戦の鉄則   作:並木佑輔

59 / 62
第58話 クソヒーロー

赤黒い炎の剣から繰り出される巨大な縦状の赤黒い斬撃が、天と大地を斬り裂きながら怪童を襲った。

 

「グウウウウウウウウウウウウッッ!!」

 

全てを無にし空間ごと抉り殺す右手。怪童はこの力で数多のものを殺してきた。

だが唯一この赤黒い炎の斬撃を殺す事は出来ず、それどころかより勢いを増していくばかり。

斬撃を掴んだ右手が焼かれていく感覚に襲われながらも、怪童は決してそれを手放さなかった。

手放す事は、即ち死を意味する。

 

炎の斬撃を抉り殺す事を諦める事を即座に決断。軌道を逸らす事に全神経を集中させ、怪童は右手を振う。

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

全身に伝わるほどの熱と痛みを耐え、喉が枯れるほど声を荒げながら斬撃を逸らした。

天と地が裂かれて焦がれ、炎の斬撃は千里先の彼方先まで走っていった。

 

「ガハァッ!!ハァッ!!ハァッ!!」

 

右手は黒焦げた。

数え切れないほどのものを抉り殺してきた最強最悪の右手が、遂に使用不可となった。

怪童はこの日この瞬間、初めて人志を心の底から畏怖した。

気炎万丈の脅威だけでなく、どんな能力者や怪物が相手だろうと乗り越えてやるという意志。

狂気じみた決意・犠牲・覚悟に、ただ戦慄していた。

 

「ハァッ…ハァッ…フ…フフフフ…ハハハハハッ…」

 

最大の凶器である右手の能力を失っても、怪童はあくまで余裕を崩さない。

一瞬でも隙を見せれば焼き殺される事を、怪童は誰よりも熟知している。

 

「なるほど…これが気炎万丈…お前の極致か…

お前…この力に一体どれほどの犠牲を払った!?」

 

「犠牲?んなもん払った覚えねえよ

俺はただてめえの炎に心血を注いだだけだ

一滴も残さずな」

 

巨大な赤黒い螺旋状の炎を纏い、ギラついた黒い眼光を発しながら人志は言った。

発せられた言葉に何ら誇張も虚飾も無い…言葉のままに人志は己の炎とひたすら向き合い続けてきた。

どんな能力者や怪物が相手でも絶対に負けない強さ。隻腕の少年が求めていたのはただそれだけだった。

そうしている内に、生命の炎はどこまでも高く燃え上がった。

 

気炎万丈

その炎は天をも焼き尽くすほど高く上り、どんな敵をも焼き尽くすほど激しく、そして己の全てを燃やし尽くす。

寿命は確実に削られ身体は熱で蝕まれていく。まさしく命の等価交換。

暴風の大妖怪バサラとの死闘で発現…この力で人志は因縁の宿敵を制した。

だがヒスイや後藤博文、怪童のような大妖怪を超越する怪物と戦うにはこのままではあまりにも不十分…未熟だった。

未熟故に、少年は未来を捧げた。

 

何十年後かにいずれは辿り着く未来の己の姿…最強の己を手に入れる為に、人志は未来を焚べた。

 

生命の炎を燃やす隻腕の少年はブレない。

その先に待ち構えている末路がどんなものだろうと。

友一人救えない世界に、未練などあるものか。

 

「フフフ…確かにこいつは凄え…今放たれたバカでかい炎の斬撃の時点でそうだ…この右手で殺せないものに遭ったのは初めてだ

その上ではっきり言ってやる…今のお前でも俺に勝つ事は出来やしねえ」

 

必殺の右手が焼き殺されても怪童は焦りを一切見せず、それどころか余裕の笑みを浮かべ挑発までした。

圧倒的強者として相応しい振る舞いだった。

それに応えるべく、人志も挑戦者として相応しい言葉を返した。

 

「かもな」

 

「……いい度胸だ」

 

赤黒い闘志を放ちながら不敵に笑う人志に、怪童は舌打ちをしつつも笑っていた。

その笑顔は"妖怪殺し"と謳われた最悪の怪物とはとても思えない、普通の青少年のように綺麗な笑顔だった。

 

「しょうがねえよなあ…お前は馬鹿な上に超が付くほどの負けず嫌いだもんなあ…その結果ここまで強くなっちまったんだもんなあ…」

 

幼少から事あるごとに自分に突っかかってきた同年代の弱い少年。

そんな弱く威勢が良いだけの少年の牙が、今や最強最悪の怪物と恐れられる己の喉元に届くほどまで成長していた。

 

この時、怪童は親友の成長に三つの感情を同時に抱いていた。

一つは驚嘆、もう一つは感激。

そして、対抗心。

 

「もう、何の遠慮もいらねえよなあ?今のお前には……」

 

穏やかな顔をしながらも、怪童はドス黒い殺気を放った。

黒いモヤのような殺気が津波のように覆い被さる形で襲いかかる。

魔都・東京にて後藤博文による襲撃テロが起こった際に辛くも生き残った人間や妖怪を、無差別に殺したあの時と同じように。

 

しかし、人志は焼き払う。

魔を、怪を、鬼を、邪を、狂気を、悪意を。

一切合切焼失する。

 

全ての生命を殺す漆黒の意思と、全ての生命を灯す炎の意思がぶつかり合う。

激闘で凪倒れた森林や草はドス黒い殺気に耐えられず、次々と枯れ果てて死んでゆく。

それと対照的に、木を素材に建てられた墓標や草は生命の炎によって守られている。

相反する二つの意思。

二人の少年の生き様がぶつかり合う。

 

Beyondとの戦いで皮膚と肉が爛れ落ち、顔の右半分の髑髏を晒しながら怪童は優しく笑う。

親友の成長を心の底から喜んでいるかのように、偽りの無い笑みで。

相対する人志から見たその様は、まるで人間性と怪物性が融合しているかのように異質に感じた。

故に、人志は眉を少し顰めた。

 

「行くぜ…親友…」

 

優しい声を届けた刹那、怪童は姿を消した。

否、大地を駆けた。超音速を誇る伊達恭次郎をも凌駕する神速にて、数千の残像と共に一斉に殺しにかかった。

 

以前の人志では対処する事も出来ずに蹂躙された無法の戦法。

だが、未来を焚べた今の人志には視えている。

数千の残像と本体の殺しの軌跡が、そのまま複数の線となってはっきりと映っている。

 

人志は赤黒い炎の剣を手に持ち、前に屈み後ろ足を引いて居合の構えを取る。

数千の悪意に晒されながらも、信じられないほど機械的で沈着冷静。

今まさに魔の手の数々が殺しかかっているにも関わらず、人志は未だに焦りを見せず構えている。

手が身体に触れる1センチ寸前、研ぎ澄まされた紅蓮の刃が担い手という名の鞘から遂に解き放たれる。

 

刃は円を描くかのように抜かれ、丘一帯ごと数千の悪意を焼き斬り裂いた。

その衝撃は、森林に潜み拳を固めている本体にまで及んだ。

 

「ッッ!!」

 

怪童は遥か上空へ高く跳躍し、斬撃を回避する。

しかし、人志は遥か上空にいる怪童を既に捉えていた。

 

「やっぱりな…数でゴリ押ししてダメ押しにこれでもかと拳構えてやがった…

そこだけ臭いが強かったからな」

 

人志の言葉通り、怪童は数千の偽物の殺意で人志を惑わしていた。

狙いはただ一つ。鬼神ヒノマルから奪った"空間打突"にて間髪入れずに殺す為。

だが完成しきった炎の目を狂わす事は出来なかった。

千の贋作が究極の一に勝てるわけがない。

 

お返しにと言わんばかりに人志は炎の剣を振り下ろし、上空めがけて縦状の赤黒い斬撃を放つ。

全ての命を焼き殺す究極の一が襲いかかる。

最初の一太刀で右手はもう完全に焼き殺され、捌く事は出来ない。

そう確信した怪童は空を面で捉え蹴り飛ばし、右に回避した。

だが回避した方向に、炎の化身は既にいた。

 

「お返しだぜ」

 

「ッッ!!」

 

人志は不敵に笑いながら、手に持った赤黒い炎の剣を胴にめがけて横に斬り払った。

怪童はこの刹那、親友に対して初めて死を予感した。

事実それほどの一撃である。

今までの死闘を経て感じたことの無い恐怖と緊張で鼓動を早めながらも、怪童は目にも映らぬ速度で身体を回転させ避けた。

 

胴に火傷と切り傷を負いながらもダメージを最小限に抑える事に成功。

だが怪童も戦闘のエキスパート。

回避だけに留まらずそこから反撃への態勢にステップした。

先ほどの超速回転を利用し、遠心力を上乗せした左裏拳を人志の顔面めがけてクリーンヒット。

超一流の戦士はカウンターの成功に満足せず、空中で更に胴回し回転蹴りを人志の脳天に喰らわせ、大地へ叩き落とした。

 

凄まじい地響きと地鳴りと共に人志は叩き落とされ、怪童は澄まし顔で草地に着地した。

しかし、怪童も決して軽傷では済まなかった。

先ほど人志の頭蓋に脳天蹴りを喰らわせた時、人志は喰らったと同時に燃ゆる刀身を伸び曲げ、怪童の蹴った右足の足首を切断したのだ。

 

二人の力は今この瞬間、初めて拮抗した。

隻腕の少年が未来を焚べた事によって。

 

怪童は足首が切断された右足を持ち上げて、焼き斬られた切断面を確認した。

表情は相変わらず冷静沈着そのもの…だが、斬られた上に焼かれた痛みをこの日初めて味わい、頭に青筋を立てながら痛みと熱さを耐えていた。

 

叩き落とされた地鳴りと衝撃で土煙が舞う中、一本の腕が一切残さずに払った。

長い黒髪を靡かせ頭に血を流しながらも、隻腕の能力者は不敵に笑って立ち尽くしていた。

 

「どうだい?俺の剣を直に喰らった感想は?

まさか炎とはいえ剣が曲がるわけねえなんて思ってたんじゃねえだろうな?」

 

余裕そうに落ち着いた態度で挑発する人志に、怪童は舌打ちしながらも笑って返す。

 

「ああそうだよッ!俺とした事が勝手に思い込んじまったよッ!」

 

目にも映らぬ速度で懐へ侵入…瞬く間に拳が目と鼻の先にまで近づいていた。

人志も怪童と同様、かつてないほどの死の恐怖を味わっていた。

だがそれでも一切焦る事なく、最小限の身のこなしで凶拳を捌いていく。

 

「気に入らねえなあッ!こんな力を持ってるにも関わらず今まで手を抜きやがってッッ!!」

 

「よく言うぜッ!てめえも稽古の頃から散々手ェ抜きまくったくせによッッ!!」

 

一撃必殺の領域まで洗練された互いの拳や蹴りが、交換し合うように飛び交う。

かつて親友として語り合い切磋琢磨し合った幼年時代のように爽やかな顔で、二人は競い合っている。

だが、その拮抗も長くは続かなかった。

 

「グッッ!!」

 

打撃の応酬の最中、人志の口から血が溢れた。

いよいよ限界が迫ってきたのだ。

怪童はこの瞬間を見逃さず、握力を強め打撃の速度を付けて襲いかかる。

打・突・蹴。全ての武の基本を必殺の域にまで極めた絶技。

その名は無双華僑(むそうかきょう)。

大妖怪 强 華蓮(ジァン・カレン)のものである。

 

人志は吐血しながら迫る"死"に抗う。

一つ一つ、落ち着いて丁寧に避けていく。

 

大妖怪 强 華蓮(ジァン・カレン)の絶技 無双華僑(むそうかきょう)には、ある一定のリズムがあった。

打・突・蹴、この三種の打撃を超音速で順番通りに打ち込む、シンプルにして武の王道を征く技。

故に、軌道は読みやすく。

 

(一発でも掠っちまったら即お陀仏だな…俺のと比べ物にならねえぐらい速えし…無理に付き合う義理もねえわな)

 

人志は一つ一つの打撃を綺麗に避けながら、怪童の胸部に右後ろ足の前蹴りを放ち間合いを取った。

前蹴りの衝撃で怪童は下がる一方、人志は次の一手の準備をする。

 

近接は不利と即座に判断した人志は、草地に大きなクレーターが出来るほど強く蹴り、遥か上空へと跳躍した。

狙いは一つ…空中というアドバンテージを最大限に活かし、圧倒的物量の炎で押し潰す。

 

(悪いな…てめえの技、ちょっとパクらせてもらうぜ)

 

炎をバーナーのように両足から出力させ宙を浮き、左手から炎を出力させる。

今から繰り出す技は先生や同じ孤児の仲間達を皆殺しにし、このカモミール跡地を生み出した張本人。

陽菜の始祖の力を巡って、妖魔帝国本部にて死闘を演じたかつての宿敵。

全てを捩じ切る暴風の怪物の技を。

 

「烈風裂斬」

 

目にも映らぬ速度で左手を振り、炎は旋風と共に大地に降りかかった。

 

(この技はバサラのッッ!!?)

 

本家本元同様、音速の速さと威力の旋風炎が襲う。

バサラの技を使う人志に怪童は目を見開き驚愕しながらも、脳の電気信号は既に身体に伝達しすぐに回避した。

 

「ガンガン行くぜ」

 

言葉通りに、人志は旋風炎を次々と乱射する。

右足首の欠損による痛みと熱さに耐えながらも、怪童は完璧に避け続ける。

劣勢な状況からいち早く脱するべく、怪童はある準備をする。

ヒノマルの能力 空間打突を発動し全てを破壊する為、怪童は拳を固めた。

 

その僅かな機微を人志は一切見逃さない。

より巨きくより速くより鋭い炎と風の斬撃を放つ。

 

(気付いたか…だが俺の方が一手速いッ!)

 

確実に当たるという確信を胸に、怪童は虚空に拳を放つ。

空間という名の窓を叩き、殺意が亀裂となってヒビ割れ伝播していく。

必中必殺の凶拳、遂に放たれる。

だがーーーー

 

「ッッ!?」

 

空に浮かぶ炎の権化は、忽然と姿を消した。

 

「悪りぃな…本命はこっちだ

引っかかってくれてありがとよ」

 

奇しくも同じように拳を固め、人志は怪童の胸を貫いた。

怪童は口から血を吐きながらも、人志の真の狙いに気付いた。

気付いた上で、笑っていた。

 

「イカれてんな…お前…」

 

「お互い様だろ…」

 

防御・回避共に不可能の能力が発動された時点で、もはや直撃は免れない。

狂気的な決意と覚悟でその事実を逃げずに受け止め、人志は放つ。

 

「気炎万丈"業火焔滅葬"」

 

この世のものとは思えない赤くてドス黒い炎が、二人の少年を包み込む。

隻腕の少年は友の殺意と業を一身に受け止めて燃え上がった。

同じく、傷だらけの少年も全てを甘んじて受け止めた。

戦士や怪物である以前に、親友として。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

天をも焼き尽くすほど昇る炎と空間の亀裂は、この墓標の丘から数百里離れた魔都・東京にまで届いた。

 

「こッ…この熱気と衝撃ッ!!人志さんも怪童も互いに全力だッッ!!」

 

「こっちまで熱気が届いてきやがるッッ!!半端じゃねえッッ!!!」

 

「そろそろケリが着きそうな頃合いだな…」

 

二つの力の衝突で生じたエネルギーに見舞われながらも、樹・愛菜・伊達は人志の生還をただ信じて待っていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

妖怪達が巣食う魔の都東京から数百里離れた丘。

迸る二つの力の衝突で山は崩れ落ち、建てられた計67基の墓標は緑溢れる自然の数々と共に消し飛んだ。

文字通り焼け野原と化した戦場。

しかし、二人の少年はまだ生きている。

 

胸に風穴を空けられ、全身に火傷を負いながらも、怪童はまだ立っている。

焼き斬られた右足首を引きずり、目の前にうつ伏せになって倒れている親友へと近づく。

首根っこを掴んで面を上げさせ、風前の灯火の親友に声を震わせ言う。

 

「おい…立てよ…こんなもんかよ…お前、俺に勝つんじゃなかったのかよ…」

 

手足はぶらんと揺れ、目の奥から光が消え力尽きている。

あんなに力強かった赤黒い炎も、あんなに鋭かった眼光も、今となっては見る影も無い屍同然。

長い髪や体躯も元通りに収まり、いよいよ燃え尽きてしまった。

強大無比の少年は弱さを吐露した。

袂を分ったはずの親友のその姿に、平静を保てなかった。

 

「こんなもんでくたばってんじゃねえよオオォッッ!!お前は陽菜を救ったヒーローだろうがアアァッッ!!

早く立ち上がれエエッッ!!そして俺という怪物を殺してみせろオッッ!!俺と戦えるのはお前しかいねえんだぞオオッッ!!分かったらさっさと立てよオオッッ!!

このクソヒーローがアアアァァッッ!!!」

 

焼け野原の地獄の中で、怪童は慟哭をあげた。

 

意識が朦朧とする中、泣き崩れた親友の顔が人志の目に微かに映った。

もはや戦士でも、怪物ですらもない。

孤児院カモミールで共に暮らしたあの頃と変わらぬ強がりに、人志は笑った。

 

「へ…へへ…へへへへ…」

 

「ッッ!!」

 

「ったくよお…いつまでもベソかいてんじゃねえよ…何処の世界によお…涙で顔濡らしてる怪物がいるんだい…?」

 

瀕死の状態でいるにも関わらず、変わらず不敵に笑う人志に怪童は困惑する。

この隙を見出し、人志は怪童の顔面に頭突きを喰らわせ間合いを取り呼吸を整える。

 

落ち着いてゆっくり呼吸を整えようと試みる中、人志は後藤博文の言葉を思い出していた。

 

「君は怪童には及ばない」

 

この言葉を今改めて受け取り、人志は笑う。

その上で、変わらず啖呵を切った。

 

「なあ怪童…いよいよ分かんなくなっちまったな

俺が勝つか…お前が勝つか…」

 

僅かな蝋燭の火を燃やしながら、人志は変わらず前へと進んだ。

たった一人の親友の並々ならぬ覚悟を受けて、怪童は神妙な顔で右足を引きずりながら、同じように前へ進む。

 

「いや、そうでもねえさ…勝つのは俺だ…」

 

互いに僅かな火を燃やしながら前へ進む。

互いは鑑合わせのように握り締めた拳で顔面を穿つ。

共に屈辱と辛酸を舐めさせられた者同士。

二人の決着は、すぐそこまで迫っている。

 

 

 

数え切れないほどの建物や命が奪われ、血溜まりの更地と化した戦地 東京。

血を木に変える霊能力者の腕に抱かれ眠っていた少女は、夢を見ていた。

現実では遂に叶う事の無かった夢を。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「おい、陽菜!おい!はーるーなッ!」

 

目を覚ますと見慣れぬ光景があった。

いつの間にか青い座席に座っており、辺りにはたくさんの人が座っていた。

 

「まもなく、終点 東京です。お降りのときは、足元にご注意ください。

今目も新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございました。」

 

何処からか女性のアナウンスが聞こえた。

気付くと、いつの間にか新幹線の中にいた。

 

「起きろ!もうすぐ東京だぜ!」

 

キーーーっとブレーキ音が鳴り、全車両のドアが音と共に開いた。

ドアが開いたと同時に、人々は荷物を手に持ち車内から出て階段を降りて行った。

 

そして、少女の目には信じ難い光景がまだあった。

 

「人志…!!怪童…!!な…何でッ…!!」

 

「あ?何でも何もねえだろ?今俺ら三人で旅行してんだろうが

東京観光だよ」

 

一番の親友と一番の想い人。

袂を分たれたはずの二人が、肩を並べて自分の目の前にいた。

 

「ひ…人志ッ…!!あ…あなた、右腕…!!

それに怪童も…髪が下ろされて…!!」

 

「あぁ?俺の右腕がどうしたよ?お前大丈夫か?」

 

親友の引きちぎられたはずの右腕は、しっかり繋がっていた。

全ての妖怪から畏怖された想い人の面持ちは、あの頃のように純粋で優しいままだった。

こんな出来すぎた光景に、少女は車内の床に雫を落とした。

 

「おいおい急に何泣いてんだよ?せっかくの旅行なんだぜ?」

 

親友は泣く少女に、ただただ困惑していた。

想い人は人差し指を出し、少女の頬をつたる涙を綺麗に拭き取って優しく言う。

 

「陽菜…まずはここから降りて何処か落ち着くところまで行こう

落ち着くまで付き合ってやるから」

 

「………うん」

 

想い人は荷物を片手に持ちつつ、少女の手を優しく握りエスコートする。

親友は泣き虫の少女に呆れながらも、二人と肩を並べて歩き出す。

 

泣き虫の少女の嬉し涙は止まらなかった。

孤児院カモミールで共に学び暮らした幼少期からの縁。

星々が輝く夜空の下…三人で語らい笑い合った夢が、今まさに叶ったのだ。

泣き虫の少女の夢の中でーーーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。