戦の鉄則   作:並木佑輔

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第7話 未熟な大樹

第二の試練は、超広大な訓練場での生き残りを懸けた戦いで、12時間以内に目的地に辿り着ければ合格という内容である。

 

様々な罠や敵を退け、目的地に向かう人志一行は、しばしの休憩をしていた。

 

人志と樹が談笑している中、陽菜はある異変に気付いた。

 

遠方に、自分達が探し求めているかつての友である怪童の姿があったのだ。

 

陽菜は、人志と樹にその事を知らせたのだが、さっきまでいた怪童の姿が何故か消えていた。

 

困惑しながらも、人志達は先に進むのだが、突然首無しの奇怪な怪物が人志達に襲い掛かって来た。

 

人志は、自身の能力でその首無しの怪物の生命エネルギーを感知し、様子を探っていた。

 

(…!!こいつからは一切の生命エネルギーを感じない!!

こいつの肉体は…"とうに死んでいる“…!!

だとするなら…この中にこいつを何らかの能力で操っている能力者がいるはず…それしか考えられない!!)

 

人志は、この事を樹に伝え、首無しの怪物を操っている能力者を捜索に赴いた。

 

ところが、いつの間にか陽菜が人志と樹の側からいなくなってしまった。

 

人志が首無しの怪物の生命エネルギーを感知し、様子を探っている時に、陽菜はまた怪童の姿を目撃したのだ。

 

陽菜にとって怪童は、かつて自身の秘められた能力が原因で妖怪達に両親を奪われ、襲われる所を救ってくれた命の恩人であり、大切な想い人でもあるのだ。

 

夢でも幻でも何でもいい…

 

唯…貴方に会いたい…

 

陽菜は、怪童への想いを胸の内で叫びながら、怪童の方へ向かって行った。

 

だがそれは、敵が仕掛けた幻影、罠であった。

 

陽菜は、まんまと敵の罠に落ちてしまい、身柄を捕縛された。

 

人志と樹は、首無しの怪物を相手にしながらも、いなくなった陽菜の捜索をしていた。

 

連携を取り、苦戦しながらも打開策を練る人志と樹。

 

その最中、人志は首無しの怪物の首の断面から微かな生命エネルギーの流れを感知した。

 

その生命エネルギーの流れは、まるで自分達のいる場所へと誘い込んでいるようだった。

 

この首無しの怪物を操っている能力者や、行方不明になった陽菜の手がかりを掴めるかもしれないと考えた人志と樹は、その微かな生命エネルギーの流れを辿って行った。

 

辿り着いた先には、革ジャンのオールバックの青年に、赤髪のツインテールの少女という謎の妖怪達が陽菜の身柄を捕縛し、人志と樹を待ち構えていた。

 

『お!やっと来たか!

待ってたぜ、隻腕の坊や…。』

 

『こ…こいつらは…まさか…!』

 

『奴らを知っているのか…樹…。』

 

『ええ…最近になって名を馳せている集団…その名も『絵札の四銃士』…。

オールバックの革ジャンの男がリーダーのキング、赤髪ツインテールの吸血鬼の女がクィーン…』

 

『そんでもって、お前さん達がさっきまで戦ってた首無しのデカブツがジャック…かつて人間共とのでけえ戦争の中で、同族諸共殺戮の限りを尽くした…最凶の鬼だ…。』

 

『俺の事を知っていて、陽菜を人質に取っているという事は…お前達は…』

 

『そう…俺らはバサラ様からの直々の命令でお前らの能力の真価を測る為に、この選定に来たんだ…。

そんでもって、この可愛子ちゃんの能力の事も徹底的に調べねえとなあ…』

 

艶かしい手付きで陽菜に触れるキングに怒りを覚えた人志は、キングに向かって攻撃を仕掛ける。

 

『陽菜を…返せ!!』

 

だがそこに、ジャックが再び人志に襲い掛かってきた。

 

『ぐっ…』

 

『人志さん!!』

 

『隻腕の…お前さんの相手は俺とこのジャックで努めさせてもらうぜ…。

クィーン!この可愛子ちゃんをたっぷり可愛がってやりな!』

 

キングは、クィーンに陽菜の身柄を手渡し、人志との戦いに赴いた。

 

『さあ陽菜ちゃん…洗いざらい吐いてもらうわよ…"貴女の全て“を…フフフ…。』

 

『い…嫌…やめ…』

 

『陽菜ァァ!!』

 

クィーンが陽菜を襲おうとした束の間、大量の大木がクィーンに向かって放たれた。

 

樹が、自身の血を媒介にして木を錬成する能力を用いて、クィーンの魔の手から陽菜を救い出そうとしていた。

 

『陽菜さんを放せ…!!』

 

クィーンは、放たれた大木を全て躱し切り、自身の血でキューブ状の空間を作り出し、そこに陽菜を閉じ込めた。

 

『へえ…あんた、あたしとおんなじタイプの能力を持ってるのね…

いいわ…面白そうだし、相手してあげる…♡』

 

今この場で、人志とキング、ジャック

樹とクィーンの死闘が始まろうとしていた。

 

人志は、樹を自分の戦いに巻き込ませない為に、キングとジャックを誘い、別の場所へ移動した。

 

樹は、捕われた陽菜を救い出す為に、クィーンとの戦いに全力を尽くす。

 

クィーンは吸血鬼で、自身の血を媒介にして、ありとあらゆる物を具現化させる能力を有する。

 

クィーンは、その能力を用いて、吸血鬼の弱点である日光を防ぐ為に、日光を完全に遮断する透明のプロテクターを具現化させて、それを常に身に纏っているのだ。

 

『ところで坊や…坊やは木以外に他に何を錬成出来るのかしら?

もしかして…"血を使ってまでただの木しか錬成出来ない“のかしら…ふふふ…♡』

 

『……』

 

『アハハハ!どうやら図星のようね!

ねぇ坊や…悪い事は言わないからさ…あたしの視界から消えなよ…』

 

そう言い放ったクィーンは、自身の頸動脈を掻っ切って、大量出血させた血液の一滴一滴を無数の槍に具現化させた。

 

『まだ死にたくないでしょ…?』

 

クィーンは、無数の槍を樹に向かって一斉発射した。

 

樹は、咄嗟に自身の血で巨大な木の防御壁を作り、間一髪防ぎ切った。

 

『へえ…やるじゃない…♪

だ・け・ど』

 

ほっとしたのも束の間、クィーンは一瞬で樹の背後に周り、重い一撃を喰らわせた。

 

『ぐはっ…!!』

 

『樹さん!!!!』

 

吐血し、吹っ飛ばされた樹に、クィーンは更に追撃を喰らわせ、樹の首を絞めた。

 

『ごめんね〜♪

あんたとはもう少し遊びたかったんだけど、こちとら大事な仕事があるからさ〜…

バイバイ

木偶の坊♡』

 

絶対絶命に追い込まれ、とどめを刺されそうになる樹。

 

しかし、闘志はまだ死んではおらず、とどめを刺しに来たクィーンに対して、樹は鋭利な木のナイフでクィーンの眼を切った。

 

『ぎゃあああああ!!!!

あああああ!!あたしの目があああ!!』

 

『樹さん!!』

 

『……陽菜さん……もう少しだけ待っていて下さい…早くこいつを倒して……一緒に怪童を探し出さないと……!!』

 

ボロボロになり、劣勢になりながらも、樹は陽菜を救い出す為に己の中の闘志を燃やし、血液を沸騰させる。

 

幼き頃、かつて妖怪達から虐げられていた自分を救い、正義へ目覚めさせてくれたかつての親友を救い出す為に…

 

樹は、生まれはごく平凡で気が弱い普通の人間の少年であった。

 

力も弱く、よく周囲からウドの樹という蔑称で呼ばれ、虐められていた。

 

ある日、運悪く悪餓鬼の妖怪達に囲まれて、サンドバックのようにボコボコにされた時に、一人の同い年の少年に助けられたことがあった。

 

その少年の名前は和真。

 

霊能力者の一家の子供で、悪い妖怪達から弱い人々を守る為に、日々戦っている少年であった。

 

樹は、そんな和真の生き方や強さ、優しさに心を打たれ、自分も和真のような立派な人間になることを決意し、両親の反対を押し退けて、霊能力者としての道を歩んだ。

 

だが、妖怪達が支配・統率している社会なので、弱い立場である人々やそれらを守る役目を担うはずの霊能力者は、ただ妖怪達の命令に従い、媚びを売ることでしか生きられない現状であり、誰も弱い人々や困っている人々を救おうなどとはしなかった。

 

そんな現状に絶望した樹…だが、正義感が人一倍強い和真は樹とは違い激しい怒りに燃えていた。

 

和真は妖怪達に強く反発し、己の正義と信念を貫こうとしていたのだが、それが原因で妖怪達に執拗ないじめや嫌がらせを受けることになってしまった。

 

どんなに自分の意見を伝えようとしても、誰も和真の言葉には耳を貸さなかった。

 

両親にも自分の意見や正義を否定された。

 

心が折れて、自殺しようとした和真を樹はすぐさま止めた。

 

和真の悔しさや辛い気持ちを理解した樹は、次の日、和真を虐めた妖怪達に

『お願いです…もうこれ以上…僕の大切な親友を傷つけないで下さい…。』

と、深々に頭を下げた。

 

そんな樹の言動と態度に気が触れた妖怪達は、樹に暴力を払いまくった。

 

どんなに殴られ、蹴られようとも、樹は一切やり返す事をせず、和真の為に懸命に訴えていた。

 

その様を見た若茶は、樹に暴力を払いまくっている妖怪達に頭突きを喰らわせて、処分を下した。

 

その後、樹と和真は若茶の指導の下、正しい霊能力者になる為に日々の特訓を重ね、様々な任務を務めながら次第に成長していったのであった。

 

だが、二人がある任務を務めた時、ある凶悪で高名な妖怪の捕縛をしようとしたが、返り討ちに遭ってしまい、和真がその妖怪に己の能力を買われて拐われてしまったのだ。

 

樹は、自分の未熟さや情けなさ、非力さを恨み、挫折をバネに、一人地道な鍛錬を継続していた。

 

けれど樹に出来ることは、自身の血を木に変える事しか出来ず、霊能力の基礎(結界術や金縛りなど)がてんでなっていなかった。

 

指導者である若茶は、樹にこんな助言を言い放った。

 

『一つの事しか出来ない?

結構じゃないか

一つの事を究極まで極めればいいんだからな…。

それに、私は知っている…

君という人間は、"自分以外の大切な誰かの為に血を流せる"…

そんな立派な大樹だという事を…。』

 

樹は、自分のやり遂げなければならない事と、守らなければならない事を思い出し、今一度己の血液を沸騰させた。

 

『よくもやりやがったなあこの木偶の坊…!!

絶対にぶっ殺してやる!!!!』

 

激昂したクィーンは、己の血を様々な武器に具現化させ、樹に向かって一斉に発射した。

 

対する樹も、木の防御壁を作り出した後、瞬時にクィーンに向けて何かしらの木の種を放ってぶつけた。

 

その次に、樹はすぐさま相手の物量を上回る程の大量の大木を錬成し、猛攻を仕掛けた。

 

樹の猛攻をモロに喰らったクィーンは、さらに激昂し、瞬時に樹に近付き肉弾戦を仕掛けてきた。

 

肉弾戦を持ち込まれ、またしても劣勢に立たされた樹。

 

クィーンは肉体の再生が既に追いついてきていた。

 

『フン…木偶の坊の分際でここまで戦ったあんたに敬意を表して、楽に殺してあげるわ…感謝しなさい…。』

 

今度こそ本当に止めを刺される…その時

 

『…まだ…終わっていない…』

 

『…は?』

 

『…まだ勝負は…終わっていない…!!』

 

そう樹が言い放ったと同時に、クィーンの身体に変化が表れた。

 

鋭利な木々が、クィーンの身体中を内側から突き破ったのだ。

 

『が…あ…あ…

こ…こんな…こんな…もの…い…いつから…はっ!!』

 

あの時、クィーンが激昂して様々な武器を樹にぶつけ、樹が防御壁を作り出した後、瞬時にクィーンに向けて放ったあの木の種…

 

『こ…の…チン…カスがあああああああああああああ!!!!』

 

『もう…終わりだ…。』

 

そう言い放った樹は、ダメ押しにクィーンの脳に鋭利な木の釘で刺して、再起不能にした。

 

戦いに勝利した樹は、陽菜を救い出した後、バッタリと倒れてしまった。

 

『樹さん!!樹さん!!!!

…ごめんなさい……私の……私のせいで……

ごめんなさい……!!』

 

陽菜は、まんまと敵の罠に騙された自分の不甲斐なさ、自分のせいで人志と樹に迷惑を掛けてしまった事を悔み、号泣した。

涙を流しながら、陽菜は樹の傷を回復させる為に応急処置を懸命に施していた。

 

『絶対に死なせない…!!

今度は、私が…私が…!!』

 

一方その頃、人志はキングとジャックの二人に苦戦を強いられていた。

 

ジャックの圧倒的なパワーやタフネスに、キングは自分と同じ生命エネルギーを取り扱う能力を持ち、徐々に人志を追い詰めていく。

 

キングに翻弄され、隙を突かれ、ジャックの圧倒的なパワーに圧し潰されそうになったその時、謎の二本角の鬼のポニテの少女がジャックを金棒でぶっ飛ばした。

 

『な…何だ…!?』

 

『中々スタイルと顔の良い嬢ちゃんだが、何者だお前さん…?』

 

『名乗る程の者じゃないけど…あえて名乗らせてもらおうか!!

あたしの名は愛菜!

人と鬼との間に生まれた半人半鬼だ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 


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