陽菜の始祖の力により人志達は凍哉の故郷“氷華の里”に到着し、凍哉捜索へと行動を開始した。
「にしても不思議だなあ…雪が降ってて氷もそこら中あるのに全然寒さを感じない…どうなってんだこれ…。」
「お前ら、そんな事よりまず先に考えなきゃならねえ事が何なのか…分かってんだろうな?」
「…あのヒスイをどうやって倒すか…ですね…。」
「そうだ。奴はこれまで俺達が戦った敵達とは比べ物にならない程の化け物だ…。妖怪の中でも最上級種族“吸血鬼”であり、吸血鬼の弱点である太陽を克服し底無しの再生能力を持つ…羅刹一座の大妖怪共を遥かに凌ぐ化け物だ…。」
「…マジかよ…!!」
「そんな無敵の化身のような奴を相手に…僕達はどうすればいいんですか…!?」
「確かにヒスイは無敵の化身のような化け物だ…はっきり言って、正攻法で奴を倒せる能力者は一人たりとて存在しねえ…。だが、一つだけ打開策がある…。俺の能力“黒雷”は妖怪や鬼が持つ回復能力、吸血鬼の持つ再生能力を阻害する事が出来る…。いくら底無しの再生能力を持とうと、吸血鬼である以上奴も例外じゃねえ…。」
「何だ…じゃあ伊達さんがあいつ倒せば全部丸く収まるって事じゃん!」
「いや、そんなに簡単に上手くいくような相手じゃねえ…。下手すりゃ俺達が全滅する可能性だって充分にあり得る話だ…そこで、お前らには俺に協力してもらう…。」
「協力って、僕達どうすればいいんですか?」
「簡単な話だ…樹、愛菜、お前ら2人で出来るだけ奴の注意を引け。充分に引き付けたら、俺の“雷神演武”の最高速度と最高火力で奴を塵一つ残さず完全に消滅させる。いいな?」
「はい!分かりました!」
「おう!」
「人志、お前は始祖である陽菜を戦闘に巻き込ませないよう護衛に徹し、凍哉を探し出せ。それともう一つ、お前は決して戦おうとするな…たとえ俺達の身に何が起ころうとな…。」
「…それは何故です…?」
「妖魔帝国本部でのオニタケやバサラとの戦いで、お前は生命を削りすぎた…はっきり言って今のお前は戦いの場に出るにはあまりにも足手纏いなんだよ…。」
伊達の人志に対する言葉を聞いて、愛菜は怒りを露にし伊達の胸ぐらを掴んだ。
「人志が足手纏いだと…!!お前今の言葉もう一遍言ってみろ!!ぶっ飛ばすぞ!!」
「愛菜さん!!落ち着いてください!!」
怒る愛菜を樹が制止する中、人志は伊達の胸ぐらを掴んでいる愛菜の手を優しく掴んで放した。
「いいんだ…愛菜…。自分の限界は自分が一番分かっている…今回は陽菜の護衛と凍哉捜索に力を入れる事にするよ。俺の為に怒ってくれてありがとう…。」
「人志…」
「それでいいですよね?伊達さん。」
「…ああ…。」
対ヒスイの作戦を練った後、人志達は先に進んだ。
しばらく先に進むと、そこには道中にあった花畑とは比べ物にならない程の広大な氷の花畑があった。
そして、その花畑に一人の女性が立っていた。
「ヒスイ…!!」
「あら、随分とお早い到着ね。ようこそ…氷華の里へ。」
凍哉を探し出す為に来た人志達に対し、ヒスイは妖しい笑みを浮かべる。
「凍哉を何処へやった…?」
「フフフ…やっぱり知りたい…?知りたいわよねえ?いいわ、健気な貴方達の為に特別に教えてあげる…」
ヒスイは胸に手を当てながら、笑みを浮かべて凍哉の居場所を吐いた。
「凍哉君は、ここよ…。」
「何…!?」
挑発とも取れるようなメッセージに人志は疑心暗鬼を抱く中、伊達は樹と愛菜と共に臨戦態勢を取り、ヒスイに挑みに行く。
「樹!愛菜!事前に伝えた作戦を実行するぞ!」
「はい!!」
「おう!!」
「人志!この場は俺達に任せてお前は陽菜を連れて凍哉を一刻も早く探し出せ!お前の能力なら、奴を探し出すくらいわけねえだろう!」
「はい!分かりました!行くぞ陽菜!」
「うん!」
人志は伊達に指示された通りに生命エネルギーの感知範囲を広げ、凍哉捜索を開始した。
そして、樹と愛菜はヒスイの注意を引く為に二人で連携を取ろうとしていた。
「愛菜さん!」
「ああ!」
まず初めに、樹は自身の生命エネルギーを木に性質変化させ、大樹を錬成しヒスイを拘束した。
前日の合同訓練の凍哉の助言や、人志に生命エネルギーの性質変化のコツを学んだ事を思い出し、それを実行した。
(よし!成功した!!)
それに続き、愛菜は己の中に眠っている鬼の力を引き出し、角を光らせ全ての身体能力を倍以上に強化させ、怒涛のラッシュをヒスイに繰り出した。
「ウオオオオオオオオッッッ!!!!」
鬼の力を全面的に引き出した怒涛のラッシュを喰らいながらも、ヒスイは底無しの再生能力を以て余裕の笑みを浮かべながら感心していた。
「中々いい連携ね…。」
(マジかよこいつ…!!こんだけ攻撃しても一瞬で再生してやがる!!)
ヒスイの驚異の再生能力に驚愕する愛菜。
「余裕でいられるのもそこまでだぜ…。」
突如空一面が雷雲を覆い次々と落雷が降ってきた。
そして次の瞬間、雷雲から黒い雷の麒麟が轟音と共に姿を現し伊達の頭上に降りかかり、それを吸収して急激にパワーアップした。
「“雷神演武”」
黒雷の極致“雷神演武”を発動した伊達は、次々と回避不能の落雷をヒスイに降らせながら音速の数千倍という最高速度で連続攻撃を繰り出し彼女を圧倒した。
「何て速さだ…!!いや、速さだけじゃない…攻撃も滅茶苦茶激しくて火力も凄まじい…!!」
「凄え…!!あれじゃ反撃を取る余裕がない…!!やっちまえ伊達さん!!」
最高速度で動き回り、ヒスイの底無しの再生能力を阻害して再生出来なくさせた伊達は、最高火力を以てとどめを刺そうとした。
「これで終わりだ…
黒雷大神!!」
雷鳴と共に漆黒の雷の麒麟が如く突進し、ヒスイをこの世から塵一つ残さず消滅させる事に成功した。
樹と愛菜は自分達の勝利を確信して、大歓喜した。
「や…やった…!倒した…倒したぞ…!!」
「勝ったんだ…あたし達勝ったんだよあの化け物に!!ナイス伊達さん!!」
一方その頃、人志は陽菜を連れて凍哉捜索へと里中を探し回っている時に、陽菜は人志の手を強く握り足を止めた。
「どうした?陽菜」
「人志…皆の所に戻ろう…何か…とても嫌な予感がする…!!」
「何だと…!?」
陽菜の予感は的中し、伊達の“雷神演武”による圧倒的な速度と火力、そして黒雷による再生阻害で塵一つ残さず消滅させたはずのヒスイが、まるで何事もなかったかのように再び伊達達の前に姿を現した。
「素晴らしい…これが噂に名高い伊達恭次郎の黒雷…堪能させてもらったわ…フフフ…。」
「そ…そんな…!!何で…何でだ…!!伊達さんの黒雷による再生阻害と“雷神演武”で完全に消し去ったはずなのに…何でだ!!」
「確かに、私はそこの御仁の能力によって一度完全に消え去ったわ…。だけど、私は再びこの世に姿を現した…私の“真の能力”によって…ね。」
「“真の能力”だと…!?何だよそれ…!?」
「そう…私の無限の再生能力はあくまで私の吸血鬼としての基本能力にすぎない…真に私の有する能力、その名は“完全耐性”。ありとあらゆる攻撃・能力を一度喰らえばその時点で100%の耐性を得る事が出来る能力…持ち前の底無しの再生能力ととても相性の良い物でしょう?」
ヒスイの口から真の能力を知った樹と愛菜は、深い絶望へ陥ってしまった。
「そんな……こんな奴…勝てっこない…!!」
深く絶望し膝を落とす樹と愛菜に、伊達は逃げるよう指示した。
「お前ら…俺を置いてここから逃げろ…」
「な…!?あんたは!?あんたはどうするつもりなんだよ!?あたし達だけ逃げろってのか!!?」
「ぐずぐずするんじゃねえ早く逃げろ!!ここで死にてえのか!!!」
急いで逃げるよう強く指示する伊達の背後をヒスイは一瞬で獲った。
「逃げるなんてもったいないわ…もっと私と戯れましょう…。」
「クソッ…!!」
「伊達さん!!!」
ところが、伊達の命を獲ろうとするヒスイに炎による攻撃が命中した。
人志と陽菜が、伊達達の危機に馳せ参じた。
「人志さん!!!」
「人志!!!それに陽菜ちゃん!!!どうしてここに!?」
「馬鹿野郎!!何故戻ってきた!!?」
「陽菜…どうやらお前の予感通りのようだ…あと少し来るのが遅かったら、全滅は免れなかった…。」
仲間達の為に助けに戻ってきた人志を見て、ヒスイは好感を持ち笑っていた。
「自分の身を顧みず仲間の為に行動するその精神…流石、凍哉君の凍てついた心を溶かしただけの事はあるわね…敬意に値するわ…。」
「人志さん!!気を付けてください!!そいつは底無しの再生能力だけじゃなく、一度喰らった攻撃や能力の完全耐性を得る事が出来る!!今さっき伊達さんの黒雷の攻撃を受けて完全な耐性を得てしまったんだ!!」
「…なるほど…」
樹の口からヒスイの能力を聞かされた人志は、彼女を相手にどう戦えばいいかわからずにいた。
だがそこに、陽菜は人志にある一つの策を出そうとしていた。
「人志!私に作戦がある!ちょっと耳を貸して!」
「…ああ!」
人志は陽菜に言われた通りに耳を貸し、彼女の策を一通り聞いた。
「…本当に行けるのか?それで…」
「分からない…でも、今はやるしかない…!!」
作戦を練り終わった人志と陽菜は、ヒスイに戦いを挑んだ。
「待て!行くな人志!!陽菜!!」
「威勢のいい子達ね…そういう子は好きよ…。」
向かっていく二人の少年と少女に対し、ヒスイは全てを溶かし尽くす黒い炎を放った。
それに対抗する為に、人志は訓練で新たに開発した新技を披露した。
それは、炎の性質変化の極致“気炎万丈”の代用として炎と雷二つの性質変化を併せ持つ“火雷”という名の技であった。
真紅の炎雷を纏いながら、人志は眼前の黒い炎をかき消し、ヒスイに突進し喰らわせた。
「“火雷”!!」
「速い…威力も中々の物ね…。だけど、バサラ君を倒したあの力には遠く及ばないわ…。」
“火雷”でヒスイを怯ませ隙を作り出した後、陽菜は眼を朱く光らせ始祖の力を解放し、ヒスイの動きを止めた。
「凍哉を返してもらうわ!!」
そう言い放つと同時に、陽菜はヒスイの腹部を手で貫いた。
「何のつもりなの…?陽菜ちゃん…。」
「人志!私に捕まって!!」
「ああ!!」
人志は陽菜に言われた通りに捕まり、陽菜は始祖の力を解放し眩い光を発した。
眩い光が消えると、人志と陽菜は突然姿を消した。
「な…何だ…!?一体何が起こったんだ…!?」
皆が戸惑う中、人志と陽菜はヒスイの胎内に潜入していた。
陽菜の策とは、人志にヒスイの隙を作らせ、その隙を陽菜が突き始祖の力を使い彼女の胎内に潜入し、中にいるであろう凍哉を探し出し連れ戻す事であった。
「作戦は、とりあえず成功したか…。それにしても陽菜、何故凍哉がヒスイの身体の中にいると確信したんだ…?」
「あの時、氷の花畑でヒスイが私達の前に現れたあの時…あいつの身体に少し異変を感じたの…。あいつの中の始祖の力は元は私の力だから、容易に感じ取る事が出来た…そしたら、あいつの中に氷のように冷たい力を感じたの…それで確信したわ…。」
「…なるほど…それで凍哉がヒスイの胎内にいる事を察知して作戦を実行したってわけか…。でかしたぞ、陽菜。」
「ううん、人志の協力がなかったらこの作戦は実行出来なかったわ…。それより先を急ぎましょう…凍哉が奴に完全に侵食される前に…。」