氷華の里にてヒスイとの死闘を制した人志達は、凍哉と伊達を失った悲しみに明け暮れながらも陽菜の始祖の力で長寿館にワープし帰還を果たした。
肉体と精神が疲弊しきった人志達を、愛菜の兄妹や旅館の医療スタッフが迎えようとするも、人志達は愛菜の兄妹から“妖怪殺し”怪童の訃報を知らされた。
「嘘だ…怪童が死んだなんて…嘘に決まっている…!!」
「信じられないかもしれないけど、本当なんだよ人志兄ちゃん!今ニュースでもSNSでも“妖怪殺し”が死んだって話題になってるんだよ!!」
愛菜の兄妹の一人である蓮は、スマホを取り出して人志達に怪童が死んだという情報を見せた。
陽菜は、蓮にその情報の出処は何処か聞き出した。
「蓮君、その情報は何処から出てきたの?」
「えっと…ちょっと待っててね…あれ、どうやってやるんだっけ…?」
「もう、蓮!私に貸して!」
スマホの扱いに不慣れな蓮を見かねて、姉の千尋が強引に取ってスマホを操作する。
「あっ、あった!『2022年〇月×日午後14時12分、妖怪社会を震撼させている“妖怪殺し”怪童が死亡したという情報が出ました。そして、かつて人間と妖怪を共存させる為に導いた最高指導者である後藤博文氏が今日生存していた事が明らかになりました。後藤博文氏は、羅刹一座の壊滅と“妖怪殺し”怪童による甚大な被害の埋め合わせと、“妖怪殺し”を信仰する暴徒達を鎮圧し、この国の真の平和と安寧を実現させるよう鋭意努力しますと述べています。』」
その情報を聞いた人志達は、かつて妖魔帝国本部の陽菜を奪還する戦いで怪童がたった一人で始祖の能力によって強化された妖怪の軍勢達との戦いの後、後藤の手によって殺されたのだと悟った。
「後藤が今になって公の場に出たという事は…怪童は…あの後、後藤に殺された……?」
「…そんな…怪童……!」
ヒスイとの死闘を終え衝撃の事実を知った人志と樹と愛菜は酷く驚愕し、陽菜は凍哉と伊達を失った直後に被さるように悲しみ泣き崩れた。
時は、凍哉が人志と陽菜に別れを告げ、一人でヒスイの元へ向かっていった所まで遡る。
妖魔帝国本部にて妖怪の始祖の力で強化された妖怪・鬼・吸血鬼の軍勢を怪童がたった一人で殲滅した後力尽き倒れ、後藤やヒスイの手によってアジトに捕縛されていた。
怪童は後藤の能力による特殊な鎖で柱に拘束され、まるで息絶えたかのように眠っていた。
「どう?後藤君…怪童君の様子は?」
「ああ…さっきまであんなに暴走していたとは思えないほどに、ぐっすりと眠っているよ…まるで子供のようだ…事実彼はまだ齢16の子供だがね…。」
「フフフ…本当ね…あの鬼神と言われるヒノマル君をも殺してのけるほどの怪物っぷり…惚れ惚れするわ…。」
「まあそれはそれとして、ヒスイ…氷華の一族の末裔の始末はどうした?」
「まだだけど?」
「早く息の根を止めておけよ。私の計画を遂行する上で彼の存在は私にとって最大の障害となりうる…。あの時、あの小娘の存在さえなければ…私の理想は今よりもっと早く叶ったはずなのに…思い出すだけで腹が立ってくるよ…。」
凍哉や氷華に対する恨み節を言う後藤。
そんな後藤に、ヒスイは槍状の黒い炎で突き刺そうとし、後藤はそれを紙一重で回避した。
「急に何をするんだヒスイ…危ないじゃないか…。」
「私の前で氷華の事を軽々しく口にしないで…。殺すわよ?」
凍哉と氷華への恨み節を言った後藤に対し、ヒスイは真っ黒に淀んだ瞳を見開きながらとてつもない殺意を放つ。
そんなヒスイに対し、後藤は内心イラつきながらも気持ちを整理し謝罪する。
「…ああ…すまなかったよ…私が悪かった…以後気を付けるよ…。」
後藤がヒスイに謝罪し場を丸く収めた後、和真が後藤に怪童の処分を科すよう強くせがむ。
「後藤様!一刻も早く怪童に止めを!この怪物の生命力はゴキブリ以上です!いつ我々に襲い掛かってくるか分かったものじゃありません!」
「…それもそうだな…。」
和真の要請を受け、後藤は怪童の息の根を止めようとするも、ヒスイは妖しい笑みを浮かべながらある提案をする。
「ねえ、一つ提案があるんだけどいい?」
「何だね?」
「私の血を怪童君に分け与えて吸血鬼にして、こちらの勢力に加えるっていうのはどう?」
「ヒ、ヒスイ様!?何を言って…!?」
「だって、戦力は多いに越した事はないでしょう?これから私が物にする凍哉君に加えて怪童君のような強者をこちら側に引き入れたら、もう勝ったも同然じゃない?」
「…なるほど…確かに言えてるな…。」
「それに、確かめてみたいの…。“妖怪殺し”という稀代の怪物が、“超越者”たる私の血にどう適応するのか…。」
ヒスイは好奇心を抑えられず、人差し指を伸ばし気絶している怪童の肉体に突き刺し、体内の血管から吸血鬼の血液を大量に注入した。
すると怪童は目覚め、ヒスイの血で吸血鬼になりつつあった。
だが、怪童の人間を守る戦士としての本能がヒスイの血を激しく拒絶し、呻き声を上げながら全身に激しく力を込めた。
そして遂に鎖から解き放たれ、怪童はヒスイの吸血鬼の血に自力で打ち勝ち復活した。
「な…な…何なんだよこいつ…!!?」
鎖から解き放たれた怪物に、和真を含め大妖怪相当の実力者である後藤の部下達は激しく戦慄するも、ヒスイは自身の血を唯一拒んで退けた怪童に激しく驚愕し、頬を赤く染めて股を濡らしながら好意を寄せる。
「…素晴らしい…!!素晴らしいわ…!!!吸血鬼にならずに…人間のまま維持してのけるだなんて!!!」
眠りから目覚めた怪童は、己に血を与え吸血鬼にしようとしたヒスイに対し、対象を無力化し空間ごと削り取る能力と空間打突の併せ技で削り取ろうとする。
それに対しヒスイは、細胞分裂して怪童の必殺の一撃を難なく回避してのけた。
「寝起きにいきなり襲い掛かってくるなんて…随分精力旺盛なのね…。」
「あの時言ったはずだ…ヒノマルを殺した後、次はお前だとな…。」
余裕の笑みを浮かべるヒスイと、迷いのない剝き出しの殺意を見せる怪童。
そんな二人の衝突を避けるべく、後藤は割って入った。
「ヒスイ…君には氷華の一族の末裔と妖怪の始祖を葬る大事な仕事を任せている…。私としても君にはここで無駄な戦いをしてほしくないのだよ…。」
ヒスイは少し残念がりながらも、後藤に言われた通りに矛を収めた。
「ごめんなさいね怪童君…お互いお楽しみはお預けという事で…ね♡」
凍哉と陽菜の始祖の力を奪う為に、ヒスイは無数の蝙蝠と化し怪童の前から姿を消そうとするも、怪童はそれを許さず追撃を仕掛けるも後藤によって阻止された。
「怪童…すまないが彼女はあれでも忙しい身でね…その代わりとしては何だが、私が君の相手になってあげようか…。」
怪童を挑発する後藤に、和真や部下達が加勢しようとする。
「後藤様の手を煩わせるわけにはいきません!ここは俺達が!!」
「よしなさい…大妖怪クラスの君らが束になったところで今の彼にはかすり傷一つ負わせる事すら出来はしない…。」
部下達の加勢を制止した後藤に、怪童は拳を強く握りしめながらとてつもない殺気を放つ。
「全員でかかってこいよ…本気で俺を殺すつもりならな…。」
怪童のとてつもない殺気と覇気に和真と部下達は激しく戦慄しながらも、後藤は全く余裕の表情を崩さずにいた。
「まあそう焦らずとも、今から君と私の戦いにうってつけの舞台を用意するよ。」
そう言い放った後藤は指を鳴らし、アジトの殺伐とした空間をある場所に塗り替えた。
それはかつて、人志・陽菜・怪童が育った養護施設カモミールがあった場所であり、今となってはバサラの手によって死んでいった恩師と子供達の墓標である。
「始祖の能力は、願望・意志を具現化させる事が出来る…空間を自分好みに塗り替える事くらいわけないさ…。どうだい?まさに君にはうってつけの戦いの舞台じゃないか!君の弱さのせいで死んでしまった恩師と多くの子供達の魂が眠っているこの墓場で、君は私の手によって惨たらしい死を迎えるのだからね!」
殺伐としたアジトからカモミール跡地へと空間を塗り替えた後藤は、今までの戦いで傷付き果てた怪童に精神攻撃をし始める。
だが、怪童はそれを物ともせずに言葉を投げかける。
「下らん…今更こんなハリボテの空間を用意したところで何になる…ここはもう、俺には過ぎた場所だ…。」
「そうかい…まあ、私も今更昔話に耽る暇はないからね…じゃあ、死んでもらうよ。」
後藤は、自身の霊力と始祖の妖力をブレンドさせたエネルギーの塊を創り出し、怪童に放った。
放たれた霊力と妖力のエネルギー弾を、怪童は右手の能力で触れて完全に無力化し空間ごと削り取り、左手の能力で後藤に跳ね返そうとしたその時、怪童の右手に異変が生じる。
右手で触れて無力化させたはずのエネルギー弾が何故か無力化出来ず、怪童はダメージを負ってしまう。
「何故だ?って顔をしているね…教えてあげよう…さっき君に放ったエネルギーの塊は、君の厄介な右手の能力を封じる為に編み出した特殊なものでね…君の右手、もう使い物にならないよ。」
後藤の始祖の力によって、右手の能力を完全に封印されてしまった怪童は、表情一つ変えずにいた。
「それがどうした?」
すると、怪童は左手を後藤に向けて構え始めた。
左腕全体の筋肉が盛り上がり、まるで風船のように膨れ上がったその時、怪童の左手の掌から物凄い勢いで血肉が放出された。
怪童が今まで削り取って来た数えきれない程の妖怪・鬼・吸血鬼達の血と肉と骨が、強大なエネルギー砲のようになって後藤に放たれた。
後藤はそれを紙一重に回避し、怪童の底知れぬ能力と強さを改めて再認識した。
「やはり君は、始祖に次ぐ程の凄まじい力を持っている…それ故に惜しいよ…そんな力を持っていながら、妖怪達から人々を守る為などと下らない使命と責務に踊らされているだなんて…。一体何だって君はそこまで身を挺してまで下らない人間共の為に戦うのかね?君にとって人間は、己の命をも投げ捨ててまで守る程の価値があるのかね?」
怪童は後藤の問答を無視し、戦戦兢兢でヒノマルを喰い殺して奪った能力「空間打突」で後藤を圧倒的な攻撃力と破壊力で殺そうとする。
防御・回避共に不可能の必中必殺の能力に、後藤は為す術がないように見えたその時、後藤は不敵な笑みを浮かべてある能力を発動した。
ありとあらゆる能力の効果を遮断する「次元障壁」という能力を以てして、怪童の空間打突を無効にした。
「残念だったね…君の能力は、私には届かないよ…。」
右手の能力を封印され空間打突をも無効にされた怪童は、それでも諦めずに闘志を燃やし後藤に体術による猛攻を仕掛けた。
「やはりそう来るか…。」
後藤は余裕の笑みを浮かべながら、怪童の攻撃を捌いていく。
後藤と怪童の体術による一進一退の激しい攻防が続く中、怪童は中段蹴りによるフェイントを織り交ぜながら上段蹴りを素早く仕掛けた。
上段蹴りは見事に後藤の頭部を直撃し、後藤は頭に血を流しながら崩れ落ちるように体幹を崩した。
勝機を見出した怪童は、倒れ込んだ後藤に拳によるとどめの一撃を喰らわせた。
拳は後藤の身体を貫き、戦いは怪童の勝利と思えたその時、後藤はまるで己の勝利を確信したかのように不気味に笑っていた。
「怪童…やはり君は素晴らしい逸材だ…何千年何万年経っても、君のような者は今後生まれてはこないだろう…だから、本当に残念でならないよ…。」
そう言い放った後藤は、あらゆる物理攻撃を跳ね返す「衝撃反転」という能力を発動し、怪童のとどめの一撃をそっくりそのまま跳ね返した。
怪童は己自身の拳の一撃によって身体に風穴を開けられ、意識を失くし戦闘不能状態となってしまった。
後藤は始祖の能力を使って身体を再生させ、倒れ込んだ怪童にゆっくりと近づいていく。
そして、後藤は怪童の首を掴んで持ち上げながら、怪童の脳を破壊し最後のとどめを刺した。
稀代の怪物“妖怪殺し”怪童は、今この瞬間息絶えた。