戦の鉄則   作:並木佑輔

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第49話 再現

後藤博文。

主に生物学・医学を研究している科学者であり、

アルツハイマー・潰瘍性大腸炎・狂犬病・パーキンソン病など、様々な難病・不治の病を治してきた。

その科学力の高さで表向きには人間界の最高指導者として任命され、多くの人々を導いてきた。

だが、その裏では人間や妖怪達を実験台にして今までに見た事のない新しい生命体を創ろうと画策していた。

生命の進化はまだまだこんなものではないと、己の理想の為に多くの屍を築き上げた。

だが、いくら実験をやっても妖怪達を超える新しい生命体は生まれて来ず、途方に暮れていた。

人間界でいくら実験をしても成果が出ないと確信した後藤博文は、妖怪達を生贄に魔界へと繋ぐゲートを作って魔界へと足を運んだ。

魔界の探索をしている内に、後藤博文は妖怪の始祖の神の如き能力をその目で見て確信し、同じく始祖を狙っている吸血鬼ヒスイと共に手を組み襲撃した。

奪った始祖の能力で自らの死を装って戦争の引き金を引き、多くの命を糧に妖怪の始祖の能力をパワーアップさせていた。

そして、後藤博文はようやくこの世に誕生させた。

あらゆる生命の理を超越した、新しい世界を築く生命体"Beyond"を。

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黒い雷がBeyondと化した後藤博文の心臓を貫き、轟音と共にその能力の持ち主 伊達恭次郎が姿を現した。

「フフフ…そういえば君の存在をすっかり忘れていたよ…

"黒雷"伊達恭次郎君」

「だ…伊達さん…!!」

氷華の里にてヒスイの眷属達をたった一人で相手取り、ボロボロになりながらも伊達恭次郎は再び戦線復帰してきた。

「フフフフ…素晴らしい!!あのヒスイを相手にして生き残るとは、そこまでやれる男だとは思わなんだ!!

だけど来るのが少し遅かったなあ…もっと面白いものが見れたのに惜しかったなあ…

来るのが早ければかつての君の同期の姿が見れたのに」

Beyondと化した後藤は、邪悪な笑みを浮かべながら高らかに言った。

伊達のかつての戦友であり、人志にとっての恩師である橘茜の事を。

「てめえ…!!」

人志は死んだ橘茜の死体を利用して自分にけしかけた事を思い出し、眉間に皺を寄せて後藤を激しく睨んだ。

それを見て、後藤は更に挑発するよう人志に言った。

「なあ人志君!君の口から言ってあげなよ!!

君の大好きな先生がどのように死」

調子に乗って挑発する最中、突如伊達が後藤に手をかざして右頭部を稲妻で貫き破壊した。

その稲妻の速さに、後藤は全く反応出来ず倒れ伏した。

 

後藤をダウンさせた後、伊達は真剣な表情をしながら人志と陽菜の元へゆっくりと歩み寄ってきた。

「…伊達さん…

すみません…俺の…俺…のせいで…茜先生は…」

ゾンビとして蘇られたとはいえ、かつての恩師をその手で葬った事に罪悪感を覚えながら、人志は下を向いて声を震わせて言った。

「人志…」

伊達に声をかけられた人志は、ゆっくりと上を向いて伊達の顔を見た。

「何も言うな…」

と、伊達は怒るでも悲しむでもなく静かに言った。

年端も行かない少年に罪を背負わせないように、伊達は言った。

 

その後、右頭部を稲妻で貫かれ破壊されたBeyondは、ゆっくりと起き上がって欠損した右頭部を瞬きするよりも早く再生させて笑った。

「フフフ…相変わらず君の速さは素晴らしいな伊達君…

ヒスイをも超えたBeyondとなった私でさえ全く反応出来ないとはね…」

右頭部を貫かれながらも余裕の笑みを見せるBeyondに、伊達は振り向き様に言った。

「随分見ねえ間に趣味の悪い姿になっちまったと思いきや、てめえがヒスイを超えただと?

寝言は寝て言え…能力頼りの三流が…」

「フフフフ…ではこれから見せてあげよう

ヒスイも、そして妖怪の始祖を超えた力というものを…」

そう言った後、Beyondは余裕の笑みを浮かべながら両手の掌を差し出し、掌から黒い炎を出現させた。

「あれは…ヒスイの黒い炎…!!」

驚愕する人志達をよそに、Beyondは更に無数の黒い炎を生成した。

「これがBeyondの持つ能力の一つ"完全再現"だ!!

一つの例外もなくありとあらゆるものを全て100%再現出来る!!

思い出すだろう?ヒスイとの戦いを!!」

ヒスイの黒い炎を完全再現させたBeyondは、意気揚々に無数の黒い炎を人志達に放った。

「く…来るぞォ!!」

次々と襲いかかる無数の黒い炎。

一発でも当たれば、いや掠っただけでも即死に繋がる。

人志はエネルギーを全出力で放出し、気炎万丈並の火力で黒い炎を焼き消していく。

陽菜は始祖の能力で身の周りにバリアを貼ってやり過ごし、伊達は人志同様に黒雷を全出力で放出し炎を掻き消した。

無数に襲いかかる黒い炎の対処に、人志達は30分ほどの時間を要した。

「ハァ…ハァ…

陽菜…伊達さん…無事か…?」

「ハァ…ハァ…え…ええ…何とか」

「…クソが…完全再現だと…!?

ふざけた能力しやがって…!!」

黒い炎を捌き切るだけで体力を消耗した人志達を見て、Beyondは舐め腐るように嘲笑った。

「フフフフ…ほんの少しだけ能力をお披露目しただけでもう息切れかい?

これじゃBeyondの強さの試しにもならないなあ」

人志達は見下されながらも、打倒Beyondの為の作戦と対策を冷静に静かに練ろうとした。

 

「本場の黒い炎をまるっきり再現出来る能力…恐らく他の能力も…

伊達さん…間違いねえ…こいつはヒスイをも超えている…!!」

「チッ…どうやらそうらしいな…

能力頼りの三流が…とんでもねえ化け物になりやがった…」

「私の始祖の力も…どういうわけか奴に反射される…

どうすればいいの…?」

「反射の能力はさっき伊達さんの不意打ちが通ったのを見ると、不意打ちによる攻撃は絶対通る…

問題はあの完全再現をどうするか…」

「俺に作戦がある…」

「伊達さん…?」

「俺と人志でまず後藤を攻めにかかる…それも初っ端からフルスロットルでな…

陽菜…お前は始祖の力を使ってヒスイ戦と同じように奴の能力を弱体化させろ…

その間、俺と人志で全て終わらせる…」

「で、でも…それじゃあBeyondに反射されて逆に私達がやられてしまいますよ…!!」

「それはない…奴の反射能力はとどのつまりBeyondになる以前に持っていた衝撃反転を単にパワーアップさせたようなもんだ…

反射できねえものは大きく3つに分かれる

①フェイントによる能力発動のタイミングのズラし

②複数の力は反射出来ない

③奴の反応速度を超える速さ

現に奴は俺の黒雷の速さに反応出来ず反射出来なかった…

俺なら奴の注意を引いてかつ、人志の炎の火力と共に決定打が打てる…完全再現を使う暇を与えさせねえ

その為に陽菜…お前さんには奴の弱体化が必要不可欠なんだよ…」

「な…なるほど…」

「よし!作戦は決まったんだ…

一気にケリを着けてやろうぜ…伊達さん…!!」

 

打倒Beyondの作戦が練り終わり、早速伊達が凄まじい速度でBeyondに向かっていく。

目にも映らぬ程の速さで、伊達は突きと蹴りの連撃をBeyondに喰らわせる。

陽菜の始祖の力による弱体化によって、Beyondの十八番である反射能力と完全再現を使用困難にさせ、徐々に追い詰めていく。

作戦に勝機を見出した人志は、目一杯に力を込めた炎を纏わせた拳を、Beyondに叩き込むべく向かって行った。

だが、Beyondは攻められながらも人志達の戦略を見抜き嘲笑っていた。

「確かに私の反射能力は少しでも反応が遅れたりタイミングをズラされるとほぼ効力を発揮しない…その点に関しては君達の推察は正しいよ…

けどね、この完全再現だけは理解したとて対策出来ぬ究極の能力なんだよ!!」

「何だと!?」

そう言った後、Beyondは右手を開いて大きく振り上げて大きく振り下ろした。

すると、さっきまで追い詰めていた人志達がまるで地を這う蟻の如く這いつくばってしまった。

「こ…この力は…!?

ザクロの…超重力…!!」

「ご名答!!

戦ったことのある人志くんなら一発で理解出来ると思ったよ!!

まあ私の超重力はあんな雑魚とは比べ物にならんがね!!

そしてこれも!!」

大妖怪バサラの右腕のザクロの超重力。

その能力を再現して人志達を地に平伏させた後、右手で両眼を覆った。

眼を覆った手を離すと、その眼の奥には雪の華が宿されていた。

「てめえ…!!その眼は…!!」

「そうだよ!!雪華の眼だよ!!!」

亡き友から託された眼をそのまま丸ごと模倣された人志は、驚愕を覚える暇もなく氷漬けにされる。

「この眼には散々嫌な思いをされてきたが、こうして自分で使ってみると本当に素晴らしい能力だよ!!」

邪悪な笑みを浮かべて高らかに言いながら、Beyondは再現した雪華の眼で人志達を氷漬けにして塵にしようとした。

雪華の眼の視界に映った物は、どんな物だろうと氷漬けにして塵にする。

超重力で身動き一つ取れずにいる人志と伊達は、もはや逃れられぬ敗北と死を悟った。

だがその時。

「解!!」

と、突如陽菜が強く言い放った。

すると、人志達を凍結させている氷がまるで熱に当てられたかのように溶けて無くなり、超重力による拘束も強制的に解除された。

「チッ…!!良いところを邪魔しやがって!!」

「縛!!」

続いて陽菜は、縛の一言でBeyondの身体の周りに鎖を具現化させて縛り付け、身動きの一切を封じた。

「そのまま落ちろ…奈落まで…!!」

そう言って、陽菜は眼を朱く光らせて始祖の力でBeyondに重力をかけ、文字通り奈落に落とした。

地の底が見えなくなるまで。

 

凍結も重力による拘束も全て解除された人志は、救ってくれた陽菜に言い寄った。

「陽菜!!お前…!!」

「いつまでも貴方に守られてばかりじゃいられない…

言ったでしょ?今度は私が貴方を守るって…!!」

この最後の戦いに至るまでに、陽菜は人志に守られてばかりだった。

選定の時も、陽菜奪還をかけた大妖怪達との戦いの時も、ヒスイとの戦いの時も。

守られてばかりの自分を変えようとする陽菜の強い眼差しを見て、人志は真剣な面持ちから明るい笑みへと変わって陽菜に言った。

「へへっ!あのベソばっかかいてた泣き虫がやっと一丁前の顔つきになったな!」

と、人志に揶揄われた陽菜は顔を赤くして言い返す。

「う…うるさい!言っとくけど…私が助けてあげなかったら今頃死んでたんだからね!

少しは感謝しなさいよ馬鹿!」

互いに軽口を叩き合いながらも、二人は支え合い親友としての絆を深めていた。

「イチャつくんなら戦いを終わらせてからにしろガキ共…

拳骨喰らわせるぞ?」

この世の命運をかけた戦いの最中、和気藹々としている二人に伊達は睨んで言った。

それを受けて、人志と陽菜はビビりながら反省を促した。

「す…すみません伊達さん…」

 

その後、突如として地震のような地響きが発生し激しく揺れた。

先ほど陽菜が沈めた奈落の穴から、何気ない顔でBeyondはゆっくりと出てきた。

しかも、全くの無傷で。

「まあ…あれぐれえでは死なねえよな…

特にてめえの場合は…」

「ククク…当然さ

私は今や全ての生物を超越した存在"Beyond"だからね

無能の始祖とは訳が違う」

超重力に等しい始祖の攻撃を喰らっても、血一つ流さずに笑っているBeyondを見て、陽菜は歯噛みした。

歯噛みする陽菜を見て、Beyondは笑って更に言い続ける。

「とは言え…君達は実に素晴らしいよ

ヒスイを殺せるレベルの炎をその身に宿す隻腕の少年

無能とはいえ万能に等しい力を持つ妖怪の始祖

妖怪達との苛烈な戦争を生き抜いた生ける伝説

このBeyondの圧倒的な力を試すに相応しい人材だ…」

人志、陽菜、伊達。

三人の強さを厄介に思いながらも、Beyondは彼らを褒めた。

その後、Beyondは伊達に視点を変えて彼に言う。

「特に伊達君…この三人の中で君は一番劣る存在だが、思ったよりもやれる奴だと今改めて認識させられたよ…

流石は少数精鋭の霊能力者集団"守天豪傑"の最後の一人と言うべきか…無様に死んでいったクズ共とは違って単なる強さだけじゃなく運も持ち合わせている…

伊達君…存分に誇るといい

君は選ばれし強者だ」

妖怪との全面戦争で散っていった仲間達の侮辱を交えながらも、Beyondは冷笑しながら伊達を褒め称えた。

それを受けて、人志と陽菜はBeyondの悪辣さ加減に苛立ち睨み付けるが、ただ一人伊達だけは笑っていた。

「フフフ…」

「何がそんなに可笑しいんだい?伊達君」

「フフフフ…後藤…さっきから黙って聞いてりゃ…俺が選ばれし強者だって?お前それマジで言ってんのか?」

「ああ…マジだとも

事実そうじゃないか」

「…そっかあ…マジで言ってんのかあ……

じゃあもう何も言う事はねえな…」

苦笑しながらも伊達はBeyondと話の折り合いをつけた。

その刹那、伊達は音速を遥かに超越した速さでBeyondの間合いに入り、眼にも映らぬ超音速の拳を顔面に喰らわせ真っ直ぐ吹っ飛ばした。

その後も追撃の手を緩める事なく、伊達はBeyondの喉笛を一本拳で突き、サマーソルトキックで顎を蹴り上げて空高く吹っ飛ばした。

誰の目にも映らぬ速度で舞い上がる伊達は、地面にクレーターが出来るほど地面を踏み締め跳躍し、空中でBeyondの腹を手刀で貫いた。

「俺は選ばれし強者なんかじゃねえ…

運良く生き延びただけの弱者だ…」

妖怪との戦争で共に戦ってきた戦友達を侮辱された怒りで、伊達は手刀で貫いたBeyondの腹から臓物を捻り出して静かに言った。

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

臓物を捻り出されたBeyondは言葉に形容し難いほどの激痛を経て、これまでにないほどの悲痛の叫びを上げた。

そして更に、伊達は自らの手で捻り出した臓物を利用してBeyondの首を締め始めた。

「自分の能力と理想に酔っているてめえには分からねえだろう…

俺が今までどんな思いで生き延びてきたのか…

どれほどの命が俺の掌から零れ落ちたのかをよ…」

己の胸の内に激しく燃える怒りと悲しみを抱きながら、伊達は冷静さを装って静かに言い放ち、電流を臓物に通して感電させた。

己の臓物で首を締められた上に電流を浴びせられたBeyondは、白目を剥き出し血涙を流しながらもがき苦しんだ。

Beyondを全身黒焦げになるまで電流を浴びせた伊達は、首に巻きつけた臓物を利用してスイングして更に上空へと放り投げた。

そして伊達も更なる追撃の手を出そうと、鳴り響く轟音を立てながら超音速でBeyondの間合いに接近し、顔面を掌底打ちで潰して突き飛ばした。

(クソッ!!火力自体は人志君に比べれば訳ないなのに、あまりにも速すぎる!!

雪華の眼を以てしても捉えきれない!!)

超音速を遥かに凌駕した速さでBeyondを圧倒する伊達は、静かに怒りながら侮辱された戦友の事を思い出していた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

戦争が終わり妖怪達の時代となった魔都・東京からかけ離れた丘。

そこで、伊達は自分と同じ数少ない生き残りのかつての戦友である茜と再会し、話をしていた。

孤児院カモミールの子供達との生活の話が弾んでいて、茜は明るく笑いながら伊達に話していた。

「それでね、プフッ…人志ってば私の事お母さんって言い間違えて顔を赤くして恥ずかしがっていてね…

それで私が「なあに?」って揶揄ったら更に顔を真っ赤にして頭から煙出したんですよ

プフッ…フフフフフフ…もう可笑しくて可笑しくて…」

「戦争が終わって雲隠れしたと思いきや、まさかガキ共の面倒を見ていたとはな…

妖怪共の屍の山を築いた改造人間が、すっかり丸くなったもんだぜ…」

「そういう恭次郎こそ、こんな自然ばかりの辺鄙な場所に旅館を建ててどういうつもりなんです?

お客さんなんか滅多に来ないでしょうし…」

「そういう辺鄙な場所に孤児院建ててガキ共の世話してるてめえにだけは言われたくねえよ…

俺の場合は能力主義の妖怪社会になって居場所が無くなった弱者達の受け皿を作っただけの事だ…

ちょいとキツめの訓練を施して社会復帰させる為にな…」

「フフフフ…奇しくも私達は同じ考えを持っていたんですね…」

妖怪との苛烈な戦争を生き抜き、久しぶりの再会に話が弾む事に茜は嬉しそうに笑う。

しかし次の瞬間、楽しそうに笑う茜は突然苦悶の表情を見せて咳き込み、吐血した。

「橘!!」

「ゲホッ…!!ゲホッ…!!だ…大丈夫ですよ…ゲホッ…!!」

「妖怪細胞の拒絶…!!

お前…あれから人間の肉はおろか血さえ摂取してねえな?」

橘家による人体実験で組み込まれた妖怪細胞は、妖怪の力を蓄え活性化させる為に人間の血や肉の摂取が必須となる。

茜は、終戦の時から人間を喰う事も血を摂取する事も拒絶してきた。

「戦争の為に作り出されて…兵器として散々利用されてきて…こんな人間でも妖怪でもない中途半端な化け物の私ですけど…せめて今を生きる子供達だけは、何としても守り導きたいんです…

私や私と同じような…兵器として利用されて死ぬような子供達が二度と生まれないように…」

妖怪細胞に蝕まれながらも、茜は伊達に心の内を明かす。

肉体がどんどん劣化し蝕まれていく戦友を見て、伊達は眉間に皺を寄せて悲しい目をした。

悲しい目で見る伊達に、茜は明るく笑って言った。

「フフッ…そんな心配そうな目で見ないでくださいよ恭次郎!せっかくの再会が辛気臭くなるじゃないですか〜もう〜!」

「う、うるせえ!誰がてめえみてえな奴を心配すんだよ!」

「たかが妖怪の細胞如きで死ぬほど私はヤワじゃありません!

大丈夫ですよ!子供達が自立できるように育てるまで、私は絶対に死にませんから!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

人々の平和と暮らしを守る為に戦って散っていった戦友達。

そして、戦争で家族を亡くした子供達を育て導こうとした、人の心を持った兵器。

唯一生き残った戦士は、彼らへの想いを胸に秘めながら、全ての黒幕を殺すべく冷徹に戦う。

(橘…お前は本当に強かった…

単純な強さだけじゃなく…その意志も心も…俺が今まで見てきた奴らの中で一番強かった…

俺みてえな中途半端なクソ野郎よりも…お前が生き延びるべきだったんだ…無論あいつらもな…

だからよ…俺がすぐにこいつをぶっ殺して俺も死ぬ…!!

それが…散っていったお前らに俺が唯一出来る手向けだからな…!!)

上段回し蹴りでBeyondの頭部を捉え吹き飛ばした後、伊達は目にも映らぬ速度で漆黒の落雷を連続で喰らわせた。

天候も敵の動きの一切をも支配する黒雷。

バチッバチッと、音を立てながら漆黒の稲妻をその手刀に纏わせて、歴戦の能力者は凄まじい速度で突き進んだ。

猛々しい漆黒の麒麟の姿を体現させ、雄叫びをあげながらBeyondの心臓を手刀で貫いた。

散っていった戦友達への想いと、怨敵への激しい怒りをその一撃に乗せて。

「黒雷大神(くろいかづちのおおかみ)!!」

雷鳴轟く至極の一閃を放ち、今度こそ伊達が勝負を決したと思われた。

だが、Beyondは心臓を貫かれながらも不気味に笑って伊達の腕を掴んだ。

「なっ…!?」

「クク…ククク…流石は黒雷の伊達恭次郎…君のその速さは大妖怪達と比べてもまさに最速…いや神速と言えるだろう…

だが、貫かれたこの手を一度掴んでしまえばもう逃げられない」

必殺にして神速の一撃を以てしても殺しきれないBeyondの底無しのタフさに、伊達は青ざめた。

「君も今すぐに送ってやろう…あの世で君の戦友達が待ち侘びているだろうからね!!」

Beyondは高らかに言いながら、手を伊達の顔にかざして妖気の玉を作り出し放とうとしていた。

歴戦の能力者が今まさに巨悪に殺されかけたその時、隻腕の少年が炎を纏わせた拳でBeyondの頭部を殴り抜け、空中から地面に叩き伏せた。

「人志!!」

頭から出血しながら吹っ飛ばされて地面に衝突したBeyondを、人志は手から炎の槍を錬成して放ち、Beyondの心臓を貫いた。

炎の槍が貫いた瞬間、天に届くほど炎が高く燃え上がりBeyondの肉体を燃やし尽くそうとした。

 

Beyondとの空中戦を制した伊達と人志は、各々足腰をエネルギーで強化させて地面に無事着地した。

「伊達さん!大丈夫ですか!?」

「大丈夫だ陽菜!伊達さんは無事だ!」

「人志…助かったぜ…」

感謝を述べる伊達に対し、人志はすぐさま彼に手をかざして自身の生命エネルギーを譲渡して回復をさせた。

「伊達さん…勝手に一人で突っ走って無茶しないでくださいよ…

俺らがいるじゃないですか…」

伊達は、氷華の里でのヒスイとの死闘から休まずに連戦している。

身体だけじゃなく心も疲弊していっている伊達に、人志は寄り添った。

妖怪達や能力者達と戦えるよう厳しく鍛えてくれた師匠へ、弟子は感謝と敬意を持って伝えた。

「へっ…随分と俺に偉そうな口を叩けるようになったじゃねえか

バカガキ」

「へへっ…良い師匠を持ったからな俺は

目付きが怖えのと口が悪いのが玉に瑕だけど」

互いに軽口を叩きながらも、師弟は戦いの中で絆を深めていた。

 

このまま和やかなムードで終わるわけもなく、Beyondは人志の炎に焼かれながらも肉体を再生していき、再び立ち上がって人志達の前に立った。

不気味なほど余裕な笑みを浮かべて。

「少し前の私なら自分の思い通りに行かなくて腹を立てていた…結構気が短いからね…

だが今は違う…Beyondとなりこの世の全てを超越した今となっては、こんなもの屁でもない…

ちょっと蚊に刺された程度のものさ」

「ケッ…さっきまでモツ抜き取られて悲鳴あげてた奴がよく格好つけられるな

あまりにボコられすぎて記憶飛んでんじゃねえのか?」

「フフフフ…まあそう煽るなよ人志君

今までのはちょっとした準備運動…ここからが本番さ…」

人志の炎をかき消し、再生の過程を終えたBeyondは、ニヤニヤとしながら左腕で右腕を掴んだ。

そして掴んだ右腕を強く引っ張り、肩の関節がカコッと音を立てて外れ、肉がミチミチッと引き裂かれるような音を立てた。

その後まもなく、右腕は夥しいほどの出血をしながら引きちぎられた。

「…お前…本当に気持ち悪いよ…」

「いいから見ていろよ…」

滝のように血を流しながら、Beyondは引きちぎった右腕をポイっと捨てた。

すると、右腕は血飛沫をあげて骨を剥き出しにしてひとりでに変形していった。

「また性懲りも無く大妖怪の錬成…

全てを超越したと宣った割には芸が無いわね…」

「いいから黙って見ていろよ…妖怪の始祖

面白いものが見れる…すぐにな」

Beyondがそう言うと、右腕は肉と骨が徐々に人の姿になろうと不気味ながらも変形していった。

どうせまた大妖怪が錬成されるだろうと、人志達はたかを括っていた。

だが、Beyondの右腕が形作るのは決して、 大妖怪のような生易しいものなどではなかった。

もっともっと、凶悪で残酷なものだった。

「お…おい…な…何だよ…これ…!!」

「だから言っただろう?すぐに面白いものが見れるとな…」

引きちぎられた右腕が形作られたものは、人志や陽菜と深い関わりを持つ人物だった。

カモミールの花言葉通りに、逆境の中で強く生きようとしたかつての親友の肉体が、魂の無い虚な目で人志と陽菜を見つめていた。

「か…怪童……!!」

「な…何で……!!」

元凶の手で無情に作り出された怪童に、人志と陽菜は開いた口が塞がらず、強い動揺とショックに見舞われた。

「フフフフ…言ったはずだよ?

Beyondの完全再現は一つの例外もなく100%再現出来ると…

さあ…喜べよ人志君に陽菜君…

感動の再会だよ」

完全再現…この世のありとあらゆる能力、現象、果てには人物そのものを完全に再現する事が出来る唯一無二の能力。

その力で形作られた怪童は、魂の無い抜け殻同然に、Beyondの操り人形の如く人志達に向かって行った。

全てを殺すその右手を以て。

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