戦の鉄則   作:並木佑輔

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第42話 人鬼

都内番外地にて後藤の配下の一人である快楽天と相対した愛菜。

愛菜の拳を頭部に喰らい血を流しながらも快楽天は不気味な笑顔で愛菜に話しかけた。

「ねえ、君名前何ていうの?」

「…愛菜。」

「そうか…愛菜ちゃんか…見た目に相応しい可愛い名前だね…。あ、そうだ!僕の方からも自己紹介しなきゃ…僕の名前は快楽天。よろしくね愛菜ちゃん!」

「敵によろしくされる筋合いなんてないよ!あんたの選択肢は二つ!ここであたしにぶちのめされるか、しっぽ撒いて逃げるか…好きな方を選びな!!」

眼前の敵を睨み付けながら拳を握りしめて戦闘態勢を取る愛菜。

そんな愛菜に対して、快楽天は妖気を消費して頭部のダメージを回復させ止血し、狂気じみた笑顔を見せながら戦闘態勢に移った。

「良い…実に良いよ…その強気な姿勢…凄くそそられるよ…今すぐ滅茶苦茶にしてやりたいッ!!!」

そう言い放つと同時に、快楽天は愛菜に向かって一直線に走り拳を振り下ろした。

それに対して、愛菜は快楽天の拳を紙一重で避けて快楽天の顎にめがけて能力で倍に強化した左フックのカウンターを喰らわせた。

顎をもろに殴られた快楽天は脳震盪に陥り倒れかけるも、愛菜は追撃の手を緩めずに崩れ落ちる姿勢を利用して駄目押しの右アッパーを喰らわせ、快楽天を空高くまで吹っ飛ばした。

戦いは愛菜の優勢かと思われた。

だが、愛菜の攻撃を受けてダメージを負っているはずの快楽天は不気味な笑みを浮かべながら地面に着地した。

それだけではなく、愛菜に喰らったダメージを瞬く間に回復させていた。

「んんんんんんんッ!!気持ちいいッ!!君のパンチ…凄く気持ちいいッッ!!あまりに気持ちよすぎて、射精してしまいそうだよおオォッッ!!」

(倍に強化した拳を喰らわせてもろに脳天揺らしてやった…なのにこいつ平然としてやがる…いや、平然というよりも何故か顔赤くして勝手に気持ちよくなってやがる…何なんだこいつ…!!)

快楽天の異常な能力に、愛菜は不気味に感じながらも攻撃の手を緩めずにダッシュで一瞬に距離を詰めて快楽天の水月に倍に強化した右拳を喰らわさせた。

吐血し前のめりになって苦しむ快楽天に、愛菜は容赦なく頭を掴んで顔面に膝蹴りを数十発打ち込み、最後は頭部に右後ろ回し蹴りをヒットさせた。

だが、それでも快楽天は倒れなかった。

いくら攻撃をしても死なず、頬を赤く染めて不気味な笑みを見せる快楽天に愛菜はヒスイと重ねた。

(いくらぶん殴っても死なないこの感覚…あのクソイカレ女と同じだ…!!)

「嗚呼…もういい…充分堪能したよ…だから今度は、僕が君を苦しめる番だッッ!!」

そう言い放った快楽天は傷を回復させた後、瞬く間に愛菜との距離を詰めて鳩尾に拳を放たんとしていた。

(速いッ!!ガードが間に合わないッッ!!)

快楽天の速さに防御が間に合わないと察知した愛菜は、負傷覚悟で自身の腹筋を倍に強化して拳を受けた。

「がはっ!!」

快楽天の拳をもろに喰らった愛菜は、血を吐きながら後ろの建物まで吹っ飛ばされた。

衝突により崩れ落ちる建物を前に、快楽天は己の拳を見つめて笑っていた。

「フフフフ…やっぱり僕の能力は最高だ…この能力さえあれば、僕は誰が相手だろうと蹂躙出来るッッ!!!」

建物の瓦礫から脱出した愛菜は、快楽天の台詞を聞いて彼がどんな能力を有しているのか感づき始めた。

「…あんたの能力、ダメージを受ければ受けるほど自分の身体能力をパワーアップするもんだろ…おまけに痛みを快楽に変えて回復もしやがる…!」

「ほう…僕の能力にそこまで気付くなんて良い勘してるね愛菜ちゃん…。その通り…僕の能力は妖気によるあらゆるダメージを快楽に変換し、身体能力を大幅に上昇させる事が出来る!同族同士の戦いなら僕はあのバサラ様やヒノマル様が相手だろうと勝てるッ!マナちゃん、君は見た所半人半鬼だねえ。つまり君が鬼の血を引いている限り、君は僕を絶対殺せはしないッッ!!」

そう言った後、快楽天は続いて愛菜に攻撃を仕掛けに行った。

快楽天の息をもつかせぬ猛攻に、愛菜は防戦一方に追い込まれていく。

愛菜は己の身体能力を倍に強化して快楽天の拳を捌き続けるも、次第に速く強くなっていく快楽天の攻撃にやがて反応出来なくなっていき、遂には突きの連打を喰らってしまう。

血を流し苦悶の表情を見せる愛菜に、快楽天は頬を赤く染めて股間を膨らませながら容赦なく攻撃し続けた。

「嗚呼ッッ!!良いッッ!!非常に良いよッッ!!苦痛に悶えるその顔!堪らないよ愛菜ちゃんッッ!!!」

突きの連打を喰らわせた後、快楽天は最後の一撃に鳩尾に後ろ回し蹴りを喰らわせて愛菜を吹っ飛ばした。

そして地面に倒れ込んだ愛菜に、快楽天は馬乗りになって吐息を吐きながら愛菜の局部に触れようとしていた。

「ハア…ハア…ハア…愛菜ちゃん…血を流して無様に倒れているその姿、凄く可愛いよ…ハア…ハア…駄目だ、もう我慢できない…今すぐ君を犯したい…!!」

局部に触れようとした次の瞬間、愛菜は快楽天の手を右手の握力で握り潰して起き上がりざまに顔面に頭突きを喰らわせた。

「ブハアッッ!!」

愛菜の思わぬ反撃を喰らった快楽天は、鼻血を垂らしながらもそれでも不気味な笑みを絶やさなかった。

「あれだけの攻撃を受けてまだ戦えるのか…流石は鬼の血を引いているだけはある…けどね愛菜ちゃん、君がどんなに頑張ったところでこの僕には絶対に勝てない…君の攻撃は全部僕の能力で吸収されてしまうからね。」

「ああ…確かに、このままじゃあたしはあんたを一生ぶちのめせない…今のままじゃね…。」

「んん?何だいその言い方は?まるで何か切り札を持っているような言い方だけど…?」

「ああ、そうだよ!見せてやるよ…あたしのとっておきの切り札を…!とは言っても、昨日今日で編み出したばっかのやつだから成功するかどうか分からないけどね!!」

そう言い出すと、愛菜は両手を出して掌を広げた。

すると愛菜の左手の掌には青色のエネルギーの丸い塊が、右手の掌には赤色のエネルギーの丸い塊が出現し、愛菜は両手の掌で作り出した二つのエネルギーをかけ合わせた。

青と赤が混ざり紫色になった球状のエネルギーの塊を、愛菜は自身の胸に手を当てて身体の中に取り入れた。

すると、愛菜は稲妻を発しながら紫色のオーラを身に纏い、快楽天の猛攻によって負傷した傷も圧倒的な速度で回復した。

「よし!一発成功!!」

「な…何だいそれは…!?」

愛菜の突然の変貌に驚愕する快楽天。

そんな快楽天をよそに、愛菜は瞬時に距離を詰めて水月に右ストレートを叩き込んだ。

「ゴバアッ!!?」

快楽天は愛菜の速さに対応出来ず、拳による直撃を受けて吐血し苦しんだ。

「な…何故…何故痛みを吸収出来ない…!?痛いよ…苦しいよおッ…!」

「やっぱり…妖気によるダメージは吸収出来ても、霊気によるダメージは吸収出来ないみたいだね。」

「れ…霊気…!?」

「そう!さっきあたしがあんたの前でやって見せた行為は、自分の中の霊気と妖気をエネルギーの塊に出してブレンドさせて、それを自分の身体の中に取り入れて強化させた。つまり、今のあたしの状態は妖怪達が持つ妖気と霊能力者達が持つ霊気を併せ持った、あたしだけの境地…。そう、名付けるなら…

人鬼(じんき)」

愛菜がこの新たな境地に至った要因は、最終決戦前日にある。

 

後藤一派との最終決戦前日、長寿館の地下5階の訓練場にて愛菜は樹に教えを乞いていた。

「樹、あんたにちょっと頼みがあるんだけどいいかな?」

「はい、何でしょうか?」

「あたしに、霊能力を教えてくれないかな?」

「えっ、れ、霊能力!?何で今になってそんな…?」

「あたし達、ヒスイとの戦いを乗り越えてこれから後藤との最後の戦いに出向く訳じゃん?それであたし思ったんだ…今のままじゃ、あたしはこの先の戦いで仲間達の足を引っ張ってしまう事になるって。だからさ、頼む。あたしに霊能力を教えてくれ…!」

「…愛菜さんが今より強くなりたいという思いは伝わりました…。ですが、たった数日で簡単に習得出来るほど霊能力は甘くありません…それに、教える側の僕はとても人に物を教えられるほどの技量はありません…ただの付け焼き刃になってしまいます…。」

「それなら大丈夫!あたしに一つ考えがあってね」

「考え…?一体どんな…?」

「知っているとは思うけど、あたしは人と鬼の混血児。それでさ、ふと思いついたんだ…あたしの中の鬼の力と妖怪達に対抗できる人の力である霊気を掛け合わせたら、どうなるんだろうって…。」

「それってつまり、妖気と霊気、相反する二つのエネルギーを自分の中で融合させるという事ですか…!?」

「そういうこと!成功するかどうかはわかんないけど、やってみる価値あるとは思わない?」

「確かに…霊能力の十八番である結界術や退魔術を今から習得するよりも、その方が少なくとも現段階よりは強さが増すかもしれませんね…。よし、分かりました!今すぐに実践してみましょう!僕も出来る限り協力します!!」

「うん!ありがと、樹!そんじゃあ、いっちょやってみようじゃない!!」

そうして愛菜は、樹の援助の下霊能力を習得しようとした。

何度も試行錯誤を繰り返した結果、愛菜は左手の掌に青色の霊気のエネルギーを、右手の掌に赤色の妖気のエネルギーを作り出し、それらを掛け合わせて自身の肉体に取り込み飛躍的にパワーアップさせる事に成功した。

「おお…何て凄まじいオーラなんだ…!!いける…これならいけますよ!愛菜さん!!」

「ああ!」

 

これまでの戦闘経験と鍛錬によって到達した愛菜の新たな境地 人鬼(じんき)。

妖怪・鬼・吸血鬼達にとって天敵である霊能力者の持つ霊気によってダメージを受けた快楽天は、さっきまで愉悦に浸っていた表情が一転して怒りの表情を愛菜に見せた。

「痛い…痛い痛い痛い痛い痛い痛いッッ!!こんなの…こんなの全然気持ちよくないッッ!!」

それに対し、愛菜は冷静さを喪失させる為に快楽天に挑発の言葉を吐く。

「どうした?さっきまであたしの攻撃を受けて気持ち良くなってた変態が、まるで人が変わったかのように正常になったねえ。女のたった一発のパンチ如きで痛がりやがって…男の癖に情けないったらありゃしないよ!」

愛菜の挑発を耳にした快楽天は、額に血管を浮き出しながら激昂し一直線に走って愛菜に拳を突きだそうとした。

「うるさい!!うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいッッ!!お前のような半人半鬼の出来損ないの女は、大人しくこの僕にぶち犯されていればいいんだあアアッッッ!!!」

快楽天の突きだしてきた左拳を、愛菜は冷静に左手で容易に掴んで握り潰した。

快楽天は諦めず、もう片方の右拳を愛菜に打ち込むがこれもキャッチされて握り潰された。

「グウゥッッ!!」

「ねえ、あんた能力で痛みを快楽に変える事が出来るんだよね?そんなに痛みが欲しけりゃくれてやるよ!とびきりのをさあ!!」

そう言い放つと同時に、愛菜は自身の脚力を倍に強化させて快楽天の金的を本気で蹴り上げた。

「ぎゃああああああああああああああああああああああッッ!!!」

愛菜に睾丸を潰された快楽天は、股間を血で濡らしその激痛により甲高い悲鳴を上げながら倒れ込んだ。

苦痛に悶えのたうち回る快楽天に、愛菜は最後のとどめを刺す為顔面にめがけて倍に強化した右拳を叩き込もうとした。

「これで終わりだよッ!!」

愛菜の拳によって勝負が決する瞬間、快楽天は最後の悪あがきで愛菜の目にめがけて目から体液を飛ばした。

「ウッ!!」

「ハアッ…ハアッ…た…ただでやられるもんか…!今、君の目に致死性の猛毒の体液を放った…。最後まで隠し持った…僕の第二の能力であり、とっておきの切り札だ…!まもなく君は身体中に毒が駆け巡り死ぬ!最後のとどめを刺せない無念をもって僕以上の苦しみを味わいながら死んでいけ!!ハハハハハハハハッ!!」

愛菜に致死性の猛毒の体液を放ち、快楽天は邪悪な笑みを見せながら自分の勝利を確信した。

だが、愛菜は猛毒に苦しむ素振りを見せずに拳を快楽天の顔面に叩き込んだ。

「…な…何故だッ…何故死なないッ…!?」

愛菜の倍に強化された右拳を顔面に直撃し、快楽天は息絶えた。

愛菜は過去の妖魔帝国本部にて羅刹一座の大妖怪の一人 オロチの猛毒を喰らい解毒した故に、自然と毒の耐性を得ていたのである。

「ヘッ…とんだ変態野郎だったぜ…。さてと、さっさと後藤の野郎をぶちのめしに行くか!」

快楽天との激闘を制した愛菜は、後藤の配下の妖怪・鬼・吸血鬼達をなぎ倒しながら先へと進んだ。

 

一方その頃、人志と陽菜は群がる敵達を退けながら後藤の元へと進んでいた。

だが、人志と陽菜を前に一人の刺客が立ちはだかった。

「お前か…あのバサラを倒した隻腕のガキってのは…。」

「…誰だお前は…?」

「俺の名はサガ。後藤様の命により、お前と妖怪の始祖を始末しに来た!」

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