戦の鉄則   作:並木佑輔

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第51話 ケジメ

全ての元凶 後藤博文を滅すべく、己の命全てを捧げ妖怪の始祖に顕現した陽菜。

全てを超越した生命体 Beyondと、全てを創生した妖怪の始祖との全面対決が、今まさに始まろうとしていた。

「フン…ようやく本来の姿に戻れたか

だがもう遅い!私を本気で食い止める為には、貴様はハナから己の全てを犠牲にしてかかって来れば良かったんだッ!!

今更本気になられちゃ呆れるどころかもう哀れに思えてきたよッ!!」

Beyondは始祖に啖呵を切りながら、大妖怪ヒノマルの必中必殺の能力、空間打突を発動させる為、拳を握り締めて空間を殴った。

拳の衝撃で魔界の空間全体にガラスのようにひびが割れ、保護されている人志や伊達もろとも始祖を葬り去ろうとした。

だが、始祖は涼しい顔をしながら指をパチンッと鳴らした。

すると、ひび割れた魔界の空間は時間が巻き戻ったかのように徐々に修復され、空間打突の発動を文字通り無効にした。

「ば…馬鹿なッ!?

鬼神と謳われたヒノマルの必中必殺の能力がッ!!?」

「今更驚く事もなかろう

私は全ての生命を創生した者ぞ

ヒノマルだろうとバサラだろうと例外ではない」

ありとあらゆる生物を超越した新生物Beyondを、妖怪の始祖は軽々といなし格の違いを見せつける。

 

一方、上空でシャボン玉の結界の中で守られている人志と伊達は、陽菜の本来の力を目の当たりにして驚愕していた。

「す…凄え…これが…妖怪の始祖の力なのか…!!」

「当然だ…何せ今のあいつはこの世の全てを創生させた始祖…そのものに顕現したんだ

あんなもんに比べたら俺らなんか蟻同然のちっぽけな存在だぜ…」

 

人間、妖怪、鬼、吸血鬼。

後藤博文は、間違いなく全ての生物をぶっちぎりで超越した存在"Beyond"になった。

だが、その圧倒的な力を更に超えるような妖怪の始祖の存在に、後藤は憤慨していた。

無能の神と見下していた相手に、まるで子供を軽くあしらうかのように扱われた後藤は、酷く憤慨した。

「フンッ!たかが小手調べの攻撃を阻止したくらいでいい気にならないでくれるかねッ!!

本番はこれからだぞッッ!!!」

確実に殺す、そう決意した後藤はヒスイの能力 黒い炎を無数に出現させ、始祖に放ち跡形も無く焼き尽くさんとした。

ヒスイの黒い炎はほんのちょっと掠りでもすれば硫酸のように身体が溶け、跡形も無く焼き尽くされる能力。

それに対抗するかのように、始祖は透明のバリアを身に纏い次々と襲いかかる黒い炎を防いでいった。

黒い炎を全て防ぎ切った始祖。

その隙を見て、後藤は地中から姿を現して不意打ちをしようとした。

無数の黒い炎を囮にして、始祖が次々と降りかかる炎の対処で手一杯なのをいい事に、後藤は地中深くに潜伏しながら始祖の地面下まで移動していたのだ。

油断している事を確信し、後藤は怪童の右手の能力で始祖の頭を抉ろうとした。

「殺ったアアァァッッ!!」

触れた対象を空間ごと抉り殺す右手が今まさに始祖に振り下ろされる刹那、始祖は襲いかかる右手の掌に人差し指を立て、右手を一瞬で粉砕した。

肉片が飛び散る最中、後藤は左手をかざして高密度の赤い妖気のエネルギーを発射しようと、更なる追撃を試みる。

だが、後藤の左手から発射される強大なエネルギーを発射される一歩手前に右手を合わせ、エネルギーを相殺させた。

それだけではなく、始祖は体内から体内に発射される後藤のエネルギーを体内に留めておく事で、エネルギーの逃げ場を無くさせた。

発射されれば世界そのものを焼き尽くすほどの威力、それほどのエネルギーが体内で逃げ場を無くしてしまえば、言うまでもなく肉体は離散する。

後藤の肉体はまるで破裂する一歩手前の風船のように膨らみ、そのまま大量の肉片と血飛沫を撒き散らした。

 

(凄え…陽菜の奴…後藤相手に二手三手先の事を考えながら戦ってやがる…!!

しかも膨大なエネルギーを体内に封じ込めて破裂させるあのやり方は、あの時俺がオニタケを倒した時と同じやり方だ…!!)

 

人志が陽菜の冷静な立ち回りを見て感嘆する中、後藤は散り散りになった肉片と血液をを瞬時に一箇所に集め再生し、陽菜の前に再び現れた。

「ハァ…ハァ…クッ…!Beyondになっても手こずるほどとはね…流石妖怪の始祖…恐れ入るよ

だが、いい気になるのもそこまでだッ!」

後藤は、次の一手を打つべく自身の親指を齧って血を一滴垂らし、人体を創り出した。

それは、少女にとってかつての命の恩人で想い人だった、戦士としての宿命を背負わされた傷だらけの少年だった。

 

「あのクソ野郎ッ…性懲りも無くッ…!!」

目標でもあり何物にも代え難い親友がいいように利用されてる様を、隻腕の少年は激しい怒りを露わにしてシャボン玉の結界を拳で打ち破ろうとしていた。

「少しは耐える事を学べ馬鹿餓鬼

魔界の毒素吸って死にてえなら止めはしねえがな」

弟子の怒りを鎮める為、伊達はいつもの辛口で制し、それを受けた人志は拳に血を滲ませながらも動きを止めた。

 

「ククク…これで二度目の感動の再会だね

そして、こいつの右手がお前が見る最後の景色になる」

後藤が嬉々として言い放つと、怪童はかつての家族に向かって全てを抉り殺す右手を振り下ろした。

触れた対象を空間ごと抉り取り殺す右手、怪童は今に至るまで数えきれない大妖怪達を抉り殺してきた。

そんな右手を、陽菜はまるで母親が我が子を抱擁するかのように優しく触れて掴んだ。

「怪童…私が貴方をちゃんと支えていれば、こんなに傷つき苦しむ事はなかった

ごめんなさい…今は…今だけは…ゆっくり休んでいて

私が…全部終わらせるから…」

ボロボロに傷付き果て傀儡と化した少年を、少女は優しい言葉と優しい抱擁で包み込み、無力化させた。

傷だらけの少年は、まるで眠りにつくようにゆっくりと目を閉じ、少女に支えられながら仰向けになって倒れ伏した。

「陽菜…!!」

「チッ…!!

稀代の怪物とさえ呼ばれた男をこうまで簡単に完封出来るとはな

本当に憎たらしいッ!!

本当に忌々しいッ!!」

Beyondとなった己にさえ匹敵するほどの存在を完封され、後藤は眉間に皺を寄せて言った。

それを見かねて、陽菜は呆れながらも言い返した。

「己を全ての生物を超越した存在と宣う割には随分と愚痴が多いな

いつまでも他人の能力に頼ってばかりいないで自分の力で戦ったらどうだ?

この臆病者」

臆病者。

そのたった一言が、天才の自尊心を深く抉った。

「フ…フフフフ…いいよ…わかったよ…

そこまで言うならしょうがない

このBeyondの本領を見せてやろうッ!!」

この世に自分と比肩する者などどこにもいないと自負する天才は、眼前の憎き敵を完膚なきまでに叩き潰す事を決意し、咆哮をあげた。

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

魔界の空間に亀裂が生じるほどの咆哮。

やがてその亀裂は空間全体にまで及び、魔界の空間はガラスのようにパリンと割れ、全く違う異空間へと変化した。

「こ…こいつはッ…!!」

その空間は、何も見えない真っ暗な空間。

宇宙そのものだった。

「今更こんなものを再現させて何をしようというのだ?」

「クククク…まあ見てなって

これからお前らの度肝を抜いてやるからよお」

不敵で不気味な笑みを浮かべながら、後藤は両手で何かを創り出そうとしていた。

それは、この広く果てしなき宇宙に存在する天体のうち極めて高密度で、極端に重力が強く光さえ呑み込む天体。

ブラックホールである。

「や…ヤベェッッ!!」

「マ…マジかあの野郎ッッ!!?」

人志も伊達も妖怪の始祖も、誰一人抗う事が出来ず無慈悲に吸い込まれていく。

闇の果てへと。

「ハハハハハハッッ!!私は全てを超越した存在だぞッ!!

この程度造作も無いッ!!お前らはこの広大な黒い海の中で跡形も無く消え去るんだッッ!!

一切の抵抗も出来ずになッッ!!!」

星だろうが光だろうが一つの例外も無く全てを呑み込む天体。

数多の能力者や妖怪達との激闘を乗り越えてきた人志も伊達も、この宇宙の力の一つには為す術無く呑み込まれていく。

ただ一人、妖怪の始祖を除いては。

「なるほど…ブラックホールを再現させるとは、如何にもお前らしい愚行だな」

「何ッ!?」

抗う事の出来ない絶対的な無の前に、始祖は表情一つ変えずにその眼を朱く光らせた。

すると、ブラックホールは突然吸い込む事を止めた。

「ど…どうした!?何故止まったッ!!?」

否、止まったのではなく寧ろその逆。

噴出したのだ。

今まで呑み込んできた星、隕石、光。

全てを余す事なく吐き出したのだ。

「な…何ッ!!?」

超光速。

目にも映らぬほどの速さで噴出された星、隕石、光は全て後藤に向けて放たれ、後藤は一切反応出来ずに喰らい続けてしまう。

光は後藤の胴を半分に切断し、星や隕石は半分に切れた後藤の身体をボロ雑巾のように仕立て上げた。

白く神々しく美しいその姿は、見る影も無い無様な姿になり果てた。

「く…クソォッ…!!

何故…何故こんな事にッ…!!」

 

想像を絶するスケールを持つ陽菜の能力に、伊達は驚愕の表情を隠せずにいた。

「へっ…宇宙の法則そのものを書き換えやがるとは…スケールが違いすぎて笑えてくるぜおい…」

だがただ一人、人志だけは全く別の事を考えていた。

(あいつ…自分自身の…始祖としての責任を全部背負って終わらせるつもりだ

魔界を滅亡させてしまった事…俺と怪童と子供達に不幸な目に遭わせてしまった事…その全てに責任を感じているんだ

だから自分から戦っていったんだ…俺の気炎万丈の発動を阻止して…

てめえの命を以て全部終わらせようとしてやがるんだッ…!!

ふざけんなッ…!!ふざけんじゃねえぞッ…!!)

孤児院カモミールでの出会いから10年共に生きてきた親友の意思を、人志だけは理解していた。

家族同然の親友故に。

「陽菜ァァッッ!!!

ふざけんじゃねえぞオォッッ!!!

てめえ一人だけいいカッコして死ぬなんてこの俺が許さねえェッッ!!!

今すぐこの結界から出せッ!!出して俺を戦わせろッ!!

この泣き虫のチビ助ェェッッ!!!」

陽菜は今、自分を犠牲にして終わらせようとしている。

魔界の均衡を保つ責務を全う出来ず氷華を含めた守護者達を死なせてしまい、人間に転生した挙げ句の果てには同じ屋根の下で共に暮らした人志や怪童を不幸な目に遭わせ、恩師や子供達を死なせてしまった。

妖怪の始祖としても人としても、絶対に許されてはならない決して消えない罪。

その罪を一身に背負って戦って死のうとしている姿勢を、人志はこの広大な黒い海の中で必死に止めるべく叫んだ。

それに対し、陽菜は後ろに振り向いて人志の脳内にテレパシーを送った。

「ここは宇宙空間だからそんなに必死に叫んでも何も聞こえないよ?

ほんとに馬鹿だよね人志って」

幼少の頃から変わらない親友の馬鹿さ加減を見て、陽菜はクスッと笑って返事した。

それを見て、人志は真剣に怒って返した。

「陽菜ッ…!!お前…何勝手な事してんだよッ…!!

何勝手に自分を責めて犠牲になろうとしてんだよッ…!!

そんなの俺はぜってえに許さねえぞォォッッ!!!

俺がこのクソ野郎をぶちのめしてやるッ!!だからお前はもうこれ以上戦うなッ!!

分かったら返事をしろォッッ!!陽菜ァァァァッッ!!!」

守るべき大切な親友、平和な日常の象徴とも言える尊い存在。

そんな人がこれから自分や世界の為に犠牲になる事に、少年は少女に懸命に訴えた。

だが、少女の意思は変わらない。

「ごめんね人志…さっきも言ったように私は貴方に生きていてほしいの…

全てを奪われたあの日から、貴方は今日まで私と怪童の為に血反吐を吐きながら戦ってきた…一切弱音を吐かずに…

だから私は、貴方にこれ以上苦しんでほしくないって思ったの…」

「お…おい…何言ってんだよお前…!!」

「今までありがとう、人志…

私、貴方と友達になれて本当に良かった…

樹さんと愛菜ちゃんには、ごめんなさいって伝えてよね…」

憂いを含ませた笑顔で、少女は少年にそう言った。

全てのケジメをつけるべく、創生と願いの力を持つ茶髪の少女はまばゆい程の朱い光を浴びせた。

あまりの眩さに、その場にいる全ての者は目を閉じずにはいられなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

朱い光が収まり、各々が閉じた目を開いた。

すると、Beyondが創り出したさっきまでの広大な宇宙は、空が赤く鼻を塞ぎたくなるほどの血の臭いが風と共に吹かれている魔界そのものだった。

「ここは…魔界…!!

元の空間に戻ったのか…!!」

「いや、それだけじゃねえぞ人志

周りをよく見てみろ」

「えっ…?」

人志は伊達に言われた通りに周りを見下ろすと、とんでもない物を目の当たりにした。

それは、妖怪の始祖によって創生された妖怪、鬼、吸血鬼。

後藤に利用され踏み躙られた全ての命だった。

「な…何だよこれッ…!?」

人間界よりも広大な魔界全土に蔓延る全ての生きとし生けるもの達。

それらが後藤を中心にして、四方八方全ての退路を塞いでいた。

後藤は、心底恐れていた。

己に敵意と殺意の眼を向けてくる数え切れない程の妖怪達にではなく、己の一手一手を全て攻略し潰していく始祖そのものに。

「今私が呼び出した者は全て…お前がこれまで侮辱し踏み躙ってきた命達だ…」

「フ…フフフ…なるほどな…如何にも君らしい芸の無い能力の活用方法だ…よりによって私のやり方をパクるとはな

そんなものでこのBeyondを殺せると君はたかを括ったんだ

だから君は無能なんだよ!今更そんな下等のクズ共が通用すると思っていたのかい!」

「そんな下等のクズ共とやらに今まで妨害されてきたのはどこのどいつだ?」

「何ィッ!?」

「もうこの戦い…私が直接手を下すまでもない

これからこの命達がお前の全てを喰い尽くす

血も肉も骨も余す事無くな…」

この戦いが始まってから、始祖は一切の感情を露わにせず圧倒的に優勢を保ち続けていた。

そしてその戦いは始祖の号令の手を以て、今まさに終局に向かおうとしていた。

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