かないで…!!貴方の傷みは、私の傷みだから…!!!!」

 

大粒の涙を流しながら自分への想いを訴えた陽菜に対し、怪童は傷つけないように首に優しく手刀を置き眠らせた。

 

そして、陽菜の身柄を人志に譲り、全ての元凶である後藤と戦う為に本部に残る事を決意した。

 

「怪童…お前…一体何のつもりだ…!?」

 

「陽菜を守るのは、お前の責務だろう…?俺は…俺の為すべきことを為すまでだ…。」

 

「怪童…!!」

 

後藤は、己に届きうる牙を持つ怪童に対して、ヒスイを呼び戻し、始祖の能力で強化した妖怪の軍勢を招集し対抗しようとしていた。

 

「人志!!ここにいつまでも長居すると巻き添えを食っちまう!!急いでここから脱出しよう!!」

 

人志は愛菜の意見に賛成し、さっきまで別の場所でヒスイと戦っていた凍哉と合流して全員で本部から脱出した。

 

怪童は、“鬼神”ヒノマルとの戦いにて戦戦兢兢の能力で身に着けた“空間打突”と、自身の触れた対象を無力化させ空間ごと削り取る能力の合わせ技で、目の前に立ちはだかる妖怪達を鏖殺していった。

 

「化け物共が何人束になってかかろうが…恐るるに足らん……

俺は怪童だ!!!!」

 

後に、羅刹一座及び妖魔帝国本部は“妖怪殺し”怪童の手によって壊滅されたと、人々と妖怪達に知れ渡る事となり、世界は恐怖と混乱に陥ってしまうのであった。

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