妖怪の始祖によって、魔界全土に解き放たれた無数の妖怪・鬼・吸血鬼。
後藤がBeyondへ進化する前に呼び出した大妖怪達とは比べ物にならないほどの魑魅魍魎。
それらが元凶・後藤に向けて敵意と殺意の目を浴びせる。
後藤は始祖の底知れない能力に心底震えながらも、表情だけでも余裕を保とうと笑みを浮かべていた。
そんな後藤を始祖は冷徹な目で見下ろしながら上げた手を振り下ろし、生み出した妖怪達に向けて言い放った。
「復讐しなさい
貴様達の命、尊厳、故郷、未来…全てを踏み躙ったあの者に」
始祖は冷静に静かに号令をかけた。
全てを壊した元凶への激しい怒りを内に秘めて。
号令をかけられた無数の妖怪達は始祖の胸に秘めている怒りに呼応するかのように、眉間に皺を寄せて咆哮をあげながら元凶に向かっていった。
大地と大気を震わせるほどの進軍に、後藤は久方ぶりの緊張を覚えながら対処していった。
怪童の全てを抉り殺す右手を以て、後藤は次々と襲いかかる妖怪達の肉と骨を抉り殺す。
同胞が無惨に殺されていく様に妖怪達は微塵も感情を表に出さず、まるで敵を殺す為だけに動く機械のように休まずに喰いかかろうとした。
だが相手は全てを超越するBeyondとなった後藤。
その豊富な能力の数々と圧倒的な膂力で、妖怪達は為す術なく屠り去られてしまった。
「フフフフ…私も安く見られたものだ
こんな雑兵如きで私を殺せると思っていたなんてな…可哀想に…君達には同情するよ」
後藤は己の手で屠った肉片達に哀れんだ後、空で高みの見物をしている始祖に悠々と言い放った。
「そんなところで高みの見物なんかしてないで君も戦えよ
そして君の為に命を落とした肉片達に死んで詫びるといいさ」
再び戦いのステージに降り立たせるよう、後藤は挑発するような形で始祖に言った。
だが、始祖は後藤の挑発には歯牙にもかけず言い返した。
「直に思い知らされるさ
お前はその転がった肉片にすら勝てないとな」
「あ?今何て言った?
よく聞こえなかったからもういっぺん言ってくれないかな?」
始祖の発言に煽るようにアンサーを返した後藤をよそに、バラバラになった肉片は一つに集まり元の姿へと創り直った。
再生を終えた妖怪達は、再び憎き敵に向けて殺意を持って喰い殺そうとする。
「フンッ 今更蘇ったところで何の役にも立ちゃしないんだよ!」
後藤は再度右手で妖怪達の肉を抉り、一匹残らず殺し尽くした。
「本当に芸の無い奴だ!自分は戦いの場に一切降りてこず、こんな雑兵達に無理矢理戦いを強いさせるなんてさ!
素直に言ったらどうなんだ?
戦うのが怖い…死ぬのが怖い…ってさあ!!」
後藤は余裕綽々で妖怪達を葬り去り、喜々とした表情で始祖を煽った。
だが肉片はまた元ある形へと再生し蘇り、何事も無かったかのように後藤の前に立ちはだかる。
「チッ…あーあーあーあーッッ!下等生物の癖に粘ってきてんじゃねえよッ!!
とっとと俺に殺されて糧にされちまえよッ!!」
ゾンビ以上に何度でも蘇る肉の塊に、後藤はさっきまでの余裕が崩れてイラつきながら殺していった。
だがどんな能力や手段を用いても妖の兵は死なない。
怪童の右手でも、凍哉の雪華の眼でも、ヒスイの黒い炎でも殺せず、兵達はゾンビ以上に何度でも立ち上がり喰い殺そうと襲いかかってくる。
そして次々と湧いて出てくる妖怪達に、後藤は遂に牙を立てられ肉を漁られた。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
妖怪も鬼も吸血鬼も全てを超越した存在と化した後藤には、本来妖怪など糧にしかすぎない存在。
そのはずがこの妖怪達は死をも恐れず立ち向かっていき、死んではまた蘇りを繰り返していく。
敵を完全に喰い殺すまで何度でも蘇る死なずの兵隊に、後藤は肉も臓物も余すところなく喰い千切られかけていた。
人志と伊達は、シャボン玉の結界に守られ浮遊しながらその光景を目の当たりにし、心底震えていた。
そして悟ったのだ。
この戦いが妖怪の始祖、つまりは陽菜の死によって今終局に向かっている事を。
「人志…お前が悟ったようにあいつは己の死を以てこの戦いを…これまでの全てを終わらせようとしているんだ
つまりこの戦いを制した時、陽菜は死ぬ…!」
「…だから何なんですか…
このまま何もせずに見捨てろって言うんですか…?」
「人志…」
「このままこのシャボン玉みてえなもんに守られて指を咥えたままあいつを見捨てろっていうのかよオォッッ!!
そんな事俺が許すわけねえだろォッ!!
あいつは俺が最後まで守り通すって決めてんだよォォッッ!!!」
「人志イィッッ!!!」
6歳の時分、孤児院の頃から10年共に育ってきた親友が犠牲になる事を良しとせずに隻腕の少年は怒り叫んだ。
だがここは妖怪達の故郷 魔界。人間には生活する事ですらままならない環境。
空気を少しでも吸えば毒に侵されて即死に繋がる環境から外に出さないように、師は弟子の怒りを諫めた。
「これが…てめえが足を踏み入れた世界だぞ
力の及ばねえ奴は何も出来やしねえんだ…!!」
炎雷の師弟の一悶着が終わったよそに、後藤は次から次へと無尽蔵に湧いて出てくる妖怪達に肉を貪られながら懸命に死を抗っていた。
「クソッ!!クソッ!!クソォッ!!
今更こんな劣等生物共に!!
このBeyondが手こずるなど断じて許されんのだッッ!!」
そう言い放った後、後藤は持てる限りの全妖気を以て喰らいついてくる妖怪達を一斉に吹っ飛ばした後、両手の掌からブラックホールを具現化させた。
「さっさと死ねこの劣等種共がアァッッ!!」
後藤の怒りに呼応するように、ブラックホールは死なずの兵達を二度と再生出来ないよう吸い込んで無に還した。
「ハァッ…ハァッ…ハァッ…ククッ…いくら無限に再生出来ようが場所が無ければ再起動する事はない
あの雑魚共にこの私を喰い殺そうと企んでいたようだがそう簡単に事が上手く進むものか
残念だったな!これで心置きなく貴様を…」
全ての妖の兵を無に還した後藤は、後ろを振り向いて狙いを始祖に定めた。
だが、後藤は振り向き様に信じ難い光景を見て愕然としていた。
「なっ…!?なんだっ…!?貴様…一体それは何だっ!?」
「弓…!?」
そこには、朱い妖気を湯気のようにゆらゆらと放出しながら血染めの弓を後藤に向けて構えている始祖の姿があった。
「この弓は私が捧げた心の臓で形造ったもの
そしてこの矢はお前が今まで己の夢の為に犠牲にしてきた数え切れないほどの命で形造られたものだ」
「そうか…そういう事か…今までのあの無尽蔵の雑魚共を戦わせていたのは全部これの為か
フフフフ…くだらない
雑魚共の命で造ったたった一つの矢で何が出来るというんだい?」
後藤には妖怪達に喰い千切られてきたダメージが蓄積されている。
虚勢を張っているが、実際のところ後藤はかなり焦っていた。
何故なら始祖の手で召喚された妖怪達によって蓄積されたダメージが再生能力で一向に再生出来ず、かなりの負傷を負ったままでいる。
そして無限数にも及ぶ妖怪の散った命で造られたあの一矢、後藤はそれがどれほどの危うさを孕んでいるかは薄々感じていた。
そうこうしているうちに、血染めの矢は後藤に向けて放たれた。
こちらに向かってくる矢を、後藤は全てを凍てつかせ塵にする雪華の眼と能力による危害を拒絶する次元障壁にて迎え討った。
だが、放たれた矢は一向に収まる事を知らず一片の狂いも無く後藤の心の臓に向かって進んでいく。
そして、血染めの矢は後藤を貫いた。
「グオアァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!」
血染めの矢は胸を貫き、心の臓を完全に破壊。
更にBeyondの底無しの再生と完全耐性をも破壊し、白く神々しい肉体は崩壊の一途を辿っていた。
「チクショオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
断末魔の叫びをあげながら、後藤博文という存在は消滅した。
そして、妖怪の始祖も己の全存在をかけた一矢の代償で存在が消えかけていた。
陽菜は心底満足していた。
全ての元凶との決着と、自分のせいで失われてきた命達への報いを果たせた事に。
そして一番の親友にして、自分の中のヒーローを守れた事に。
「陽菜アァァァァァァァァァァァァァッッ!!」
隻腕の少年は茶髪の少女に向かって叫んだ。
だがそれに対して陽菜は、振り向き様に微笑んだ。
優しさと哀しみを含んだ微笑みだった。
そして魔界が白い光に満ち溢れ、少女の微笑みは光の中へと消えていった。
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「ここは…東京…!!」
人志と伊達は目を覚ますとさっきまで在った魔界は消え、戦地魔都東京の光景を見た。
伊達は冷静に辺りを見渡し、陽菜と後藤博文がいない事を察知した。
「後藤のクソ野郎はいねえ…恐らく陽菜も…」
「そ…そんな…陽菜ァ…
チクショウ…クソ…クソッ…クソォッ…!!」
陽菜の生命エネルギーを感知出来ない事を自身の能力で知った人志は、泣き崩れて地面を何度も殴りまくった。
拳を血で染めながら、地面がひび割れて穴が開くまで殴った。
苦悶の表情を見せる人志と伊達をよそに、Beyondになる為に後藤に魂を奪われた樹と愛菜・多くの人と妖怪達が続々と目を覚ましてきた。
陽菜の犠牲により、死んだ者達の魂が肉体に戻り息を吹き返したのだ。
「こ…これは…一体何があったんだ…?
僕達…眠っていたのか…?」
「えっと…確か後藤が突然自分の心臓を取り出して叫び出して、あたし達は後藤が出した赤い光に包まれて…気がついたらもう後藤がいなくなって…ええっ!?」
唐突に戦いが終わったかのように見えた樹と愛菜は、困惑し狼狽えていた。
樹と愛菜だけでなく、妖怪殺し対策本部本部長若茶(にゃちゃ)を含めた霊能力者と妖怪達も酷く困惑していた。
「な…何がどうなっているんだこれは…?
後藤博文の姿がいないということは…もう戦いは終わったのか…?
でも、誰が一体どうやって…?」
樹と愛菜は困惑しながらも心を落ち着かせて辺りを見渡すと、人志と伊達の姿を発見しすぐさま走っていった。
「人志さん!!伊達さん!!」
呼ばれた人志と伊達は、樹と愛菜の声がする方へと振り向いた。
「樹…愛菜…お前ら…息を吹き返したのか…」
「ねえ!こりゃ一体全体何が起こったって言うんだよ!
あたしらは今までどうなってたんだ!?後藤の野郎は!?あと何で伊達さんがここにいるんだよ!?」
何が起こったのかまるで把握出来てない愛菜は、人志と伊達に一斉に質問を浴びせ始めた。
「一気に質問してくるんじゃねえクソガキ
あぁ…チッ…クソッ…めんどくせえ…いいかガキ共…一度しか言わねえから耳かっぽじってよおく聞けよ」
「あぁ!?クソガキっつったかてめえこのおっさん!!」
「愛菜さん!!落ち着いて話を聞きましょうよ!!」
悪態をつかれ怒る愛菜を樹が抑えながら、伊達は事の一部始終を話した。
「そ…そんな…陽菜さんが…後藤に殺された僕達を助ける為に…!!」
「ぐっ…何で…何であたしはいつも…
クソッ!!」
陽菜が己を犠牲にして後藤を倒し、魂を奪われた自分達を救う為に戦って散っていった事を知った樹は涙を流し、愛菜は己の無力さを恨みながら地面を拳で叩いた。
「この戦いはもう終わった…陽菜が己の全てをかけて終わらせたんだ…」
樹と愛菜は陽菜を死なせた事を涙ながらに強く悔やんでいた。
しかし、人志はこの中の誰よりもその事について悔やみ自責していた。
「…あの時…俺が気炎万丈を使って戦えば…陽菜は死なずに済んだんだ…
勝算もあったんだ…俺があのまま陽菜を戦わせずに残った生命の炎を全て出し切っていれば…!!」
「だからこそお前を戦わせたくなかったんだろうな…
あいつは…もうこれ以上自分の周りで誰かが死んでいくのが耐え切れなかったんだろう
妖怪の始祖としての全ての罪と責任を背負って…最後は周りの人の為に戦いたかったんだろうな」
全ての元凶・後藤博文との世界の命運をかけた戦いの火蓋は切って落とされた。
陽菜の犠牲によって。
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後藤の手によって多くの命を奪われる戦地となった魔都・東京で、皆は悔しさと哀しみに明け暮れていた。
戦いに勝利した者達のその足踏みは、勝利者のものとは到底言い表せないほど重いものだった。
そんな中ある一人の少女が荒廃したビルの中から足音を立てて姿を現し、優しい笑みを浮かべながら人志達の名を呼んだ。
「おーい!人志!樹さん!愛菜ちゃん!伊達さん!」
「え!?」
各々声のする方へと後ろを振り向いた。
声の主は、後藤博文との戦いで犠牲になったはずの陽菜だった。
「は…陽菜ァッ!!
生きていたのかお前ッ!!」
「陽菜さんッ!!」
「陽菜ちゃんッ!!」
三人は陽菜を迎えに行くべく勢いよく走り出した。
生きていた事に、安堵の涙を流し口角を上げて陽菜の元へと走った。
ただ一人、伊達恭次郎以外は。
「てめえら足を止めろッ!!」
「えっ!?」
「今すぐそいつから離れろガキ共ォッッ!!
そいつは陽菜じゃねええぇッッ!!!」
伊達はすぐさまその少女が陽菜ではなく偽物だと気付いた。
陽菜の頬に10円玉くらいの傷穴が開いていた。
そしてそれが本来始祖の力の全てを失っているにもかかわらず、着々と再生しているのを見て伊達はすぐさま偽物だと気付いた。
そして気付かれた陽菜の皮を被った何かが、穴の開いた頬を再生させ邪悪で不気味な笑みを浮かべて高笑いをした。
「フフ…フフフ…フフフフフフ…
アハハハハハハハハハハハッ!!
ヒャハハハハハハハハハハッ!!」
「は…陽菜…!?」
「フフフフ…やはり君には分かってしまうか伊達君…本当に残念だよ
君さえ生き残っていなければ…問題無くこのガキ共を殺せていたのに…」
「お…おい…まさか…嘘だろ…」
「プッ…アハハハハハハハハハハハッッ!!
アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!
そうだよッ!!私だよッッ!!
後藤博文だよッッ!!!
今頃気付いたのかよこの馬鹿共がァッッ!!」
陽菜の皮を被っていたのは、彼女の手で始末したはずの後藤博文だった。
予想だにしない最悪の展開に、傷心している今の人志達には到底受け入れる事が出来ず呆然と立ち尽くしていた。
「そ…そんな…嘘だろ…だってさっき…伊達さんが言ってたんだよ!?
陽菜ちゃんが…あたし達の為に自分の命を犠牲にして倒したって…!!」
「そうさ…確かに私は始祖の手によって滅ぼされる寸前まで追い込まれたさ…
あの時は悪運の強い流石の私でもマジで終わりだと思った…
だが私の中に眠るほんの小さな始祖の力が…いや、私の強い執念が王手へと進んだのだ…!!
妖怪の始祖…つまり…陽菜の肉体を乗っ取ってなあッ!!」
男の声と女の声が混ざり合っている不気味な声を発しながら、後藤は事の真実を人志達に伝えた。
「そ…そんなぁ…嘘だァァァッッ!!!」
樹はあまりのショックで頭を抱えながら悲痛の叫びをあげた。
人志も愛菜も伊達も、あまりのショックで誰一人として身動き一つ出来ずにいた。
それを見て、後藤は嘲笑いながら続け様に言い放った。
「ククククク…まるでこの世の終わりのように絶望しているみたいだね君達
でもまだ絶望するにはまだ早いよ?
これからもっと面白いものが君達を待っているんだからね!」
「何ッ!?」
後藤は陽菜の顔で不気味に笑いながら、何かを仕掛けるかのように腹に両手を当てていた。
数秒後、陽菜の腹が徐々に膨らみ始めた。
それはまるで妊婦のように膨らみ続け、やがて命を産み出した。
それは、後藤が長年の研究によって出した犠牲の上に生まれ白く美しい両性の命。
Beyondそのものだった。
「このクソ野郎ッ!!陽菜の身体を苗床にしやがったッッ!!
しかも、Beyondを複数体産み出しやがったッ!!」
「こ…これは…あの時と同じだッ…!!
僕達が氷華の里で凍哉さんを奪還する為にヒスイと戦った時のッッ!!
ヒスイと同じ事をッッ!!」
「グフウゥゥッ…!!ヒィー…ヒィー…フゥー…フゥー…!!
出産の痛みがこれほどの物だとはな…全く世の女達には恐れ入るよッ…!!」
股下に血と羊水を垂れ流して苦しみながらも、後藤は陽菜の肉体を媒介に出産した。
陽菜の血と羊水に塗れたBeyond達は、不気味な笑みを人志達に見せた。
「テメェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェッッ!!!」
家族同然の親友の身体を好き放題利用する後藤の悪辣さに人志は冷静さを失い怒り狂いながら、炎を纏わせた拳を握り締めて陽菜の皮を被った悪鬼に突っ込んでいった。
だがBeyondがすぐさま人志の前に現れ、顔面に拳を喰らわせビルの壁面に吹き飛ばした。
「人志さんッ!!」
「人志ッ!!」
避難所へと向かっている若茶とその部下達も、音の鳴るほうへと戦場へ戻ろうとした。
「な…何だァッ!!」
「総員ッ!!直ちに進路を変更するッ!!
まだ敵がいるやもしれんッッ!!」
後藤が産み出したBeyondは、さっきまでのBeyondとは打って違いまだ幼い子供の姿をしている。
だがその力は全く衰えておらず、しかもそれが数にして4〜5体もいた。
「人志君…普段の君ならあんなパンチは余裕で対処していただろう
それほど冷静さを失ってしまっているんだ…やはりこの身体を奪って正解だったッ…!!」
「てめえッ!!」
勝利の為に、そして己の夢の為に外道を行う後藤の在り方に、愛菜は眉間に皺を寄せて怒った。
「さて…あとは取るにも足らない雑魚ばかり
今こそ私の夢が成就する時ッ…!!
さあBeyond達よッ!!一切の遠慮は無用だッッ!!
私の敵を一人残らず喰い尽くせッッ!!」
親の言う事を忠実に聞く子供のように、Beyond達は食料を貪り尽くしに突き進んでいった。
「来るぞォッッ!!」
伊達は樹と愛菜と共に、ヒスイをも超える化け物達と応戦しようとしていた。
「いつまでもふざけてんじゃねえぞッ!!精子みてえな色したクソきめえ男女野郎ォッ!!!」
愛菜は身体能力の全てを倍以上に強化させる"人鬼"を発動させ、Beyondと真っ向から殴りかかってきた。
だが、Beyondは子供のように無邪気な笑みを見せながら愛菜の必殺の拳をまともに受け止め、反撃の拳を愛菜の顔面に喰らわせた。
「楽に死なせはしないぞッ!!」
樹も愛菜同様、怒りを込めて刀のように鋭利な木々を枝分かれさせて放ち穿とうとする。
Beyondはそれすらも赤子をあやすかのように容易く避け、樹の鳩尾に拳をめり込ませて吐血させ吹っ飛ばした。
しかし、伊達はBeyondに決定打を与える攻撃は出来ずともただ一人だけ互角に渡り合えていた。
一方、他のBeyond達は食欲を満たす為若茶率いる霊能力者と妖怪達に狙いを定めた。
「な…何なんだこいつらッ!!
鬼でも吸血鬼でもないッ!!」
慌てふためく戦士達に、Beyond達は容赦なく襲いかかり頭から喰ってかかった。
「ひ…ひぃ…!!」
頭を喰われ絶命した仲間の亡骸を見て、戦士は恐れ慄き膝を崩した。
彼らの上司にあたる若茶(にゃちゃ)だけは、臆せず怯まず未曾有の恐怖に果敢に立ち向かっていた。
「怯むなお前達ッ!!ここを突破されれば避難所の人々にまで危害が及ぶッ!!
何としても死守するんだァッ!!」
Beyondの頭を掴んで顔面を殴り抜けながら、若茶は部下達の戦意を上げる為鼓舞した。
それに続き、部下達は恐怖しながらも防衛戦に臨んだ。
皆がBeyondとの戦いに苦しむ中、ビルの壁面にめり込まれた人志は自力で脱出し、怒りの咆哮をあげながら陽菜の身体を奪った後藤へと一直線に突き進んだ。
「後藤博文ィィィィィィィィィィィィィィィッッ!!!」
咆哮を聞き取った後藤はBeyondに自分を護衛させるよう命令し、向かってくる人志を返り討ちにしようとした。
「邪魔だァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!」
立ち塞がってくる壁を、人志は炎の剣で胴を切断し燃やし尽くし後藤を押し倒してマウントを取った。
「ぐっ…!!」
「ハァッ…ハァッ…テメェッ…今すぐ陽菜の中から出てきやがれッ…!
さもねえとッ…!!」
「さもないと何だと言うのかね?このまま陽菜ごと私を殺すか?」
「ッ…このクソ野郎ッ!!」
「今の私には始祖の力も…戦える力ももう残っていない…その手で首を絞めるだけでも確実に殺せるだろう
確かに今私を殺せばBeyond達は収まる…でもね人志君?今の私を殺すという事は、君の一番大事な人を殺すという事なんだよ?」
「ッッ…!!」
「ここで陽菜ごと私を殺して戦争を終わらせるか…それともこのまま躊躇い続けて一方的に蹂躙されるか…二つに一つだ
さあ…どうする?人志君!
フフフフッ」
今の後藤にはほぼ戦える力がもう残っていない。
このまま陽菜ごと殺せば全てに決着が着く。
家族同然に育ってきた親友を殺せば、全ての因縁を終わらせる事が出来る。
だが人志にはそれが出来ない。
優勢に立っているはずなのに、歯噛みしたまま無情に時間だけが進んでいく。
「どけ人志ッ!!
お前に陽菜が殺せねえなら、俺が殺すッ!!」
「伊達さんッ!!」
Beyond一体を仕留めた伊達は、人志を見かねて代わりに後藤を殺そうと動いた。
だがそうはさせまいと、もう一体のBeyondが伊達の胴体に横から思い切り衝突し肋骨をへし折った。
「グッ!!ガバッ!!」
「伊達さんッッ!!!」
肋骨が臓物に突き刺さり吐血し、伊達は瓦礫に吹き飛ばされた。
「畜生ッ…!!畜生ッ…!!
チクショオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
どうしようも出来ない戦況に人志は涙を流し怒り狂いながらも、炎に身を包んで無限に湧いて襲いかかってくるBeyondを片っ端から焼き殺そうとした。
「これで今度こそ私の勝利は確実だッ!!絶対に揺るがないッ!!
いよいよだッ!!私の夢がッ!!私の思い描いていた新しい生命が跋扈する新しい世界がッ!!
今目の前にあるッ!!!
ハハハハハハハハハハハハハッッ!!!」
後藤は圧倒的優勢に立ち、高らかに勝利宣言し高らかに笑った。
もう誰にもBeyondの暴走を止められない。
もう誰にも後藤博文の歪な夢を阻止する事は出来ない。
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人間・妖怪・鬼・吸血鬼。
ありとあらゆる生命が新しい生命によって喰い散らかされ世界が刻一刻と終焉に突き進むと同時に、一人の男の心の臓が徐々に動き出した。
ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ、と死んだはずの肉体が息を吹き返してきた。
今のこの絶望に呼応するかのように、絶望に反抗するかのように、男は大きく目を開けた。
目と拳に力を込めて傷だらけの男は完全に目覚め、世界に響き渡る衝撃音を煙と共に立て戦場に舞い戻った。
「ッ!?」
「何だッ!?何が起こったッ!!?」
勝利を宣言した後藤と敗北を悟った人志達は、爆音の鳴った方へと一斉に振り向いた。
煙が晴れて出てきたのは、たった一人の人間だった。
しかしその人間は世界中の人々や妖怪達、果てには大妖怪すらも恐れ慄く唯一の存在。
その存在に彼らはこう呼んだ。
"妖怪殺し"と。
「な…何ッ!!
まさか…そんな馬鹿なッ!!?」
さっきまで勝利を確信していた後藤は、その男の登場により一気に表情が曇り始めた。
次から次へと起こる異常事態に、周りの者達はついて来れず言葉さえも失い始めた。
「か…怪童ッ…!!」
隻腕の少年は、その男の名を確かに呼んだ。
傷だらけの少年は今この戦場で起こっている現況を見て大体を把握し、微笑みを見せながらかつての親友に言葉を返した。
「よお…久しぶりだな人志」
後藤は焦りと恐怖の表情を見せ、心底震えていた。
この世で最も強く怖しい怪物が復活した事に。
そして怪童はかつての想い人の肉体を奪い好き放題利用している元凶を見て、青筋を立てて怒りを露わにした。
「俺がいねえ間に、随分と面白え事をしているじゃねえか」