凍哉から命と力を託された人志は、今一度再起し怨敵 後藤博文を打ち倒すべく拳を握り締めて歩を進めた。
「ば…馬鹿な…!!何故…何故君がその眼を…!?」
雪華の眼を片目に宿す人志を見て、後藤博文は愕然としていた。
「凍哉が俺に託してくれたんだ…死んだ俺に命を吹き込んでくれたんだ…
その思いに応える為にも、ここで引く訳にはいかねえ…!!」
今は亡き戦友との思いに応えるべく、人志は眼前の敵から目を離さずにほとばしる程の熱気と冷気を放出する。
「くっ…ふざけるな!!」
後藤博文は想定外の事態を前にし憤りながらも、掌から妖気の弾を目に見えない程の速度で人志に数発飛ばした。
触れれば肉塊と化す妖気の弾。だがそれを、人志は一瞬で凍らせ塵にした。
「なっ…!!」
後藤博文が驚くも束の間、人志は後藤博文に攻撃が当たる間合いまで一瞬で接近し鳩尾に蹴りを放った。
「ぐはっ!!」
後藤博文は人志の蹴りをまともに喰らい、吐血しながら飛ばされた。
数百メートル飛ばされたその時、突如後藤博文の背後に氷の壁が出現した。
物凄いスピードで氷の壁に叩きつけられ、後藤博文は更なるダメージを負ってしまった。
だがそんな後藤博文に休む暇を与えさせず、氷の剣が放たれる。
「くっ…こんなもの…!!」
後藤博文は次々と放たれる氷の剣を妖気を放出して弾き、粉々に粉砕した。
「ハァ…ハァ…ククク…どうした人志君…友から受け継いだ力はこの程度か?」
氷の破片が舞い散る中、後藤博文は余裕の笑みをこぼした。
だが、そんな笑みもまるでシャボン玉のようにあっさりと消える。
「ヌッ!な…何!?」
後藤博文が氷の剣を捌き切り笑っている最中、人志はその隙を突いて後藤博文の両足を地面ごと凍らせて動きを封じていた。
「いつの間に…!?クソ…!迂闊だった…!」
一切の動きを封じられたその時、後藤博文の視界にとんでもないものが映された。
それは、四方八方に大気中の水分を利用して生成された無数の氷の剣だった。
「しまっ…!!」
断末魔の叫びをあげる暇もなく、無数の氷の剣は後藤博文目掛けて容赦なく放たれた。
樹と愛菜は、人志の正確無比で容赦のない連撃を見て愕然としていた。
「す…凄い…人志の奴、生き返った途端急に人が変わったみたいになりやがった…!しかも、凍哉の力を使ってる…!!」
「ええ…!まるで、人志さんの肉体に凍哉さんの魂が宿ったような…!」
人志は後藤博文をダウンさせた後、絶望し崩れ落ちている陽菜に近づき膝をついて話しかけた。
「陽菜」
話しかけられた陽菜は、ゆっくりと顔を上げて自責の涙で濡れた虚な表情を人志に見せた。
「立て陽菜…戦いはまだ終わってねえ…一緒に後藤の野郎をぶっ潰すぞ」
絶望に崩れ落ちた陽菜を今一度立ち上がらせる為、人志は手を差し伸べた。
だが、陽菜は人志の真っ直ぐな視線に目を合わせられずまた下を見て嘆いた。
「…ごめんなさい…私もう…戦えない…私は…貴方の弱点で、お荷物だから…
だから死なせてしまった…私がいたから、私がいたせいで貴方を死なせてしまった…
こんな…どうしようもない役立たずは、生きる価値なんてない…
もう…消えてしまいたい」
君がいるから彼は死んだんだよ
後藤博文の口から発せられたあの言葉が、陽菜の精神を深く抉った。
「待って!陽菜ちゃん!!」
陽菜の精神状態を見かねた愛菜は陽菜の元に行こうとするが、傍にいた樹が手で遮り止める。
「何だよ樹!」
「愛菜さん…少し待ってあげてください…あの人が何とかしてくれる…」
樹は自分も陽菜の元に行って言葉を投げかけたい思いを堪えて、人志を信じて愛菜を制止させた。
人志は、うずくまって嗚咽をあげて泣く陽菜を見て彼女の涙を指で優しく拭った後、頭を撫でながら言った。
「またお前に悲しい思いをさせちまった…俺がヘマしちまったせいでよ…
ごめんな陽菜…でもよ、今は感傷に浸ってる場合じゃねえ…まだ戦いは終わってねえからな…
という訳だから陽菜、しばらくお前を置いて行くよ…
待ってるからな…」
そう言って、人志は崩れ落ちている陽菜を置いて戦いに赴いた。
厳しさと優しさを含んだ言葉を残して。
そして、人志は仲間の樹と愛菜の元に行って笑顔で合流した。
「よう、樹…愛菜
待たせちまったな」
「人志…あんた、その片眼…凍哉の…!!」
「凍哉さんの雪華の眼…!!」
「ああ…死んだらあいつに会ってよ…もらったんだ…
「これからは俺がお前の眼となる」ってよ…」
死後凍哉と再会し雪華の眼の力を継承された事を、人志は樹と愛菜に伝えた。
「そうですか…凍哉さんが…」
「なあ、人志…陽菜ちゃんの事はあのままでいいのかよ?あんたもう少し励ましの言葉ってもんをかけてやったらどうなんだよ?」
「あれでいい…どうするかは他の誰でもねえ陽菜自身が決める事だ
それともう一つ、俺はあいつを信じている…」
陽菜を心配する愛菜を前に、人志は陽菜が必ず戻ってくると確信を持って言った。
そして後藤博文が身体中に氷の剣を差し穿たれている無惨な状態で、人志達の前に姿を現した。
「ハァ…ハァ…」
身体中から血を流し息を荒げている様から、後藤博文は相当のダメージを負っていた。
「その様子じゃ相当堪えてるみてえだな…いつものニヤケ面が消えてるしな…」
後藤博文の目に見える損傷から、人志は冷静に分析した。
「ハァ…ハァ…フッ…フフフ…いやあ、ここに来て全くの想定外が起きてしまった…まさか、あの忌まわしい一族の末裔が死んだ君の息を吹き返すだけではなく…その何とも言えない忌々しい眼を宿すとはね…
君を殺してようやく私の理想まであと一歩のところまで来たというのに…振り出しに戻ってしまった…」
「そりゃ災難だな…
じゃあ振り出しどころかマイナスにしてやるよ」
後藤博文との最終決戦が始まって以来、ようやくダメージらしきものを負わせる事に成功した人志は、後藤博文に啖呵を切った。
「フフッ…随分言ってくれるじゃないか…
ではもう一度君を私の手で土へ還してあげよう…
今度は君の大切な人や仲間達も含めてね」
後藤博文は人志の啖呵に応えるように、地面を踏みしめて高く上空へ跳躍し浮遊した。
後藤博文はひたすら上空へ、高く高く飛んだ。
人志達の目からは粒のように見えるまで高く飛んだ。
そして後藤博文は飛ぶのをやめてその場に留まり、両手を上げた。
「何するつもりだあの野郎…!?」
後藤博文の行動に、樹と愛菜は不審がっていた。
両手を上げたその時、戦場と化した魔都・東京中の死んだ人間と妖怪達の魂が後藤博文の元へと行った。
数え切れないほどの魂が後藤博文の両手の上にボールのような形となった。
それは、東京全体を覆い尽くす程の膨大な塊だった。
「お…おい…嘘だろあいつ…!?」
あまりの規模の大きさに、愛菜は驚愕した。
「恐らくこの技の規模は和真のポセイドンと同程度のもの…なら何とか対抗出来る!!」
樹はかつての親友 和真との戦いの経験から、己の指を噛んで血で木龍を呼び出す召喚陣をすぐに作ろうとする。
だが…
「ハハハハハ!!樹君!私が今から繰り出すこの技を和真如きのそれと同じと思わないほうがいいよ!!
何せこれは、世界を終わりに出来るほどのエネルギーの塊だからね!!」
「な…何だと…!?」
後藤博文から発せられた言葉を聞いて、樹と愛菜は驚きとともに絶望した。
「そんなの…どうしようもねえじゃねえか…!!」
「せっかく君達の希望が蘇ったばかりで申し訳ないけど、これで私の勝利は揺るがない!!
楽しかったよ!!君達とのゲームは!!
これで私は何の気兼ねもなく新しい世界を見る事が出来る!!!」
深く絶望した敵の顔を見て、後藤博文は勝利を確信して激しく笑いながらその膨大なエネルギーの塊を地面に向けて放った。
刻一刻と世界の滅亡が近づいてくる中、ただ一人だけ滅亡に抗っていた。
「人志さん…!!」
「樹…愛菜…俺が何とかする…
いや、俺達が何とかする…!!」
「人志…!!」
絶望に打ちひしがれる樹と愛菜に、人志は緊張の汗を流しながら向かってくる世界の終わりを睨んだ。
「ハアアアアアアアアアアッッ!!」
人志は赤い熱気と白銀の冷気が入り混じった凄まじい生命エネルギーを放出させ、世界の終わりに抗おうとした。
(こんなもん…俺じゃどうしようも出来ねえ…
だからよ…凍哉…俺に力を貸してくれ…!!)
己の生命エネルギーを極限まで高めた後、人志は亡き戦友から託された力を使った。
「オオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」
次の瞬間、世界を終わらせる塊に一輪の氷の華が咲き誇った。
次第に氷の華は咲き乱れていき、世界の終わりはまるで氷の花畑のようになった。
そして、咲き誇った氷の華たちは儚く散っていった。
「な…何だと!!?」
自らの手で創り出した世界の終わりで己の勝利を確信していた後藤博文は、呆気なく塵にされて愕然としていた。
雪華の眼。
その眼に映った物は、どんな物であろうと華のように凍てつかせ塵にする。
無数の氷の花びらを舞い散らせながら。
「これは…凍哉さんの雪華の眼の能力…!!」
「凄え…やっぱとんでもねえ能力だよ…!!」
一瞬にして世界の終わりを凍てつかせ塵にした雪華の眼の能力に、樹と愛菜は改めてその強さを再認識させられた。
そして、能力を使用した人志本人でさえその強さに驚いていた。
(あいつ…こんなとんでもねえ代物を生まれた時から持ってたのかよ…こりゃ…もういっぺん戦ったら負けちまうかもな…
ありがとうよ…凍哉…)
人志は笑みを浮かべながら、心の中で亡き戦友に感謝した。
世界の終わり、ひいては自分の勝利を確信していた後藤博文は、歯を噛み締めて非常に悔しい表情を浮かべながら大地に降りていった。
如何にも悔しそうな顔を浮かべる後藤博文を見て、人志は更にイラつかせようと挑発した。
「さっきまでの馬鹿笑いはどこ行ったんだよ?
最高指導者で頭の切れる科学者にしては、随分と余裕がねえもんだな」
「ぐっ…!!」
人志の挑発を受けて、後藤博文は青筋を立てて冷静さを欠かせる寸前まで怒った。
「す…凄い…何をしても終始余裕だったあの後藤が、あんなに青筋を立てて怒るだなんて…」
「へっ…いよいよ底が見えてきたな」
後藤博文の余裕の無さを見て、樹と愛菜も自分達の優勢を確信した。
だが、後藤博文は追い詰められながらも余裕の笑みを浮かべすぐに冷静さを取り戻し、次の一手を打とうとする。
「クッ…フフフフ…笑ってられるのも今のうちだよ君達…
この私がそうやすやすとやられると思ったら大間違いだ…」
そう言った後、後藤博文は己の親指を噛み切って出血させ、己の血を媒介に大妖怪達を複製した。
その数、およそ数千体。
「あの野郎、また性懲りも無く大妖怪達を…」
後藤博文は、妖怪の始祖の能力で複製した大妖怪達に命令して人志達に放った。
「クソッ…またこいつらを相手にしなきゃいけないのか…!!」
「ここまで来たらやるしかないだろ!!」
樹と愛菜は、体力の消耗を気にしながらも襲いかかってくる大妖怪達を全力で迎え撃った。
大妖怪達と互角にやり合う中、樹と愛菜はある異変を感じた。
数千にも及ぶ数の大妖怪を放ちながら、自分達にはほんの1〜2体しか差し向けられていない事を。
それが後藤博文の真の狙いだという事に、樹と愛菜はすぐに気付いた。
「人志さんが危ない!!」
「あのクソ野郎!!」
数千の大妖怪を差し向けられている人志を助けるべく、樹と愛菜は刺客達との決着を急いだ。
「ククク…今頃気付いてももう遅いよ…
人志君…君の悪運の強さとその眼の能力には本当に驚かされたよ…だが君はまだ人の子、人の領域から踏み外してはいない…現にあの眼の能力を使用した際、君は多くの生命エネルギーを消費した…元々の持ち主とは違いそう易々と連発は出来ない…
それに、たった一人ではこの数の大妖怪達には手も足も出まい…勝負あったな…」
たった一人の隻腕の少年に対し、数千体の大妖怪。
火を見るよりも明らかなこの戦力差を見て、後藤博文は今度こそ勝利を確信した。
「クソッ!間に合わない!!」
「人志!!」
樹と愛菜は差し向けられた大妖怪達を撃破し人志の元へ向かうも、今まさに数千の魑魅魍魎の手が人志の喉元に届く寸前まで迫ってきているのを見て、間に合わない事を悟らずにはいられなかった。
その圧倒的な戦力差に絶望を感じずにはいられなかった。
己の勝利を確信せずにはいられなかった。
ただ一人を除いて。
「おい、誰がたった一人って言ったよ?」
「何!?」
喉元に魑魅魍魎の手が届く寸前まで迫られても、人志は表情一つ変えずに赤と白銀が入り混じった生命エネルギーを放出した。
雪華の眼を使用して消耗したとは思えないほどの凄まじいエネルギーは、大妖怪達を骨まで焼き尽くし凍らせ塵にした。
「…こいつ…どこにそんな力が…!!」
数千にも及ぶ大妖怪達の半分をやられて、後藤博文は驚愕せずにはいられなかった。
「悪いな、後藤…
こっからは二人がかりでやらせてもらうぜ」
不敵な笑みを浮かべてそう言った後、人志は片手を出して掌から一輪の炎の華を創り出した。
その後、赤く燃え盛る炎の華の右半分の花弁が白銀の氷へと染まった。
「な…何だその華は…!?」
「炎と氷が…溶け合っている…」
「凄え…綺麗…」
赤く燃え盛り白く凍り付いた異様な華に、周囲の者の目は釘付けになっていた。
(感じる…俺の力と凍哉の力が、俺の中で溶け合っているのが…)
炎と氷、相反する二つの力が見事に混ざり合い溶け合っている感覚を、人志は目を閉じて深く感じた。
そして、閉じた目をゆっくりと開いて言った。
「行くぜ、凍哉」
人志は、赤い熱気と白銀の冷気が入り混じった生命エネルギーを一気に放出させた。
それは、天をも穿つほどの凄まじいものだった。
「あ、ありえない!!これほどのエネルギーが奴にあるわけがない!!」
あまりの凄まじさに、後藤博文は冷や汗をかきながら驚愕を露わにした。
それは、樹と愛菜も同様だった。
そして、隻腕の少年の掌の上で創られた炎と氷の華は眼前の怨敵に向けられ、今放たれる。
「氷焔華」
放たれた炎と氷の華は、物凄い速度で迫り来る数千の魑魅魍魎を焼き尽くし凍てつかせていった。
「な…!?まずい!!」
数千ほどいた大妖怪の軍勢は一瞬にして破壊され尽くし、後藤博文は能力「衝撃反転」で迫り来る炎と氷の華を跳ね返そうと試みた。
だがそのあまりにも強大すぎる威力に、衝撃反転は機能出来なかった。
「は…跳ね返せない…!!圧され…!!」
能力のキャパを明らかにオーバーされ、遂には直撃してしまった。
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
炎と氷の華の強大なエネルギーに当てられた後藤博文は、断末魔の叫びをあげて大地を抉らせながら地平の彼方まで吹き飛ばされてしまった。
炎と氷、人志と凍哉。
溶け合った二人の力が今、奇跡を起こした。