戦の鉄則   作:並木佑輔

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第48話 祝福

人志と凍哉の二人の合わせ技「氷焔華」。

炎と氷の相反する二つの力が混ざり合い、その圧倒的な威力は後藤博文を地平の彼方まで吹き飛ばすに至った。

「す…凄え…!!あんだけいた大妖怪達ごと後藤をぶっ飛ばすなんて…!!」

「ええ…!これほどの威力なら…いくら後藤といえどひとたまりもないでしょう…!!」

人志が放った炎と氷の華の凄まじい破壊力に、樹と愛菜は自分達の勝利を確信していた。

 

地平の彼方先、魔都・東京から数千里離れた山々まで吹き飛ばされた後藤博文は、身体の縦右半分が欠損している無惨な姿になっていた。

「グッ…ア…アァ…痛い…とてつもなく痛い…幼い頃興味本位で切り傷をナイフでグリグリしてみたが、あれとは比べ物にならないほどの痛みだ…!!」

激しい苦痛に襲われ歯を食いしばって苦しみながらも、後藤博文はゆっくりと身体を修復しようとしていた。

「あの時、怪童の右手の能力が無ければ…私は木っ端微塵になって死んでいた…あの膨大なエネルギーの塊の全てを無力化させる事は出来なかったが、出来る限り最小限に抑える事が出来た…

悪運の強さは私だって負けちゃいないんだよ…」

後藤博文は、己の悪運の強さに惚れ惚れして笑うが肉体が凍りつく感覚を感じて、かつて妖怪の始祖の能力をヒスイと共に奪いに行った時の事を思い出した。

「あの時も…あの白銀の小娘さえいなければ、私の理想は今よりもっと早く実現していた…

そして今回も…あの小娘はの遺志を受け継ぐ小僧に阻まれた…

どこまで私の邪魔をすれば気が済むんだ…!!」

雪の華を眼に宿す少女とその遺志を受け継ぐ少年を思い出した怒りで、後藤博文は再生を速めた。

そして肉体を修復し切った後藤博文は、怒りのままに山々を駆け抜けて超高速で戦場へと飛んでいった。

 

樹と愛菜が自分達の勝利を確信して喜んでいた束の間、突如上空から何かが降ってきた。

物凄い地響きと土煙を発しながら、後藤博文は土煙を払ってその姿を見せた。

後藤博文の傷一つない姿を見て、人志達は驚愕し動揺した。

「なっ…何だと…!?」

「何で…何で生きてんだよてめえ…!?」

「フフフ…いやあ、さっきのはかなりヤバかったよ…この右手が無ければ、私は今頃とっくにあの世行きだった…」

後藤博文は、余裕の笑みを浮かべながら動揺する人志達に右手を見せた。

「怪童の右手の能力か…」

「ご名答!!この右手の元々の持ち主、ひいては君のかつての親友から奪った能力で私は生き永らえる事が出来たのだよ人志君!!

そして雪華の眼の能力に加えてあの大技を撃った後の君の残りのエネルギー量は、限りなく0に近い状態にある!今こうして立っているのもやっとなんだろう?」

後藤博文が人志の今の状態を自信満々に当てるように言った後、人志は膝から崩れ落ちて荒い息をした。

「ハァ…ハァ…へっ…よく分かってんじゃねえか…」

「人志!!大丈夫か!?」

「アァ…今あいつが言ったように、俺はかなり消耗している…もう立ってられねえくらいにな…雪華の眼を使った時も、かなりのエネルギーを使っちまったからな…

さっき放った氷焔華って技で全部終わらせるつもりだったんだが、すまねえ…しくじっちまった…」

「ここまで色々と攻防が繰り返されたが、いよいよ王手だ人志君…

まずは一番目障りな君から殺し、それから始祖を殺して力を全て奪う事にしよう!!」

勝利を目前にした後藤博文は、意気揚々と走り出し空間ごと抉り取る右手を人志に向かって振りかざそうとした。

それを見て樹は親指を噛んで自身の血を媒介に木を瞬時に錬成し、ナイフのように鋭利な複数の木の枝を放った。

後藤博文は、複数の枝分かれしている木を少し掠りながらも回避した。

「そう簡単に自分の思い通りに事が運ぶと思うなよ…後藤博文!!」

「そうだった…そういえば君らの存在をすっかり忘れてたよ…」

後藤博文は、擦り傷を負いながらも余裕の笑みを浮かべて樹を下に見て言った。

それを見て愛菜は、仲間を見下す相手に怒りをぶつける形で腕力を倍に強化し、正拳突きによる衝撃波を後藤博文に喰らわせた。

「あたしの事も忘れてるぞクソ野郎!!」

「ぐっ…!!」

衝撃波を喰らい吹っ飛ばされて吐血する後藤博文を横目に、愛菜は人志に顔を向けた。

「ここからはあたしらに任せな!!あんたはそこでゆっくり休んでて!!」

「愛菜…でもお前ら…」

「僕達の事は大丈夫です!!人志さんにばかりいい格好はさせられませんから!!」

「樹…愛菜…

すまねえ…」

目の前に悠然と構える戦友達の傷と泥だらけの背中を見て、人志は申し訳ないような顔を浮かべて言った。

「そこはありがとうだろうが!!」

それを聞いた愛菜は、目の前の敵を真っ直ぐ見ながら不敵な笑みを浮かべて言い返した。

それは樹も同様だった。

「クククク…アハハハハハハハハハハハッ!!

笑わせないでくれよ…人志君より遥かに劣る君らが私の相手をするだと!?

いいだろう!!そんなに死にたければすぐに死なせてやるさ!!」

後藤博文は舐めてかかりながらも、樹と愛菜の方へ走っていき右手を振りかざし空間ごと抉ろうと動いた。

樹と愛菜はすぐさま跳躍して回避し、樹は能力で巨大な丸太を錬成してそれを愛菜に持たせた。

「愛菜さん!!」

「おう!!」

愛菜は能力で丸太の強度と硬度を倍に強化させ、それを持って後藤博文を叩き潰すべく振り下ろした。

凄まじい衝撃音と大地が割れるような地割れに見舞いながらも、後藤博文は回避した。

「まだまだアァッッ!!」

愛菜は手を一切緩めずに、巨大な丸太を振り回しまくって後藤博文に攻めまくった。

「どんなに威力のある攻撃も、当てられなきゃ意味が無いんだよ!!」

後藤博文は、余裕を持って回避しながら愛菜の丸太を右手で空間ごと抉り取り武器破壊し、そのまま愛菜の胴体を抉ろうと右手を振ろうとした。

だが、突如後藤博文の身体に複数の木の枝が絡み付いてきた。

樹が能力で自身の血を媒介にして複数の木の枝を錬成し、後藤博文の行動を阻止したのだ。

「貴様…!!」

「愛菜さん!!今だ!!」

「サンキュー!樹!!」

愛菜は自身の能力で腕力と握力を倍に強化して、サポートしてくれた樹に感謝しながら全力で後藤博文の鳩尾に拳を喰らわせた。

「ぐぶうゥゥッッ!!」

強化された鬼の拳をもろに喰らって、後藤博文は噴水のように血を吐いた。

「行くぞおおおおおおおおおおおおおッッ!!!」

臓腑にまで響く一撃を喰らわせた愛菜は、地面を踏み締めて勢いに乗って更に拳のラッシュを喰らわせた。

「オラオラオラオラオラオラオラオラァッッ!!!」

一発一発が臓腑をも破壊するほどの威力の拳を喰らって、後藤博文は白目を剥いて吐血しまくる。

「ぶっ飛べえええええええええええッッ!!!」

連撃を喰らわせた後、愛菜は拳を固く握り締め大地を踏み抜き、後藤博文の顎めがけてアッパーを喰らわせ上空へと吹っ飛ばした。

大量の血飛沫を空中に撒き散らしながら遥か上空へと吹っ飛ばされる後藤博文。

それを見た樹は、この機を逃さず更なる追撃を試みようとした。

(愛菜さんがかなりのダメージを与えてくれた!!絶対にこの機を逃してはいけない!!

ぶつけるぞ!!僕の全てを!!)

元凶・後藤博文を倒せば全てが丸く収まるこの戦いを終わらせるべく、樹は無数に枝分かれしている鋭利な木々を錬成して放ちまくった。

上空に放たれた木々達は、その刃のように鋭利な木の枝で後藤博文の手足と銅を深々と抉った。

そして樹は、更なる追撃を喰らわせるべく巨大な拳の形をした大木を錬成し、その巨大な木の拳を後藤博文に放って上空から地面へと叩き潰した。

 

一方、大地に亀裂が入り凄まじい衝撃と共に土煙が撒き散らされる戦場の中で、人志は樹と愛菜の背中を見て心の中で思った。

(嗚呼…立派な背中だな…

思えば、お前らにはいつも助けられてばかりだった…陽菜を連れ戻す時も…ヒスイをぶっ潰す時も…俺一人じゃここまで辿り着けなかった…

ありがとうよ…お前らと戦友(ダチ)になれて本当に良かった…)

数々の戦いを共に乗り越えた樹と愛菜の成長を感じ取って、人志は嬉しく思いながら戦友達に深く感謝した。

 

「樹!!このまま一気に終わらせるよ!!」

「はい!!」

とことん追い詰めた樹と愛菜は、いよいよ後藤博文の命を獲る為最後の止めを刺そうとした。

愛菜はビルを持ってビルの強度と硬度を倍に強化させ、樹はビルより大きい大木を錬成して後藤博文めがけて振り下ろし、肉片も残さず叩き潰そうとした。

だが、後藤博文はそんな絶体絶命の危機に瀕しながらも不敵な笑みを浮かべて突然言い放った。

「ひれ伏せ!!」

後藤博文が発した言葉のままに、樹と愛菜は突然地を這う蟻の如くひれ伏した。

妖怪の始祖の能力で強制的に動きを封じられたのだ。

「ぐっ…!!な、何だよこれ…!?」

「これは…陽菜さんと同じ力…!?」

「忘れたのかい?この私が始祖の能力の半分を手中に収めていた事を…」

迫り来る樹と愛菜の動きを完全に封じた後藤博文は、怪童のもう一つの能力、ひいては大妖怪ヒノマルの空間打突を以てこの戦いを終わらせようと、右拳を握りしめて正拳突きの構えをした。

「やべえ…!!このままじゃ全員殺される…!!何とかしねえと…!!」

妖怪の始祖の能力の影響を受けて能力者として覚醒した者は、その能力への耐性を持つ事が出来る。

樹と愛菜が動きを封じられている中、人志だけは唯一動けていた。

「奴を止めねえと…負けちまう…!!

クソ…!!こんな時だってのに身体が言う事聞かねえ…!!」

能力を発動する為の生命エネルギーも尽き、体力も限界になっている人志は、地を這ってでも後藤博文の能力発動を阻止しようと懸命に動いた。

だが、それももう間に合いそうもない距離だった。

「思いの外粘られたが…これで終わりだ!!!」

「やべえ…!!間に合わねえ!!!」

時既に遅し、後藤博文の放たれた拳は、バリバリ、ビキビキとまるでガラスにヒビが入ったような音を立てながら空間に亀裂を生じさせた。

空間打突は防御・回避共に不可能の規格外の能力。

発動を阻止出来なかった人志は、敗北と死を悟った。

だがその時、ヒビ割れていく空間の亀裂が突然止まった。

まるで時間が巻き戻るかのように空間の亀裂は徐々に元に戻っていった。

「な…何だこれは!?」

必勝の能力を発動した後藤博文は、突然の出来事に驚愕を禁じ得なかった。

「跪け」

そして、突如少女のような声から発せられた言葉のままに、後藤博文は強制的に地を這わされた。

「ぐっ!?こ…これは…!!」

コツ、コツと、足音を立てながら声の主は戦場に姿を現した。

「は…陽菜さん!!」

「陽菜ちゃん!!」

朱い眼を晒し、少女は今一度戦線復帰した。

必ず戻ってくると信じていた人志は、曇りのない笑顔で友を迎えた。

「よう…随分遅かったじゃねえか」

「ごめんなさい…皆…

私はもう挫けない…最後までこの命の限り戦い抜くわ!!」

以前までの絶望と自責の涙で濡れていた顔とは一転して、少女の顔は強い決意と覚悟に満ちていた。

「ぐっ…クソォ…!!万能の力を持っているだけの無能風情が!!

この私を止められると思うなよ!!」

後藤博文は妨害された事を憤りながらも、すぐさま起き上がって全てを抉り取る右手で妖怪の始祖である陽菜を殺そうと動いた。

それに対して、陽菜は右手をかざして空間を操り、空間ごと後藤博文の右手を掴んでそのまま握り潰した。

そして陽菜は更に左手、左足、右足を空間ごと掴んで握り潰した。

「ぐああああああああっっ!!

あああああああああっっ!!」

両腕両脚をぐちゃぐちゃに潰され、後藤博文は今までにない悲痛の叫びをあげて倒れた。

後藤博文の再生能力は限界に達し、もはや再起不能の状態に陥っていた。

 

その後、陽菜はエネルギー切れに陥っている人志の身体に触れてエネルギーを譲渡し、全快させた。

「ありがとうよ、陽菜!

マジで助かったぜ!」

「皆が一生懸命に戦っている中で私だけ泣いてばかりいたんだもん…これくらいの事はしなきゃ、お話にならないよ!」

後藤博文の束縛から解放された樹と愛菜も、陽菜の元へ走って人志に続いて感謝した。

「ありがとうございます陽菜さん!

陽菜さんが助けに来なかったら僕たち今頃全滅していました!」

「サンキュー陽菜ちゃん!

陽菜ちゃんの始祖の力はやっぱ凄いね!後藤の野郎とは比べものにならないよ!」

「樹さん、愛菜さん…ごめんなさい!

皆が必死に頑張っている中、私だけ泣き崩れてばかりいて…本当にごめんなさい!」

「いいんだよ陽菜ちゃん!終わりよければ全てよしって言うじゃん!」

「厳密にはまだ倒してないから終わってないんですけど…」

樹は愛菜の揚げ足を取る形で一言言ってしまい、愛菜は少しイラッとして樹に頭突きで小突いた後、腕で頭を抱き寄せて締めた。

「この野郎!人が良い事言って励まそうとしてんのに揚げ足取ってくるんじゃねえコラァ!!」

樹は愛菜に絞められ苦しみながらも、絞められた際に乳房が顔に当たって赤面しながら離すよう懇願した。

「す、すみませんでした!!

もう余計な事は言わないので、どうにか離してください!!

お願いしますぅ!!」

愛菜と樹の和気藹々としたやり取りを見て、人志と陽菜は互いに顔を合わせて笑った。

重い空気で包まれていた戦場の中で、人志達はほんの少しだけ緊張が解けて安堵した気持ちになっていた。

 

人志達が明るい雰囲気になっていたその時、人間と妖怪達の避難を終えた妖怪殺し対策本部長の若茶とその部下達が、打倒後藤博文の為次々と戦線復帰した。

「若茶本部長!!」

「遅れてすまん樹!先ほど住民達の避難を終えてきた!

今の戦況はどういった感じだ!?」

「はい!たった今、僕達の手で再起不能にしました!!

奴は今手も足も出ません!!」

「そうか…本来我々大人が解決すべき問題なのに、君達に大変な苦労をかけてしまった…本当に申し訳ない

あとは我々に任せてくれ!!

砲撃準備!!!」

若茶は満身創痍の後藤博文にとどめを刺すべく、部下達に妖気弾を放つ準備をさせた。

両手両足を千切られ、再生能力も底をついた後藤博文。

その後藤博文に対して、人志は言葉を投げかける。

「よお、どんな気分だよ?散々てめえが見下してきた人間と妖怪達に、逆に見下される気分はよ?

新しい世界を創る前に、地獄でてめえが今まで利用して殺してきた人達に詫びを入れるんだな…」

恩師である橘茜の命を利用され自分と殺し合わせるよう仕向けた後藤博文への怒りを胸に秘めながら、人志は静かに言った。

後藤博文は虫ケラのように地を這い、四面楚歌の状況に陥った。

人志達は今、確実に王手をかけた。

だが、そんな四面楚歌の状況下で後藤博文はまだ笑みを浮かべていた。

その笑みはまるで、この絶望的な状況をひっくり返せる自信を含んでいたようだった。

「…何がそんなにおかしいんだてめえ…!」

「ク…クククク…いや、おかしいんじゃないんだ…嬉しいんだよ…

以前まで私は…君達の事など取るに足らない蟻んこにすぎないとたかを括っていた…無論あの怪童も含めてね…

だが実際に戦って違った…君達はどんなに打ちのめされようと…どんなに犠牲が出ようとも…決して攻めの手を緩めずどこまでも追い詰めてくる…

そんな君達とこうして交えた事に、私は今…凄く感謝しているんだ…!!

おかげで私は、更なる高みへと目指せるんだからね…!!」

「…!!」

後藤博文の不気味な笑みを見て、人志達は胸騒ぎを覚えた。

そして次の瞬間、人志達の目の前にとんでもない出来事が起こった。

突然、後藤博文が自身の手で胸を抉り、そこから心臓を握って体外へと取り出したのだ。

「な…何してんだてめえ!!?」

「ぐうぅっ!!ぐっ…!

グフフフフ…決まっているじゃないか…

君達への感謝の念だよ…!!」

己の心臓を取り出し胸から大量の出血をしながら、後藤博文は高らかに叫んだ。

「私の中に眠る始祖の力よ!!この私に、更なる力を与えてみせろおおおおおおおおッッ!!!」

妖怪の始祖の力を使い、良からぬ事を企んでいる事を察した陽菜は、味方達に向けて逃げるよう必死に言った。

「みんな早く逃げてええええええええええええッッ!!」

陽菜から逃げるよう号令を受けた皆は間に合わない事を悟り、逃げるよりも後藤博文の動きを阻止すべく攻撃へと移った。

「撃てええええええええええええええッッ!!!」

若茶は号令を放ち、部下達に妖気弾を放たせた。

無数の妖気弾が迫り来る中、後藤博文の掌の上にある心臓は朱く光りだし戦場は朱い光で包まれ、人志達は目を閉じずにはいられなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

しばらくして朱い光は収まり、人志は目を開けた。

目を開けると、目の前にはさっきまで満身創痍だった後藤博文の全快した姿が、そして傍らには陽菜がいた。

「おい…どういう事だよ…!?

てめえ…さっきまで両手両足千切れてたよな…!?」

「クククク…それだけじゃないよ?

周りをよく見てごらん?」

人志と陽菜は、後藤博文の言う通りに周りを見渡した。

すると不可思議な事に、人志と陽菜以外の全ての人間と妖怪が皆白目を剥いて倒れ伏していた。

「な…何だよこれは!?何がどうなってんだよ!!?」

人志と陽菜はあまりの出来事に驚愕しつつも、仲間である樹と愛菜の元へ急いで走った。

人志は樹を、陽菜は愛菜の方へと行った。

「おい樹!!しっかりしろ!!樹!!!」

「愛菜ちゃん!!お願い起きて!!返事して愛菜ちゃん!!!」

人志と陽菜は必死に叫んだ。

だが、樹と愛菜は白目を剥いたまままるで死体のように冷たかった。

「いくら叫んでも無駄だよ…君達以外の全ての人間と妖怪は死んだから」

「な、何だと!!?」

「正確に言えば私の始祖の力で全ての命をこの果実で吸い取った。

欲を言えば君達二人の命も吸い取りたかったがね…

まあ君達二人の場合は例外だから仕方ないけどね…

特に妖怪の始祖の力の耐性を持つ人志君と、妖怪の始祖そのものである陽菜は…」

後藤博文は今のこの状況下を二人に説明した後、続けざまに言った。

「だが、これで私の勝利は決して揺るがぬものになった…

この果実が、私を絶対の勝利へ導いてくれるからね…!!」

そう言った後、後藤博文は手に持っている林檎の形をした心臓を口の中へと運んだ。

ドクン、ドクンと、鼓動を打っている果実を口に含みよく咀嚼して飲み込んだ。

すると身体の内にドクン!!と強い鼓動音が鳴り響き、内側から強くノックされるような感覚を覚えながら後藤博文は眼を朱く光らせて叫んだ。

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

後藤博文の叫びに反応するように、暗雲が立ち込め雷が鳴り響き、大地は地震のように強く揺れ始めた。

そして後藤博文の身体中の皮膚が破れ始め、剥き出しの肉塊へと姿を変え始め徐々に生命の進化を遂げようとしていた。

 

後藤博文の変わりようを見て、人志は汗をかいて緊張を覚えながらも陽菜に語りかけた。

「陽菜…全ての人や妖怪達の命とかこれからの世界がどうなるかなんて俺には分からねえ…

けどなあ、お前だけは死んでも守り通してみせる…!!

そんでもって、あいつは俺がぶっ潰す!!」

人志の強い決意を受けて、陽菜も人志に応えるべく言い返した。

「私だって、いつまでも貴方に守られてばかりじゃいられない…!!

今度は私が貴方を守ってみせるわ!!」

緊張の汗をかきながら強い決心を持って笑う陽菜を見て、人志もそれに応えて笑ってみせた。

 

そうしている間に、血溜まりの赤い肉塊は純白の皮膚に包まれついには人の姿となっていた。

美しい純白の長髪と皮膚に、左半分が女性・右半分が男性の身体となり、雌雄同体の新しい生命が今ここに誕生した。

「それがてめえのなりたかった新しい命かよ…

ヒスイといいてめえといい、ホントに趣味が悪すぎるぜ」

「フフフ…凡人の君らには到底理解出来ない事だよ…

それより見たまえ人志君…これが私が追い求めていた新たな命だよ

全ての人間や妖怪・鬼・吸血鬼の強さを超越し、更に性をも超越した…まさに全てを超えた新しい生命体!

名を冠するならそう…Beyond!!」

後藤博文は長年の念願だった新しい生命体へと進化し、高らかにその名を宣言した。

「へっ…何がBeyondだ!

そんな気持ち悪いもん、俺が一瞬でぶっ潰してやる!!」

人志は、一気に勝負を終わらせる為全生命エネルギーを放出して炎の剣を生成し、それを振り下ろして巨大な赤い炎の斬撃をBeyondに飛ばした。

迫り来る炎の斬撃を、Beyondは余裕の笑みを浮かべて何の動作せず跳ね返してのけた。

「な…!!?」

跳ね返された炎の斬撃は、さっき人志が放ったものよりも更に威力と速度が倍増しており、人志は紙一重で回避した。

反射された炎の斬撃は、大地を抉りながら物凄い速度で地平線の彼方まで飛んでいった。

「あ…危ねえ…!!」

「フフフフ…どうした?

一瞬でぶっ潰すんじゃなかったのか?」

見下すような笑いをするBeyondに、続けて陽菜は妖怪の始祖の力で呼吸を封じて窒息死させようと試みた。

だがそれすらも反射されて、人志と陽菜は呼吸困難に陥ってしまった。

「グ…!ガ…ガアァァ…!!」

「今の私は全てを超越した生命体Beyond…妖怪の始祖の力など、今となっては取るに足らん!!」

「そ…そんな…!!」

「フフフフ…アハハハハハハハハハハッッ!!

どうだ!遂に…遂に成し遂げたぞ!!

新しい世界を創造する新しい生命の誕生を!!

祝福しろ蟻共!!これが新世界だ!!!」

人志と陽菜の呼吸を封じ、Beyondは高らかに笑って勝利宣言をした。

戦いはBeyondの勝利に終わったと思われた。

だがその刹那、漆黒の雷がBeyondの心臓に位置する胸を鳴り響く轟音と共に貫いた。

人志と陽菜は突如降ってきた漆黒の雷のおかげで呼吸出来るようになり、間一髪で助かった。

「ガハッ!!ハァ…ハァ…!

こ…この雷は…!!」

漆黒の雷に助けられた人志と陽菜は、その雷が誰のものなのかすぐに分かった。

背後から雷に貫かれたBeyondは、後ろを向いて崩れ落ちた高層マンションの頂上にいる人物に話しかけた。

「フフフ…そういえば君の存在をすっかり忘れていたよ…

"黒雷"伊達恭次郎君」

天候を支配し、漆黒の雷を放った伊達恭次郎。

鳴り響く轟音と共に、今再び戦場に舞い戻った。




慢性腎臓病と潰瘍性大腸炎の闘病、そして腎臓移植手術と、不定期更新とはいえ最新話の更新が遅れてしまい誠に申し訳ございませんでした
これからはもっとペースを上げて更新していきたいと思っております
どうかこれからも戦の鉄則を、人志達の戦いとその生き様を見届けてください
お願いします
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