戦の鉄則   作:並木佑輔

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第59話 生きる事は失う事

人志・陽菜・怪童、三人を乗せた東京行きの新幹線は無事到着。

しかし陽菜が突然泣き出し、二人は戸惑いながらも新幹線から降りてホームと改札を経由し、休憩出来る場所を探した。

 

人混みの中を渡って行き外へ出た三人が寄ったものは、都内の喫茶店だった。

二人の少年は店員に三名と教え空いたテーブル席へ着いた後、三人分のラテを注文した。

店内に流れるジャズ風の音楽や雰囲気が何処か古めかしさを感じさせ、それが陽菜の傷んだ心を少しだけ落ち着かせた。

しかし未だにポロポロと雫を一滴ずつ零す陽菜に、人志は隣に座りつつ聞いた。

 

「んで、何で泣いてんだよ?」

 

対面に想い人と右隣に親友、少女は二人に見つめられながら顔を下に向けてゆっくりと話した。

 

「夢を、見てたの…とても怖くて、辛くて、哀しくて、長い夢だった…

妖怪が蔓延る弱肉強食の世界の中で私達は生きていて…私の力のせいで、家族も茜先生も仲間達もみんな妖怪に喰い殺されて…怪童がおかしくなって…おかしくなった怪童を止める為に人志は右腕を引きちぎられて…おかしくなった怪童は"妖怪殺し"と呼ばれるほどの怪物になってしまって…

その4年後に人志と怪童が戦って────」

 

「だいぶカオスな夢見てんなお前…俺がインフルとかコロナに罹った時でさえそんなカオスな夢出てこねえぞ

つか俺何で腕一本引きちぎられてんだよ」

 

陽菜が見た夢の内容を聞いた人志は、あまりの惨さに戦慄した。

その一方、隣で泣きながら悪夢の内容を語った陽菜の頭を怪童は右手で優しく撫でる。

 

「大丈夫だ陽菜…茜先生もあいつらもまだ生きている

それに妖怪なんてものもいない…大丈夫だよ」

 

「えっ…!?ほ…本当に…!?」

 

「ホントも何も、おめえ周りをよく見てみろよ

人を喰う化け物なんかが実在したらこんな呑気に喫茶店でくつろげるわけねえだろうが」

 

陽菜は人志に言われた通りを見渡すと、自分達と同じように店内でくつろぐ人々で溢れていた。

人を喰う化け物は、誰一人としていなかった。

 

「ほ、ほんとだ…でも、何で…?」

 

多くの人間達を見て陽菜は違和感を覚えた。

妖怪がいない世界なら、どうやって戦災孤児の私達は巡り会えているのか…と。

 

「あ、そうだ!

試しにこいつに俺の腕一本差し出してみりゃ分かるんじゃねえか?

こいつがその"妖怪殺し"って化け物だったらよお、俺の腕なんざすぐに千切っちまうぜ!」

 

人志はふざけ気味で笑いながら、対面の怪童に右腕を差し出した。

 

「アホか」

 

と、怪童は呆れたように溜め息を吐きつつ、手刀で親友の右腕をチョップした。

 

「ってえ!!マジで腕一本落とされた!!

おい陽菜!!お前の話した通りだ!!こいつマジで"妖怪殺し"だぜ!!」

 

手刀で打たれた右腕の痛みに耐えかねた人志は、眉間に皺を寄せて右腕を抑えながら叫んだ。

 

「ギャーギャー騒いでんじゃねえ!周りの迷惑だろうが!恥ずいったらありゃしねえ!」

 

二人の少年の騒がしい声に、周りの客達や店員は迷惑そうに眉を細め舌打ちする。

そんな人々とは対照的に、茶髪の少女は笑った。

 

「プ…!フフフフ…!ハハハハ…!アハハハハハ…!」

 

雫を零しながらも、少女の笑顔には一切の曇りは無い。

本当に心の底から出た笑みだった。

 

「ごめん…!何かこういうの、本当に久しぶりで…!

いや、ううん…!夢の中だと、こんな風に笑える事なんてあんまり無かったから…!フフフフ…!」

 

安堵した笑みを見せた少女に、二人の少年は微笑む。

 

「へっ!いっつも泣き止むのが遅っせえんだよチビ助!」

 

「うっさい!」

 

幼少の頃と変わらず揶揄ってくる人志に、陽菜は笑いながら拳で小突いた。

 

「んじゃやっと落ち着いたとこで、始めようじゃねえか!東京観光!」

 

「うん…!って言っても、まず何処に行くの?」

 

「その辺は俺と怪童でしっかり考えてる!まずは…」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

三人は代金を払いレトロ風の喫茶店を後にし、バスへ乗って行った。

バスに乗って10分過ぎた後、三人が向かった先は歩行者天国で人が溢れかえっている銀座であった。

 

「まずは銀座の食べ歩きだ!東京は何でも揃ってるからな!ありったけ食いまくる!!」

 

「戻すんじゃねえぞ」

 

「わーってるよ!」

 

見渡す限りの人、人、人。

家族連れや友達、カップル同士で銀座の歩行者天国を満喫する人々の光景を目にした陽菜は、開いた口が塞がらないほど驚愕していた。

 

「す、凄い…!!こんなに人がいっぱい…!!」

 

「当たりめーだろ?土日の銀座だぜ?」

 

「いや、私が見た夢じゃこんなに人はいっぱい歩いてなかったし…こんなに賑やかじゃなかったから…

私の知ってる東京はみんな化け物に蹂躙されて…吐き気がするほど血生臭くて…とにかく凄く嫌な所だった…」

 

「よっぽどトラウマなんだな

まあお前のそんなチンケな悪夢もこの大都会でオサラバだぜ!行くぜおめーら!!」

 

人志は曇り一つない眼と笑顔ではしゃぎながら、二人の先頭に立って引っ張る。

怪童は呆れながら笑うも陽菜の手を優しく握り、先に行ってる人志の後を追った。

 

流れゆく人の中、三人の少年少女は色々な店の食べ物に足を運び、ただ食べ歩く。

友達との何て事ない日常が、少女の傷んだ心を確実に和らげていた。

 

様々なジャンルの人気店の食べ歩きを終えた三人は、椅子に座って足を休めていた。

 

「ハァーーーッ!!食った食ったッ!!」

 

「流石にもうお腹いっぱい!けどすっごく美味しかった!」

 

胃袋も心も満たされ、三人は笑みを溢す。

その上で、怪童は二人に食べ終わった感想について問う。

 

「ところで、お前ら何が一番美味かった?俺は東銀座の銀だこが一番美味かった」

 

「私は櫻家のたい焼き!」

 

「俺はやっぱおにぎりだな!」

 

「人志ってほんとおにぎり好きだよねー

こんなに色んな食べ物が出てるのに」

 

「へへっまあな!孤児だった頃初めて食い物らしいもん食ったのがおにぎりだったからな!

茜先生が俺に温けえおにぎり作ってくれてよ…」

 

「その話カモミールの頃から耳にタコが出来るほど聞いた」

 

「お前の茜先生狂いには頭が下がるよ」

 

「うっ…うっせえなッ!悪いかよッ!」

 

赤面する人志を、陽菜と怪童は笑って揶揄う。

カモミールで幼馴染として共に暮らしたあの頃から、三人は何も変わっていなかった。

 

「よしっ!一息ついたとこで、次行くぞ次!」

 

「えぇ…ちょっと休ませてほしい…足が疲れた…」

 

「人志、陽菜がこう言ってるんだ…まだ少しだけ休ませてやってくれよ…時間はまだあるんだ」

 

「しゃあねえなあ

よかったな陽菜!良い彼氏が出来てよ!」

 

「カ…カレッ…!!」

 

人志の何て事ない一言に陽菜は顔を赤くし、動揺しながら顔面に平手打ちを見舞いした。

 

「何余計なこと言ってんのよッ!!」

 

「いってえッ!?おめえ、疲れたとか言っときながら全然余力あんじゃねえかッ!!」

 

椅子に腰を下ろしながら、二人は小突き合いはしゃぐ。

幼少の頃と変わらない二人の様に、怪童は微笑んでいた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

銀座の食べ歩きを終えた三人が次に向かったのは、ラウンドワン板橋店。

銀座駅から日比谷駅で乗り換え、志村三丁目駅で降りて徒歩で約40分である。

 

「着いたぜ!ラウワンだ!」

 

「ラウ…ワン…?何それ…?てか建物デカ…」

 

「何だよお前何も知らねえんだな

ラウンドワンっつってな?ボウリングやらゲーセンやらカラオケやら何でも利用出来る神施設でな!

しかもスポッチャ付きで色んなスポーツを遊べるんだぜ?食後の運動にゃ持ってこいだろ?」

 

「へ…へぇ…」

 

早口で捲し立てる人志に、陽菜は若干引きながらも聞き入っていた。

 

「まずはボウリング!誰が一番ストライク取れるか勝負だぜ!」

 

人志は意気込みながら二人を率先して入り口へ入ってエレベーターに乗り、3階へ降りボウリングの予約を取る。

陽菜は店内の広さや賑やかな人混みの雑音に驚きつつも、心の中で密かに期待を抱いていた。

 

予約を取った後、三人はレンタルしたボウリングシューズを片手に持ち再度エレベーターに乗り、4階へ向かう。

上に昇りチャイムと共にドアが開くと、その先には見渡すほどのレーンとスコアボード、ボウリングの球とピンが転がる雑音と共に歓喜の声が鳴り響いていた。

 

「わああぁ…!!」

 

初めて見る光景、初めて聞く音。

この時、少女は驚きつつもこの幸福を噛み締めていた。

 

「いやあ、やっぱそこらのボウリング場よりスケール半端ねえぜ!流石ラウワン!」

 

「言うてお前そこらのボウリング場行った事ねえだろ」

 

三人は席を確保し、それぞれ自分に合ったサイズの球を持ち運ぶ。

そして、少年少女の宴は始まった。

 

一番手は陽菜が務めた。緊張で身体を震わせながらも、レーンに第一投を投げた。

ぎこちない投げ方、当然2回ともガター送りになった。

 

「あぁ…!」

 

「ブハハハッ!何だよその投げ方はッ!」

 

「そういうあんたはどうなのよ!?」

 

「まあ見てなって!俺が一発目でストライク取って沸かしてやるからよ!」

 

人志は自身に満ちた顔で球に指をはめ、一投した。

先ほどのストライク宣言とは裏腹に一投目は8ピン、2投目は0ピンで終わった。

 

「ちょっとお?ストライク取るんじゃ無かったのお?」

 

「うっせえな!一回目は様子見だよ!次で決めてやる!」

 

「お!今度は俺の番だな」

 

「行けバカイドウ!骨は拾ってやるぜ!」

 

「勝手に拾ってろ馬鹿」

 

「頑張って怪童!」

 

後ろの席に座ってる二人の野次と応援が入り乱れる中、怪童は眉一つ動かさずに一投した。

投げられた球は真ん中よりやや左寄りだったが、見事に全て倒しストライクを取った。

 

「ゲッ!?いきなりストライクかよおッ!!?」

 

「やったあッ!おめでとう怪童!!」

 

怪童は二人のはしゃぎ声に少し喧しく思いながらも、拳を握って小さくガッツポーズを取った。

陽菜、人志、怪童。この順番で、三人は汗を流して競い合い楽しみ合った。

 

 

 

尊く楽しい時間の終わりを告げるように、日は沈み暗くなった。

三人の少年少女を含めた多くの人々が、靴の音を立てて帰途に就く。

 

「チクショー全然ストライク取れなかった!!スペア取るのが精一杯だったぜ!!

なあ怪童、お前何であんなストライクぽんぽん出せるわけなの?今度コツとか教えてくれよお」

 

「俺はいいけどよ、お前夏の課題全部やったのか?もう夏休み終盤だぜ?」

 

「ギクッ」

 

「その反応じゃ、しばらくラウワンはお預けだな」

 

「そ、そういうおめえはどうなんだよ!?」

 

「7月にとっくに全部終わらせた」

 

「クソッ!この優等生めッ!」

 

学校の話をしながら、人志と怪童は肩を並べて笑顔で話す。

そんな眩いほど青く輝く二人に、陽菜は言葉を一つ投げかけた。

 

「ねえ、二人とも…」

 

「あ?」

 

「これって…夢、じゃないよね…?」

 

あまりにも突拍子の無い言葉に、二人は少女を見た後互いに目を合わせる。

約2秒見つめ合った後、二人は少女に近づいて左右の頬をつねった。

 

「痛い痛いいたいイタイッ!!わかった!!夢じゃないのはもうわかったからやめて!!」

 

「人が大いに盛り上がってるとこに水差した罰だ!大人しく罰を受けろ泣き虫チビ助!」

 

二人は今、この楽しいひと時が夢じゃない事を正明し、少女の頬をつねる指を離した。

 

「どうよ陽菜、楽しかっただろ?」

 

「…うん!楽しかった…!」

 

未だに悪夢に苛まれている少女の顔を、人志は変わらぬ明るさで晴らしてみせた。

そして、人志と怪童は交差点で分かれ始める。

 

「じゃあ俺こっちだから!またな!」

 

「帰り気をつけるんだぞ、陽菜」

 

屈託の無い笑顔で、二人の少年は少女と別れようとする。

それとは対照的に、少女はまた陰りを見せる。

このまま離れてしまったらもう二度と会えなくなってしまうと、少女は不思議と感じていた。

衝動のままに、二人の足を止めた。

 

「人志!!怪童!!」

 

少女の声に二人の少年は足を止められ、歩道に立ったまま声の鳴る方へ振り向いた。

 

「まだ何か言いてえ事あんのかー?」

 

信号は青。人々は流れるように歩道を渡っていく。

その中で、少女は一つの質問を投げた。

 

「私達、ずっと一緒にいられるよね?」

 

数え切れないほどの人の流れの中で、三人は静かに佇む。

靴の音や車のエンジンの音が紛れつつも、三人の間に流れる時間は静寂だった。

しかし、そんな静寂は人志の一言で動き出す。

 

「………多分無理だな

ずっと一緒は」

 

風が、撫でるように吹き始めた。

 

「…………どうして…?」

 

「これは茜先生からの受け売りなんだけどよ…人が生き続けるって事は、何かを失い続ける事と同義なんだってさ

例えばガキの頃から凄え仲良かった奴らと事情があって全然会えなくなったり、病気に罹って家族の事を忘れちまったり、思い入れのある行きつけの店が畳んじまって無くなっちまったり、事故やら災害やら戦争やらで家族や友達を亡くしちまったりよ…

そういう、"失う事"から逃れられない生き物なんだって…小せえ頃よく聞かされた」

 

冷たく静かな風が物悲しさを漂わせる中、人志は続けて言う。

 

「でもよ、たとえ二度と会えなくなっちまってもよ、俺はそいつの事を死ぬまで忘れねえように想い続けて生きてえって思うんだ!

仮にお前らが俺からいなくなっちまったとしても、俺はお前らの事を死ぬまでぜってえ忘れねえし、忘れてやらねえ!

だからよ、そうなる前にお前らとこれからも思い出を作っていきてえ!」

 

陽菜は人志が話した事を全て聞いた上で、また顔を曇らせていた。

 

陽菜は薄々勘付いている。

今、体験しているこの青春や、快活明朗で元気な幼馴染たちがいるこの光景が、全て夢だという事に。

それでも、陽菜は含みのある笑みで答えた。

 

「ありがとう…私も…私もそうする…!私も絶対、二人の事を死ぬまで忘れない…!

今日一緒に過ごしたこの日が、単なる都合の良い夢だとしても…!私は、絶対に忘れてやらない…!!」

 

偽りなど一切無い腹の底から出したこの言葉を、二人の少年は確かに聞き届け笑った。

一人の少女と二人の少年は、人の流れの中互いに背を向け合いそれぞれの道を歩む。

その足取りは、夢の終わりを告げるかのように。

 

ビュウウウッと、突然風が吹き始めた。

さっきまでの静寂を消し去るような突風に、少女は全身を叩かれ目を瞑る。

勢いは衰えず、小柄な少女の身体をそのまま風と共に運ぶかのように吹き続ける。

時間にしてコンマ15秒後、風は止んだ。

やっと止んだと安堵しながら、少女は閉じた瞼を開けた。

 

だが、瞼を開けた途端少女は青ざめた。

まるで災害が起きたかのように、建物とインフラが無数に崩れ落ちた。

それだけでなく、建物の壁面や道路に、人の血や肉片の数々がそこら中に散らばっていた。

さっきまで平穏で豊かだった東京が、自分がよく知っている地獄へと姿を変えた。

吐き気を催すほどの精神的負担と腐臭、この世のものとは思えない地獄に少女は膝を突いて目に涙を浮かべる。

 

そんな地獄の中で、二人分のコンクリートを踏む音が少女の耳に届く。

音の鳴る方へ、少女は後ろを振り向いた。

さっきまで明朗快活だった二人の背中は、まるで幾多の戦いや苦痛を乗り越えてきたかのように傷だらけだった。

 

一人は片腕を失くし、もう一人は全身傷だらけの大男。

巨きく逞しく、そして何処か哀愁を漂わせる背中だった。

ユラユラと風に揺られながら、二人はその先にある墓標の丘へと進んでいく。

 

少女は涙を浮かべながら、二人の背中に手を伸ばす。

届くはずのない夢に、少女は無力を叫んだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

手を伸ばした先は、如何ともし難い現実だった。

 

「は…陽菜さんッ…!!」

 

「陽菜ちゃんッ!!」

 

夢から覚め視界に映ったのは、共にこの地獄を戦った現在(いま)の親友達だった。

 

「よかったッ!目が覚めてッ!」

 

元凶との戦いで頭に血を流しながらも、樹は少女の無事に喜んだ。

愛菜も同じように、心の底から喜んでいた。

 

目覚めたばかりでまだ意識が朧げながら、少女は辺りを見渡す。

少女は悟った。やっぱりさっきのは夢だったんだと…。

 

「伊達さん…人志と怪童は…?」

 

少女は虚ろな面持ちで、髪を上げている壮年の男に二人の事を尋ねる。

 

「戦ってるよ…あの馬鹿共は…まあ、何処で戦ってんのかは分からねえけどな…」

 

歴戦の戦士は静かに答えた。

元凶 後藤博文との最終戦争を終えた三人は、怪童の鏖殺を止めるべく戦っている人志の勝利と帰還をただ静かに待ち、祈っていた。

 

けれど唯一、陽菜だけは知っていた。

 

「……………行かなきゃ」

 

「え…?」

 

「行かなきゃ……あの場所で…今…二人は戦ってる…

止めなきゃ……今すぐに止めなきゃ……」

 

妖怪の始祖の能力は、願望や意思を具現化させる。

器として選ばれた陽菜の中にほんの微かに残っていた力が、そのまま陽菜の夢という形になった。

陽菜は樹の両腕を振り解いて立ち上がり、二人の元へと歩いた。

 

「おいッ!待て陽菜ッ!始祖の力を失ったお前が今更行ったところでどうにもなりゃしねえんだッ!

大人しくここで待ってろッ!!」

 

単独で死地に行こうとする陽菜の腕を、伊達は掴んで静止しようとする。

が、陽菜は静止を振り解き叫んだ。

 

「うるさいッッ!!」

 

「ッッ!!?」

 

「今私が行かなきゃ二人とも死んじゃうんだよッッ!!

そうなる前に私が止めなきゃッッ!!まだやり直せる前にッッ!!!」

 

大粒の涙を撒き散らしながら、陽菜は叫んだ。

たった一人の弱い少女の叫びに、伊達を含めた三人は気圧され言葉を失った。

 

陽菜はこの隙に、二人の戦地へと地面を蹴って走った。

 

「陽菜さんッ!!」

 

「陽菜ちゃんッ!!」

 

独走する陽菜の後を追うように、樹と愛菜も走り出した。

伊達も同様、自ら死のうとする愚行を止めるべく足を動かす。

だがヒスイや後藤博文やBeyond、そして怪童との連戦に次ぐ連戦で足を限界まで負傷し、追う事が出来なくなってしまった。

 

「クソッ!!聞き分けのねえ馬鹿ガキがッ!!」

 

涙を流し、息を荒くしながら陽菜はひたすら走っていく。

かつて共に過ごした思い出の地、墓標が並び立つ敗北の丘へと。

まだやり直せると信じて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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