戦の鉄則   作:並木佑輔

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最終章
第40話 最終戦争


始祖の能力で強化した妖怪の軍勢と大妖怪クラスの配下達を引き連れて突如として魔都東京に降り立ち、宣戦布告もなしに急襲を仕掛けた後藤。

 

東京が戦場と化し人々や妖怪達が悲鳴を上げながら蹂躙されていく中、妖怪殺し対策本部長の若茶は部下の霊能力者達に人々と妖怪達を早急に避難させて外敵から守る為の大結界を張らせるよう指示し、後藤一派との戦闘に赴く。

 

「迅速な対応だ…流石は狛犬といったところか…。」

 

「後藤氏!これは一体どういうつもりですか!?突然罪もない人々や妖怪達を襲うだなんて、何が目的なんですか!!?」

 

「ふむ…目的ね…いいだろう、教えてあげよう…。これから来る新しい世界の創造と命の誕生の為に、君らにはその礎になってもらう…偉大なるこの始祖の力でね…。」

 

若茶含め霊能力者・妖怪達を見下しながら邪悪な笑みを見せる後藤。

 

己の理想の為に無関係の人々と妖怪達の命を踏み躙る後藤に対し、若茶は激しい怒りを露わにし部下達の士気を上げるよう立ち向かった。

 

「皆…あれはもう私達の知るかつての後藤博文ではない…総員戦闘準備!!これ以上の犠牲と悲しみを生まない為にも、我々はあの悪魔を何としてでも食い止めなければいかん!!!」

 

若茶は部下達に指令を下し、霊能力者・妖怪達は雄叫びを上げながら眼前の敵の軍勢に立ち向かっていった。

 

それに対し、後藤は妖怪の軍勢と配下達より前に出て不吉な笑みを浮かべながら右手を上げた。

 

後藤の様子を見て悪寒を感じた若茶は、その場で部下達に即刻伏せるよう必死に指示した。

 

「伏せろオオオオオオオオオオオッッッ!!!」

 

若茶の必死の叫びも束の間、後藤は右手を広げて横に振り向かってくる霊能力者・妖怪達の大半とビル群を空間ごと削り取って塵殺してのけた。

 

「“妖怪殺し”怪童の全てを無力化させ空間ごと削り取る能力と、“鬼神”ヒノマルの防御・回避不可能の空間打突…この力の組み合わせは最高だ…ククク…。」

 

怪童を吸収した後藤の圧倒的な強さに戦慄する若茶と部下達。

 

恐怖で怯ませた事をいい事に、後藤の始祖の能力で強化された妖怪の軍勢は若茶率いる霊能力者・妖怪連合をひたすらに蹂躙していく。

 

部下の霊能力者と妖怪達が悲鳴を上げながら無惨に殺されていく中、若茶は単騎で妖怪の軍勢を次々と薙ぎ倒していきながら防戦する。

 

だが、妖怪達の勢いは止まる事を知らず若茶達の防衛ラインを通り越して、恐怖し逃げ惑う人々や妖怪達に向けて殺意を放ちながら襲い掛かった。

 

「なっ!?しまった!!」

 

妖怪の軍勢の魔の手が差し掛かる中、若茶は急いで助けに向かうも間に合わない事を悟ってしまう。

 

(駄目だ!!間に合わない!!!)

 

人々や妖怪達に魔の手が差し掛かり喰い殺されそうになったその瞬間、突如放たれた一つの焔が襲い掛かる妖怪達を骨まで跡形もなく焼き尽くした。

 

「き…君達は…!?」

 

隻腕の能力者 人志と、霊能力者 樹、半人半鬼 愛菜、そして妖怪の始祖 陽菜が魔都東京の戦地に降り立った。

 

「来たか…妖怪の始祖…そして、怪童と同じ始祖の恩恵を受けし能力者よ…。」

 

「樹!無事だったか!選定の頃から連絡がなかったから心配してたんだぞ!!」

 

「若茶本部長、ご心配をおかけしてすみません…。ですが、今は再会を喜んでいる場合ではありません…これ以上死者を出さない為にも一刻も早く後藤を殺さなければなりません…。」

 

「あいつらはあたし達が何とかするから、早く他の人達を安全な所に避難させてやって!いきなりやってきて差し出がましいのは百も承知だけどさ!」

 

「…分かった…君達も無茶はするんじゃないぞ…。」

 

若茶は愛菜に言われた通りに、後藤一派を人志達に任せて部下達を率いて人々と妖怪達の命を守る為に動いた。

 

「本部長…本当にあの子達に任せて大丈夫なのでしょうか?」

 

「確かに、彼らはまだ子供だ…だが、彼らならあの悪魔を止める事が出来るかもしれない…私は樹以外の子達の事をあまり知らないが、何故かそう確信したんだ…。」

 

若茶が人志達を信じて戦場を任せた後、後藤は妖怪の軍勢に人志達を喰い殺すよう命令し動かせた。

 

襲い掛かる妖怪の軍勢に、人志は顔色一つ変えずに掌から焔を放出し骨すら残さず焼き尽くす。

 

「邪魔だ…。」

 

妖怪達は続けて樹に襲い掛かるも樹は自身の生命エネルギーの性質を木に変化させ、刃物のように鋭利な木々で妖怪達を串刺しにした。

 

愛菜も人志や樹に続く形で鬼の力を解放し身体能力の全てを倍以上に強化させて、体術で妖怪達を屠っていく。

 

人志・樹・愛菜の三人の実力に慄いた妖怪達は、一番弱いであろう陽菜を次の標的に変える。

 

意気揚々と襲い掛かる妖怪達を前に、陽菜は眼を朱く光らせてこう言い放つ。

 

「退きなさい」

 

すると、妖怪達は陽菜のたった一言で地平の彼方まで吹っ飛んでいった。

 

後藤はその様子を見て、人志達がヒスイを倒した事によって奪われた始祖の能力が陽菜の元に戻っている事を確信する。

 

(ヒスイから奪い返した事によって徐々に全盛期の力を取り戻しつつある…だが、それもゆくゆくは私が根こそぎ奪い尽くす…。)

 

不敵な笑みを浮かべながら、後藤は和真を始めとした大妖怪クラスの配下四名に命令を下す。

 

「和真 耶雲…君らは人志の始末と始祖の奪取を。

快楽天 サガは、適当に残りの二人の相手をしなさい。」

 

後藤の命令通りに和真と耶雲は人志と陽菜の元に向かい、快楽天とサガは樹と愛菜の元に向かう。

 

一方、若茶は部下達と共に人々や妖怪達を外敵から護る大結界の中に入れて避難させていた。

 

順調に都民を避難させていく中で、若茶は身に覚えのある妖気を感じた。

 

「この妖気…まさか…!!」

 

若茶は現場を部下達に任せてその妖気を発している者のもとへ向かった。

 

始祖の能力で強化された妖怪の軍勢を着々と殲滅していく人志と陽菜。

 

二人を前に、後藤の配下である和真と耶雲が立ちはだかる。

 

(こいつら…後藤の手下か…)

 

「人志!来るわ!」

 

和真と耶雲が襲い掛かりすぐさま臨戦態勢に入る人志と陽菜。

 

互いに衝突しそうになったその時、若茶が和真と耶雲の前に立ち塞がる。

 

「貴方は…!?」

 

「人志君、陽菜ちゃん…突然で申し訳ないがこいつらは私に任せてくれないか…?この者共は、どうしても私自らの手で始末を着けなければならないのだ…。」

 

和真と耶雲を睨み付ける若茶を見て只ならぬ因縁を感じた人志と陽菜は、若茶の言葉に従って先を急いだ。

 

「わかりました…行こう、陽菜。」

 

「うん…。」

 

二人が先へ行った後、若茶は和真に向かって睨み付けながら語り掛ける。

 

「和真…生きていたか…」

 

「若茶本部長…しばらくですね…確か俺が耶雲の捕獲任務の時に攫われたのが12の頃だから…大体2年振りくらいですかね。」

 

「…妖怪にされたのか…」

 

「ええ…俺の隣にいる耶雲の手によってね…おかげで前とは比べ物にならないほど強くなりましたよ…無様なもんでしょ?」

 

「耶雲…貴様…!!」

 

自分の教え子である和真を妖怪にした耶雲を激しく睨む若茶。

 

そんな若茶を前にしても、耶雲は余裕そうに邪悪な笑みを浮かべた。

 

耶雲は数ある大妖怪の中でも際立って凶悪で、人間だけでなく妖怪や鬼・吸血鬼までも手にかける指名手配中の極悪非道の犯罪者である。

 

若茶は拳を握りしめながら激しい怒りに燃え、強大な妖気を発しながら和真と耶雲に向かっていった。

 

大妖怪クラスの和真と耶雲二人に対し、若茶は純粋な体術のみで互角以上に立ち回る。

 

互いの体術による攻防が続く最中、若茶は耶雲のコンマ数秒の僅かな隙を見出し後ろ蹴りで崩壊寸前のビルに叩きつけた。

 

耶雲が吹っ飛ばされビルが崩壊していくのを余所見していた和真は、若茶にその隙を狩られる形で頭部にハイキックをもろに喰らい倒れてしまう。

 

狛犬としての強さを遺憾なく発揮した若茶は、かつての教え子である和真に最後のとどめを指すべく首を絞めようとする。

 

首を絞めて骨を折ろうとする刹那、和真や樹と共に汗水流して鍛錬に勤しんでいた過去の思い出が若茶の脳裏に流れ込んできた。

 

涙を流しかつての教え子を殺す事に躊躇いを見せた若茶に対して、和真は自身の妖気を水に性質変化し鋭利な水の刃で若茶の腹に容赦なく突き刺した。

 

「昔の事を思い出したんですか?随分見ない間に甘くなりましたね…若茶本部長…。」

 

「ぐっ…がはっ…和…真…」

 

吐血し苦しむ若茶に更なる追撃をする形で、耶雲は自身の能力で妖気を消費し対象である若茶に手をかざし空間ごと捻じ曲げようとする。

 

「ぐあああああっっっ!!!」

 

「さようなら…若茶本部長…。」

 

耶雲の能力により、若茶の身体中の骨がバキバキという骨折音と共にへし折られていく。

 

(和真…私はお前に何もしてやれないのか…)

 

絶体絶命の危機。

 

だがそこに、和真と耶雲に向けてナイフよりも鋭利な木々が襲い掛かり耶雲の空間を捻じ曲げる能力が解除される形となり、若茶は間一髪で助かった。

 

「この木…まさか…!!」

 

霊能力者 樹が、若茶の危機に馳せ参じた。

 

「い…樹……!」

 

「樹…てめえ…!!」

 

邪魔立てする樹を睨み付ける和真。

 

そんな和真をよそに樹は若茶に霊力を与えて最低限出来る治療を施し、若茶の周囲に木の防御結界を張った。

 

「樹…!」

 

「若茶本部長…後は僕に任せてください…和真と耶雲は、僕が殺します。」

 

「な…!何を馬鹿な事を言っている!!相手は大妖怪クラス二人なんだぞ!?君では荷が重すぎる!!」

 

「大丈夫です…すぐに終わらせますよ…。」

 

樹の氷のように冷徹で黒い眼を見て、若茶は黙り込んだ。

 

迷いのない視線を向ける樹に対し、和真はある提案を持ちかける。

 

「なあ樹…怪童が後藤様に殺された事はもう知ってるだろ?」

 

「それがどうした?」

 

「今の後藤様は怪童の全能力を吸収し尽くしている…氷華の一族の末裔を失ったお前らじゃどう頑張っても勝てはしない…。だからよ樹…お前だけでも俺らの側に付け…新しい世界は、もう目の前まで迫っているんだ…。」

 

「……断る。」

 

「…そうか…じゃあ死ね。」

 

和真の勧誘に何の迷いもなく拒否する樹。

 

それに対し、和真は猛スピードで接近し手刀に水を纏わせ水圧カッターのようにして樹の胴体を真っ二つに斬り裂こうとする。

 

だが、樹は難なく回避しすぐさま拳によるカウンターを和真の顔面に喰らわせた。

 

「ぐあっ!!」

 

樹のカウンターに耶雲は驚きを隠せずにいた。

 

(こいつ…いつの間に近接の弱点を克服しやがった!?)

 

和真にカウンターを喰らわせた後、樹の脳裏に幼少の頃の記憶が流れ込んできた。

 

「おいお前、怪我はねえか?」

 

「え、う、うん…大丈夫…」

 

「そっか!ならよかった!」

 

「…君の名前は…?」

 

「俺?俺は和真!霊能力者だ!お前は?」

 

「…僕は樹…みんなからはよく、ウドの樹って言われているんだ…」

 

幼少の頃、妖怪達に虐められた自分を救い手を差し伸べてくれたかつての親友の姿を思い出し、樹は涙を流しながら黒く鋭い眼で和真を睨み付けてこう言い放った。

 

「僕を虐めから救って道を示してくれたあのかっこいいヒーローは…共に同じ道を歩んできたあの親友は…もういないんだ…!!!」

 

和真と耶雲 樹の二対一の死闘が、今幕を開けようとしていた。

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