カモミール跡地にて墓参りを終えた人志と陽菜は長寿館に帰ると、樹や愛菜が迎えに来た。
「人志さん、陽菜さん、お帰りなさい!」
「ああ、ただいま。」
「二人して何処に行ってたの?」
「え?ああ、うん…ちょっとね…。」
「人志さん、身体の方はもう大丈夫なんですか?」
「ああ、問題ない。」
「そうですか、良かったです。あとそれと人志さん、ちょっと今話したい事があるんですけどいいですか?」
「ん?ああ、いいぞ。」
人志は樹の話を聞く為に館内へと場所を変えた。
「話って何だ?」
「自分の話になってしまうんですが…前回陽菜さんを奪還しに妖魔帝国本部に攻め入った時、和真という僕の親友と再会したんです…。和真は幼少の頃、妖怪にいじめられていた僕を助けてくれて、僕に霊能力者の道に行くきっかけを作ってくれた霊能力者で恩人でもある男だったんです…。だけどある日、暴れ回っている一人の凶悪な妖怪の捕縛任務を二人で務めた時に僕が足を引っ張ったせいで返り討ちに遭って、和真がその妖怪に能力を買われて攫われてしまったんです…。そして、本部で再会した時は…もうかつての和真の面影はなく、敵の手にかかって妖怪にされてしまったんです…。人間から妖怪にされた者は、どんな方法を用いても元の人間に戻ることはできない…。いつかもう一度和真と対峙した時に、僕は敵としてあいつを倒す事が出来るのだろうかと心の中で迷いが生まれてしまって、もうどうすればいいのかわからないんです…。」
妖怪にされてしまったかつての親友である和真をどうすればいいのか、樹は人志に悩みを打ち明けた。
それに対し人志は、己の過去の話を交えて樹に助言をした。
「俺にも、お前と同じように一人の親友がいた…。そいつは妖怪達から人間を守る戦士の子として生まれ、今でもそいつは戦い続けている…たとえ己の身体と心がボロボロに傷尽き果てようとな…。」
「人志さん…それって…」
「樹…お前はいつの日かその和真という親友と命を懸けて戦う事になるだろう…。だが、くれぐれも自分を責めるような真似はするなよ…。己を必要以上に責め続けて壊れてしまった人間を、俺は痛い程知っている…。」
「人志さん…」
「俺から言える事はここまでだ。ごめんな、あまり良い助言が出来なくて…。」
「いえ!こんな僕なんかの話に付き合ってくれて、あまつさえ助言をしていただき本当に感謝しています!人志さん、今日はゆっくり休んでください!」
「ああ、お前も無理はするなよ。」
樹と話を済ませた後、人志は自室に戻ってゆっくり休んだ。
そして翌日の午前、朝食を済ませた後伊達は人志・樹・愛菜・凍哉の4人を地下5階の特別訓練場に呼び、前とは違う訓練形式を提案した。
それは、凍哉一人に対し人志・樹・愛菜の3人という形で実戦訓練をするというものであった。
「今回は伊達さんは相手してくれないんですか?」
「お前らの成長を促す場合、俺よりもこいつの方が適任だと判断したからだ。はっきり言ってこいつは俺より強い…お前ら、一瞬で伸されねえように今まで以上に気を引き締めてかかれよ。」
そう言い放った伊達は、訓練場を後にした。
人志・樹・愛菜の3人は、陽菜奪還の際に伊達を相手にした訓練と同じように連携を取って凍哉に攻め入った。
まず樹が血で大木を錬成し、それを愛菜が触れて硬度・強度・大きさを倍以上に強化させて凍哉に放った。
凍哉はすかさず凍結させ塵にするが、人志が雷の性質変化で瞬時に背後を取り炎に性質変化させて一撃を喰らわせた。
かに見えたが、人志が攻撃したのは凍哉が作り出した氷の虚像であり、本物の彼は瞬時に人志の頭上に現れ重い一撃を喰らわせようとするが、人志は片腕でぎりぎりで防ぎ弾き返した。
人志の助力をする為に、樹は大樹で凍哉を拘束し身動きを封じた。
この機に乗じて愛菜は人志に触れて身体能力の全てを倍以上に強化させ、人志は更に炎の性質変化の上乗せで凍哉に攻め入った。
だが、凍哉は拘束を解き、人志の炎ごと一瞬で凍らせて他の2人も一瞬で凍結させた。
「このまま戦いを続けるなら、俺はお前達を容赦なく塵にするが…どうする?」
凍哉の言葉を聞いて、3人はそれが脅しではない事を悟り、降参した。
「参った…降参だ…。」
凍哉は3人の凍結を解除し、訓練は一度中止し休憩した。
「本当に死ぬかと思いました…」
「ホントにね…今回の訓練であんたが味方で本当に良かったって心の底から思ったよ!もし敵だったらあたし達とっくに塵にされて死んでたよ!」
「ああ…愛菜の言う通りだ。凍哉、お前は本当に凄い奴だよ。」
「それはそうと樹、お前は少し血を使いすぎだ…。お前の能力はサポート面でとても重宝する…サポーターとしてここぞという時に仲間の役に立てるように能力を使いこなさなければ、ただ貧血を起こして逆に仲間の足を引っ張ることになってしまう…。」
「…それは自分でも自覚しているんですけど、でも血を媒介にしないと木を錬成出来ないし…」
「なら媒介を変えればいい。例えば人志や俺のように自身のエネルギーを媒介にして炎や氷、お前でいう木を錬成すれば血を媒介にするよりもリスクを抑えられるし、効率よく戦える。つまり、エネルギーを媒介にして物質を錬成する事が今のお前の課題だ。やり方は人志に教わるといい。」
「わ…分かりました!ありがとうございます!!」
「愛菜、お前の倍に強化させる能力は仲間の補助にも使える良い能力だが、その能力を仲間の強化に使うより、もっと自己の強化に使って自分から積極的に攻めるべきだ。お前は鬼の血を引いているのだから。」
「でもさ、あたしこれでも自分なりに精一杯やってる方なんだよね…。倍に強化させるのにも限度があるし、人志の炎みたいにはいかないし…。」
「何故人と比べる必要がある?」
「え?」
「人志は人志、お前はお前だ。その能力とお前の中の鬼の力は、お前にのみ許された特権だ。己の中に眠っている怪力無双の鬼の力を、存分に発揮してみせろ…そうすればお前は今まで以上に何百倍にも何千倍にも強くなれる。」
「…ありがとう凍哉…。何となく、分かった…!!」
「最後に人志、お前の生命エネルギーを操る能力は完成されている。仲間の回復、敵の感知、そして炎と雷の性質変化を兼ねた戦闘スタイルはとても優れた物だ。お前に言う事は、何もない…。」
「いやないんかい!!」
「ただ一つ言える事があるなら…『あの力』はもう使うな…。」
「…気炎万丈の事か…。」
「俺からは以上だ…。ぐっ…!!」
3人に強くなる為のアドバイスを言い終わった後、凍哉は急に苦しみだした。
ヒスイに付けられた首の噛み跡が能力を行使した事によって効果が発動し、徐々に凍哉の身体を侵食していっているのを見て、3人は心配をかけた。
「凍哉!大丈夫か!?」
「凍哉さん!!」
「ぐっ…!!ううっ…!!」
「超越者・ヒスイ…その首の噛み跡はそいつに付けられた物か…。」
「…気にするな…これしきの事、問題ない…」
無理して平気な素振りを見せる凍哉に、人志はこう言った。
「凍哉、何でも一人で抱え込もうとするなよ…俺達が付いている。お前はもう、独りじゃないんだからな…。」
「…ああ…ありがとう、皆…。」
仲間達に感謝した後、凍哉は訓練場を後にした。
凍哉がいなくなった後も、3人は正午まで訓練を続けた。
各々昼食を済ませた後、愛菜の提案でお互いに気晴らしと親睦を深める為に、人志・陽菜・樹・愛菜・凍哉の5人で卓球を行おうとした。
皆が卓球を楽しむ中、凍哉は一人楽しんでいる様子をただ見ていた。
「ちょっと凍哉!そこでぼさっと見てないであんたも参加する!今の内に楽しい思い出作っておかないとさ!」
愛菜に参加するよう言われ、凍哉は皆と一緒に卓球を楽しんだ。
卓球で汗を流した後、温泉に入って今日一日の疲れを取った。
その後、食卓を囲んで夕飯を済ませた後、陽菜の提案で集合写真を撮る事にした。
皆が集まって写真を撮る準備に取り掛かる中、凍哉だけそっぽを向いていた。
「ちょっと凍哉!これから皆で一緒に写真撮るんだから早くこっちに来なよ!」
「いや、俺はいい…。」
人志・樹・愛菜の3人は、集合写真を撮る為に凍哉を強制的に引き連れた。
「ちょっ…待て!やめろお前ら…!」
「はいはい文句言わないの!」
人志・陽菜・樹・愛菜・凍哉・伊達・愛菜の兄弟達で集合し、凍哉は恥ずかしながらも皆と一緒に写真を撮った。
日が暮れて束の間の日常を存分に楽しんだ人志達は、静かに床に就いた。
皆が寝静まる頃、凍哉は一人長寿館の外に出て思いふけっていた。
凍哉は、今日一日人志や皆と共に平穏な日常を過ごして、かつての故郷“氷華の里”で家族や同胞達と幸せに暮らしていた日々と、仲間達と共に戦い過ごした日々を重ねていた。
仇敵・ヒスイに全てを奪われた事を思い出しながら彼女に付けられた首の嚙み跡に手を置き、もう二度と奪わせはしないと心に強く誓った凍哉は、ヒスイとの因縁に決着を着けるべく仲間達の元から出ていく事を決心する。
そんな時、人志と陽菜が中々寝付けず外の空気を吸いに行こうと外出し、一人立ち尽くしている凍哉にばったり会った。
「凍哉…?どうしたんだよ、そんな所でぼーっと立ってて。」
「人志、陽菜…皆には悪いが、俺はここを出ていく…。」
「…出ていくって…まさか…」
「そうだ、ヒスイと決着を着けに行く…。決して付いて行こうなんて考えるな…これは、俺の手で終わらせなければならない戦いなんだ…。もう二度と…これ以上奴に奪わせないようにな…。」
「待て!行くな凍哉!!今日の午前の訓練で言っただろう!?一人で抱え込もうとせず、俺達に相談しろ!!お前はもう独りじゃない!俺達が付いている!!だから…!!」
必死に引き止めようとする人志に、凍哉は陰りのある笑みでこう言った。
「大丈夫…全てを終わらせて、必ずここに戻ってくるから…。」
凍哉の陰りのある笑みを見て、陽菜の中で転生前の過去の記憶が徐々に蘇り、選定で彼と初めて会った時と同じように頭にノイズが生じた。
「ううっ…!!」
「おい陽菜!大丈夫か!?」
頭にノイズが生じて苦しんでいる陽菜を人志が心配している最中に、凍哉は二人の前から姿を消した。
一方その頃、凍哉から全てを奪った仇敵・ヒスイは屋敷の中で数々の人間や妖怪達を貪り終えて、窓を見て凍哉が自分の元へ向かってくる事を予感して妖しい笑みを浮かべて胸を高鳴らせていた。
「嗚呼…私だけの愛しい凍哉くん…。早く私の元に来て、私を存分に満たしてちょうだい…。」