始祖の力を使い、ヒスイの胎内に潜入する事に成功した人志と陽菜は、凍哉救出の為先を急ぐ。
空気が重くドロドロの胎内の道を進んでいく中、人志は陽菜にある事を語りかけた。
「なあ陽菜…昨日、凍哉が俺達二人に別れを告げた事…覚えているか?」
「え…?覚えているけど…どうしたの急に…」
「あいつは…幼少の頃、あのヒスイという怪物に大切な故郷と家族を全て壊された…。俺達二人と同じように…」
「……」
「あいつは…自分の大切なものをこれ以上奪わせないように、全ての因縁に決着を着ける為に、俺達に別れを告げて一人で行ってしまった…。その時俺は思ったんだ…あいつは、怪童によく似ている…って。」
「…!!」
凍哉と怪童は似ているという言葉を人志の口から聞いた陽菜は、その事について自分にも心当たりがある事を吐露した。
「…私も…凍哉の事について心当たりがあるの…。あの時、彼が私達に別れを告げた時のあの表情…陰りを帯びた笑顔だった…。」
「それがどうかしたのか…?」
「凍哉のあの陰りを帯びた笑顔…何故か既視感があるように思えた…随分前にも、あの表情を見た事があるような…」
「それは…お前の妖怪の始祖の力と何か繋がりがあるという事か…?」
「…それはまだわからない…でも、今はその事を確かめる為にも…凍哉を助けなきゃ…!」
「ああ…。」
二人が凍哉を助け出す為に進む一方で、ヒスイと対立する伊達・樹・愛菜の三人は、絶望的とまで言える力の差を見せつけられていた。
そんな中、伊達は樹と愛菜に命令をした。
「樹、愛菜…今から俺が黒雷でこいつの注意を引く…その隙に、お前ら二人だけでも逃げろ…これは命令だ…。」
「…それは出来ません…人志さんや陽菜さん、それに凍哉さんを置いて逃げてしまったら…奴に勝つ手段が完全に無くなってしまう…!それに、仮にもしこの場から逃げる事に成功出来たとしても…すぐに奴に追いつかれて殺られてしまう事は目に見えてます…僕は何としてもここで奴を倒し、陽菜さんの奪われた始祖の力と凍哉さんを取り戻す事が最優先事項だと思います…!!」
「あたしも同感!あんなクソイカレ女にやられっぱなしで終わるのは、死んでも嫌だからね!!」
「…馬鹿共が…後悔するんじゃねえぞ…。」
二人の確かな成長を感じた伊達は、悪態を吐きながらも三人で眼前の強敵に立ち向かう姿勢を取った。
ヒスイは、そんな三人をまるで嘲笑うかのように笑みをこぼした。
「フフフ…これだけの力の差を見せつけても、まだ私に勝つ事を諦めないだなんて…いい…実にいいわ…やはり戯れは、こうでなくちゃ…。」
そう言い放つとヒスイは、自身の能力で発現させた黒い炎を伊達達に放った。
伊達は黒雷による超スピードで回避し、樹は木の防御壁を錬成して防御するが、愛菜は自身の身体能力の全てを倍に強化し、鬼の力を発現させながら黒い炎を拳でかき消そうとした。
「よせ!!その炎に触れるな!!」
伊達は愛菜に迫りくる黒い炎を黒雷でかき消し、間一髪で愛菜を助けた。
「伊達さん!?何であたしを…!?」
「あの黒い炎には絶対に触れるな…これは直感だが、あれに指一本でも触れたら確実に死ぬ危険性がある…!」
伊達に初見で黒い炎の危険性を見破られたヒスイは、気分が高揚し数えきれない程の黒い炎を発現させ、続けて伊達達に放った。
伊達は黒雷の極致“雷神演武”を発動し、樹と愛菜を守る為に次々と襲い掛かる黒い炎の弾幕をかき消していった。
だが、消し損ねてしまった二つの黒い炎が今まさに樹と愛菜に襲い掛かろうとしていた。
「やべえ…!!こっちに来た!!」
「大丈夫ですよ愛菜さん。こんなもの…僕の能力なら防ぐ事は造作もない!!」
樹は自身の生命エネルギーを高めて木に性質変化し、巨大な木の防御壁を錬成して防いだ。
かに見えたが、二つの黒い炎は巨大な木の壁を貫通してきた。
「な…何だと!!?」
黒い炎が迫り、樹と愛菜は絶体絶命の窮地に立たされるが、伊達が雷神演武による超スピードで急ぎ炎を雷でかき消さんとしていた。
だが、炎は一つしかかき消せず、残った炎を伊達は樹と愛菜を庇う為に己の身を犠牲にして焼かれてしまった。
「…そ…そんな…!!伊達さん…!!嘘だろ…嘘だと言ってくれよ!!」
「伊達さーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!」
樹と愛菜は、自分達二人の為に犠牲になった伊達に対して悲痛の叫びを上げる中、人志と陽菜は胎内の道道を進み続けた先に、遂に凍哉を見つけ出した。
「見つけたぞ!凍哉だ!!」
「うん!あとは私の力を使ってここから脱出するだけ!!」
二人は触手に捕らわれて眠っている凍哉を救出する為、彼の元に向かって走った。
だがそこに、ヒスイの分身体が胎内の血肉から出現し、人志と陽菜の前に立ちはだかった。
「ヒスイ…!!」
「凍哉君の居場所を看破した上に、私の中に土足で踏み入るとは…大したものね陽菜ちゃん…流石は妖怪の始祖…と言うべきかしら?フフフ…。」
「お前…凍哉をどうするつもりだ…?お前の目的は一体何なんだ…?」
「あら?まだ言ってなかったかしら?フフフ…いいわ、この際だから教えてあげる…私の目的は、陽菜ちゃんの中にまだ残っている始祖の力を根こそぎ奪う事…そして、凍哉君の心と体を完全に支配し…私だけの物にする事よ…。」
「…!!」
「…ふざけてんのか…!?」
「いいえ、私は至って真面目よ…私は凍哉君が欲しい…彼の誰よりも強く美しい力、性、血肉、臓物、骨…全てを余す事なく喰らい尽くしてやりたい程、私は凍哉君を愛しているの…。」
人志と陽菜は、ヒスイの真の目的と凍哉に対する激しく歪んだ狂気とも言える程の愛を聞いて、恐怖で身震いしながらも反発し、臨戦態勢を取った。
「…ヒスイ…どうやらお前とは会話にすらならねえようだな…。」
戦う姿勢を見せる人志と陽菜に対し、ヒスイの分身体は嘲笑いながら触手に捕らわれている凍哉の元に近づき、彼に口付けをした。
舌を絡ませながら凍哉に口付けをしているヒスイに、人志は怒りの矛先を向けて突っ走っていった。
「何をしやがる貴様ァァ!!」
炎を身に纏いながらヒスイに向かっていくも、胎内の肉壁から出現した触手によって、人志は身動きを封じられてしまう。
「人志!!」
それに続き、陽菜も触手に捕まってしまった。
「陽菜!!クソッ…放しやがれ!!」
二人が一切の身動きも取れない中、ヒスイは凍哉への口付けを終えていた。
「さあ…目覚めなさい…“私の凍哉君”…。」
ヒスイに口付けをされた凍哉は、彼女の言う通りに目を覚まし、縛っていた触手を凍てつかせ塵にし解放した。
凍哉の目覚めと共に、人志と陽菜を縛った触手も消え失せた。
そして、ヒスイによって目覚められ髪や着物、雪華の眼の色が黒く染まり変わり果てた凍哉を見て、人志と陽菜は絶句した。
「凍哉…お前…!!」
絶句している最中、凍哉は漆黒の氷で人志と陽菜に突如として襲い掛かった。
人志は陽菜を抱いて、雷の性質変化の超スピードで間一髪で躱した。
「陽菜!怪我はないか!?」
「うん…ちょっとビリビリするけど…」
「凍哉!!俺だ!!人志だ!!分からねえのか!?」
「無駄よ…どんなに叫んでも、今の彼の心には響かない…何故なら、たった今凍哉君は私の物になったのだから…。」
洗脳された凍哉の目を覚ます為に必死に凍哉の名を叫ぶ人志を、ヒスイは嘲笑いながらも人志にある提案をした。
「人志君…今の貴方じゃ凍哉君には勝てない…。本当に凍哉君の目を覚ましたいのなら…バサラ君を倒したあの力…“気炎万丈”を使いなさい…。」
「!?何故お前が、“気炎万丈”の事を知っている…!?」
ヒスイに自身の炎の性質変化の極致“気炎万丈”をいつの間に知られている事に驚愕する人志。
だが、驚いているも束の間、凍哉は人志に怒涛の勢いで襲い掛かる。
圧倒的な力の差に、人志は防戦一方を強いられつつあった。
(クソッ…!!このままじゃ凍哉を取り戻すばかりか、最悪全滅してしまう可能性がある…!!この状況を打開するには、やるしかない!!)
絶望的な状況を切り開く為、人志は“気炎万丈”を発動しようとする。
だがそれに対し、陽菜はやめるよう強く言った。
「やめて人志!!その力を使ったら、凍哉も貴方も無事じゃ済まなくなる!!」
「じゃあどうすればいい!?このままじゃ俺もお前も凍哉も、伊達さん達もみんな死んでしまうんだぞ!!」
「私の力で、凍哉の目を覚まさせてみせる!!」
陽菜は内に眠る始祖の力で、凍哉の洗脳を解こうとする。
だが、そんな陽菜を触手達が次々と襲い掛かり、再び拘束されるだけでなく徐々にエネルギーを吸収されてしまう。
「ぐっ…ああっ…アァ…」
「陽菜!!」
「駄目よ陽菜ちゃん…せっかく盛り上がっているところに水を差しちゃあ…フフフ…アハハハハハ!!」
凍哉を洗脳され、陽菜を拘束されてしまい、絶望の底に叩き落されてしまった人志。
そんな状況を何としても打開し凍哉と陽菜を救い出す為に、人志は己の生命を犠牲にして“気炎万丈”を発動しようと全エネルギーを高めて放出した。
「ハアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!」
「フフフ…いいわよ人志君…その短く儚い生命を凍哉君の為に散らしなさい…。」
凍哉と陽菜を救う為に必死になっている人志をヒスイが嘲笑う中、凍哉に異変が起きた。
ヒスイによる口付けで洗脳され黒く染まっている中で、凍哉は僅かながらも意識を持っていた。
そして、自分の為に残り少ない生命を燃やそうとする人志に、凍哉は涙を流しながら心の中で叫んだ。
(やめてくれ…もうこれ以上、俺から大切な人達を奪うのは…!!やめてくれ…!!やめてくれ…!!!)
「…!!凍哉…!!」
凍哉がまだ完全に洗脳されていない事に人志は全員助かる可能性を見出し、諦めずに凍哉の目を覚まさせようとした。
「凍哉!!俺の事が分かるか!?」
「…ひ…人…志…陽菜と…共に…逃げろ…俺の…“眼”から…」
「!!」
人志は凍哉から“眼”というワードを聞いて、今すぐに陽菜を縛っている触手を炎で焼き切り、彼の“眼”の映らない所に避難した。
その様子を見て、ヒスイは怪しいと感じていた。
(おかしい…凍哉君の洗脳は完了した筈なのに、何故か涙を流した…まさか…!!)
「やれ!!凍哉!!!」
凍哉はヒスイの分身体に向かって、黒く染まった雪華の眼を開眼し凍らせ塵にしようとした。
だが、まだヒスイによる洗脳が完全に解ききれなかった為、雪華の眼の力が引き出せなかった。
「フフフ…凍哉君…貴方の身を取り巻く全ての黒は、この私を象徴する色…私の色を全て払拭しない限り、貴方は私の洗脳から解放される事はないわ…最も、洗脳を解く事自体無理な話なんだけどね。」
「そ、そんな…凍哉…!!」
「さあ、“私の凍哉君”…私と凍哉君二人の時間の邪魔をする悪い子達を塵にしなさい…。」
ヒスイは更なる洗脳で凍哉を支配するべく、彼に再び口付けをしようとした。
だがその時、黒く染まった雪華の眼が突如覚醒し白く染まり、胎内のどす黒い空間とヒスイの分身体を凍てつかせ塵にした。
すると、さっきまでドロドロで気味の悪い胎内空間が、辺り一面美しい氷の華となっていた。
「な…何だ…。!?一体、何が起こったんだ…!?それに、凍哉は…!?」
突如空間が変わり、凍哉の姿が消えた事に人志と陽菜は驚愕しながらも、二人は凍哉を探そうとした。
そして、そんな二人の前に、凍哉と同じ雪華の眼を持つ白銀の少女が現れた。
「…凍哉…!?いや、姿こそ似ているが…凍哉じゃない!!お前は、誰だ!!」
眼前の見知らぬ少女に警戒心を持つ人志。
だが、陽菜はその少女を見た瞬間、人間として転生する前の始祖の記憶の全てを取り戻し、涙を流しながら少女の名を口にした。
「氷華…!!何故、貴方が…!!!」