戦の鉄則   作:並木佑輔

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第41話 決別

今から4年前、妖怪達に虐げられた所を和真(10)に救われた樹(10)は、その後霊能力者になるべく両親に打ち明け独学で霊能力を勉強し、2年の月日を経て試験を通過し霊能力者の訓練施設にて彼と再会した。

 

「お前はあの時の…確か、樹だったよな?」

 

「う、うん!名前、覚えててくれたんだね…」

 

「ここに来たって事は…お前霊能力者になったのか!」

 

「うん、僕…君みたいになりたくてここに来たんだ…。」

 

「そっか!じゃあこれからよろしくな樹!」

 

和真は笑顔で樹に手を差し出し、二人は握手を交わした。

 

樹は過去の和真との再会を思い出しながら、妖怪と化した和真と彼を人間から妖怪に仕立て上げた大妖怪 耶雲を真っ直ぐに睨み付けた。

 

そんな樹を前に、和真と耶雲は見下しながら嘲笑った。

 

「俺達を殺す…?お前がか…?フフフ…ハハハハハ!お前自分の立場分かってんのか?二体一だぜ?」

 

「若茶よ…その目でしかと見届けるがいい…お前の教え子が無様に死ぬところをな…。」

 

樹の作り出した木の結界に守られながらも、若茶は樹と和真 耶雲の死闘を見届ける事しか出来なかった。

 

そして、樹は生命エネルギーを媒介に木刀を錬成し黒い目で眼前の敵二人を睨みながらゆっくりと歩いていく。

 

それに反応するように和真と耶雲も臨戦態勢に移りゆっくりと歩いていった。

 

そして次の瞬間、両者は一瞬で高速に動き回り火花を散らしながら激しくぶつかり合っていた。

 

和真と耶雲の連撃に木刀で攻防戦を繰り広げるが、徐々に二人の猛攻に圧されていく。

 

(二体一は…流石にきついか…。)

 

激しい攻防戦が続く中、和真が自身の能力で手に水圧カッターを纏わせて樹の木刀を粉々に粉砕し、間髪入れずにとどめを刺そうとする。

 

「死ね!!!」

 

だが、樹は粉砕された木刀の破片を操って一斉に和真に放ち目潰しをし、致命の一撃を回避する事に成功する。

 

「ぐっ…!くだらねえ真似を…!!」

 

思わぬ反撃を喰らった和真をよそに、耶雲は樹に向かって手をかざし空間ごと捻じ曲げようと能力を発動する。

 

それに対し、樹は自身の生命エネルギーを媒介に木の三重防御壁を作り出し耶雲の能力を防ぐ。

 

「へっ、そんなチンケな壁…すぐに破壊してやるよ!」

 

耶雲は余裕の笑みを浮かべながら三重の防御壁を一枚ずつ、一枚ずつと空間ごと捻じ曲げて破壊していく。

 

「さあ、壁がどんどん無くなっていくよ!どうするよ木偶の棒君!!」

 

そして最後の防御壁を捻じ曲げ破壊した時、樹の姿は何故かいなくなっていた。

 

「いねえ!?何処に消えやがった!?」

 

突如姿を消した樹を探す為に周りを見渡す耶雲。

 

樹の反撃によって失明した和真は自身の妖力で目の回復を施し視力を取り戻した後、耶雲の背後に人影を視認しそれを彼に伝えた。

 

「耶雲!!後ろだ!!」

 

耶雲が和真に言われた通りに後ろを振り向くと、そこには掌から刃物のように鋭利な木々を生やして今まさに耶雲の脳天に致命の一撃を与えんとしている樹の姿があった。

 

耶雲はすかさず両手で頭部をガードし、致命傷を免れた。

 

「チッ、木偶の棒のくせに…やるじゃねえか…単身で俺らに向かってくるだけの実力はあるって事か…。」

 

「言っただろう、お前らは僕が殺すと…」

 

迷いの無い黒い目で見つめる樹に、和真は不敵な笑みを見せる。

 

「樹、認めてやるよ…お前は強い…あの頃とは比較にならない程にな…だが所詮俺らに勝つ事は出来ねえよ!」

 

そう言い放った次の瞬間、和真は自身の能力で樹の周囲に球状の水を発現させて包み込んだ。

 

「ぐっ…ガボッ…」

 

樹はすぐさま脱出しようと試みるが、水面に触れた瞬間弾かれてしまった。

 

「無駄だ!!これは一度包み込まれたら絶対に脱出出来ねえ水の牢獄だ!!」

 

脱出不可能の水の牢獄に苦しめられる樹。

 

そこに和真と耶雲は容赦なく追い討ちを仕掛ける。

 

「おっとまだくたばるんじゃねえぞ!溺死なんてしょぼい死に方はさせねえ!耶雲!!」

 

「へっ、あいよ。」

 

和真の呼びかけに応えるべく、耶雲は水の牢獄に囚われている樹に手をかざし、空間ごと捻じ曲げようとした。

 

耶雲の能力により樹は血を吐きながら身体中の骨をバキボキに圧し折られ空間ごと捻じ曲げられ、その姿は原型を留めておらず息絶えてしまった。

 

「樹ィィィィィィッッ!!!」

 

悲痛の叫びを上げる若茶に、和真はゆっくりと歩き出していく。

 

「この連携技は本来、人志という隻腕の男を殺す為に編み出したものだったが…まあこれで俺達の邪魔をする輩は若茶本部長、貴方で最後だ…。」

 

和真は水の水圧カッターを手に纏わせて若茶を守る木の結界を破壊し、若茶を殺そうと動き出す。

 

「貴方を殺した後、俺達は後藤様の命令通り人志と妖怪の始祖を始末する…。さあ、今度こそ永遠にさよならですよ若茶本部長…。」

 

水圧カッターによる最後のとどめが振り下ろされるその刹那、突如和真に巨大な木の柱が飛んでいき吹き飛ばされた。

 

「な…何!!?」

 

「木の柱!?まさか!!?」

 

辺りを見渡して警戒する耶雲。

 

そこに激しい戦闘によってボロボロとなったビルの物陰から樹が耶雲と和真の前に姿を現した。

 

「な…い…樹…!?てめえは耶雲の能力によってズタボロにされたはず…!!なのに何で五体満足で生きていやがる!!?」

 

「知りたいか?僕が生きている理由を…答えはこれだ…。」

 

そう言い出すと樹はポケットから空になった輸血パックを取り出した。

 

「輸血パック…!?」

 

「そうだ…僕が耶雲の攻撃から防ぐ為に木の三重防御壁を創り出したあの時、僕はこの輸血パックの血を使って僕そっくりの木偶人形を錬成したんだ…。そして入れ替わった…。お前達に対抗する為に前日に用意したんだ…。」

 

「そうか…それを実行する為にあの時和真の目を失明させたのか…抜け目のねえ奴だ…。」

 

「ケッ!たかが木偶人形如きで勝ち誇った気になりやがって…!そんなもんは寿命がほんの少し伸びただけで俺らとてめえとの戦力差は変わりゃしねえんだよ!!」

 

「確かに、僕一人の実力じゃ大妖怪クラスのお前ら二人には敵わない…それは僕自身がよく分かっている…。だから僕は時間稼ぎをしたんだ…こいつを完成させる為にな…。」

 

そう言い放った樹は、冷静な表情を崩さずに足下に指を指した。

 

樹の指を指す方へ目を向けた和真と耶雲は、血で書き記された龍の形をした召喚陣を見て驚愕した。

 

「何だ、それは…!?」

 

「こ…これは霊能力における高等技術の召喚術!?樹…てめえこれを完成させる為に…!!」

 

「仕込む時間は山ほどあった…お前らは僕に時間を与えすぎた…。見せてやる!これがお前らを打ち倒す為に編み出した僕の最大の切り札だ!!」

 

そう叫びながら樹は自身の血で書き記した龍の召喚陣に手を当てた。

 

すると血の召喚陣は赤く光り出し地響きが鳴り、そこから数頭の龍の形を模した樹海が降誕した。

 

「樹霊龍流乱舞!!!」

 

樹の手によって召喚された数頭の木龍は、咆哮を上げながら和真と耶雲を噛み殺そうと暴れ出した。

 

「クソッ…!!樹の野郎…いつの間に召喚術を身に着けやがって…!!」

 

「ハッ!たかが木偶細工の龍如き、全部捻じ曲げて仕舞いだ!!」

 

耶雲は余裕の表情を崩さずに、樹が召喚した木龍達に手をかざし空間ごと捻じ曲げて粉々に破壊した。

 

「ハハハッ!おい和真見ろよ!!こんなもんが俺達を殺す為に編み出した切り札だとよ!!笑っちまうくらい弱いぜ!!!」

 

木龍を全て粉々に破壊し高らかに笑う耶雲。

 

だが次の瞬間、粉々に破壊された木の破片が放たれ、油断した耶雲の肉体に突き刺さった。

 

「な…何だこれは…!?破片が勝手に…!!?」

 

突き刺さった木の破片は耶雲の血を吸い取って成長し、鋭利な木々となって内部から穿たれた。

 

「耶雲ッッ!!」

 

突然の耶雲の死に驚愕する和真をよそに、粉々に破壊された木の破片は集まり再び数頭の木龍となって自己修復した。

 

「あとはお前を殺して終わりだ…和真…。」

 

木龍達は次の標的を和真に捉え咆哮を上げながら襲い掛かる。

 

和真は樹霊龍流乱舞の能力を見て、耶雲の二の舞になる事を恐れて木龍達を壊さずに攻撃を回避し捌きながら立ち回る。

 

(この木龍共を破壊したらさっきのように木の破片が襲い掛かってきて耶雲のように内部から突き破られて殺られる…しかも吸血鬼のように自前で再生能力も持ってやがる…!!くそったれが!!樹の野郎…面倒な物を隠し持ちやがって!!)

 

和真は襲い掛かってくる木龍達を自身の水の能力でどんどん受け流していき、必死に突破口を見出そうとしていた。

 

(俺はこんな所で死ぬわけにはいかねえ…!!こんな所で死んじまったら俺は一体…何の為に…)

 

木龍達を捌いていく和真の脳裏に、かつて人間だった頃の記憶が流れ始めた。

 

耶雲という人間のみならず同族である妖怪や鬼・吸血鬼をも手に掛ける凶悪な殺戮者を捕える為に、数多の霊能力者や妖怪達、そして親友である樹と共に和真は危険な任務に当たっていた。

 

だが、空間を捻じ曲げる能力を持つ耶雲の手によって多くの仲間達が身体を空間ごと無惨に捻じ曲げられ、部隊は壊滅してしまった。

 

辛くも生き残った樹と和真は二人だけになっても諦めずに耶雲に立ち向かい、手刀による水圧カッターで彼の顔に掠り傷一つ負わせるも、大妖怪クラスの実力者相手に勝てるわけもなく惨敗してしまい重傷を負ってしまう。

 

耶雲は自分に掠り傷を負わせた和真の水を自在に操る霊能力を気に入り彼を攫って行った。

 

「…か…和真……」

 

「…樹……」

 

樹と和真は重傷を負いながらも互いに名前を呼び手を伸ばすも、耶雲の手によって引き離されてしまった。

 

その後、和真は耶雲と共に後藤のアジトまで連れて行かれた。

 

「後藤様、ただいま帰還しました。」

 

「やあ耶雲。ご無沙汰じゃないか…それにどうしたんだい?そんな人間の少年を連れて来て。」

 

(な…あの人は…最高指導者の後藤博文…!?何故だ…!?後藤博文はとうの昔に妖怪の手によって殺されたはず…!!)

 

「このガキは自身の霊力を水に変えてそれを自在に操ったり水の形を変化させる事が出来る霊能力を持っています…。そこでちょっとした提案なんですが…後藤様、貴方様の持つ妖怪の始祖の力でこいつを妖怪化させてみるってのはどうでしょう?まぐれとはいえ齢12の人間のガキにしてこの俺の顔に掠り傷を負わせてのけたんです…利用価値は充分おありだと思うのですが、いかがでしょうか?」

 

「ほお、それは面白そうだね…。いいだろう!君の要望に応え、私の力で妖怪化させてあげよう。」

 

後藤は耶雲の提案に乗り、邪気を含んだ笑顔で和真に近づいて行った。

 

するとそこに、蝙蝠の大群が現れた。

 

蝙蝠の大群は徐々に一人の女性へと姿を変えていった。

 

その女性は、バサラが率いる大妖怪7人の組織「羅刹一座」の一人であり、吸血鬼を超越した吸血鬼 超越者の異名で恐れられているヒスイであった。

 

ヒスイが後藤のアジトに姿を現した時、耶雲はすぐさま首を垂れて跪いた。

 

「ヒ、ヒスイ様!」

 

(ヒ…ヒスイだと…!!?)

 

「フフフ…ご機嫌よう、後藤君に耶雲君。あら?誰かしらその子」

 

「耶雲が連れて来た霊能力者の少年だよ。その子の水の霊能力で耶雲の顔に掠り傷を付けたというわけで彼が気に入ってこの子を私の始祖の力で妖怪化させようと私に提案してきてね…今まさにその最中だったんだよ…。」

 

「まあ!私がちょっと留守をしてる間にそんな楽しそうな事やってたなんて!ねえ後藤君、私にやらせて!私の血でその子を吸血鬼にしたいわ!」

 

「駄目だよヒスイ…吸血鬼を超越した君の血は人間には到底適応出来ずに死に至ってしまう…ましてや子供だからね…。だから私がやる事にするよ。」

 

「えぇ~…つまんなあい…。」

 

落胆するヒスイをよそに、後藤は和真を妖怪化させる為に彼に近づいていく。

 

「ふ…ふざけんな!!てめえらの好き勝手させてたまるか!!」

 

和真は手刀に水圧を纏わせて後藤に抵抗するが、まるで歯が立たず後藤に人差し指で首を刺され、首の頸動脈から妖怪の血を投与されてしまった。

 

「が…!!あ…あぁ…」

 

血を投与された後、和真は意識を失いかけながらも踏ん張って後藤の指を水圧カッターで切り、後藤のアジトからすぐさま脱出した。

 

「あっ…逃げられた…!どうする後藤君?あの子連れ戻す?」

 

「いや、その必要はない…じきにまたここに戻ってくるさ…。」

 

後藤のアジトから辛くも脱出した和真は、血を投与され妖怪化が進行していきながら森の中を彷徨っていた。

 

妖怪になった事で人間を喰いたいという飢餓に苦しみながら森の中の様々な動物達を襲って喰いながら森を抜けようと動いていた。

 

そして森を抜け魔都東京のビル群を見た和真は、急いで自分が所属している妖怪殺し対策本部に向かう為、魔都東京を目指した。

 

その後、和真は魔都東京の妖怪殺し対策本部に帰還し仲間達の元に戻って来た。

 

だが、妖怪化され重度の飢餓状態に陥ってしまい姿も変わり果てた和真を霊能力者と妖怪達はかつての仲間と認識出来ず、逆に和真を急いで殺そうとしていた。

 

何故なら妖怪は重度の飢餓状態に陥ると、同族である妖怪でも見境無しに攻撃し喰い殺そうとする習性があるからである。

 

和真は、何故自分が仲間達に攻撃されるのか訳が分からず魔都東京から命辛々逃げ延びるが、逃げる途中で意識を無くし倒れてしまう。

 

意識を無くし目を覚ますと、和真は何故か自宅にいた。

 

「…ここは…俺の家…?」

 

和真は何故自分がいつの間に自宅にいるのか訳が分からずにいた。

 

そこに、和真の父と母が和真を出迎えに来た。

 

「おう和真、お帰り!今日も一日お疲れ様!」

 

「と…父さん…!母さん…!」

 

「お腹空いたでしょ?もうご飯出来てるわよ!さあ!一緒に食べましょ!!」

 

母は和真の手を引いて食卓に行った。

 

「今晩はあんたの大好きなステーキよ!」

 

食卓には家族三人分の白米とステーキと野菜と味噌汁が用意されてあった。

 

「父さん、母さん…俺……」

 

「ん?どうしたの和真?お腹空いてないの?」

 

「…ああ、いや…何でもない…それじゃ、いただきます!」

 

和真は家族の顔と温かい食事を見て安心しきったようにステーキをナイフで切って口に入れた。

 

「美味い…やっぱり母さんが作ったステーキは美味いな…!!」

 

「そうでしょ!美味しくて当たり前よ!だって

”私達の”ステーキなんだもん」

 

「…え…?」

 

母の言葉に疑問を感じた和真。

 

すると突然、和真の目に映っている家の空間と両親と食卓が全く別のものに塗り替えられた。

 

和真は夢を見ていた。家族との食事の夢を…。

 

そして夢から覚めると、さっきまで見た家の空間は後藤の殺伐としたアジトの空間になり、和真は実の両親の人肉を喰っていた事に気付いた。

 

「おはよう、そしてお帰り和真君…どうだい?初めて喰った人間の味は?」

 

和真が霊能力者と妖怪達から命辛々逃げて意識を無くし倒れた後、後藤は妖怪の始祖の力を使って和真とその両親をアジトに転送し、和真に家族の幻覚を見せて両親を喰わせるように後藤はそう仕向けたのだ。

 

(フッ…後藤様、えげつねえ事しやがる…。)

 

後藤の邪悪さに耶雲は内心恐れ入りながらも笑みを浮かべる。

 

「そ…そんな…父さん…母さん…ああ…あ…うぶっ…!!」

 

和真は、実の両親の肉を喰った罪悪感に苛まれながら激しく嘔吐した。

 

喰った両親の血肉が吐瀉物となりビチャビチャと音を立てて吐く和真の姿を見て、ヒスイは頬を染めて股を濡らしながら自慰をしていた。

 

「嗚呼、いい…その無様で苦しそうな顔…胸に響くわ…。」

 

吐き終わった和真は、実の両親を自分に喰わせた後藤や耶雲を激しく睨み付けた。

 

「てめえら…!!ぜってえ許さねえ…!!殺す…!!ぶっ殺してやる!!!」

 

和真は後藤と耶雲に向かって反抗したが、力及ばず返り討ちに遭ってしまう。

 

それだけじゃ収まらず、和真が幻覚を見せられている間耶雲は大量の食料である人間を攫って用意し、それを妖怪になったばかりの和真に見せた。

 

人間の甘美な血肉の味を知ってしまった和真は、妖怪の本能に抗えず怯え切ってしまっている人間達を前にしても構わず全て喰い殺してしまった。

 

(ああ…ようやく分かった…もう俺は…人間じゃねえんだ…。)

 

そうして和真は、完全に屈服して後藤の配下になった。

 

木龍達を捌く中、過去を全て思い返した和真は樹の「樹霊龍流乱舞」に対抗する為の最大の技を繰り出そうとする。

 

「樹!!」

 

「!?」

 

「お前の樹霊龍流乱舞、確かにすげえ技だ…だが、俺がこれからてめえにお見舞いする技はもっとすげえ…今からそれを見せてやるよ…!!」

 

そう言った和真は、地面を思い切り蹴って高く上空に上がり、自身の妖気を極限にまで高めて放出した。

 

すると放出された妖気は水となり、魔都東京全体を覆い尽くす程の巨大な津波と化した。

 

「これが俺の最大にして最強の技、ポセイドンだ!!てめえのちんけな木龍如き、この魔都東京ごとぶっ潰してやる!!!」

 

ポセイドンを目の当たりにした樹は、かつて和真と共に訓練場で鍛錬に励んでいた頃をふと思い出した。

 

都内某日、東京ドーム並に広い訓練場全体を水で覆い尽くす程の和真の霊能力の技を見て、樹は驚愕していた。

 

「凄い…!!こんなに広い訓練場を全部水でいっぱいにするなんて…!!」

 

「だろ!!俺はこの技をポセイドンって付けてるんだ!!」

 

「ポセイドン?ポセイドンってあのギリシャ神話の!?」

 

「そうだ!!俺はこの技を最高に磨き上げて完成させて、この妖怪社会を終わらせてやるんだ!!」

 

「えっ…!?妖怪社会を…終わらせる…!?」

 

「ああ…!人間と妖怪の全面戦争が終わって妖怪達による能力主義の社会になった今、俺やお前のような能力を持つ人間は妖怪達に飼われてある程度の生活を保障されるが、能力を持たない人間は豚や牛や鶏のように出荷されて妖怪達の食料にされる…現に人肉を取り扱ってる料理屋があるくらいだ…。俺は今のこの世の中が気に食わない…大多数の人間が人権も尊厳も全部剥奪されて、妖怪達に家畜みてえに扱われるこの世の中が…!!だから俺はどの妖怪よりも強くなって、妖怪が支配する社会から元の人間の社会を取り戻すんだ!!それが俺の夢だ!!」

 

「…和真……!」

 

「あっ、今の俺の発言何も聞かなかった事にしてくれよな!他の奴らにバレちまったら見せしめに殺されちまうからよ…」

 

「…うん、分かった!何も聞かなかった事にする…あとそれと、和真!」

 

「あ?どうした?」

 

「僕…応援する…和真の夢…応援する…!いや、僕もその夢を実現させる為に一緒に戦う…!!」

 

「樹…お前…!」

 

和真の夢に感化された樹。

 

そんな樹に対して、和真は初めて自分の夢が他人に認められた事に嬉しさを覚え、涙を流した。

 

「…ありがとうよ…樹…」

 

「絶対に叶えよう和真!僕達の手で!!」

 

こうして二人は握手を交し誓い合った。

 

能力至上主義の妖怪社会を変える為に、食料にされ虐げられる弱い人々を救う為に。

 

そうして二人は夢を叶える為に鍛錬に勤しんだ。

 

だが運命の悪戯が今、こうして二人を対立させた。

 

一度人間から妖怪になってしまった者は、どんな方法や能力を用いても元の人間に戻る事は出来ない。

 

その事を重々承知している樹は、妖怪と化し敵の手に墜ちてしまったかつての親友である和真との決別をする為に、木龍達を操って全身全霊にて親友の名を叫び攻撃した。

 

「和真アアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

その叫びに呼応するが如く、和真も唯一の友の名を叫んだ。

 

「樹イイイイイイイイイイイイイッッ!!!」

 

都市を覆い尽くす巨大な津波と木龍達は激しくぶつかり合った。

 

木龍達は咆哮を上げながら巨大津波に荒々しく抗うように上っていった。

 

ポセイドンという名の登龍門をくぐり抜け天を登った後、木龍の歯牙は術者である和真を捕えて胴体を嚙み千切った。

 

和真の胴体が泣き別れになった事により、ポセイドンという名の巨大津波は消え去り、樹の召喚した木龍達も姿を消した。

 

死闘を制した樹は、上半身だけになった和真の元へとゆっくりと歩み寄った。

 

「和真……」

 

瀕死の和真は己に歩み寄る樹に対して懇願した。

 

「…樹……終わらせてくれ……お前の…手で…俺を…終わらせてくれ…頼む……」

 

親友の最後の頼みを聞いた樹は、それに応える為に彼の脳天に鋭利な木の釘を突き刺して終わらせた。

 

樹の木の結界から抜け出した若茶は、かつての教え子であった和真の遺体に歩み寄り、泣き崩れた。

 

「和真……!!和真…ッッ!!」

 

「若茶本部長…急ぎましょう…これ以上の犠牲者を出さない為にも…今の僕達には泣き崩れている暇なんてありません…後藤博文を殺して、この戦争を終わらせる為に…!!」

 

大妖怪 耶雲と和真を倒して退けた樹は、湧き上がる悲しみと怒りの感情を抑える為に血が滲み出るほど下唇を噛み締めて動き出した。

 

戦争を、悲しみの連鎖を終わらせる為に。

 

一方その頃、都内番外地にて後藤一派の襲撃を受けて家族を殺された人間の子供と妖怪の子供が泣きながら逃げおおせていた。

 

そこに、大妖怪であり後藤の配下の一人である快楽天が子供達の前に現れ、捕食しようとした。

 

子供達が捕まり喰い殺されそうになった所に、愛菜の拳が快楽天の脳天に命中し吹っ飛ばし、笑顔で子供達に向けてこう言い放った。

 

「ここはあたしに任せて、さっさと逃げな!」

 

子供達は愛菜の言葉に安心して言う通りに逃げた。

 

愛菜の拳を喰らった快楽天は、頭に血を流しながらも狂気を含んだ笑顔で愛菜と相対する。

 

「良い…実に良いよ今の君のパンチ…すっっっっっっっっごく気持ちよかったああああッッ!!」

 

(…何だ…こいつ……。)

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