戦の鉄則   作:並木佑輔

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第38話 怪童

後藤の能力「衝撃反転」によって攻撃を跳ね返され、脳を破壊されて息絶えてしまった怪童。

 

怪物同士の死闘は、後藤に軍配が上がった。

 

後藤の勝利に部下達は歓喜し、和真は後藤に駆け寄っていった。

 

「あの怪物を難なく殺してのけるとは…流石は後藤様です!!」

 

「和真…難なくとは彼に失礼だよ…こうなる事になるであろうと、彼の事は何から何までとことん対策してきたからね…。触れた対象を完全に無力化し空間ごと削り取る右手に、防御・回避共に不可能の空間打突…そして、極め付けは全妖怪の頂点に立つ大妖怪達をも上回る程の身体能力…どれも規格外のもので、正直彼を早めに始末出来てホッとしているよ…。後はヒスイが氷華の一族の末裔と人志達を始末し始祖の能力を根こそぎ奪ってくれたら、私の計画を妨げる要素は全て無くなる…。」

 

己の理想が叶う時がもうすぐそこまで迫っているという感覚を覚えた後藤は、邪悪な笑みを零しそうになりながらも必死に噛み殺そうとしていた。

 

そんな中、後藤に脳を破壊されて死亡した怪童は、魂となって今までの自分の人生を走馬灯のように振り返っていた。

 

「お前はどんな恐ろしい怪物が襲い掛かってきても必ず打ち勝つ強い子供になるんだ…お前はこの世で唯一無二の戦士“怪童”なのだからな…。」

 

「……はい…母さん……。」

 

「嫌っ!!嫌ああっ!!怪童!!見てないで助けろ!!!私が何の為にお前を育てたと思っている!!!怪童ォォッ!!!!」

 

「…何でだよ…何で立ち向かわなかったんだよ…!!何で見捨てたんだよ…!!!何の為に今まで鍛錬をしてきたんだよ!!!母さんは…俺を強くする為に今まで鍛えてくれたのに…!!俺を立派な戦士にする為に育ててくれたのに…!!!何で俺は…その思いに応えられねえんだよ…!!!」

 

幼少期の怪童は、弱い自分自身を呪い血眼になって泣き叫びながら妖怪達と孤独に戦い、己の肉体と精神を極限にまで追い込み続けた。

 

2年の月日が流れ、6歳になった怪童は野良妖怪達が彷徨う森の中で一人の少女と出会う。

 

ボロボロになりながらも野良妖怪達に襲われているその少女を怪童は救い、少女にこう問いかけた。

 

「…お前…親はどうした…?」

 

「…お母さんとお父さんは…妖怪に殺された…今は、私だけ……。」

 

涙を流しながら虚ろな目で答える少女に、怪童は手を差し伸べながらある言葉を投げかける。

 

「俺についてこい…戦士として、命に代えても俺がお前を守り通す…。」

 

少年の迷いのない黒い眼に惹かれながら、少女は差し伸べられた手を掴み、共に森から出ようと行動した。

 

腹を空かせて次々と襲い掛かってくる野良妖怪達に、怪童は少女を守る為満身創痍になりながらも薙ぎ倒していく。

 

「もうやめて!!そんなボロボロな身体でそれ以上戦ったら…本当に死んじゃう!!私の事はもういいから!!!」

 

「…化け物共が何人束になってかかろうが…恐るるに足らん…!!俺は…怪童だ!!!!」

 

それからしばらくして、遂に森の出口が見えた矢先に怪童は限界を迎え倒れ込んでしまう。

 

少女は、意識を失くした少年を背負い涙を流しながら必死に周りに助けを呼び掛けた。

 

「怪童!!お願い死なないで!!!誰か…誰かいませんか!!!いたら返事を…返事をしてください!!!私の事はいいから…この人を…この人を助けてください!!!」

 

必死に呼びかけるも現実は虚しく、野良妖怪達が少女の声に釣られて囲む。

 

よだれを垂らしながら、一斉に少年と少女を喰い殺そうと襲い掛かる妖怪達。

 

そんな絶体絶命の危機に、一人の女性が群がる妖怪達を一太刀で全て斬り捨てる。

 

その女性は、少数精鋭の霊能力者集団「守天豪傑」の生き残りの一人で、養護施設「カモミール」の設立者の橘茜であった。

 

「妖怪達は全て斬り捨てました…もう大丈夫ですよ…。」

 

「あ…貴方は…!?」

 

「私の名前は橘茜、通りすがりのしがない霊能力者です。」

 

「茜先生、見た所こいつが一番重傷です。しかも完全に意識を失くしてます。急いでカモミールまで運びましょう。」

 

「ええ、そうですね人志。安心してくださいお嬢さん、私達がこれから貴方とその男の子を安全な場所まで連れて行ってあげます。もう怯えなくても大丈夫ですよ。」

 

少女は、橘茜と名乗るその女性の言葉を受けて安堵し眠りにつき、橘茜と人志は傷つき疲れ果てた少年と少女を負ぶって養護施設「カモミール」へと向かった。

 

そして数日後、カモミールの療養室にて怪童は目を覚ました。

 

するとそこに、怪童の寝床の傍らに少女の姿があった。

 

「…お前…無事だったのか…怪我はないか…?」

 

「うん…ありがとう、怪童…こんな私を助けてくれて…。」

 

「…戦士として、当然の事をしたまでだ…。」

 

お互い無事である事に安堵する二人。

 

そして、少女は少年に自分の名を口にした。

 

「私の名前…陽菜っていうの…。」

 

「…そうか…いい名前だな…。」

 

それが、陽菜との出会いだった。

 

するとそこに、この施設の設立者である橘茜が療養室のドアを開けて怪童の安否を確認してきた。

 

「おや、目を覚ましたようですね。身体の具合はどうですか?」

 

「…いえ、俺は何ともありません…それに、こんな見ず知らずの俺や陽菜を助けていただきありがとうございます…。」

 

「いえいえ、子供達の未来を守る施設の設立者として当然の事をしたまでです。あっ、そういえば自己紹介がまだでしたね!私の名前は…」

 

「橘茜…少数精鋭の霊能力者集団「守天豪傑」の生き残りの一人…。」

 

「あら、バレちゃいましたか!いやあ、有名というのも考え物ですねえ!」

 

「昔、母から守天豪傑についてよく聞かされました…俺を戦士として、守天豪傑の者達をも遥かに上回るように強くなれと…耳に胼胝ができるほど言い聞かされました…。」

 

「…そうですか…。」

 

橘茜との会話を済ませた怪童は、寝床から起き上がり療養室から出ようとする。

 

だがそれを、橘茜が呼び止める。

 

「何処へ行く気ですか?」

 

「…俺は戦士の母から生まれた男です…。妖怪達から人間を守るという責務を全うする為に、俺はこんな所で休んでいる訳にはいかないんです…!!」

 

怪童は戦士としての責務を果たす為、まだ癒えてない傷だらけの背中を陽菜と橘茜に見せてカモミールから去ろうとする。

 

「そうですか…貴方がそこまで言うのなら、私も無理には止めません…。ですが、今の貴方では戦士の責務を果たすどころか、己の身一つすら守れずに犬死にすると思います。」

 

自分の弱さを指摘された怪童は、橘茜の方へと振り向き睨んだ。

 

「まずはここで傷付き果てた心と身体を癒す…戦士の責務を果たすのは、それからでも遅くはないと思いますよ?」

 

橘茜に指摘され冷静になった怪童は、陽菜と共にカモミールで暮らすことになった。

 

それから数ヶ月後、カモミールの屋外にて怪童は己の弱さと過去のトラウマを克服する為に日々懸命に自己鍛錬に勤しむ。

 

そんな怪童に、一人の少年が距離を縮める。

 

「お前、怪童っていうんだっけ?陽菜って子から聞いてきたんだけど…。」

 

「…俺に何の用だ…?」

 

「俺に体術を教えてくれ!」

 

「…は?何で俺なんかに…」

 

「いや、大した理由はないんだけど…さっきの身体の動かし方とか見てて凄くかっこよかったし…俺もあんな風になりたいなって思ってさ、だからお前に直接師事しようと思った。」

 

怪童は見ず知らずの同年代の少年に初めて自分の事を認められて、胸の内で少し自分が救われたと感じた。

 

そして、怪童は照れ隠しで少年に背を向けて去ろうとする。

 

「…勝手にしろ…。」

 

「…?って事はOKって事か?ありがとな怪童!ああそれと、俺の名前は人志!人に志って書いて人志だ!よろしくな!」

 

少年の名を聞いた瞬間、怪童は足を止めて複雑な心情を抱いた。

 

(人志…人の志と書いて人志…俺と正反対の名だ…。)

 

それが、人志との出会いであった。

 

それからカモミールで橘茜の下で授業や身を護る術を学んだり、人志に体術を教えたり、春のお花見や夏の西瓜割りや花火大会、冬のクリスマスパーティーなど施設内の行事にも参加したり、カモミールの皆と集合写真を撮ったりと、少しずつ怪童の心体の傷は癒えていった。

 

そして11歳の時分、怪童は相も変わらず満月の夜の桜の木の下で汗水流して自己鍛錬に勤しんでいた。

 

そんな怪童に、陽菜は水のペットボトルとタオルを手に持って怪童を労わろうとする。

 

「怪童!そろそろ休憩しないと…!」

 

「…陽菜…悪いな…。」

 

「ううん…私は、同じ施設の仲間として当然の事をしたまでだから…。」

 

怪童は陽菜から渡されたタオルで汗を拭き、水のペットボトルを余すことなく全て飲み干した。

 

その後しばらく沈黙が続いた後、陽菜が怪童を心配するように話しかけた。

 

「怪童…身体の方はどう?何ともない?」

 

「…別に、俺は何ともないが…どうしたんだ急に…?」

 

「あ、いや、その…大した理由はないんだけど…貴方の事が心配で…あの時、貴方に助けてもらった恩があるから…。」

 

「…そうか…ありがとうな、陽菜…。」

 

「ううん…どういたしまして。」

 

しばらく二人の時間が進む中、怪童は陽菜にこう問いかけた。

 

「なあ陽菜…」

 

「ん…?」

 

「お前にとって俺はどういう存在だ…?」

 

「…え…?ど、どうしたの急に…?」

 

「俺は今まで、妖怪から人間を守る戦士として…“怪童”として生きるように…母から徹底的に叩き込まれた…。そうして今まで己を追い込んできた結果、俺は群れ為す妖怪共に化け物扱いされて、子供達にも怖がられてきた…。俺は、自分がちゃんと戦士としての責務を全うできているのか…“怪童”として生きていけているのかどうか…そう突き詰めている内に、自分自身が分からなくなってきたんだ…。」

 

「怪童…」

 

「教えてくれ、陽菜…お前にとって俺は何だ…?」

 

怪童にそう問いかけられた陽菜は、怪童の今までの心労を察して手を優しく握りながら答えた。

 

「怪童…貴方は誰よりも自分の行いに責任を持てる強い人で、誰よりも人の痛みを理解できる優しい人で、誰よりも自分自身を許せずにいる悲しい人…。」

 

「…陽菜…」

 

「貴方は決して化け物なんかじゃない…貴方は怪童…私の命の恩人で、私にとってかけがえのない大切な人です…。」

 

陽菜は頬を赤らめて涙ぐみながら怪童に自分の想いを伝えるも、感情を堪え切れず涙を流してしまう。

 

「あ、ああ…ごめんなさい…何か、急に涙が出てきちゃって…」

 

ポロポロと涙が零れていき、感情を抑制する為に自分の手で拭い去ろうとする陽菜に、怪童は優しく抱きしめる。

 

「…ありがとう…陽菜…こんな俺を、大切に想ってくれて…。」

 

「…怪童……!」

 

「約束する…俺はこの先どんな敵が襲い掛かってきても、絶対に打ち勝つくらい強くなってみせる…。もう二度と、誰も殺させはしない…もう二度と、誰も悲しませはしない…。お前がずっと笑顔でいられるように、強くなってみせる…俺のこの生命に代えても…必ず…!!」

 

怪童は陽菜の想いに応えるように、陽菜との間に、そして己自身に鉄の誓いを立てて生きようと決意する。

 

誓いの言葉を受けた陽菜は、涙を流しながら怪童に笑顔を見せて答えた。

 

「…うん…!!約束だよ…怪童…!!」

 

満月の夜、桜の木の下で小さな花達が咲き誇る中、二人の少年と少女は約束を誓い合った。

 

そんな中、人志が気分転換に外の空気を吸う為に偶然通りかかり、抱きしめ合っている二人を茶化すように絡んできた。

 

「おやあ?何やらお二人さん、結構熱い感じになってるみたいですね~。もしかして、このままキスにまで発展したりして?」

 

笑いながら茶化してくる人志に、陽菜は顔を激しく赤らめて強く否定する。

 

「ちょっ!?人志!!ちちち、違うの!!これはその…色々と事情があって…」

 

必死になっている陽菜に、人志は面白がって更に茶々を入れる。

 

「ふ~ん、どういう事情があったのかな?誰にも言わないから俺に教えてみなよ。」

 

余計な茶々を入れられ、恥ずかしがって絶句する陽菜。

 

そんな陽菜に、怪童は笑いながらある提案をする。

 

「あーあ、雰囲気ぶち壊されちまったな…なあ陽菜?」

 

「え?」

 

「ムカつくからあいつシメようぜ?」

 

「…うん…!!」

 

怪童の提案に陽菜は笑顔いっぱいで答えて、二人で人志をシメる為に追いかけまわした。

 

「この野郎!人がせっかくいい雰囲気になっていたのに水差してきやがって!」

 

「ちょちょっ!?やめろ怪童!お前がかけるプロレス技はマジでシャレになんねえって…ぐええ!!?」

 

「そうだそうだ!私のも喰らえ!」

 

「ちょっ!?ブハハハハハハ!!おい!やめろ陽菜!!プロレス技かけられながらのくすぐりはマジで死ぬ!!死ぬって!!!ハハハハハハハハ!!」

 

満月の夜、三人の少年少女は疲れ果てるまでじゃれ合い笑い合った。

 

そして12歳の時分、陽菜の内に秘めたる妖怪の始祖の能力を狙って羅刹一座の大妖怪バサラとその右腕のザクロの急襲を受ける。

 

恩師の橘茜と下の子供達、そして人志と陽菜を守る為に戦ったが力及ばず敗れ、恩師と子供達と大切な場所であるカモミールを全て壊されてしまい、伊達恭次郎の介入により三人は辛くも命は助かった。

 

だが、怪童は生き残った三人の中で最も重傷を患い意識不明の状態になっており、数ヶ月間集中治療室にて治療を受けていた。

 

そんな中、怪童は夢を見ていた。

 

人志や陽菜と三人で海や山に行き、様々な国々を旅して回る夢を見ていた。

 

カモミール襲撃の前夜に、三人で話し合っていた事が夢という形となって出てきたのである。

 

そして夢は最悪な結末となり、バサラの全てを捻じ切る暴風によって人志と陽菜がバラバラになって殺されてしまう。

 

絶望的な如何ともしがたい力の差を見せられ、怪童は血だまりとなった地面にバラバラに転がった人志と陽菜の死体を見下ろして涙を流しながら膝を突く。

 

「人志……!!陽菜……!!」

 

バサラは深く絶望している怪童の頭を掴み、精神を壊すように耳元で囁く。

 

「お前が弱いからこうなるんだよ。」

 

悪意ある言葉を耳元で囁かれ頭を握り潰されたと同時に、怪童は夢から覚め意識を取り戻した。

 

「俺が…俺が…弱いせいで…先生も…子供達も…皆…皆……」

 

そして、怪童は何も守れなかった自分自身の弱さを激しく呪い、目から涙を流すように血を流した。

 

そんな中、怪童の脳裏には人志と陽菜がいた。

 

「……人志……陽菜……」

 

怪童はまだ重傷にも関わらず病床から起き上がり、陽菜の始祖の能力の影響を受けて強化され手に入れた空間ごと削り取る右手の能力で壁を削り取り外に出た。

 

怪童は一歩ずつ一歩ずつ血の跡を残しながら歩み、恩師の橘茜と子供達の死体が転がっているカモミール跡地まで足を運んだ。

 

怪童は自分の弱さで大切な者達を殺したという罪を自覚しながら恩師と子供達の死体を一人で全て埋め、計六十七基の墓標を建てた。

 

そして、自らの手で建てた墓標の前に怪童は鉄則を立てる。

 

「人志……。陽菜……。俺が…殺させない…一人残らず…殺し尽くす…。」

 

その後、人志と陽菜が怪童を病室まで連れ戻す為に駆けつけに来たが、怪童はそれを拒否する。

 

人志は意地でも連れ戻す為に怪童と戦おうとするも、怪童には届かず惨敗してしまう。

 

そして、怪童は人志に「どんなに頑張っても自分には到底敵わない」という絶望的な力の差を思い知らせる為、自分を追わせない為に人志の右腕を引き千切った。

 

救援に来た伊達の黒雷を喰らいながらも耐え陽菜の涙の叫びにも応えず、怪童は傷だらけの背中を見せてカモミール跡地を去った。

 

やがて怪童はその右手で数多の妖怪・鬼・吸血鬼達の屍の山を築き上げ、遂には大妖怪をも殺せる程の力を持つ怪物以上の怪物となり、“妖怪殺し”として妖怪達が支配するこの世界に君臨する事となった。

 

そして、怪童との死闘を制し勝利の美酒に酔いしれる後藤の前に異変が生じる。

 

脳を破壊されて息絶えたはずの怪童が、ゆっくりと起き上がりその黒い眼で後藤とその部下達を激しく睨み付けた。

 

「そ…そんな馬鹿な…!!?」

 

後藤の部下達が恐怖に慄く次の瞬間、後藤は目にも映らぬ速さで怪童に顔面を蹴り飛ばされた。

 

「後藤様!!?」

 

後藤を蹴りで吹っ飛ばした怪童は、そのまま超スピードで一気に駆け抜けて続けて拳のラッシュを叩き込もうとした。

 

「ぐっ…!!忘れたのかい怪童?私には衝撃反転があるという事を…!!」

 

来る拳の連撃に備えて、後藤は不敵な笑みを浮かべてあらゆる物理攻撃を跳ね返す能力「衝撃反転」を発動しようとする。

 

拳が後藤の肉体に衝突した瞬間、衝撃反転の効果が発動しダメージを跳ね返せると確信したその時、何故か怪童にダメージは跳ね返らず後藤は会心の一撃をもろに喰らった。

 

「ごはあっ!!?な…何故だ…ありえない…!!力が強すぎて…反転でき…」

 

怪童の肉体は、既に後藤の手によって死んでいる。

 

だが、戦士として・怪童としての責務を果たすという信念と、人志と陽菜を殺させないという執念が、死に果てた肉体を突き動かしていた。

 

後藤に会心の一撃を喰らわせた後、怪童はすぐさま拳の連撃を喰らわせ蹴りで上空まで吹き飛ばした。

 

猛攻は止まる事を知らず、怪童は続けてヒノマルから奪った空間全体に拳の衝撃を発生させる能力「空間打突」で、更に後藤に追い打ちをかけようとする。

 

(まずい!!アレが来る…!!)

 

防御・回避共に不可能の空間打突を恐れ、後藤はあらゆる能力の効果を遮断する「次元障壁」で防ごうとする。

 

だが、怪童の空間打突は後藤の次元障壁をも破壊し、決定打のダメージを与えた。

 

(ば…馬鹿な…!!!こんな事…絶対に…絶対にあり得ない!!!脳を破壊して完全に息の根を止めたはずなのに!!!何故戦える!!?何がこいつをここまで突き動かしている!!?)

 

怪童は攻撃の手を一切緩めず、必殺必中の空間打突を連続で発動し後藤を完全に亡き者にしようと、咆哮を上げながらひたすら攻撃し続けた。

 

怪童の空間打突を連続で喰らい、後藤の肉体はもはや原型を留めていなかった。

 

ボロ雑巾のように地面に横たわっている後藤に、怪童はゆっくりと歩み寄り見下ろしながら拳を握りしめてこう言い放つ。

 

「俺は戦い続ける…あいつらの命を奪おうとする者共を…一人残らず殺し尽くすまで…」

 

一点の曇りもない剝き出しの殺意を表す黒い眼に、後藤は不気味に笑いながら怪童に賞賛の言葉を贈る。

 

「フ…フフフフフ…素晴らしい…たった一つの執念のみで完全に死した己の肉体をここまで突き動かす事が出来るなんて…一体誰が想像できよう…!!怪童…やはり君は紛れもなく、怪物だ…!!!」

 

後藤に完全なる止めを刺す為に、怪童は血が滲む程強く握りしめた拳を振り下ろそうとした。

 

「後藤様!!!」

 

振り下ろされる拳に、和真を初め後藤の部下達が死を覚悟して後藤を救援しようと動き出した次の瞬間、突如後藤と怪童の間に眩い光が生じた。

 

「な…何だ!!?」

 

刺すように激しい光が両者を包み込み、和真達はあまりの眩さに手をかざし目を瞑る。

 

眩い光が収まった後、目を開けた和真達は信じられない光景を見た。

 

それは、さっきまでボロ雑巾のように地面に横たわっていた後藤が元の状態に戻り、怪童の姿は突如光と共に消え去ったのであった。

 

「ご…後藤様…これは一体…!?」

 

「フフフフフ…和真…どうやら私は成功したようだ…」

 

「せ…成功…!?」

 

「ああ…怪童に殺されるあの瞬間、私は大きな博打に出たのだよ…始祖の能力を使い、怪童の肉体を吸収し能力までも奪い取るという博打にね…。始祖の能力は基本何でも出来るが怪童は始祖の能力の影響を受けて強化された能力者且つ、能力の影響を受けているから始祖の力に耐性があるのだよ…彼のみならず、人志にもね…。失敗すればそのまま彼の執念によって殺される…あれは本当に一か八かの賭けだったよ…。だが、今こうして私は立っている…私はあの怪物に勝利したのだ…!!!」

 

怪童の肉体と全ての能力を吸収し、後藤は歓喜の高笑いを上げた。

 

その後、後藤は妖怪や鬼・吸血鬼をも超越した究極の生命体を造り、まだ見ぬ新世界を創設するという計画の為に、自ら公の場に出て人間や妖怪達を先導しようと行動した。

 

そして今現在、ヒスイとの死闘を制した人志達は“妖怪殺し”怪童の訃報を知らされる事となった。

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