戦の鉄則   作:並木佑輔

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第39話 最後の休日

“妖怪殺し”怪童が死んだという情報を聞かされ、更に後藤博文が遂に公の場に出て本格的に動き出した事を知った人志達は、来る最後の戦いを予感しながら各々治療を受けた。

 

数日後、戦いの傷を癒した人志は外に出て数時間自己鍛錬をした後、瞑想に耽りこれまでの死闘の数々を振り返っていた。

 

魔都東京にてバサラの右腕ザクロとの戦い、選定にて絵札の四銃士や凍哉との戦い、伊達の元での修行と妖魔帝国本部にて羅刹一座の大妖怪オニタケとバサラとの激闘、そして氷華の里にて“超越者”ヒスイとの死闘を経て、人志は成長し格段に強くなった。

 

だが数々の死闘を積み重ねた結果、人志の身体は傷尽き果て気炎万丈のリスクによって寿命が大幅に削られ、挙句の果てにはヒスイとの死闘で戦友である凍哉と実戦の師である伊達恭次郎を失ってしまったという現実を、人志は噛み締めながら重く受け止めた。

 

そんな中、人志の元に樹が心配して駆けつけて来た。

 

「人志さん…具合はどうですか?」

 

「俺の方は大丈夫だ…そっちはどうだ?」

 

「ああ、はい、僕は大丈夫です…陽菜さんや愛菜さんの体調の方も問題ありません。」

 

「そうか…それはよかった…。」

 

「あの、それと人志さん…」

 

「何だ…?」

 

「次で最後になりますね…僕達の戦い…。」

 

「…そうだな…。それと、俺の寿命ももうあと僅かしか残されていない…ざっと見積もって、あと十数日ってところか…。」

 

人志の口から余命があと僅かしか残されていない事を聞かされた樹は、表情を曇らせた。

 

その時、樹の表情が曇ったと同時に天候も曇り始め、二人の頭上に雨が降り注ぐ。

 

「…邪魔くせえな…樹、俺から離れていろ。」

 

「え…?ひ、人志さん…?」

 

「いいから離れていろ…なるべく遠くにな…。」

 

人志は樹に自分から離れるよう指示し、雨雲を睨み付けながら己の生命エネルギーを極限にまで高め、炎に性質変化させて頭上の雨雲に向けて放った。

 

すると、雨雲が跡形もなく焼き尽くされ晴天の空となり日の光が差す中、樹は人志の圧倒的な生命エネルギーの炎に驚きを隠せずにいた。

 

(凄い…気炎万丈を使ってもいないのにこの火力…!!僕の見立てが間違っていなければ、今の人志さんは素の状態で大妖怪クラスをも上回る程に強くなっている…!!)

 

樹が驚愕の表情を露わにする中、人志は一点の曇りもない眼差しを樹に向けながら笑顔で話した。

 

「樹、愛菜を呼んできてくれ…いつもの場所で最後の戦いに向けて、三人で合同訓練だ。」

 

「は、はい!」

 

樹は人志に言われた通りに愛菜を呼んで、長寿館の地下5階の訓練場にて最後の仕上げとして合同訓練を開始した。

 

数時間後、三人は一通りの訓練を終え休憩に入るも、愛菜が人志に話しかけに来る。

 

「あのさ、人志…この後時間ある?場所を変えてちょっと二人で話したい事があってさ…。」

 

「ああ、いいぞ。」

 

二人は地下5階の訓練場からエレベーターで1階に上った後、人志は深刻な表情をしている愛菜に気を懸けながらも話をしようとする。

 

「話って何だ?」

 

「…ああ…話ってのはその…あんたの余命についての話がしたくて、ここに呼んだんだ…。」

 

話を始めた途端に愛菜は一旦黙り込み、悲しい気持ちで胸がいっぱいになりながらも自分の想いに正直になろうと決意し話を続ける。

 

そんな中、陽菜はたまたま二人が話している所を見かけ、物陰に隠れて二人の話を聞こうとしていた。

 

「あんたの能力、他の人から生命エネルギーを貰って寿命を延ばす事は出来るか?」

 

「愛菜…お前…」

 

「あたしの寿命の半分をあんたにあげるから!!あたしは鬼の血を引いているから、鬼と同じように何百年何千年と生きられるから寿命の半分くらいどうって事ない…。それと、あたしはね人志…あんたの事が好きだ…仲間として、人間としてあんたの事を誇らしく思っている…だから、あんたには長生きしてほしいんだよ…!!!」

 

必死に涙を堪えながら自分への想いを真っ直ぐに伝えた愛菜に対し、人志は歩み寄って肩に手を置きながら優しい笑みで応えた。

 

「ありがとう、愛菜…。俺も愛菜の事、仲間として、鬼の血を引く人間として好きだ…。それと愛菜には申し訳ないけど、俺は人の命を奪ってまで長生きしたいとは思わない。俺が始めた戦いだから、俺の手で決着を着けたいんだ…だから、お前の命はお前の未来の為に使ってくれ。

ありがとうな、愛菜…じゃあな。」

 

話は終わり、人志は愛菜の反対方向へと行き外に出た後、愛菜は感情が堪え切れなくなり大粒の涙を流しながらその場に立ち尽くした。

 

物陰から二人の話の一部始終を聞いた陽菜も、表情を曇らせて重い現実を受け止めていた。

 

訓練と愛菜との話を終えて、外に出て座り込んで風に吹かれている人志。

 

そんな人志の元に、陽菜が駆けつけて来た。

 

「陽菜…。」

 

「人志…身体の方はどう?」

 

「ハハハ、それ樹にも同じこと聞かれたよ。今日はやけに人から心配されるなあ。」

 

誤魔化して笑っている人志の傍らに、陽菜は体育座りで座る。

 

「少しの間、貴方の傍にいてもいい?」

 

「ああ…。」

 

それから少し時は流れ、風に吹かれながらも人志は陽菜に語り掛ける。

 

「風が冷たいな…」

 

「うん…4月とは思えないくらい酷く冷たい…」

 

「俺は…お前や樹、愛菜に支えられたおかげで…凍哉や伊達さんに助けられたおかげで、生き延びる事が出来た…。あの時、俺がしっかりヒスイに止めを刺せていたら…凍哉と伊達さんを失わずに済んだと思うと、やっぱり俺ってまだまだだなって思っちまうな…なんて、こんな事言ったら茜先生や伊達さんにどやされちまうな…ハハ…。

16年…取るに足らない16年の人生だけど、人間は大切な何かを失って苦しみながらも前に進んで生きていく生き物なんだって事を…俺は今日まで色んな人達に支えられて生きてきて学ばされた…。茜先生や伊達さん、凍哉も大切な何かを失ってどれほど苦しい思いをしても、その歩みを止めなかった…無論、あいつも同じように…。」

 

これまでの自分の人生の体験と持論を語る人志に、陽菜はかつての想い人を重ねながら語り掛ける。

 

「私も…貴方や樹さんや愛菜ちゃん達に助けられて、今日まで生かされてきた…。あの時、私が始祖の力をちゃんと使いこなせていれば…凍哉を死なせる事も…貴方に右腕と寿命の大半を失わせる事も…あの人に余計な重荷と傷を背負わせる事もなかったのに…どうして私だけが…何の傷も背負っていないんだろう……」

 

大切な人達を失い自分の不甲斐なさに表情を曇らせて涙を流している陽菜に、人志は片手で優しく頭を撫でる。

 

「傷ならもう背負っているよ…。

大丈夫、俺は死なない…お前を最後まで守り通すまでは…。」

 

人志が悲しむ陽菜を慰めている頃、愛菜は気持ちを切り替えて樹のいる地下5階の訓練場に戻っていた。

 

「愛菜さん!」

 

「よっ!樹!まだ訓練してるなんて感心感心!」

 

「愛菜さん…人志さんとどんな話をしていたんですか?」

 

「え?ああ、休憩がてらのちょっとした他愛ない話だよ!さあ、あたしも頑張んなきゃ!後藤の野郎をぶっ飛ばして、千尋達や皆とまたわいわい笑い合えるようにね!」

 

愛菜は悲しい気持ちを胸の内にしまい込んで樹に笑顔を見せた後、そのまま鍛錬に励んでいった。

 

樹はそんな愛菜の心情を察して、何も言わず最後の決戦に向けて自己鍛錬に励んだ。

 

(ヒスイとの戦いで凍哉さんと伊達さんを失って、人志さん達は精神的にも肉体的にも消耗しきっている…今度こそ僕が成果を出さなければ…!!そして和真…お前との決着も…。)

 

一方、怪童との死闘を制し力の全てを吸収した後藤は、戦いの傷が癒えるのを座して待ちながら計画の最終段階へと臨んでいた。

 

そんな中、配下の和真が後藤の下に近づいて問いかけてきた。

 

「後藤様…」

 

「何だい?」

 

「怪童は、何故人間の身でありながら大妖怪をも超越する程の領域に達したのでしょうか?いくら始祖の能力の影響を受けて覚醒した能力者とはいえ、あの強さはあまりにもおかしすぎます…」

 

「それはね和真…彼は幼少の頃から己の弱さをひたすら呪い追い込み続け休むことなく妖怪達と戦い続けてきた結果、妖怪・鬼・吸血鬼といった人に仇なすあらゆる怪物達に対する強力な特攻と耐性という独自の力を身に着けたからだよ…。

ヒノマルの空間打突を耐えられたのも、ヒスイに吸血鬼の血を大量に分け与えられて人のままでいられたのもそれが要因だろう…名は体を表すとはよくぞ言ったものだ…。」

 

「…もう一つ聞きたい事が、もし怪童がヒスイ様とやり合っていたら…戦いはどうなっていたでしょうか…?」

 

「ほお、面白い質問だね…。そうだね…怪童の全てを無力化し空間ごと削り取る右手と空間打突の併せ技は、いくら底無しの再生能力と完全耐性を併せ持つヒスイでも無傷では済まないだろうね…だが、彼女は私が追い求めている『あらゆる生物を超越した完全なる生物』に最も近い存在だ…。戦えば負けるはずはないにせよ、私以上の苦戦を強いられる事にはなるだろうね…。

正直、彼女を失った事は私としてもかなりの損害だし、本当に惜しい者を亡くしたと残念に思っているよ…。」

 

「…最後にお聞きしたい事が…妖怪の始祖とは、一体どういう存在なのですか…?」

 

「今日の君はやたら質問してくるね…だが、いいだろう…教えてあげよう…妖怪の始祖とは、人間や妖怪・鬼・吸血鬼などのこの世に存在するありとあらゆる生物を生み出した命の起源であり、人間達が暮らし生きていける環境『人間界』と、妖怪達が暮らし生きていける環境『魔界』を創造し分け隔てたと同時にこの世に均衡をもたらした…まさしく神と呼んでも差し支えない絶対なる存在だ…。」

 

和真の三つの質問に全て答え終わった時、後藤の傷は完全に治癒し座から降りて配下達を率いて最後の決戦を仕掛けようと動き出した。

 

「さあ、行こうか…新しい世界と命の創造の為に…。」

 

一日後、魔都東京では羅刹一座の壊滅と“妖怪殺し”怪童の死亡、そして突如として表の舞台に再び降り立ったかつての最高指導者である後藤博文の存在により、人々と妖怪達は刻一刻と妖怪社会の崩壊を感じながら混乱していた。

 

そんな中、突如後藤一派が魔都東京に降り立ち始祖の能力によって強化された妖怪の軍勢と大妖怪クラスの配下達を引き連れて、宣戦布告もなしに急襲を仕掛けてきた。

 

圧倒的な戦力差に怯みながらも、妖怪殺し対策本部長の若茶を始め霊能力者と妖怪達はすぐさま戦闘態勢に入って応戦する。

 

そして、人志・陽菜・樹・愛菜の現存戦力4人も決死の覚悟を決め、後藤を食い止め全てを終わらせるべく最後の決戦の地に赴く。

 

「行くぞ…全てを終わらせる為に…。」

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