戦の鉄則   作:並木佑輔

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日常・過去編
第27話 あれからとそれから


“妖怪殺し”怪童が羅刹一座と妖魔帝国本部を壊滅させたとの情報が魔都東京及び妖魔帝国全域に知れ渡った。

 

妖怪達が恐怖と混乱の渦に陥っている最中、怪童を神格化し信仰する人間達が妖怪達に反旗を翻し、次々と妖怪達が殺されていく事態となった。

 

暴徒と化した人間達を止める為に妖怪殺し対策本部長の若茶と、彼が率いる霊能力者と妖怪達が赴き抑止していた。

 

だが、暴徒達の勢いは止まる事を知らず、妖怪殺し対策本部のメンバー達は苦戦を強いられていた。

 

「若茶本部長!全く抑えられません!!もう限界です!!」

 

「皆、無理はするな!あとは私が引き受ける!!」

 

若茶は、狛犬としての強さを発揮し殺さない程度に暴徒と化した人々を制止しようと奮発していた。

 

一方、長寿館にて愛菜の妹の千尋と弟の蓮と剛は、長姉の愛菜と人志達の無事を祈りながら帰りを待っていた。

 

「お姉ちゃん達、大丈夫かな…」

 

「大丈夫だよ!お姉ちゃんは強いもん!!」

 

そして時は流れ、妖魔帝国本部から陽菜を奪還した人志達は全員無事に帰還し、愛菜の兄弟達は歓喜した。

 

「お姉ちゃん!!」

 

「千尋、蓮、剛!あたし達勝ってきたよ!」

 

皆が安堵する中、数多の大妖怪との戦いで限界以上に戦い尽くした人志は、遂に倒れてしまった。

 

「人志さん!!」

 

「人志!!」

 

「無理もねえ…オニタケとバサラ、大妖怪を二人も相手して戦ったんだからな…。」

 

伊達は、四人の中で最も負傷している人志を早急に手当てする為、集中治療室へと急いで行った。

 

樹・愛菜・凍哉も各々治療を受け、陽菜は療養室へと運ばれた。

 

戦士達が戦いの傷を癒している最中、少女は夢を見ていた。

 

幼い頃、外敵達から自分を守る為に戦ってくれた傷だらけの戦士の夢を見ていた。

 

人々を守る戦士として己の責務と信念を貫き通そうとするその少年を、少女は誇りに思い焦がれた。

 

少女は、その少年の戦いの傷を一緒に背負いたいと強く思い、その手を伸ばした。

 

だが、手を伸ばせば伸ばす程少年は遠ざかっていき、その道には幾千もの妖怪達の屍が転がっていた。

 

血で染まった道の向こうに、少女が焦がれたその少年が一人立ち尽くしていた。

 

幾度の戦いで傷付き、妖怪達の返り血で染まった少年は、まるで怪物以上の怪物のようであった。

 

少女は変わり果てたその少年への想いを胸に、その名を叫んだ。

 

療養室で目覚めた陽菜は、人志や樹達の安否が気になり、旅館内を探し回る一方、人志の治療を今しがた終えた伊達は、凍哉の首元に付けられたヒスイの噛み跡の治療を施していた。

 

「この噛み跡は恐らくお前が能力を行使すればするほど効果が発動し、お前の身体を侵食していく物だろう…。一応護符は貼っておくがしばらくは能力の使用を控えた方がいい。」

 

「…人志の容態はどうなんだ…?」

 

「…あいつは二人の大妖怪を相手に戦ったのもそうだが、後藤が言っていた『始祖』の能力の影響で寿命がもう数ヶ月しか残されていない…。はっきり言って戦線復帰出来るかどうかも怪しい…。」

 

現時点での人志の容態を聞いて、凍哉は彼への思いを口にした。

 

「俺は…あいつに出会って戦いを経て、生き方を、心の在り方を変えさせられた…。復讐しか眼中にない俺とは違って、あいつは大切な人を守り通すという強い意志を持って最後まで戦おうとしている強い人間だ…誇らしい程に…。だから、あいつには…長生きしてほしかった…。」

 

「冷徹なお前にそこまで言わせるとはな…。」

 

もう一方で、人志の容態を伊達から聞いた樹と愛菜も、悲しみに明け暮れていた。

 

「そんな…人志さん…」

 

「あたし、あいつにまだ借り全部返しきれてないってのに…何だよ…余命あと数ヶ月って…!」

 

そんな時、その場に居合わせた陽菜は、樹と愛菜の話を聞いて驚きと悲しみの表情を隠しきれずにいた。

 

「は…陽菜さん…!」

 

「…その話、詳しく聞かせてください…。」

 

二人から話の詳細を聞き、陽菜は大粒の涙を流し憂いに沈んだ。

 

「私のせいで…私のせいで…こんな事に…。」

 

泣き崩れる陽菜に、愛菜は肩に優しく手を置いた。

 

「陽菜ちゃんのせいじゃないよ…これは、戦友であるあたし達の責任だ…。だから、今はただ…あいつの回復を一緒に待とう…。」

 

「…ありがとうございます…。」

 

「あたし、愛菜っていうんだ。よろしくね!」

 

皆が人志の回復を祈る中時は流れ、実に数十日が経った。

 

人志が遂に意識を取り戻し、僅かながらも回復の兆しを見せた。

 

その吉報が仲間達に届き、皆喜びを露にした。

 

「人志さん!」

 

「人志!」

 

「樹…愛菜…凍哉…伊達さん…心配をかけてしまって本当にすまない…。」

 

「身体、少しでも動かせるなら陽菜の元へ行ってやれ…。」

 

人志は伊達に言われた通りに、陽菜に顔を見せに行った。

 

数十日振りに再会を果たした陽菜は、人志に抱きついて離さずにいた。

 

「お帰り、陽菜。」

 

「…ただいま…。」

 

「せっかくだ…リハビリがてら、少し二人で周りながら話そうか…。」

 

二人は、館内を周りながらこれまでの出来事や日々を話し合った。

 

選定での生き残りを懸けた戦いから、陽菜奪還での鍛錬と死闘の数々を…。

 

館内を一周し終わった後、陽菜は人志の袖を掴み、今の気持ちを暴露した。

 

「もうこれ以上…私の為に戦わなくていい…傷付かなくていいから…どうか…残りの余生だけでも幸せに生きてほしいの…。」

 

陽菜に涙ながらに訴えかけられた人志は、彼女の頬をつたる涙を片手で優しく拭き、優しい笑みを浮かべてこう言い放った。

 

「大丈夫だよ 俺はお前を守り通して、怪童を救うという誓いを果たすまでは絶対に死なない。

これは、俺が始めた戦いだから。」

 

その言葉を耳にした陽菜は、かつてカモミールで過ごした時に同じ言葉を発した者と重なっているように見えた。

 

「教えて…貴方はどうして、そこまで人々の為に自分の身を削ってでも戦うの…?」

 

「知れたこと…これは、俺が始めた戦だ。」

 

そして、人志はこうも言った。

 

「それにお前や樹、皆とこうして肩を並べられただけで俺はもう幸せだよ。」

 

陽菜に優しい言葉をかけた後、人志は病室へと戻っていった。

 

樹と愛菜は、今回の奪還作戦でまだまだ自分達は非力だと強く実感し、更に強くなる事を決意し鍛錬に励む。

 

そんな中、伊達は館外に出てかつて人々の為に戦って散っていった仲間達の魂が眠る慰霊碑の前に立ち、それに刻まれているかつての同期である橘茜に向けて言葉を発した。

 

「お前が育てた子供達は、俺やお前以上に過酷な人生を歩もうとしている…。皮肉なもんだよなあ…守天豪傑とあろう者が、子供の幸福と未来すら碌に守れねえなんてよ…。

そうは思わねえか…橘…。」


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