第31話 氷華の里
人志達に別れを告げた凍哉は、仇敵・ヒスイとの決着を着ける為に動き出した。
けもの道を進む中、突然凍哉の前に二人の男が立ちはだかった。
一人は烈火という赤髪の男で、もう一人はシュウという青髪の男であり、二人とも大妖怪相当の実力者である。
「こいつか?氷華の一族の末裔ってのは。」
「ああ、短い銀髪に白の着物を着ている眼を閉じた少年…間違いない。」
「…お前ら、ヒスイが仕向けた刺客か…。」
「フッ、察しがいいな…俺の名はシュウ。そしてこいつが烈火だ。」
「目的は俺の身柄の捕縛か…もしくは…」
刹那、シュウの隣にいた烈火が姿を消し、凍哉の背後に回り炎を纏った拳で攻撃した。
「てめえの命だ!!」
烈火の拳による攻撃を直撃したかに見えたが、それは残像であり凍哉はいつの間にか烈火の背後を取っていた。
烈火は驚きながらも、すぐさま凍哉と距離を置いた。
「チッ!流石は氷華の一族の末裔…そう簡単に獲らせはしねえってか?」
「悪いが、お前らに構っている暇はない…。」
そう言い放つと、凍哉は烈火に標的を絞り一瞬で距離を詰める。
「なっ!?」
「まずはお前から始末させてもらう…。」
相手の懐に入り、凍哉は掌底で烈火を上空へと打ち上げた。
烈火は間一髪で凍哉の掌底を防ぎ、ダメージを軽減した。
「ぐっ!!」
猛攻は止まる事を知らず、凍哉は一瞬で跳躍して烈火にラッシュを叩き込んだ。
(くそっ!!速えし重えっ!!まだ氷の力を使ってねえのに何て強さだ…!!これは俺も本気で行かなきゃならねえな…!!)
凍哉のラッシュを全て捌き切った後、烈火は自身の獄炎の力を解放した。
その獄炎は、人志の炎の性質変化の極致「気炎万丈」と同等以上のものであり、流石の凍哉も防戦を強いられた。
「オオオオオッッッ!!」
咆哮を上げながら、烈火は獄炎の龍を四方に召喚し相手に放った。
その火力は辺りの森林を全て焼き尽くす程凄まじく、烈火は己の勝利を確信した。
が、しかし、凍哉は冷気で自身にバリアを張っており、獄炎を防ぎ切ったのであった。
「…マジかよこいつ…!!」
烈火は凍哉の恐るべき強さに震えながらも、凍哉はすぐさま距離を詰めて烈火の身体に触れて氷漬けにし塵にした。
「次はお前だ…。」
凍哉は次の標的をシュウに捉え、シュウも臨戦態勢に入った。
「流石だな…あの烈火を相手に無傷で倒すとは…。だが、俺の場合はそうはいかんぞ!!」
そう言い放つと同時に、シュウは他を圧倒するほど凄まじい速度で凍哉を翻弄した。
「この速度についてこられるかな!!」
音速の数百倍の速度を誇るシュウの速さに、凍哉は身動き一つ取れずにいた。
「獲った!!」
シュウは凍哉の頭上に現れ、踵落としを繰り出した。
だが攻撃は当たらず、凍哉の姿はいつの間にか消えていた。
「な…何!?何処に行った!?」
辺りを見渡すも、凍哉はシュウの頭上の空にいた。
大気中の空気を凍らせて足場にしているのである。
「確かにお前の速さは中々のものだが、スピード自慢をするにはまだまだ甘いな…。」
「な…何だと…!?」
そして次の瞬間、凍哉はシュウに接近し鳩尾に拳を叩き込み吹っ飛ばした。
「ぐはっ!!」
拳で吹っ飛ばした後、凍哉は間髪入れずに無数の氷剣を生成し、シュウに一斉掃射し串刺しにした。
烈火とシュウ、大妖怪相当の実力者2人をほぼ無傷で倒してのけた凍哉。
だが、刺客はもう一人いた。
3人目の刺客は、気配を完全に遮断し姿を透明化させているトランスという名の妖怪であった。
トランスは、烈火とシュウを倒し油断している凍哉に向けてスナイパーライフルを向け、今まさに凶弾を放たんとしていた。
その時、凍哉はトランスのいる方角へ雪華の眼を開眼した。
凍哉の雪華の眼は、視界に映ったありとあらゆる物質を凍らせ塵にする能力に加え、千里眼・透視能力を併せ持っており、たとえ透明になろうと障害物を盾にしようとそれを無視して凍らせ塵にする事が出来る。
トランスは凍哉の雪華の眼の真価を見誤り、華のように凍らされ塵と化し、氷の花びらとなって舞い散った。
「ぐっ…!!」
能力を行使した事によって、ヒスイに付けられた首の噛み跡が疼いてどんどん侵食されていくも、凍哉はヒスイの元へと先を急いだ。
だがそこに、一匹の蝙蝠が凍哉の前に突然現れた。
(…ヒスイが使役している蝙蝠か…。)
蝙蝠は、まるで道しるべを示すように凍哉をある場所まで案内しようとしていた。
凍哉はその蝙蝠に従って先へと進んだ。
その進んだ先に、凍哉は信じられない光景を目の当たりにした。
「…馬鹿な……そんなはずは…!!」
進んだ先には、かつてヒスイによって滅ぼされたはずの故郷“氷華の里”があった。
「…俺の故郷はもう既に…あいつの手によって…!!」
驚きと恐怖で震えている凍哉の背後に、一つの魔の手が忍び寄った。
「ごきげんよう、凍哉くん…会いたかったわ…。」
仇敵・ヒスイが、妖しい笑みを浮かべて音を立てずに凍哉を後ろから抱擁した。
「貴方に会いたくて会いたくて…じっとしていられなかったの…。さあ、私と一緒に…二人だけの時間を目一杯過ごしましょう…。」
甘い吐息と言葉をかけながら、ヒスイは自身が付けた首の噛み跡を愛撫しようとしていた。
だが、凍哉は恐怖で震えながらもそれを激しく拒絶し、彼女から距離を取った。
「…お前に滅ぼされた故郷が何故今になって元通りになっているのかは謎だが…今こそ、お前との因縁に決着をつける…!!これ以上お前に奪わせないように…俺は、俺の信じられる者の為に戦う…!!」
「嗚呼、いい…実に美しいわ…その眼、その心…。やはり貴方は、“氷華”の生き写し…。」
凍哉は雪華の眼を開眼し、不倶戴天の宿敵・ヒスイに全力で挑みに行った。
一方、凍哉に別れを告げられた人志と陽菜は、樹や愛菜、伊達に報告した。
「そうか…凍哉の奴、そのヒスイって奴からあたし達を守る為に独りで…。こうしちゃいられない!なあ人志!急いで凍哉を助けに行こう!!」
「ああ…そうしたいのは山々だが、凍哉が何処へ行ったのかわからない現状、闇雲に探し回っても体力を無駄に消費するだけだ…。手分けして情報を集めよう!」
各々が凍哉捜索へと行動を開始した。
外に出た瞬間、人志達の頭上に突如暗雲が垂れ込めた。
否、それは暗雲というより禍々しい程の血のような赤と全てを包み込むような闇が入り混じる異様な空となっていた。
「何だ…これは…!?」
皆が青ざめる中、突然蝙蝠の群れが人志達の前に姿を現した。
そして、蝙蝠の群れが一人の女性へと形作る。
「まさか…!!」
凍哉の宿敵・ヒスイが、妖しい笑みを浮かべて人志達の前へ堂々と姿を現した。
「ごきげんよう。守天豪傑の伊達恭次郎さんに、半人半鬼の愛菜ちゃん、霊能力者の樹くん、妖怪の始祖の陽菜ちゃん…。そして、凍哉くんの一番のお友達の人志くん…。」
「…何しに来た…?」
「フフフ…そんなに警戒しないで…。あ・い・さ・つ。ほんの挨拶に来ただけなのよ…。」
「挨拶にしては、ちとドス黒すぎるんじゃねえのか?“超越者”のヒスイさんよ…。」
「凍哉くんの居場所知ってるけど、私が教えてあげましょうか?」
「何…!?」
「“氷華の里” かつての凍哉くんの故郷、そこに凍哉くんはいるわ…。」
「じゃあ、その“氷華の里”に行けば凍哉さんに会えるって事なのか!?」
「ええ、そうよ。」
「…何故、敵であるお前が俺達にわざわざ凍哉の居場所を教える…?一体何を企んでいるんだ…!?そして、凍哉の首の嚙み跡…あいつに何をした…!?」
「さあ?何でしょう?」
人志達を挑発するヒスイ。
そこに、始祖の力に目覚めた陽菜が眼を朱く光らせ、ヒスイに向かっていった。
「凍哉は、決して貴方には渡さない…もうこれ以上、貴方やあの男に大切なものを壊させはしない…。私達は、貴方に絶対に敗けない…!!」
「陽菜…お前…!!」
朱い眼光を発しながら、陽菜はヒスイに宣戦布告をした。
それに対しヒスイは、余裕の笑みを浮かべて人志達の前から姿を消し、空が正常に戻った。
「さて、奴の口から凍哉は“氷華の里”にいる事は分かったが…問題はその場所が何処にあるのか…」
人志達は凍哉の故郷“氷華の里”に向かおうにも、何処にあるのか見当もつかずにいた。
だが突然、陽菜の頭にノイズが生じ、急に苦しみだした。
「陽菜!!大丈夫か!?」
「陽菜さん!!」
「陽菜ちゃん!!」
「…私の事は大丈夫…。それに、思い出したの…凍哉の故郷“氷華の里”を…!!」
「何!?」
始祖の力に目覚め、突然のノイズに苦しみながらも、陽菜は転生前の記憶を着実に取り戻してきた。
「何処にあるんだ!?その“氷華の里”は!?」
「人志…皆…私の身体に触れて…。」
「え、えぇ!?そ、そんな事…!?」
「…分かった…触れればいいんだな…?」
「うん、あまり変なところは触ってほしくないけど…。」
「ちょ、ちょちょちょちょ…陽菜さん!!?」
「樹、うるさい!あと、あんた何で顔真っ赤にしてんの?」
人志達は、陽菜に言われた通りに彼女に触れた。
「皆、しっかり捕まって!!」
陽菜は、妖怪の始祖の能力を用いて凍哉の生命エネルギーを感知し、彼の故郷である“氷華の里”にワープし到着した。
そこはまさに白銀の世界で、華の形をした雪が美しく舞い散り、辺りには煌びやかな氷の花畑があり、かまくらのような家が複数あった。
「何でだろう…雪が降ってて氷もあるのに、全然寒くない…。」
人志達は、美しく異様な光景に目を奪われながらも、凍哉捜索と打倒ヒスイに向けて動き出した。