ヘチマちゃんの場合。
「んー……ごめん、飽きた!」
あまりのショックに持っていた書類もカバンも全て地面に落としてしまった。
今日は自分の休みとヘチマが旅館ではなく騎士団に居るタイミングが合ったため、デートに誘ってみたのだが、この返しは予想の範疇だが予想外、と言うより予想以上に辛い。
「って違う違う、別に団長ちゃんに飽きた訳じゃないから! そんな捨てられた子犬みたいな顔しないでよ~」
見ているこっちも分かるほど狼狽したヘチマに、自らの勘違いを悟る。よかった、ヘチマに嫌われたら生きて行けない所だ。
「何言ってるの団長ちゃん、まぁでもこれは悪いことしちゃったね」
いや、嫌われてないならそれで十分だ。ならばデートはまたの機会にしようか。
落とした書類を拾うためにしゃがむと、ヘチマもしゃがんで耳打ちをしてきた。
「飽きたのは普通のデートだけだから! 別に団長ちゃんとデートしたくない訳じゃないし、いつもみたいに団長ちゃんが工夫してくれるならぜんぜんおっけーだから! って言うか悪いことしちゃったし、お詫びに団長ちゃんとデート付き合ったげるから、だから団長ちゃん、元気出して」
そう早口で弁明するヘチマの表情は口調に反して不安そうだ。大丈夫だ、勘違いのひとつや二つ、ちゃんと正せばそれが原因でヘチマの事を嫌いになったりする訳が無い。
「あー良かった~、ただでさえ飽きっぽいのにこんなに良くしてくれる団長ちゃんに嫌われたらあたしは生きて行けない所だよ」
けろりと安堵したヘチマはさっきの自分と同じ事を言っている。
「そしたら旅館で引きこもって毎日女の子の裸を見て心を癒す生活かーそれは悪くないかな~」
……彼女が捕まらないようにするためにも、飽きられる訳には行かないな。
しかしまぁ、普通のデートには飽きたと言う事は趣向を変えたら良いのか。と言っても、ブロッサムヒル近辺のまともな店で彼女と行った事の無い店なんてあっただろうか。彼女と居る時は毎回訪れる店を変えるせいですっかり城下町中の店を制覇してしまった気がする。
「じゃあ団長ちゃん、折角だから、まともじゃないお店、行ってみる?」
やって来たのはアダルトショップだった。
こんないかがわしいお店に彼女は入った事があるのだろうか。
「え、無いよ? 桃源郷の友達の店は入った事あるけど、知らない店は今回が初めて!」
花街や料亭、旅館や道場のイメージが強い桃源郷に比較的俗っぽいそういう店があった事自体ほぼ初耳なのだが。まぁ無い方が不思議か、と納得する。
「業販としての需要もあるんだって。後は薬屋とか石鹸のあるお店で、そういう薬やらなにやらも売ってるのよ」
なるほど。
「後は大工屋や家具屋がそーゆー道具を作ってくれたりもするんだって」
どーゆー道具なのだろう。そんな舞台裏は、あまり知らないほうがよさそうな気がする。
「ま、あたしは団長ちゃん専属だから知らなくてもぜんぜん良いんだけどね」
そもそもヘチマの旅館は健全な旅館のはずだ。何故か覗きが出る事以外は。
「あはは……手厳し~ね~」
そんな業界の裏話で盛り上がりながら商品棚を眺める。
しかし、この人肌硬度の大人の玩具の素材は一体何でできているのだろうか。
「どーしたの団長ちゃん、もしかしてそれであたしの事責めたいの?」
このヘチマノリノリである。
こんな柔軟な素材があれば、いろいろ工業・産業的な需要や軍備面での応用ができる気がすると言うだけだったのだが。
「もー、職業病は不治の病だよー。っていうかそんな事ばっかり考えてよく飽きないねー」
いや、ヘチマとのデート中にそんな事を考えたのは不誠実だった。お詫びにヘチマの欲しい玩具があればお金を出すが。
「そんな事言って団長ちゃん、あたしの性癖を暴く気でしょー!?」
こんな場所をデートの場所に選んだ時点で隠すほどの事なんてあるのだろうか。ヘチマと一緒に居ると楽しいせいでつい口が軽くなる。
「団長ちゃん乙女心が分かってるようで分かってないなー! なんでこんななのに気遣いは出来るんだろ」
好きな人を想った上で自分がしたいようにしているだけなのだが。思ったままを伝えると、ヘチマは微妙そうな顔をする。
「天然たらし~」
本気なのはヘチマだけなので安心して欲しい。
「じゃあ団長ちゃん、どこまで本気なのか、ちょっと試してみても良い?」
少し悪戯っぽくそう聞いて来るヘチマ。
ヘチマの事を信用していない訳ではないが、わざと嫉妬させるのは1000年の恋も褪めかねないのでお勧めはしない。
「そんな器用な事しないしできないし」
ではどんな事をするつもりなのだろうか。
「団長ちゃんのための玩具買うからさ、何買ったのは秘密のまま、団長ちゃんに試したい!」
……ついでにその結果何が起こっても自己責任と言う同意書と遺書も買う必要があったりするのだろうか。
「団長ちゃんはあたしの事何だと思ってるのさー!」
憤慨するヘチマ。決して彼女の事を怒らせたい訳では無いのだが、趣味が覗きで初夜がいかがわしいお店プレイだった上級変態にして最愛の恋人である、としか言いようがない。
「もー怒った!今夜は絶対許してあげないからね!」
まぁ綺麗な肌が好きな彼女の事だ、多分跡が残るような
そう思って了承してしまったが故に新しい扉を開く破目になったのは別のお話。
(パラレルだけど)うちの団長いっつも新しい扉開いてんな
作者の趣味ですごめんなさい