戦の鉄則   作:並木佑輔

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第28話 追憶 前編

妖魔帝国本部での死闘を終えた後、人志はリハビリがてら腕立てや上体お越し、スクワット、イメトレなどの基礎訓練を行っていた。

 

イメトレをする際、人志は怪童を相手にイメージをして戦っていた。

 

生命エネルギーの炎の性質変化の極致“気炎万丈”を以てして戦うも、怪童はそれを遥かに上回る程の圧倒的な力で捻じ伏せ、空間ごと削り取った。

 

人志はこれまでに幾度の鍛錬と死闘を経て成長し強くなったが、怪童は人志以上に数々の死闘を経験している。

 

人志は怪童とのイメトレを行った後、“気炎万丈”を完成させなければ太刀打ち出来ないと悟り、更なる鍛錬と戦いの積み重ねが必要不可欠だと確信した。

 

基礎訓練を終えた後、人志は陽菜を呼んである場所に足を運んだ。

 

そこはかつて人志や陽菜、怪童が恩師の橘茜の下で学び暮らしていた養護施設「カモミール」があった場所であり、大妖怪バサラの襲撃を受けた今となっては死んでいった恩師と子供達が安らかに眠る墓標となっている場所である。

 

二人は亡くなった恩師や子供達の墓標に花を添えて、カモミールで過ごした日々を思い出していった。

 

今から四年前、施設内の教室で橘茜が教鞭を取り子供達に教育を施していた頃、陽菜は寝室で寝坊をしている人志を急いで起こしに行った。

 

「人志!もう授業始まっているよ?起きて!!」

 

当の本人は声をかけられ身体を揺さぶられながらも、いびきをかいて眠りにふけており、痺れを切らした陽菜は耳元で大声を上げて起こした。

 

「起きろーーーーーーー!!!」

 

陽菜は、寝床から人志を引っ張り出し急いで教室に行った。

 

その様子を見て、橘茜は笑いながら人志に注意をした。

 

「人志、貴方はもう少し年長者らしく振る舞ってくださいね。下の子供達に示しがつきませんよ。」

 

笑われながら注意されている人志を見て、下の子供達も爆笑していた。

 

寝ぼけながらも席について授業を受ける人志を、窓際の席にいる怪童は横目で見ていた。

 

午前の授業が終わり、人志や陽菜達は昼食の準備に取り掛かった。

 

今日の昼食はカレーライスで、皆食材の準備に取り掛かり調理を実行する。

 

その中で、陽菜はじゃがいもの皮をピーラーで切ろうとしていたが、誤って指を切ってしまっていた。

 

「痛っ!」

 

怪童はその様子を見て、陽菜にじゃがいもの皮の切り方を教えに行った。

 

「貸してみろ。」

 

「えっ?う、うん。」

 

怪童は、慣れた手付きでじゃがいもの皮をピーラーで丁寧に切りながら陽菜に切り方を教えていた。

 

「じゃがいもは平らな部分から皮を剥けば楽。それと最後に、くぼんだところにある芽をピーラーの脇に付いている耳(芽取り器)でかき取り、芽の跡が残らないように綺麗に掃除すればOKだ。」

 

「なるほど…うん、わかった。やってみる。」

 

陽菜は怪童に教えられた通りにじゃがいもの皮の平らな部分からピーラーで切り、最後に芽を芽取り器で切り取る事に成功した。

 

「出来た!ありがとう、怪童!」

 

「もう大丈夫そうか?」

 

「うん、大丈夫!」

 

昼食を済ませ、各々が昼休みの時間を過ごす中、人志は怪童に体術を教えてもらうよう頼んだ。

 

組み手をしながら、怪童は人志の悪い所を指摘して直すよう教授した。

 

「お前はいつも攻撃をする際、拳に力を入れすぎている。実戦では簡単に見切られてカウンターをもらってしまうから、今の内に直しておけ。」

 

「うーん…でもどうしても力んじまうんだよなあ…。」

 

「打撃による攻撃は、どれだけ脱力出来るかが重要になる…いずれも強調されるのはインパクトだ。打撃を相手にぶつける瞬間まで脱力すればするほど、相手に見切られにくくなるし、威力も破壊力もグンと上がる。」

 

「そうなのか…よし、怪童!もう一戦頼む!」

 

人志は、今しがた怪童に教わった脱力を用いて攻め続けた。

 

すると、さっきとは比べ物にならない程組手が上手くなった事を実感した。

 

「何か、さっきよりいい感じに戦えてる…これが脱力か…。」

 

「初めは肩から力を抜くといい。慣れてきたら全身から力が抜き出るようにイメージすると尚良い。ああそれと、俺はこれから自主練しなければいけないから、後はその感覚を忘れないように自分で練習してくれ。」

 

「ありがとう、怪童!」

 

人志に一通り体術を教え自主練に励もうとする前に、怪童は振り返りざまに人志にある言葉を投げかけた。

 

「陽菜は、お前が守れ…。」

 

「え…?」

 

「俺のようになるなよ…。」

 

意味深な言葉を投げかけられた人志は、去っていく怪童の背中をただ黙って見る事しか出来ずにいた。

 

昼休みが終わり、午後の授業も滞りなく進み自由時間になり、怪童は一人自己鍛錬に臨んでいるところ、橘茜が汗拭きタオルと水のペットボトルを手に持ち彼に渡そうとしていた。

 

「いつもいつも鍛錬に身を投じて、精が出ますね…怪童。」

 

「先生…何故俺なんかの所に…。」

 

「貴方も私の教え子の一人なんですよ?それに、少しだけでも休憩を挟まないと鍛錬にはなりません。自分で自分を追い込み続ける…それはただ辛いだけです。」

 

「お言葉ですが、自分はまだまだ非力で戦士としての責務をまだ何も果たせていません。それに、もう二度とあの時のような事を繰り返させない為にも、たとえこの身がボロボロになろうと俺は戦い続けなければならないと、そう己の胸に誓ったんです。だから、一時でも休むわけにはいかないんです。」

 

そう強く言い放った怪童に対し、橘茜はある言葉を投げかけた。

 

「本当に強い子ですね…貴方は…。」

 

「…どういう事です…?」

 

「人を襲って喰らう妖怪達から人々を守る為に戦う…かつて私も、たくさんの人達を守る為に戦っていました…。けど私はその戦いに敗れ、大切な人達も戦友も何一つ守ることが出来ませんでした…。強さも鍛錬も覚悟も、何もかも足りてなかったのです…。ですが、貴方は違う…その年で己の肉体、果てには命までも全て投げ出す決意と覚悟を持っている…。誇りなさい怪童…貴方は誰よりも強い…。」

 

汗拭きタオルで怪童の汗を拭き、水のペットボトルを手に持たせて、橘茜は去っていった。

 

「違う…俺は強くなんかない…!!俺は…俺は…!!」

 

怪童はさっきの橘茜の発言を受け止めて、幼少の頃妖怪達による襲撃を受け、為す術もなく目の前で母親を陵辱され殺された過去を思い出して血が出るほど歯ぎしりをしながら拳を強く握りしめていた。

 

時は流れ夜になると、怪童は一切休むことなく血が滲む程鍛錬に明け暮れていた。

 

そんな怪童の事を心配して、施設内で数少ない友人の人志と陽菜が駆けつけて来た。

 

「怪童、もういい加減に休め!本当に死んじまうぞ!」

 

「人志…陽菜…」

 

人志に注意された怪童は、鍛錬をやめて休むことにした。

 

「怪童、これを…。」

 

陽菜は、さっきまで鍛錬に明け暮れて汗にまみれている怪童に汗拭きタオルと水のペットボトルを渡した。

 

「ありがとう…陽菜…。」

 

三人は肩を並べ、夜空の星を見上げながらそれぞれの今後の目標の事について話し合った。

 

「俺はこのカモミールに来てから、初めて自分にとって大切な居場所と言える物を見つけた…。もう俺は二度と、俺の目の前で大切なもの達をこれ以上奪わせないよう、戦士として戦い守り通して見せる…!!」

 

「凄い奴だよお前は…俺なんかと違って…。」

 

「人志はどう?将来の夢とか目標は見つけたの?」

 

「俺は…今のところこれといって夢とか目標はないかな…。けど、やりたい事はある。」

 

「何?」

 

「この三人で一緒に、色んな所に行って旅をしたい。」

 

「…それはどうしてだ?」

 

「大した理由はないんだけどさ…俺、今陽菜と怪童とこうして一緒に過ごすのが一番楽しいと思ってるんだ…。三人で飯作って食ったり、遊んだり、学んだり、くだらねえ話して笑い合いながら色んな物見て回る…俺の中にあるのは、これだけなんだ…。」

 

「人志…。」

 

二人は人志の心情を聞いて、少し心が温まった感覚を覚えた。

 

「それ、私は凄く良いと思う…。」

 

「えっ?本当か?」

 

「うん、それ絶対楽しいと思う!やろうよ!いつかこの三人で!」

 

「いや待て陽菜、俺の場合は…」

 

「お前も一人よか俺達と一緒にいた方がいいだろう?何せお前、俺と陽菜以外友達いねえんだからさ。」

 

「う…うるせえ!」

 

顔を赤くして怒鳴る怪童を見て、人志と陽菜は笑っていた。

 

それに呆れた怪童も、二人と一緒に笑い始めた。

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