戦の鉄則   作:並木佑輔

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第54話 鏖殺

人志と怪童、共に妖怪の始祖と後藤博文に運命を狂わされた二人の少年。

その二人がこれまでの因縁・運命・宿命の全てに決着を着けるべく、命を燃やして戦おうとしていた。

 

次々と襲いかかる純白の超越生命体達を、怪童は右手を振り下ろして頭から抉り殺していく。

単に抉り殺すだけでなく能力を無力化させる怪童の右手は、底無しの再生能力を持つBeyond達にとってまさにこれ以上ない脅威だった。

Beyond達は今までに無いほどの脅威を前に、同胞達の肉を貪り共喰いを始めた。

ガブッ、グチャッと、耳にしたくないほどの咀嚼音を立てて肉を喰い散らかす。

そうしてBeyondは同胞の肉を貪って同化し、肉体を巨大化させていった。

195cmの怪童の巨体が子供のように小さく見えるほど、デカくなった。

「な…何だ…!?あいつら…共喰いを始めた途端身体がデカくなりやがったぞ!?」

人志と怪童を除いた周りの人間と妖怪達は、Beyondの怪物的変貌ぶりに激しく動揺していた。

その姿はさっきまでの純白で美しい天使のようなものから、夥しいまでの分厚い筋肉と牙を生やした悪魔のようなものへと変わり果てた。

怪童は一切の動揺も躊躇もせずに、白い怪物の胴を空間ごと抉り殺そうと右手を横に振った。

右手は確かに胴を捉えた。

だが、胴の肉は怪童の右手を包み込むように逆に捕らえた。

「ッ!!」

触れたもの全てを抉り殺す右手が簡単に止められた事に、怪童は微妙ながらも眉をビクッと動かせて驚愕した。

怪童の右手を難なく受け止めた純白の悪魔は、 巨大な拳で怪童のボディを打ち、遥か上空へと打ち上げた。

Beyondは背中に白い大翼を生やし上空へ飛行し、怪童に更なる追撃をした。

山のように大きな手で怪童の身体全身を握り締めながら、Beyondは大気圏外へと放逐し月面に叩き付けた。

無音の黒い海の中Beyondはその巨拳で怪童を殴りまくり、底が見えないクレーターを作り出した。

 

Beyondと視覚を共有していた後藤は怪童を宇宙空間へと放逐出来た事に、確かな勝利を確信していた。

「フフフ…流石私が創り出したBeyond

いくら怪童といえど大気圏外に放逐されたら一溜りもない…どんな超人でも宇宙空間では生きられん

勝負あったな!」

己の魂を殺そうと迫る人志に、後藤は余裕の笑みを取り戻してそう言った。

「へへッ…バーカ

何にもわかってねえんだな」

「何?」

「あいつはあんなもんでくたばる玉じゃねえよ」

後藤の挑発に動じる事なく人志は陽菜の額へと手を伸ばして、内に我が物顔で居座っている後藤の魂を滅しようと動いた。

一欠片も迷いの無い顔に、後藤はまだ残っているBeyond達に急いで命令した。

「殺せお前達ッ!!この死に急ぎの狂人を殺せェッ!!」

同化をせずに戦場に残っているBeyondは数にして数百〜数千体。

我が親を護るべく兵隊蟻のように群がって人志を殺しに行った。

しかし、それらを刃のように鋭利な木々が突き刺して阻害する。

「おいおい…僕らの存在を忘れちゃいないかい?」

「チッ!!カス能力の分際でえッ!!」

後藤の激昂に呼応するかのようにBeyond達は激しく怒り、標的を人志から樹に変更する。

当然それを許す事もなく、今度は鬼の拳と神速の黒い雷が貫く。

「邪魔すんじゃねえっつってんだろオォォッッ!!」

「おい馬鹿餓鬼ッ!!人がせっかく時間稼いでやってるんだッ!!

さっさと終わらせちまえッ!!」

「当たり前だッ…!!」

ヒスイをも上回る化け物達相手に時間稼ぎの為に力戦奮闘する伊達達に、人志は静かに言い放つ。

血のように赤い炎と白銀の冷気のオーラを身に纏い一歩ずつ近づいてくる人志に、後藤は恐怖心を煽られて下がっていく。

(クソッ!クソッ!何故この私が…こんな死に損ないの糞餓鬼相手に…!!)

後藤は追い詰められているこの状況を打開すべく、怪童を宇宙空間へ放逐したBeyondへテレパシーを急ぎ送信した。

(おいッ!!いつまでも勝利の余韻に浸るな!!

早くここに戻ってきてこいつらを殺すんだッ!!)

宇宙空間にて怪童を殺した余韻に浸っているBeyondは、メッセージを受けて地球へと戻ろうと動いた。

 

優勢と劣勢が両軍に右往左往する最終戦争。

決着を着けるべく、人志側も後藤側も勝利の為に抗い続けていく。

そしてそれに呼応するかのように、月面の深い穴に埋もれた怪童は全身の筋力を総動員させ月面のクレーターから脱出した。

その勢いを失速させる事はなく、怪童は地球に戻ろうとするBeyondの頭を掴んだ。

「ッッ!!」

「よお…さっきのは効いたぜ…今までで一番良いパンチだった

と言ってもここは宇宙だから聞こえやしねえか…悪いが俺も連れてってもらうぜ

やり残してる事が山ほどあるからよ」

一切の呼吸が出来ない黒い海の中で、怪童は機械のように沈着冷静にBeyond諸共大気圏に突入する。

摩擦熱で怪童もBeyondも生皮が焼け落ちながらも、大地までノンストップで高速エレベーターのように降りて行く。

そして、二人は隕石が衝突するほどのデカい衝撃を発しながらこの地球に再び降り立った。

 

「な…何だあッ!!?」

鼓膜を破壊しかねない衝撃音に、戦士達は皆驚いていた。

地球への衝突と共に土煙と血煙が舞い散る中、二人は姿を現した。

「チッ…!!化け物がッ…!!」

宇宙空間にいるBeyondと視覚を共有している後藤は、怪童の圧倒的な怪物っぷりを改めて再認識し恐れ慄く。

土煙と血煙が晴れて二人は姿を現す。

山のように巨大で恐ろしい悪魔のようなBeyondは着地の際に怪童にクッション代わりに利用され頭蓋と肉体の硬度が耐えられず、脳味噌と臓物をあちらこちらにぶち撒けるあられもない姿へと変わってしまった。

一方、怪童も地球へ降り立つ際の摩擦熱で生皮と髪の毛がほぼ焼け落ちながらも生存していた。

悠々と立ち尽くしながら、怪童は半分焼け落ちた顔を戦士達やBeyond達に見せた。

「悪りぃな…ちと病み上がりなもんでよ…醜態を晒しちまった」

右半分の髪と皮と肉が全て焼け落ち髑髏が現れている。

その様を見た全ての者にはこう見えた。

殺しても死なない化け物だと。

「Beyondとか言ったか?ありがとよ

おかげで少し勘が戻ってきたぜ」

地面に倒れ伏している純白の悪魔を見下しながら、怪童は笑って感謝の言葉を口にした。

怪童の笑いに右半分の髑髏も釣られるように笑っていた。

残っているBeyond達や樹・愛菜・伊達を含めた戦士達は、怪童の笑いを見て心底恐怖し全身が震え始めた。

ただ一人、人志だけは違う。

「怪童オォォォッッ!!」

周りが恐怖で震える中、ただ一人の親友はブレる事なく言い放つ。

「負けんじゃねえぞッッ!!

あんな奴らにッッ!!」

親友の言葉を受けた怪童は、かつての幼少期のような優しい雰囲気で返事をする。

「ふふふ…誰に向かって言ってやがる

俺は"怪童"だぜ」

人志は陽菜の身体を奪った後藤を、怪童は後藤の手で生み出された純白の怪物達を。

互いに背を預けながら眼前の倒すべき敵に集中し、勝ち気な笑みを浮かべて言った。

「お…お前らァッッ!!何をボーッと突っ立っているッ!!早くこのガキ共を殺せェッッ!!!

私の夢を守る為にッッ!!殺せェェェェェェェェェェェェッッ!!」

ヒスイを超えたBeyondをも殺せる傷だらけのガキと、今目の前に自分を殺そうとする隻腕のガキ。

後藤にとってかつてないほどの忌まわしい二人の存在が、後藤を激しく苦悩させる。

そんな後藤の前に真紅の炎と白銀の冷気を身に纏った隻腕の少年が、遂に心の臓まで届く距離に歩み寄る。

「そろそろ年貢の納め時だぜ」

陽炎のようにゆらゆらとしたエネルギーを纏い、一才の汚れも無い透き通った水面のように迷いの無い目で人志は後藤へ手を伸ばした。

このままでは自分の魂は消滅させられ奪った陽菜の肉体は奪還され、Beyond達も全滅されてしまう。

そう考えた後藤は、この危機的状況を100%打開出来る最善にして最悪の手に出た。

「待って人志ッ!」

「ッ!?」

「私なら大丈夫!後藤に身体を乗っ取られてから内で反抗していて、たった今肉体の主導権を取ったの!

だからお願い…私を殺さないで…!」

決意に満ちた人志の心を揺らすべく、後藤は純粋で心が清い少女を装う。

人志の僅かな眉間の動きを見て心を揺るがした事を確信した後藤は、その一瞬の隙を見逃さず落ちた硝子の破片を拾う。

憂いを帯びながら、後藤は隻腕の少年の額に向けて刺した。

だが硝子の切先が皮膚に触れる寸前に、人志は片手で陽菜の手首を掴んだ。

「何ッ!?」

「悪りぃな…そんな見え透いたハニトラに引っかかるほど俺の玉袋の緒は緩かねえんだよ」

硝子の破片の切先を眉間に突き立てられ、鼻の間を伝って血が流れながらも人志は不敵な笑みを浮かべて言った。

陽菜の手首を骨を折らない程度の力で握り締め、後藤は痛さに耐えかねて持った硝子の破片を落としてしまった後苦し紛れの言い訳を言う。

「ち…違う…違うんだよ人志…!!こ…これはその…後藤が勝手に…!!」

この状況でも見苦しく陽菜を装おうとしている後藤に、人志はため息を吐いて言う。

「…てめえ…とことん救えねえな…」

未だかつて見たことのない新しい生命を創り出す為に多くの人間と妖怪達を巻き添えにし、この世を地獄に変えた張本人。

本来なら怒りと憎しみを抱くはずがその張本人の置かれている現状を見て、人志の中にはもう哀れみの感情しか無かった。

見苦しく足掻く元凶をさっさと終わらせるべく少年は片手で少女の頭を掴み、宣言する。

「いくぜ」

妖怪の始祖としての運命と宿命を背負わされた一人の少女を救う為に、隻腕の少年は亡き戦友から託された力と共に立ち向かう。

全ての元凶を討ち滅ぼすべく。

 

その一方、後藤が生み出した超越生命体"Beyond"達との戦いもいよいよ佳境に入っていた。

樹・愛菜・伊達と若茶(にゃちゃ)率いる妖怪殺し対策チームの面々は大妖怪より凶悪な化け物達を相手に、大切なものを守る為に力戦奮闘する。

だがBeyondにとってそいつらは取るに足らず眼中に無い。ただ一人の傷だらけの男を除いて。

Beyond達は群がる雑兵共を無視し、殺しの標的をその男に絞る。

Beyond達には樹達を相手にした時の余裕が無く、勝ちを急ぐようにその手で殺そうと動く。

対して男は一切余裕を崩す事なく、襲いかかる超越生命体達をまるで宙に舞う紙のように回避する。

Beyond達はひたすら勝ち急ぐ。怪童という名の怪物を今この場で殺さない限り自分達や生みの親の勝利は望めないと、内心本気で思っている。

全てを空間ごと抉り殺す右手の能力を再現し、Beyondは怪童の胴体を抉り殺そうと右手を振る。

だが胴に届く寸前で右手は止まる。

右手を掴まれた刹那突然ぐるりと円を描くように回り始め、地面に勢いよく瓦礫を出しながら衝突した。

他のBeyond達も合気に巻き込まれる形で四方八方に吹き飛ばされた。

「あ…あれは合気ッ!!」

地球上のどの生物をも圧倒的に上回る怪力を難なく受け流す怪童の技巧に、樹を含めたこの場の者達は驚愕を露わにする。

地面に叩きつけられたBeyondは悔しさと憤慨で眉間に皺を寄せてすぐに起き上がり、頭から抉り殺すように右手を上げて振り下ろす。

その右手の元々の持ち主の目には欠伸が出そうになるような単調な動きに見え、簡単に左に避け左手を出してBeyondの頭を貫いた。

「ギィッッ!!!」

頭蓋を貫通され指が脳にまで達している感触に、Beyondは身が凍り付くほどの激痛と恐怖に思わず悲鳴をあげる。

「動かねえ方がいい…さもねえと酷い目に遭う」

澄まし顔をして怪童は警告する。

Beyondは察した。警告を無視して反撃に出れば文字通り死が訪れる事を。

だが超越生命体としての矜持がそれを許さなかった。

「馬鹿が」

脳に触れられた手を掴んで白目を剥き出して反撃に出るBeyondに、怪童は微笑を浮かべて掴んだ脳をそのまま勢いよく引き摺り出す。

頭部の穴から夥しいほどの出血を噴射しながら、Beyondは倒れ伏した。

ヒスイをも超えた生物のあっけない死に、樹達は酷く戦慄した。

Beyondの大脳を無理矢理摘出した怪童は、そのまま頬張るように大脳をガブリと口にした。

目と耳を塞ぎたくなるような光景を前に樹と愛菜と伊達は青ざめ、周囲の妖怪と霊能力者達はショックで失禁や嘔吐をする。

同胞が人間に喰われている様を見たBeyond達も同じであった。

「悪いな…起きてしばらくだから腹が減って仕方ねえんだ」

言葉の通りに怪童は今飢えている。血と肉と闘争に。

同胞を喰らう様を見て純白の生物達は恐怖と怒りが入り混じった感情を露わにし叫びながら、傷だらけの怪物を殺しにかかっていく。

多勢に無勢、されど男にとってそれは日常茶飯事。

戦士としての技量と妖怪殺しとしての闘争本能を発揮させ、男は誰の目にも映らぬ速さでBeyond達の四肢をその牙で噛みちぎった。

バイティング(噛みつき)、戦場格闘技の基本の一つで本来頸動脈のみに狙いを絞る技である。

見た者は皆例外無く何が起こったのか分からずにいた。

Beyondを除いて。

「い…今…何をしたんだ…!?」

「全然見えなかったッ…」

「バイティングだ…」

「え…?」

「あの野郎はBeyond共の手足の肉を一瞬で噛みちぎりやがったんだ…俺の何十倍何百倍もの速さでなッ…」

「う…嘘だろ!?伊達さんよりも速えのかよ!!?」

音速を遥かに超える速さを誇る伊達恭次郎よりも速いとされる怪童に、樹と愛菜は恐怖で多量の冷や汗をかいた。

Beyond達は後ろを通り過ぎた怪童へ強い怒りを露わにする。

新世界を創世する我ら超越生物の肉を貪る下等生物の姿に、青筋を立てて咆哮をあげながら向かっていく。

怪童は口に含んだ白い肉を呑み込んだ後、一秒もかからずと向かってくるBeyond達を純粋な格闘術にて屠る。

人中、丹田、金的、頭部と人体の弱点の数々を殴り蹴る。

接近戦では不利と理解した同胞は荒廃した60階建ての高層ビルを両手で持ち上げ、怪童へと振り下ろす。

凄まじい衝撃と轟音鳴り響く中、それでも怪童はほぼ無傷で悠然と立ち尽くす。

だがそれだけでは収まらず、Beyondは既に次の手を繰り出す。

先ほど振り下ろした高層ビルの瓦礫の目眩しで時間を稼ぎ、別のBeyondが空高く飛んで強大なエネルギーの塊を掌で生成していた。

それは後藤がBeyondへ進化する前に人志に放った世界を滅亡させるに足りる球体のエネルギーだった。

地上に堕ちれば言葉通りに世界は滅亡する球体のエネルギーに、怪童はそれでも余裕をもって上空にいる純白の生物に言った。

「全力で撃って来いよ…俺を殺せるラストチャンスだぜ」

挑発を受けたBeyondは、一切の躊躇をせずそれを怪童へ撃った。

世界の滅亡と共に生みの親をも滅ぼす事になろうとも、この怪物だけは何としても殺したい。

Beyond達は皆一人の例外もなくその思いだった。

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

肺に極限にまで空気を溜め、怪童は咆哮をあげる。

戦地にいる全ての者が耳を塞ぐ中世界滅亡の球体エネルギーは一瞬で消え去り、それを放った上空に位置するBeyondも咆哮によって肉体が耐えかね肉片一片も残らず消滅した。

まるで息を吹けばすぐに消え去る蝋燭の火のように。

Beyond達の怒りと殺意も、怪童の咆哮によって一瞬で消え去った。

「ば…ば…化け物ッ…!!」

この戦いを目の当たりにした人志を除く全ての者は分からせられた。

どっちが本当の怪物なのかを。

 

後藤博文の手で火蓋を切られた現世の存亡を懸けた最終戦争は、今まさに決着が着く寸前までかかっていた。

怪童の圧倒的躍進に負けず、人志も陽菜の内に居座る後藤の魂を滅却すべく全ての力を余す事なく出し切る。

「グァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!」

痛みで声を荒げる後藤を見るに、人志と凍哉の力の均衡は一片のブレも無く取れている。

人志は今、後藤討伐までまさに王手まで進んでいる。

始祖の力を全て失いBeyond達も怪童の相手で手一杯の戦況下、後藤の手札はもう全て切られている。

後藤はその事を重々承知の上で、人志に必死に見苦しく命乞いを始めた。

「待てッ!!考え直してくれ人志君ッッ!!私が悪かった!!悔い改めるよ!!

そうだ!!今この場で死んでいった者達を生き返らせてやろう!!橘茜も子供達も凍哉も、君の両親も一人残らずだッッ!!

だから頼むッ!!この通りだッッ!!」

後藤自身悪足掻きである事は重々承知している。

ただ助かりたいが為に、藁にもすがる思いで情けなく叫ぶ。

そんなただの命乞いに応える筈が無く、隻腕の少年は返事する。

「てめえの弱点を教えてやろうか…以前俺に偉そうに教えてくれたみてえによ」

「!?」

「てめえは人を舐め腐りすぎた…ただそれだけだ」

「ま、待っーーーーーーーー」

待ったを言わせず少年は全ての力を込める。

魔界を滅ぼしこの世を地獄に変えた全ての元凶の魂を滅する為。

 

「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!やめろッ!!ヤメロォッッ!!

私は世界一の天才だぞッ!!新しい世界を切り拓く開拓者だぞッ!!

こんなところで私の夢を終わらせてたまるかアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

これまで窮地に陥る度に幾度となく発せられた断末魔。

未だかつて無いほどの凄まじい叫びが、今の後藤の心情を全て物語っている。

人志はこれまでにないほど躍動していた。

あと一歩で元凶を倒せる事と、運命に囚われている少女を救える事に。

残り少ない命、そして魂を極限まで燃やし隻腕の少年は叫ぶ。

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

少年は少女の肉体の内にいるドス黒い魂を確かに知覚している。

少女の頭を掴んだその片手に真紅の炎と白銀の冷気を併せた力を最大限に込め、内に居座る元凶を滅却する。

一片の残骸も残さず。

男は感じていた。後藤博文という存在の全てが無に帰す冷たい感覚を。

「嫌だ…嫌だ…まだ死にたくない…死にたくないよ…

ヒスイ…助けてくれ…私のパートナー…助…け……」

"死” この世の命あるもの全て例外なく至る地。

まだ見ぬ新しい生命を創造する夢を叶える為に数多の命を切り捨ててきた一人の天才にも、遂に死する時が来たのだ。

後藤博文という存在は、この世から完全に消え去った。

そして、妖怪の始祖の残酷で過酷な運命を背負わされた陽菜も完全に解放されたのだ。

隻腕の能力者の手によって。

「ったくよお…最後まで面倒かけさせやがって…」

傷付ける事なく陽菜を救出できた事に、人志は心の底から安堵し笑った。

陽菜を救った後人志は陽菜の腹に手を当てて生命エネルギーを譲渡し、Beyondを出産させたれた傷の痛みを癒す。

凍哉も人志と同様、妖怪の始祖を護る守護者の末裔として使命を果たせた達成感に心の底から安堵していた。

「ッッーーー」

右眼に少しばかりの痛みが走った。

亡き戦友に託された力が消えかけ、今度こそ本当に別れの時が来たのだ。

(ありがとうよ…凍哉

お前とダチになれて本当に良かった…)

片目をまた失くしながらも隻腕の少年はただ感謝をした。

雪の華を眼に宿した強く美しく儚い白銀の少年に。

 

後藤博文との視覚を共有していたBeyond達は、生みの親の死を一早く知ってしまった。

たった一つの事実が、Beyond達を更に絶望の底の底に突き落とす。

そして、傷だらけの怪物によって次々と同胞の肉が喰いちぎられ殺されていく。

純白の超越生命達には、もう先ほどまでの怒りと殺意が微塵も残っていない。

あるのはそう、純粋な危機感と恐怖だけ。

「どうしたてめえら…さっきまでの勢いは何処に行ったよ?」

血肉を貪り喉を通した後、怪童は怯えている純白の生命達に向けて鼻で笑いながら続けて問う。

「今更何怯えてやがる…これは戦争なんだぜ?

殺るか殺られるか…喰うか喰われるかの土俵の上で生きているんだぜ?

てめえら…まさかこの期に及んで自分達が殺されねえと本気で思い込んでいるわけじゃねえだろうな?」

怪童が怒るのも当然の事。

散々他の命を貪り嘲笑った癖に、自分達が貪られる側になったら御免被る。

後藤博文もBeyond達も、皆そんな態度だった。

憤怒に燃える傷だらけの怪物を前に、Beyond達は完全に恐怖に呑まれ遂に逃走を始める。

恐怖による呻き声と泣き声を発し失禁をしながらも、純白の超越生命達はただ我が身可愛さでひたすら逃げる。

「Beyond達が…どんどん敗走していく…!!」

大妖怪はおろか超越者と謳われるヒスイすらも超えるほどの純白色の人型が群れを成して逃げる様に、樹達は唖然としていた。

怪童は憤怒のままに拳を握り締め、正拳突きの構えを取る。

「あれはッッ!!」

伊達はその構えを見て一瞬で気付いた。

拳の衝撃を空間全体に伝播させる、必中必殺防御不可の"空間打突"。

大妖怪の中でもトップに立つバサラと双璧をなす"鬼神"ヒノマルから奪った能力である。

凶拳が虚空に放たれた。

すると放たれた凶拳からバリッとヒビのようなものが割れ始め、次第に広がっていく。

空間がヒビ割れた硝子の窓のように亀裂が生じた。

逃げているBeyond達のいる座標へとまるで追いかけるように、亀裂は走る。

そして瞬く間に、空間の亀裂が追い付いた。

「グギッッ!!ガァッッ!!」

如何ともし難い衝撃が襲いかかり、Beyond達は肉片一つ残さず血飛沫を街のあちらこちらに撒き散らした。

純白の悪魔達は、完全に死滅した。

 

現世の中で生きる全ての生物達の命運を懸けた戦争は、後藤博文とBeyond達の死によって遂に幕を下ろした。

そして陽菜も全ての生命の祖としての運命から解放され、遂に目覚めた。

「う…うぅ…」

少女の眼前には、笑みを含んだ少年の姿があった。

「人志…」

「おう!やっと起きたか陽菜!

お前が今まで背負ってきた重苦しい荷物、俺達が全部綺麗さっぱり捨ててやったぜ!」

片腕と片目を失くし満身創痍でありながら、少年は明るく笑って言った。

少女は少年の笑顔を見て、これまでの戦いに疲弊しながらも心の底から安堵し静かに笑った。

 

だが、この戦争はまだ終わっていない。

人妖に仇なす怪物が、まだもう一匹いる。

「そこを動くな妖怪殺しッッ!!ちょっとでも動けば即座に殺すッッ!!」

若茶(にゃちゃ)率いる妖怪殺し対策チームが怪童を完全に包囲された。

包囲した霊能力者と妖怪達は掌から霊力弾と妖力弾を具現し、いつでも撃てる準備をしていた。

「怪童…!!」

かつての想い人が敵として殺されそうになっている状況に、陽菜はすぐに起き上がり想い人の元へと急ごうと動いた。

「おい待て陽菜ッ!!」

今の陽菜には妖怪の始祖の力が残っていない。

そのまま行かせては巻き添えを食って死ぬ事を危惧し、人志は陽菜の動きを止める。

「放して人志!!このままじゃ怪童が…!!」

「馬鹿野郎ッ!!今のお前には始祖の能力がねえんだぞッ!!」

後藤博文とBeyondがこの世から消えても、戦況はまだ緊迫の一途を辿っている。

怪童という人妖史上前例の無い圧倒的な怪物が、この戦場にいるからだ。

そして四方八方塞がれた中で、怪童はたった一言口ずさむ。

「足りねえよ…こんなもんじゃ」

「何だと!?」

たった一言。そのたった一言を口にした瞬間、戦況はより激化した。

「ッッ!!」

人志はこの場にいる誰よりも先に感知した。

この世で最も大きくドス黒い殺意を。

「テメェら逃げろオオオッッ!!

急いで俺のところまで逃げろオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

人志は冷や汗を大量にかきながら皆に警鐘を鳴らした。

師の伊達も同様に弟子の人志と同じくドス黒い殺意をすぐに感じ取り、樹と愛菜を抱き抱えて人志の元へと急いだ。

「えっ伊達さん!?」

「どうしたんだよ!?」

「うるせえ黙ってろッッ!!これからすぐにとんでもねえものが来るぞォッッ!!!」

二人を抱き抱えたまま音速の速度で人志の元へ辿り着いた後、人志はすぐに生命エネルギーを放出しバリアを張った。

人志と伊達以外、それがどういうものなのか未だに理解していなかった。

その圧倒的恐怖は、人志が警鐘を鳴らしたのちすぐに襲いかかった。

「あ…あれ…何だよこれ…」

異変は一匹の妖怪から始まった。

一匹の妖怪が突然頭から血が流れ始めた。

「ブッ!!」

次に妖怪の頭がまるで風船のように膨らみ始め、瞬きする暇もなく破裂した。

「ヒ…ヒィッッ!!」

突然身体が破裂し死亡した妖怪を前に、周りの霊能力者と妖怪達は恐怖で足がすくんでいた。

「ブッ!!」

「ギッッ!!」

異変は留まることなく連鎖しまるでウイルスが人から人へと感染していくように、人と妖怪達が破裂し死んだ。

「グッ!!ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

妖怪殺し対策チームのリーダーで大妖怪に匹敵するほどの強さを持つ若茶(にゃちゃ)だけが、頭に血を流しながらかろうじて耐えていた。

陽菜・樹・愛菜・伊達は、人志がバリアを張ってくれたらおかげで無傷でいた。

「怪童ッ…!!テメェッ…!!」

怪童が発したのは殺気。それも命を簡単に摘み取るほどの強大でドス黒いもの。

「俺の首を奪って名を馳せる奴は何処のどいつだ?

妖怪か?霊能力者か?それとも…」

妖怪殺し"怪童"。

底無しの恐怖と絶望が、大津波のように全てを覆い被さんとしていた。

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