戦の鉄則   作:並木佑輔

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第29話 追憶 後編

夜空の星を見上げながらそれぞれの夢や目標を語り合った三人は、床につき静かに眠った。

 

気持ちよく眠れると思ったその時、人志は不可思議な夢を見た。

 

それは、数多の墓標の上に二人の男が立ち尽くし互いに睨み合っている夢であった。

 

一人は全身傷だらけで、もう一人は片腕を失くしていた。

 

互いに鋭い眼光を発し言葉を交わすと、二人は衝突し激しい光に包まれていた。

 

人志は眩い光に照らされて目を覚ましたが、その時はまだ午前5時過ぎで皆寝静まっている頃であった。

 

二度寝しようにも今し方見た夢が気になって中々寝付けず、人志はひっそりと外の空気を吸いに行った。

 

するとそこに、早朝に一人で自己鍛錬に励んでいる怪童の姿があった。

 

「おお人志!珍しいな、いつも寝坊してるお前がこんな朝早くに起きるなんて」

 

「夢を…見たんだよ…たくさんの墓の上で、傷だらけの大男と片腕の男が向かい合って戦い始めるっていう…何とも言えない夢をさ…。」

 

「ふーん…なるほど。」

 

「なあ怪童、トレーニングの最中悪いけど少しだけ俺と組手やってくれないか?どうもこのままじゃ気持ち悪くてな…。」

 

「ああ、分かった。」

 

人志は怪童と一緒に午前6時まで組手をやり汗と共に雑念を払った。

 

その後午前7時に朝食を取り、30分後に午前の授業を受けた。

 

人志は眠気でウトウトしながらも授業に参加していた。

 

今日も何事もなく日常を過ごせると思ったその時、突如カモミールに凄まじい轟音が響いた。

 

皆が一斉に外に出るとそこには妖怪社会を創り上げた男・羅刹一座の大妖怪バサラと、その右腕のザクロ率いる妖怪集団が襲撃してきた。

 

「何だ…あいつらは…!?」

 

「羅刹一座の大妖怪…バサラ…!!何故あいつがこんな所に…!?」

 

バサラとザクロは、設立者の橘茜にある示談を持ちかけた。

 

「あんたがこの施設の設立者か…?元・守天豪傑の橘茜さんよ…。」

 

橘茜は大妖怪で絶対の実力者であるバサラに迫られても、物怖じせずに返答した。

 

「そうですが…それが何か?」

 

「なあに…簡単な話だ。お宅の子供達の中の一人の身柄をこちらに引き渡してもらいたい。確か名前は…陽菜…だったかな?」

 

「何故、陽菜の身柄を貴方達に引き渡さなければならないのです?」

 

「その娘は希少且つ有用な能力を秘めている…。この妖怪社会の更なる発展の為…俺の野望の為に利用させてもらう。その為にここに来た。大人しくこちらに引き渡せば悪いようにはしねえよ。」

 

陽菜の秘められた能力を狙いに来たバサラ達に対し、橘茜は年長者の人志と怪童に指示した。

 

「人志!怪童!陽菜と下の子供達を安全な場所まで避難させてください!」

 

「えっ、先生は!?」

 

「ここは私が食い止めます!だから急いで!!」

 

「先生…駄目だ!!その身体じゃ…!!」

 

「怪童!!ここは茜先生の指示通りに、陽菜と子供達を非難させるんだ!!」

 

人志は怪童を説得させて、共に陽菜と子供達を遠い安全な場所まで避難させようと動き始めた。

 

その後橘茜は、自身の能力で刀を具現化させて、子供達を守る為にバサラ達に刃を向けた。

 

「やれやれ…大人しく引き渡せば痛い目に遭わずに済むのによ…。」

 

数多の妖怪達と激闘を繰り広げている中、人志と怪童は陽菜と下の子供達の避難を完了させていた。

 

だが、怪童は恩師の橘茜が先の戦争で負った傷がまだ完全に治り切っていない事を気にかけており、戦いの場に戻って助けに行こうとしている所を、人志は必死に止めようとしていた。

 

「待て!行くな怪童!!お前が行ったら、俺達の為に命を張った茜先生の行為が無駄になってしまう!!ましてや相手は大妖怪なんだぞ!!!」

 

「もう二度と…俺の目の前で大切なものを奪わせはしない…そう胸に誓って今日まで鍛錬に次ぐ鍛錬を積み重ねてきたんだ…。今ここで俺が戦わなければ、俺は一体何の為に鍛錬をしてきたというんだ…!!」

 

そう言い放った怪童は、人志の手を振り解いで戦場に赴いた。

 

「怪童!!あー…クソっ!!陽菜!俺は急いで怪童を連れ戻して来る!お前は子供達と一緒にここに避難していてくれ!!」

 

人志は怪童を止める為にすぐさま出向いた。

 

一方、橘茜は数多の妖怪達を刀で撫で斬りにし、大妖怪バサラの右腕ザクロと死闘を繰り広げていた。

 

傷を負いながらも互角に渡り合っていたが、次第に疲労と傷の痛みが蓄積し徐々に圧され始めていた。

 

「さっきまでの勢いはどうしたんですか?」

 

ボロボロになりながらも子供達を守る為に必死に戦っている橘茜に対し、ザクロは嘲笑いながら着実にダメージを与えていった。

 

そこに、恩師の危機に怪童が馳せ参じた。

 

「先生!!!」

 

「怪童…!?何故来たんです…!!危ないから下がりなさい!!」

 

「俺は戦士だ…!!もう二度と…俺の目の前で大切な人達が殺されるのは見たくない…!!その為に俺はここに戦いに来たんだ!!」

 

「怪童…。」

 

「ほう…貴方の教え子の一人ですか…随分と先生思いの良い子じゃありませんか…。」

 

ザクロは助太刀に入った怪童に対して、重力弾を放った。

 

(クソッ!速すぎる!!間に合うか!?)

 

怪童は迫り来る重力弾を躱そうと動くが間に合わず、直撃は免れぬものであった。

 

だがそこに、恩師の橘茜が身を挺して怪童を庇い、重力弾をまともに喰らってしまったのであった。

 

「…せ…先生……」

 

怪童を止める為に戦場へと向かって走った人志も、その様を見てしまった。

 

「怪童……茜先生……嘘だ…嘘だと言ってくれ…!!」

 

涙を流しながら、人志は怪童と橘茜の元へ走って、必死に恩師の名を叫んでいた。

 

そんな中、瀕死の重傷を負った橘茜は、人志と怪童に最期の言葉を残そうとしていた。

 

「ひ…人…志…怪…童…。私…から…貴方達…二人への…約束…です…。」

 

「茜先生…!!もう喋らないでください…!!」

 

「まずは…人…志…、貴方の人生にはこれから…数多くの苦難と…戦いが待ち構えている事でしょう…。けれど…貴方は…一人じゃない…。陽菜や怪童…共に戦ってくれる仲間を見つけて…強く…生きてください…。」

 

「茜先生…!!」

 

「次に…怪童…、貴方は…決して弱くない…。貴方はいつも…自分以外の誰かの事を大切に思い…何より、妖怪達から人々を守る戦士の子として…その責務を最期まで全うしようと…日々必死に努力している…。それが出来てるだけで…貴方は誰よりも立派で強い子なんです…。だからどうか…自分を必要以上に責めないでください…。出来る事なら…その身体に刻まれているたくさんの傷を少しでも和らげれるように…人志や陽菜…子供達と一緒に…生きてください…。貴方は…独りじゃないんですから…。」

 

教え子二人に最期の言葉を残した後、橘茜はこの世を去った。

 

「やっと死にましたか…まあ、人間の中では私達を相手にした割には保った方ですね…。バサラ様、これで邪魔者はいなくなりました…早急に陽菜とかいう小娘の身柄を取り押さえます。」

 

「ああ」

 

橘茜の死を嘲笑うバサラとザクロに対し、人志は怒りを露わにした。

 

「お前ら…!!」

 

だがそれ以上に、怪童はもっと激しい怒りと悲しみの表情を露わにしていた。

 

己の弱さのせいで大切な恩師が死んだ事と、母親を妖怪達に陵辱され殺された幼少の頃からまるで成長していない自分自身を、怪童は激しく恨んでいた。

 

「怪童…お前…」

 

そして怪童は、眼前にいる強大な仇敵二人を前に溢れんばかりの殺気と覇気を放った。

 

人の身で妖怪・鬼・吸血鬼をも凌ぐ程のとてつもない殺気と覇気を放つ独りの少年を前に、バサラとザクロは一瞬驚きの表情を隠せずにいた。

 

(何だ…この餓鬼は…!?)

 

「凄まじい殺気が出たから何かと思えば…さっきそこの女に庇われた餓鬼じゃないですか…。どうやら、余程私に殺されたいようですね。」

 

「待てザクロ!その餓鬼を甘く見るな!」

 

ザクロはバサラの警告を無視して、怪童に接近し頭部に拳を喰らわせた。

 

大妖怪の右腕クラスの妖怪達の攻撃は、霊能力者の少数精鋭部隊「守天豪傑」でも一発一発全てが即死に至る程の威力…だが、怪童はそんなザクロの攻撃を防ぐ事なく難なく受け止め、そして鋭く睨んだ。

 

鋭く鈍く光る眼光に、ザクロは一瞬怖気付き怪童から距離を取った。

 

(な…何なんだこの小僧は…!!?本当に人間なのか…!!?)

 

怪童は咆哮を上げながら、ザクロに攻めて行った。

 

それに対しザクロは、超重力で怪童を圧し潰そうとした。

 

妖怪の中でも強靭な肉体を持つ鬼や、再生能力を持つ吸血鬼でもザクロの超重力をまともに喰らえば只では済まず圧し潰されてしまう…だが、怪童は人の身でありながらザクロの超重力を耐え、どんどん押し通していく。

 

身体中の骨がバキバキに折れながらも、眼前の敵を屠り去る為に一歩ずつ前進していく怪童を見て、ザクロは恐怖で震えていた。

 

「馬鹿な…ありえない!!」

 

そうこうしている内に、怪童は雄叫びを上げながら超重力を打ち破り、ザクロに接近していった。

 

ザクロは恐怖で取り乱し、怪童に重力弾を連発していった。

 

怪童はそれすら容易に耐え抜き、一瞬でザクロの懐に入り込み、鳩尾に拳を叩き込んだ。

 

怪力無双を誇る鬼の腕力をも上回る怪童の拳をまともに受けて、ザクロは吹っ飛ばされながら血反吐を吐き散らした。

 

右腕のザクロを吹っ飛ばした怪童は、大妖怪のバサラを次の標的に移し、狂ったように果敢に攻めて行った。

 

一方その頃、人志に子供達と一緒に待っていろと言われた陽菜は、人志と怪童、恩師の橘茜の事が気がかりになっていた。

 

(人志…怪童…茜先生…)

 

陽菜だけでなく、下の子供達も恩師や年長者の人志と怪童の事が心配になっていた。

 

自分達を守る為に戦っている恩師や人志と怪童を放っておけず、子供達は戦場へと向かって行った。

 

「ちょ、ちょっと待って皆!危ないから私と一緒にここに避難して!!」

 

陽菜はそんな子供達に注意しても言う事を聞いてもらえず、一人残されてしまう。

 

子供達を引き止める為に、陽菜は後を追う事にした。

 

そんな中、大妖怪バサラと怪童の戦いは熾烈を極めていた。

 

だが、先のザクロとの戦闘でボロボロになっている怪童は徐々に疲弊していき、次第に追い詰められていた。

 

「どうした?もう終わりか?まあ、人の子の分際でザクロをあそこまで追い詰めたのはお前が初めてだ…そんなお前に敬意を表し、この俺が直々に手を下してやろう。」

 

そう言い放ったバサラは、怪童の首を落とす為に手刀を振り下ろそうとした。

 

だがそこに、子供達と陽菜が駆けつけて来た。

 

「な…!?陽菜!!それにお前らも…!?何でここに来たんだ!!!」

 

陽菜と子供達は今現在のこの戦況と、人志の傍で死に倒れている恩師の姿を見て唖然としていた。

 

「そ…そんな…茜先生が…!!」

 

「ほう…恩師やこの餓鬼二人の身を案じてここに戻って来たという訳か…。手間が省けたな。」

 

バサラは笑みを浮かべて、陽菜の身柄を瞬時に奪い取った。

 

「陽菜!!」

 

「礼を言うぞ餓鬼共…お前らのおかげで、俺の野望が予定より早く叶うんだからな…。」

 

「陽菜を返せ!!」

 

バサラから陽菜を奪い返す為に、人志は動き始めた。

 

そんな人志に続き、下の子供達も陽菜を奪い返す為に一斉に向かって行った。

 

「フッ…馬鹿共が…」

 

バサラは自身の風の能力で、人志と子供達を完膚なきまでに捩じ切った。

 

「人志!!!皆!!!あ……ああ…あ……」

 

自分を助ける為に向かって行った人志や子供達が、バサラの手によって無惨にやられた姿を見て、陽菜は涙と震えが止まらずにいた。

 

「…人志…お前ら…ぐっ…」

 

ザクロやバサラとの戦いで、怪童も既に限界に達しており起き上がれなくなっていた。

 

「そんな…怪童まで…」

 

「これで邪魔者は完全にいなくなった…さあ小娘、俺の野望成就の為に…お前の内に秘めたその力を利用させてもらうぞ。」

 

恩師の橘茜や人志、怪童、子供達がバサラとザクロの手によって死んでいく様を見て、陽菜は涙を流しながら叫んだ。

 

「いやああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

悲しみで叫び出したその時、異変が起こった。

 

バサラの能力によってボロボロにやられた人志と怪童が再び立ち上がった。

 

二人は意識を失いながらも、人志は生命エネルギーを放出し自身の肉体に纏い、怪童は両手に強大な能力を有してバサラに向かって行った。

 

陽菜の妖怪の始祖の能力の影響を受けて、人志と怪童は能力者として目覚めて覚醒したのである。

 

(さっき俺にボロ雑巾にされた餓鬼と、ザクロを追い詰めた餓鬼が再び息を吹き返しやがった…!!この小娘の能力か!!)

 

人志と怪童は、陽菜を助ける為に今一度バサラに戦いを挑んだ。

 

能力者として目覚めた二人の力は、バサラの想像を絶するものであった。

 

「今より多少は強くなっただろうが、所詮俺の敵じゃねえ…。」

 

だが、それでも大妖怪であるバサラとの力の差は埋められず、全てを捻じ切る暴風によって二人は倒されてしまう。

 

「人志!!怪童!!」

 

邪魔者を排除し、今度こそ陽菜の身柄を押さえようとするバサラの前に、ある人物が現れそれを阻止した。

 

その人物とは、霊能力者の少数精鋭部隊「守天豪傑」の最後の生き残りであり、橘茜の同期でもある伊達恭次郎であった。

 

「伊達恭次郎…てめえか…!!」

 

伊達は瞬時にバサラから陽菜の身柄を取り戻し、戦闘態勢に入っていった。

 

だが、バサラは伊達を前にして分が悪いと判断し、血反吐を吐いて苦しんでいるザクロを連れて撤退した。

 

その後、伊達は生き残った3人を長寿館に連れて行き、医療スタッフに緊急治療を施させた。

 

それからしばらくして、人志と陽菜は病室から目覚めて傷の治りも万全ではあったのだが、生き残った3人の中で怪童が最も重傷であり、カモミール襲撃から数ヶ月経った今でも回復の兆しがまるでない極めて危険な状態であった。

 

それからまた数ヶ月後、人志と陽菜は怪童の回復をただ待って祈る事しか出来ずにいた。

 

そんな二人の元に、医療スタッフの一人が血相を変えて報告してきた。

 

何と、集中治療室で治療を受けていた怪童が忽然と姿を消してしまったのであった。

 

二人は急いで、怪童の行方を追った。

 

そんな中、人志は無意識に自身の能力で怪童の生命エネルギーの流れを感知して、正確に後を追って行った。

 

辿り着いた先には、そこはかつて養護施設「カモミール」があった場所で、今は数多の墓標が立てられており、その墓標の上で怪童が独り立ち尽くしていた。

 

人志はそんな怪童を見て、随分前に見た夢に出てきた傷だらけの大男と重なって見えた。

 

「お前…怪童…なのか…?」

 

「…よう…人志…陽菜…。」

 

「このたくさんのお墓…貴方が立てたの…?」

 

「…ああ…そうだ…。」

 

「…お前何馬鹿な事やってんだよ…!今医療スタッフの人からお前が消えたって報告があったから…俺達必死になってお前を探したんだぞ…!!それに、お前まだ完治してねえんだろ…?早く俺達と一緒に長寿館に帰ってしっかり治さねえと駄目だろうがよ…!!」

 

人志が怪童の手を握って、長寿館に連れて帰ろうとしたその時、怪童が人志の手を振り解いた。

 

「…怪童!お前いい加減に…!!」

 

「俺が殺した…」

 

「えっ…?」

 

「…俺の弱さが…先生を…子供達を…殺したんだ…」

 

「き…急に何を言い出すの怪童…?」

 

「あの時…先生と子供達が死んだのは…紛れもなく俺自身の弱さのせいだ…。俺にもっと…強さがあれば…力があれば…。」

 

カモミール襲撃の件で自責の念に駆られている怪童を見て、人志は彼の胸ぐらを掴んで言葉を投げかけた。

 

「何でそうなるんだよ!!あの時は…茜先生ですら勝てなかった大妖怪とその右腕が相手で、俺達はまだガキだったからどうする事も出来なかったんだ…!!お前一人のせいじゃねえ!!!」

 

「…なあ、人志…覚えているか…?かつてこの場所で…俺達三人で夜空の星を見上げながら、それぞれの目標を語り合った事を…。あの時、俺はお前ら二人に何て言ってた?」

 

「……それは……」

 

「『もう二度と、俺の目の前で大切なもの達をこれ以上奪わせないよう、戦士として戦い守り通してみせる』ってよ…。口では大層な事を言ってた割に、この様だ…。結局俺は、あの時から何も成長してなかったんだよ…。俺は、戦士の出来損ないだ…。」

 

「違う…!!」

 

「何も違わないさ…。だからこそ、俺はここに再び戻って…俺の弱さのせいで死んでいった先生や子供達の墓を立てたんだ…。だがそれだけじゃない…俺がここに来た理由は、もう一つある…。」

 

「…何だ…?」

 

「この世から、妖怪を一人残らず喰い尽くす…その誓いを立てにここに来た…。」

 

「怪童…どうして…」

 

「簡単な話だ…今一度己の責務をきっちり果たす為に、俺は今ここで変わらなきゃいけないんだ…。戦士として…そして、"怪童“として…な。」

 

自分を必要以上に責め続けている怪童の言葉を聞いて、人志は激しい怒りを露わにした。

 

「…ふざけるのもいい加減にしろよお前…!!それ以上何か言ってみろ!!ぶん殴ってでもお前を連れて帰る!!!」

 

それに対し怪童は、人志に鈍い眼光を向けて返事をした。

 

「やってみろよ…やれるものなら…。」

 

人志は怪童を正気に戻す為に果敢に戦いを挑んだ。

 

だが、二人の力の差は火を見るよりも明らかで、人志の攻撃は怪童にはほぼ効いていない。

 

「どうした…?ぶん殴ってでも俺を連れて帰るんだろう?」

 

「くっ…クソっ…!!」

 

人志は怪童に何度も拳を叩き込んだが、全く効いておらず寧ろ殴る度にどんどん自分の拳が赤く腫れて痛むばかりであった。

 

「そういえば…俺とお前は今まで一度たりとて本気でぶつかり合った事がなかったな…。何でかわかるか?」

 

人志にじっくり攻めさせた後、遂に怪童は人志の鳩尾に拳を叩き込んだ。

 

「ぐっ…ぐはっ…!!」

 

「お前と俺とじゃ…戦いにならないからだよ…。」

 

「人志!!!」

 

怪童に鳩尾を殴られた人志は、血反吐を吐き散らしながら倒れ込み苦しみもがいていた。

 

「怪童やめて!!人志を傷つけないで!!」

 

陽菜は必死に怪童を言葉で引き止めようとしたが、怪童は聞く耳を持たず倒れている人志に追い討ちを仕掛ける。

 

怪童は人志の頭部を思い切り踏んで身動きを取れなくして、右腕を掴んで強く引っ張り出した。

 

引っ張られる毎に徐々に骨がバキバキに折れて、肉はブチブチと音を立てながら千切れかけていた。

 

それから間も無く、人志の右腕は怪童の手によって引き千切られてしまった。

 

「ぎゃあああああああああああ!!!!ああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

右腕を引き千切られた痛みで、人志は悲鳴をあげながらのたうち回っていた。

 

二人の戦いを見て、陽菜は涙を流しながら怪童を止める為に向かって行った。

 

「怪童!!!もうやめてえええええ!!!!」

 

だがそこに、伊達恭次郎が怪童を黒雷で攻撃し割って入り、人志を助けた。

 

「伊達さん…!!」

 

「怪童…やはりお前は生かしちゃいけねえ存在だ…ここで仕留めさせてもらう…!!」

 

伊達の黒雷をまともに受けても、怪童は平気な素振りで耐え、人志達の前から姿を消した。

 

「クソッ!逃したか…!!」

 

「伊達さん!!人志を早く!!このままじゃ…!!」

 

「ああ、わかっている…!!」

 

怪童を取り逃した伊達は、右腕を引き千切られ危篤状態となっている人志を早急に治療する為に長寿館に戻った。

 

それから数ヶ月後、人志は病室にて目を覚ました。

 

右腕を失った事、何より怪童を止められなかった事に強いショックを受けながらも、人志は陽菜に顔を見せた。

 

その後二人は、恩師の橘茜や子供達の魂が眠っているカモミール跡地へと足を運んだ。

 

数多の墓標を前にして、人志はもう戻らないカモミールでの大切な日々や思い出を振り返り歯噛みし、陽菜は自分の内に秘めた能力のせいで大切な人達を失った事で自分を責めて涙を流した。

 

人志はそんな泣きじゃくれている陽菜の涙を片手で優しく拭き、ある誓いを立てた。

 

「茜先生や子供達を失ったのは…決してお前のせいなんかじゃない…あの時、俺が怪童をしっかり引き止めて皆で避難していれば…こんな事にはならなかった…。俺がもっとしっかりしていれば…あいつが自分を必要以上に責めて、一人で全部背負う事はなかった…!!」

 

「人志…」

 

「だから俺は今日ここに誓う…!!もうこれ以上大切なものを失わせないように…あいつを連れ戻して、三人で一緒に生きて行けるようにする為に…俺は戦う!!!」

 

陽菜や死んだ皆の墓標の前で決意した人志はその後、伊達に師事した。

 

それから3年余りの月日が流れ、人志は修行の成果も相まって生命エネルギーの性質変化を習得し、これまで以上に自身の能力を開花させた。

 

修行を終え、人志は陽菜と共に怪童を探す旅に出かける前に、伊達は人志に警告がてらある言葉を投げかけた

 

「いいか人志、お前一人が全てを背負ってその身を犠牲にするくらいで守れる程、この世は甘くねえ…。その事はわかっているよな?」

 

「はい…分かっています…。」

 

「あいつのようにはくれぐれもなるなよ…。あいつの在り方は、人の領分を外れちまっている…。言いたい事は言った…気をつけて行ってこい。」

 

「はい!3年間、お世話になりました!」

 

伊達に頭を下げて礼を言った後、人志は左手で陽菜の手を握り、共に怪童を探す為に旅立った。

 

大切な人を最後まで守り通し、かつての親友を救い出す…。

 

人志の戦いの幕は今…切って落とされた…。

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