荒廃したビル群、そして人間と妖怪の喰い散らかされた死体が転がっている道路の上で、人志はかつての恩師である橘茜に悲痛の叫びを上げるも師には届かず死闘を余儀なくされた。
「クソッ!やるしか…ねえのか…!」
人志は戸惑いながらも橘茜との戦いに応じる為、構えを取った。
対する橘茜は、人志の方へ足音立てずにゆっくりと歩み寄る。
そして次の瞬間、橘茜は一瞬で人志の懐に入り刀を振った。
(速いッ!!)
人志は突然の緩急をつけたスピードに驚きながら、橘茜の横斬りを跳躍して紙一重で避ける。
そして、人志は躱しざまに左足刀に生命エネルギーを纏わせて蹴り技によるカウンターを橘茜の胴体めがけて放った。
だが、橘茜は片手で足刀蹴りをキャッチしてビルめがけて人志を思い切り投げ飛ばした。
投げ飛ばされた人志はビル外壁に足を着けて着地させて、膝をバネにビル外壁を蹴って橘茜に向かって跳び、右足刀に炎の生命エネルギーを纏って強化させ再び蹴り技を繰り出した。
橘茜はそれに対して刀による斬撃で迎え撃つ。
橘茜の刀と人志の炎の足刀の衝突で火花が激しく飛び散るも、人志は競り負けて吹っ飛ばされ地面に倒れ伏した。
幸い人志の足は生命エネルギーを纏って強化されている為、多少の出血はあるものの切断は免れた。
生命エネルギーを身体に循環させ足の止血をした後、人志はすぐさま立ち上がり構えて橘茜にもう一度呼びかける。
「茜先生…頼むからそこを退いてください…!!俺は…先生を殺してまで先へ進みたくないッ!!」
かつて戦災孤児だった己に居場所と名前を与え生き方を教えてくれた恩師に、人志は再び魂の叫びを上げる。
「さっきも言ったはずですよ…私を殺さない限り、この先へは進めない…。人志…残念ながら貴方の情は私には届かない…何故なら私は、あの男に生かされた死人だから…。」
人志の叫びは戦場に虚しく響き、橘茜はどす黒い殺気を放ちながら一瞬で接近し凶刃を振り下ろした。
その頃、陽菜は全ての元凶である後藤博文と対峙していた。
「せっかくの機会だ。君がどれほど始祖の能力を取り戻せたかどうか…試してみよう。」
後藤は不敵な笑みを浮かべながら、ポケットから胎児のような小さい肉塊を三つ取り出しそれを投げた。
すると肉塊は胎児から赤子へ、赤子から幼児へ、幼児から少年へ、少年から青年へ、青年から大人へと凄まじい速度で成長し、遂には禍々しく強大な妖気を放つ妖怪と化した。
「私の能力を用いた妖怪の生命の強制成長…」
「ご名答。そして今私が創り出した三体の妖怪は、それぞれ大妖怪クラスの力を有している。今の君が私と殺り合うに相応しいかどうか、これで確かめさせてもらうよ。」
三体の大妖怪は、凄まじい咆哮を上げながら陽菜に襲い掛かる。
第一の妖怪は口から凄まじい妖気をまるで破壊光線のように放ち攻撃した。
陽菜はそれに対し始祖の力を駆使し、空間を面で捉えて手で掴み破壊光線の軌道を受け流し相手に跳ね返した。
続けて第二の妖怪も身体能力の全てを倍に強化し、鬼のような怒涛の猛攻で陽菜に急接近し向かっていった。
(愛菜ちゃんと同じタイプの能力…!!)
振り下ろされる拳の連打に陽菜は瞬間移動で距離を取りながらやり過ごすも、続く第三の妖怪に遠隔で血と妖気を吸い取られて動きが鈍くなり、第二の妖怪の拳を腹にまともに喰らってしまう。
だがその時、陽菜は始祖の能力を用いて第二の妖怪の拳による衝撃を第三の妖怪に肩代わりさせ、そして第二の妖怪を掌から衝撃波を発生させて吹っ飛ばした。
「三体の大妖怪を相手に善戦とはやるねえ…腐っても妖怪の始祖なだけはある。だが、この三体が大妖怪をも上回る強さならどうかな?」
そう言い放った後藤は、始祖の能力で三体の大妖怪をより強大で禍々しい妖気を放つ化け物へと成長させた。
「さあこいつらをどうする?妖怪の始祖よ」
三体の大妖怪は激しい咆哮を上げながら陽菜に襲い掛かるも、陽菜はその場から一歩も動かずに目を閉じ立ち尽くしていた。
そして次の瞬間、陽菜は朱い眼を開眼し静かに言い放った。
「往ね」
その一言を発した後、三体の大妖怪は一瞬でミンチとなってそこら中のビルの壁面に飛び散った。
それだけではなく、後藤も陽菜の始祖の力の余波で頭に血を流しており、少なからずダメージを受けていた。
「ヒスイを倒して力を奪い返したとはいえまだ万全に至ってはいない…それなのにこれほどの力を有しているとは…ククク、末恐ろしいねえ…。」
陽菜の力に驚きながらも後藤は不敵な笑みを浮かべる。
そんな後藤に対して、陽菜は怒りを露わにしそれを言葉に乗せる。
「人志は今…お前のせいで望まぬ戦いを余儀なくされている…。この場でお前の息の根を止めた後、私の力で茜先生を正気に戻させる!もうこれ以上、人志に辛い思いはさせない!!」
「クククク…果たしてそう上手くいくかな?」
一方、後藤が差し向けた大妖怪クラスの刺客との戦いを制した樹と愛菜は、数多の妖怪達をなぎ倒していく中で合流した。
「樹!」
「愛菜さん!ご無事で何よりです!」
「うん、あんたもね!」
「急ぎましょう!後藤の刺客を倒した今、あとは後藤の首を獲るだけです!!そうすればこの戦いは終わる!!」
「おう!!」
妖怪達を倒しながら、樹と愛菜は打倒後藤を目指し先へ進んでいった。
そんな中、突如大きな爆発音が東京中に鳴り響いた。
「何だ!?」
そして爆風と共に人志が樹と愛菜の元に吹っ飛ばされ、二人は足を止めた。
「人志さん!?」
「人志!!何であんたが…!?」
「樹…愛菜…俺から離れろ…!」
「え…?」
人志が樹と愛菜にそう言った次の瞬間、橘茜が後を追って上空から現れ激しい衝突音と共に地面に降り立った。
「な…何だあいつ…!?」
「…あの人は橘茜…。少数精鋭の霊能力者集団 守天豪傑の一人で、俺の恩師だった人だ…。」
「そ…そんな…ありえない…!!橘茜は、4年前のバサラによるカモミール襲撃の時に死んだ人間のはずなのに!!それが何で今ここに…!?」
不測の事態に見舞われる樹と愛菜。
そんな二人をよそに、橘茜は禍々しいオーラを放ちながら人志達に歩み寄る。
「人志、あたし達も加勢する!!」
「やめろ!お前達じゃ荷が重すぎる!今の茜先生は生前の全盛期の頃と同じ…いやそれ以上の力を有している…俺の見立てが間違っていなけりゃ、大妖怪のレベルなんて遥かに超えている…俺が今相手にしているのはそんな化け物だ…!!」
「な…何だって!?」
「で…でも、だからと言ってそんな化け物じみた奴をあんた一人で相手にする事こそ荷が重いってもんだろ!!あたし達も協力する!!一人で戦うより三人で共闘すれば絶対勝機はあるよ!!その為に今まで合同訓練してきたんだろ!?」
「愛菜さんの言う通りですよ!人志さん!相手が大妖怪より遥かに強い奴なら尚更です!ここは僕達三人で戦いましょう!!」
度重なる不測の事態が必ず生じる事戦場において、樹と愛菜は人志に正論を言い放つ。
だが、人志は樹と愛菜の言葉を耳にした上で二人にこう言った。
「今…俺の目の前にいる茜先生は4年前バサラの襲撃を受けて殺された後、後藤に死体を掘り起こされて無理矢理蘇生させられて駒のように利用されているんだ…教え子である俺や陽菜を殺すよう脳に命令をインプットされてな…。」
「な……!!」
「いわばあいつの手によって無理矢理生かされている死人…ゾンビみてえなもんなんだ…だからもう、俺の言葉は先生には決して届かねえ…。お前らの言う事は事実正しい…俺一人が戦うよりも三人で共闘した方が確実に戦いやすいし勝算はあるだろう…。だけど、それを抜きにしても…俺は先生の刀の切っ先をお前らに向けさせたくねえ…!!
これは…俺の戦いだ…!!」
「人志……!!」
「この道の先に陽菜が後藤と戦っている…お前らは陽菜の加勢に行ってくれ。この場は俺が制する…茜先生は…俺が殺す…!!」
怒りと悲しみが入り混じったような感情を露わにしながら、人志は決意した。
人志の覚悟と決意を目にした樹と愛菜は、何も言わずに先へと進んだ。
だが、橘茜が二人の行く道に阻む。
「このままおめおめと行かせるとでも?」
刀を片手に橘茜は袈裟斬りで二人諸共斬り殺そうとするが、人志が一瞬で接近し刀を振る直前の手を掴んで制止した。
「言ったはずだぜ…切っ先は向けさせねえってな!!」
二人を先に行かせる事に成功した人志は、橘茜の手を掴んだまま合気で力の流れを変えて橘茜の身体を回転させ、すかさず後ろ回し蹴りで鳩尾を捉えて吹っ飛ばした。
だが、橘茜は人志の蹴りを鳩尾にまともに喰らってなお平気な表情を見せた。
「驚きましたよ…私が墓で眠っている間に、いつの間にか合気を習得できるほど器用になっていたとは…。」
「伊達さんに三年間みっちりしごかれたおかげでね…。けどまだこんなもんじゃないですよ…修行の成果は!!」
そう啖呵を切った人志は、今度は自分から積極的に橘茜を攻めて行った。
橘茜は距離を詰め寄る人志に斬撃を繰り出すも、人志は回避しながら間合いを詰めていく。
身を翻しながら斬撃を避け続け、橘茜の懐に入った人志は拳に炎を纏わせるが、橘茜は瞬時に人志の後ろに回り込み背中に刺突を繰り出そうとする。
「これで終わりです。」
だが、人志は橘茜が自分の背後に回って間合いを測って斬撃を繰り出す事を予想して拳から手刀に変えて炎の剣を纏わせ、振り向き様に高く跳躍して空中で回転させ遠心力を利用して刀に炎の剣をぶつけてへし折った。
「何ッ!?」
「まだまだアァッ!!」
刀を折った人志は、続けざまに火雷(ほのいかづち)状態になり橘茜に技を畳み掛けに行った。
「火雷・雷火閃(らいかせん)!!」
赤い稲妻を纏わせた拳を橘茜の鳩尾に喰らわせ吹っ飛ばした後、雷の如く猛スピードで走って続けて技を繰り出した。
「火雷・炎雷旋刃脚(えんらいせんじんきゃく)!!」
足に赤い稲妻を纏わせて旋風のように回転しながら強烈な蹴りを橘茜の頭部に喰らわせて更に吹っ飛ばし、ビルの壁面に叩きつけた。
ビルの壁面に叩きつけられた橘茜は、凄まじい衝撃と共に崩壊するビルの瓦礫の下敷きになった。
「やっとこさ…ダメージを与えられた…」
火雷の強烈な拳と蹴りを橘茜の鳩尾と脳天に喰らわせた人志は、確かな手応えを感じていた。
が、この程度で終わる程橘茜は脆い相手ではなかった。
崩壊したビルの瓦礫が瞬く間に妖気の放出で塵となり、頭に血を流しながらも橘茜はすぐさま人志の眼前に降り立った。
「まあ、そりゃそうだよな…」
人志は確かな手応えを感じながらも、大妖怪を超越した強さを持つ橘茜に何も疑問を抱かなかった。
橘茜は妖気を消費して頭部のダメージを治癒して止血しながらも、かつての教え子の目まぐるしい成長を感じ取って言葉に出した。
「素晴らしい…あんなに幼くて弱くて無垢だった貴方が、今やこれほどの実力者にまで成長していたとは…嬉しいです…。
人志…今の貴方なら、私の本気を受け止められる…。」
「何だと…!?」
そう言った橘茜は、人志の目の前で自らの手で胸を突き破り心臓を抜き取った。
「な…何のつもりだッ!?」
人志が橘茜の突然の奇行を目にして動揺するも束の間、橘茜の掌の上にある心臓は鼓動を打ちながら次第に形を変えていった。
そして、心臓は一振りの刀へと形作った。
その刀はさっきの刀とは打って変わって長くなり、刀身が血のように濃い赤色に染まっていた。
「…心臓が…刀に変わった…!!?」
「これが私の奥の手…彼岸渡り
この刀に斬られた者は一人の例外も無く死に至る…私の命で創り出した究極の一刀…
命を以て命を殺す能力(ちから)」
「そ…そんなの無茶苦茶だ!!いくら後藤に蘇生されたからといって何で心臓を抜き取っているにも関わらず生命活動を維持出来るんだ!?ありえねえだろ!!」
「そう言えば貴方にはまだ伝えていなかったですね…私が普通の人間ではない事を。」
「何…!!」
「生前…後藤博文の死によって勃発した人間と妖怪の全面戦争の時代…私は当時の霊能力者御三家の一つ 橘家に改造手術を施され、対大妖怪を目的に体内に妖怪の細胞を埋め込まれた
いわば改造人間です。」
「な……!!」
「体内に妖怪の細胞を埋め込まれた事により私は人間でありながら妖怪達が操る妖気を使用でき膂力も強化され、肉体・臓器の損傷の際は吸血鬼のように再生が可能となりました。なので心臓が抜かれようが脳を破壊されようが何も問題ではないのです。
さて、話はこれで終わりです。」
橘茜は自分の過去の一部を人志に話した後、莫大な妖気を放出して彼岸渡りを構えた。
それを見た人志は、かつて妖魔帝国本部にてバサラとの死闘を思い出しながら驚愕していた。
(…分かってはいたけどやっぱりとんでもねえ…!!あいつ以上の凄え妖気だ…!!)
大地を震わせ天にまで達する妖気を放出しながら、橘茜は目にも映らぬ速度で人志に真っ直ぐ斬りかかって来た。
(さっきとは桁違いの速さ!!)
橘茜の縦斬りに対し、人志はすぐさま火雷(ほのいかずち)で横に素早く回避した。
が、回避したも束の間振り下ろされた彼岸渡りは地面と衝突した直後、文字通り大地を割った。
「な…何つう威力だよ…!!」
「余所見をしている場合ですか?」
橘茜は続けて横斬りを人志の胴体に向けて放ち、人志はそれをバク転で回避した。
掠っただけでも死に繋がる彼岸渡りの一太刀を恐れた人志は、手刀に炎の剣を纏わせて刀をへし折った時のように炎の剣を振り下ろし彼岸渡りの刀身をへし折ろうとした。
だが、炎の剣を刀身に衝突させても彼岸渡りは破壊されるどころか全くビクともせず逆に炎の剣が消滅してしまった。
「な…何ッ!?」
「言ったでしょう?この刀は命を以て命を殺す刀。命の源である生命エネルギーを殺す事など造作もありません。」
彼岸渡りの能力で人志の生命エネルギーで創り出した炎の剣を殺した橘茜は、虚を突いて人志の胴を斬ろうとした。
「しまった!!」
一太刀入れば死は免れないという絶体絶命の危機に陥り、為す術がない人志。
ところがその時、突如人志の前に氷の壁が立ち橘茜の彼岸渡りを防いだ。
「こ…氷!?何で俺の前に氷が…!?」
「人志…これも貴方の力ですか?」
「違う!!これは俺の力じゃない!!この力…まるで…!!」
突如として己の危機を救った氷の力に、人志は白銀の少年が脳裏に浮かんだ。
動揺している人志に対し、橘茜はある言葉を投げかける。
「人志…本気になって下さい…。」
「え…?」
「陽菜を守り通す為、怪童を食い止める為に数多の死線を潜り抜けて来た貴方の力は断じてこの程度ではないはず…
全身全霊をかけて向かってきなさい!!私を殺すのではないのですか!?」
橘茜は人志に全力を出すよう、黒い眼差しで強く促した。
そう促された人志は、かつて橘茜との過去を回想していた。
家も親も名も無い自分を拾って居場所と名を与えてくれた日の事、授業に毎回寝坊で遅刻し陽菜に起こされてクスクス笑われた日の事、稽古をつけてもらった事、春の桜の花見や夏の花火大会や秋のハロウィンや冬のクリスマスパーティで仲間達と一緒に存分に楽しんだ事。
綺麗な思い出を思い出した後、人志は今の残酷な現実をしっかりと受け止め炎の生命エネルギーを極限にまで高め放出し身を包み、眼前に立ちはだかる敵を殺す為構えを取って決意の言葉を静かに言った。
「ありがとうございます…茜先生。
今、やっと決意しました…!!」