サーヴァントたちへの思いと感謝を込めて   作:イサシ

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最近、映画、ロビン・フッドを見たマスターです。


ロビン・フッド、覚悟を決める

「マスター、お邪魔しますよっと」

「あれ? ロビン、どうしたの?」

「いや、ちょっとね」

 

 放っておけなかった。どこにでもいるような普通の人間が世界を救う。小説や漫画ならお決まりのど定番だ。だけど、それはあくまで架空の話。実際にその業を背負わされた時、その普通の人間はどうするだろうか?

 

 何もできず立ち尽くす者。

 泣きわめく者。

 全てを投げ出して逃げ出す者。

 

 正しい選択だ。何も間違っちゃいない。おかしいのはたった一人の人間に世界を任せる他の人間なのだから。

 

 だが世の中には正しいからといって、誰もがそれを選択できるわけではない。魔術王との決戦、亜種特異点での闘争、そしてクリプターとの死闘。その全てをこの少女に押し付けた。

 

 結果、どうなったかなど語るまでもない。

 

「ロビンが部屋に来るなんて珍しいね」

「そりゃ、うら若き乙女の部屋に度々来る訳にもいかんでしょ」

「ロビンならいつでも大歓迎なんだけどな」

 

 マスターに促されるまま、備え付けの椅子に座り、ベッドの端に座る自身のマスターと対面して、とりとめのない会話を重ねる。

 

(……全く、無理しちゃって、まぁ)

 

 穏やかに会話を進めるが、その内心は決して穏やかという訳にはいかない。彼女の顔色、仕草、息遣い、口調を確認し、彼女の状態を見定める。

 

「……マスター、ちょっと失礼しますよ」

「え? あ、ちょっと!?」

 

 突然、立ち上がり、マスターの足元で屈む。驚くマスターを無視し、彼女の足首を近くで見る。

 

「あ〜、やっぱり。ったく、隠し通せるとでも思ってたのかい? 足首、捻挫してるだろ」

「……ごめん」

「……足、触るぞ」

 

 懐から取り出した治療用具で治療を開始する。森で暮らしていれば捻挫の治療なんて日常茶飯事だ。慣れた手つきであっという間に治療を終える。

 

「ありがとう、ロビン」

「どういたしまして」

「どうして、捻挫してるのに気付いたの?」

「レイシフトから戻ってきたときに足かばってるのに気付いたんすよ」

「そっか……」

 

 彼女は何も言わない。彼女の事だからどうせ、マシュを始めようとしたカルデアのメンバーに心配をかけたくなかったのだろう。

 

 本当に優しい。戦場で常に最前線に立つのは彼女なのだからもっとワガママになってもいいというのに。

 

「なぁ、マスター、ちょっと失礼」

「え?」

 

 そのまま抱きしめる。彼女のその華奢な身体を。

 

「え?あの、えっと、ロビン?」

 突然の事態に、固まるマスターをいい事に言いたい事を彼女に語りかける。

 

「あまり無理するなよ」

「無理ってそんな……」

「してるよ、見てられないくらいだ」

 

 いつからだろう。彼女の笑顔が人形のような張り付いたものになったのは。      

 

 いつからだろう。彼女が泣かなくなったのは。

 

 いつからだろう。彼女が戦いの際、震えなくなったのは。

 

「あんたは普通の女の子だ。普通の女の子なんだよ。そこまでする必要なんてないんだ」

 

 生前、村にいた娘。今、目の前にいる少女はまさにその娘だ。そんな娘が世界を背負って戦う。仮にも英霊である俺でもそんなのはゴメンだ。自分が失敗すれば世界の滅亡が確定する。そんな絶望的な状況を彼女は10回以上、経験して乗り越えてきたのだ。正気の沙汰とは思えない。

 

「少しは弱音くらい吐けよ。少しは頼れよ。なんだってアンタは全部背負いこんじまうんだ」

「……ロビン、痛いよ」

「悪い……熱くなっちまった」

 

 知らず強く抱きしめていた腕を緩め、マスターを解放する。

 

 柄にもなくやってしまった。こんなのは俺の役ではない。あの皮肉屋の赤いのにでも任せとけばよかったのだ。バツの悪そうにマスターのほうを伺うと彼女もどうしたらいいかわからないという風な様子でこちらの様子を伺っていた。

 

「……」

「……ロビンはさ」先に言葉を発したのはマスターの方だった。「優しいよね」

 

「優しい、俺が? ハッ、馬鹿言え」

 

 そうだ。 優しいはずがない。 俺みたいなわかっていて何もしない傍観者が一番タチが悪いのだ。 自分勝手に自分の言いたい事だけ言って、ただ本人の精神をかき乱す。 自分が安心したいから、彼女の有様に我慢できなかったから、さっきの言葉はただ自分を解放したかっただけの自分勝手な男の戯言なのだ。

 

「さっきの言葉は忘れてくれ。覚悟を決めてる人間にとっちゃ最低な戯言だ。 悪かったよ」

 

 マスターに背を向け、立ち去ろうとする。だがそうはいかなかった。去り際、マスターに腕を掴まれる。

 

「待ってよ、ロビン。まだ話は終わってないよ」

 

 そう言うと、マスターは俺の胴に腕を回してそのまま強く抱きしめ、俺の胸に顔を埋める。恥ずかしいのか、隠しきれていない両耳は真っ赤に染まっていた。

 

「おい、何の真似だい、マスター?」

「さっきのお返し。こっち見ないで恥ずかしいから」

「際で……」

 

 暫く、このままの体勢でいるとやがてマスターがゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

「ロビン、私は覚悟なんて決めてないよ。いつもブレブレで戦いの度に心はすくみあがってる。震えだって薬で止めてるだけ。みんなの士気に関わるからね。私はいつもみんなに助けられてばっかりで、足手まといだからせめて、士気だけでも保たなくちゃ」

「……それは違うだろ、マスター。あんたがそこまでする理由なんて……」

「あるよ。私がやらなくちゃいけないんだ。他の誰でもないこの私が」

「……なんでそこまで……!!」

 

彼女の主張に声を荒げるがマスターは落ち着いた声で噛みしめるように続ける。

 

「確かに最初は流されていただけだった。人類唯一のマスターとか言われて、突然世界を救えとか言われちゃって……何度逃げ出そうとしたかわからないよ」

「逃げちまえば良かったんだ、その時に……」

 

 誰も責めることはできないだろう。 彼女を責める権利なんて誰にもない。

 

「……でもね、世界をめぐる度に私は背負ってきたんだ。色々な人の思いや願いを。それを今更誰かに譲ったり捨てたりなんてできない。あの人たちの思いや願いはもう私の一部だから」

 

マスターはそう言って埋めていた顔を上に向け、目を合わせ、にっこりと笑う。

 

「だからね、ロビン。ありがとう。貴方の言葉は戯言なんかじゃない。私の心に深く染み渡りました」

 

             ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 結局のところ、俺の言った事なんて俺が言うにせよ言わないにせよ、何処かのお節介が言っていた事だろう。そして、彼女が誰に言われたところで決して弱音を吐かない事だって。

 

 だから、せめて守ろうと思う。彼女の行く末を。彼女が背負った思いや願いの行く末を。

 

 今日も彼女は旅に出る。何が待ち受けているかもわからない未知の領域へ。震える足を薬で抑え彼女は冒険に出る。

 

 俺はそれに黙ってついていく。絶対に彼女を死なせないために。

 

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