べ、別にイカのゲームが楽しくてサボってるんじゃないんだからねっ
ディハウザー・ベリアル…彼を前にして、この話をするのは得策ではない。けれど、彼には真実を知る義務がある。
きっといつか酷い形で知るくらいならば、今知るべきなのでしょう。
「貴方は調べている…私の前任者であるクレーリア・ベリアルに起こった事件の真相を。そうでしょう?」
「!…その確信めいた物言い、隠し立ては出来ないか。そうだ、私はクレーリアの身に何が起こったかを知りたい。教会の戦士と恋に落ちたことで粛清されたなど、納得できる内容ではない。
それに…突拍子が過ぎる理由だ、何かあるんじゃないのかと探り続けてきたが、掴めぬままだ。」
「その真相、私が教えると言ったら?」
「り、リアスさん!?それは…」
「ちょっと待ちなさい、リアスさん。それは証拠もあるんでしょうけど…今一度整理するべきよ。ディハウザーさんに誤った真実を教える訳にはいかないし、それに…それを教えるのはリアスさんにも危険があるでしょ。」
「ええ、そうね。悪魔の上層部の力が働いているのは間違いない。情報操作もあちらがやってるのでしょう…勘の良い輩は適当な理由をでっち上げて始末すればいい。…でも、決めたのよ。ネプテューヌのようにそういった悪いものも呑み込んで進むって。だから、危険が迫ることになろうと…私は私の理想のために動くわ。」
ただ、イリナの言う通り…見落としが無いかを見直すのは大事ね。
今一度整理しましょう。まず、クレーリア・ベリアルは何かと関わってしまった。そして、クレーリアには丁度いい事に愛し合う男性、教会の戦士である八重垣 正臣がいた。
当時を考えれば敵同士の繋がりは許されない…確かに、それで粛清はあり得ること。だけど、浅慮が過ぎる。
その関係を咎めて、家に連れ戻すなりしようと思えば出来た筈。
それをせずに眷属ごと粛清した、八重垣も含めて。
これはミカエルとの話で食い違いがあった。
まず、八重垣は離反した。教会の戦士でなければ、という考えもあっただろうけど…まあそこは考えなくていい。
次にクレーリアは何を知った?即粛清、だなんてよっぽどの事があった筈。何かを知ったか、してしまったか。けれど、何かをしたのならそれは公表できる。知ってしまったのなら…隠し通さないといけない程の物。
「クレーリアは何かを知り、それを隠蔽するために殺された。」
「何か、とは…?冥界にある物なのか?」
「悪魔の粛清となると、冥界側に不利なものでしょう。」
「酷い話ね、冥界に不都合になったから名家の人だろうと消すなんて駒みたいな物よね…」
「はい、クレーリアさんも八重垣さんも救われません…」
駒?…駒、そう、駒よ。
なんで気付かなかったのかしら。
あまりにも突拍子のない事かもしれないけれど、私も疑問に思ったこともなかった。浸透していたから…それが当たり前だった。
「その顔、どうやら何か分かったらしいね。」
「ええ…繋がりました。知られたくない不都合は数あっても…クレーリアが調べそうな事といえば、これしか思い当たらない。
ディハウザー様、訊いてもよろしいかしら?」
「ああ。…もし、知っても悪魔を裏切ることはないと約束しよう。
君のような優しい者もいると分かった…それだけでも、私は嬉しいよ。」
ディハウザー様は覚悟をしている。
なら、私もしっかりと訊くべきを訊かないと…ここにずっといるわけにもいかない。
「何故…レーティングゲームに『王』の駒は無いのでしょうか。」
思えば、女王はあっても王の駒はない。
上級悪魔を王に見立てるのがレーティングゲーム…けれど、駒がないのはどういうことか。魔王の一人、アジュカ様なら仕様が違っても作れる筈。それをしないなんて、あるのだろうか。
ゲームに関しては凝り性だと噂されるあの方が。
ディハウザー様は、顎に手を当てて目を閉じた。
思い当たる、といったところかしら。
「いや、ある。関係無いだろうと思って胸の内に留めておいた事だが、『王』の駒は実在する。冥界の裏を探る上で、偶然知ったことではあるが…その駒は単純な強化、2倍などではない10倍、100倍の強化だ。それ故に禁止された、と…」
「それです。それを知ってしまったクレーリアは知るべきではないを知った者として粛清された。」
「そんな、駒を知っただけで?」
「違うわ、駒を知ったからよ。確かに駒を作ったのはアジュカ様だし、禁止したのもアジュカ様でしょう。
けれど、最もその駒の力を恐れて、利用しているのは上層部よ。
きっとレーティングゲームでの不正にも使われてるでしょうね。」
「…確かに…以前より格段に力が上がったと感じた相手もいたが、まさかそういう事だったとは。つまり、クレーリアも、恋人の八重垣君も上層部の勝手な都合で消されたのか…」
暗い表情のディハウザー様に掛けられる言葉は少ない。
どっちにしたって、もう過ぎてしまったことだからだ。
けれど、これからを変えることは出来る…私は変える側でありたい。
「いつか、これを公表しましょう。それが一番の仕返しになるはずですわ。」
「…そうだね、私もクレーリアと、その恋人である八重垣君の為にも明るみにすべきだ。この手を悪に染めない方法で、ね。」
「ほっ…」
ネプギアの安堵の声はもっともね。リゼヴィムに利用されていたかもしれなかったと思うと気が気でないもの。実力はそれこそ魔王に迫る程だろうし、尚更ね。
これで私のやることは一つ終わって───
「──酷いなぁお嬢ちゃん。儂ちゃんも仲間に入れてくれないと~」
「リアスさん!」
「ッ!」
ネプギアが私の後ろを守るようにして、飛んできた魔力を剣で弾いた。それと同時にイリナがディハウザー様を庇うようにしており、剣を抜く。
コツ、コツ、と小気味のいい音が鳴り、こちらへと姿を表す。
ヴァーリによく似た銀髪に、嘲るような目…リゼヴィム・リヴァン・ルシファーが防がれちゃった、と残念そうにしながらも大して気にしていない様子でやって来た。
「こそこそやってるみたいだけど、儂ちゃんも一応お貴族様なものでして、そういうのは分かっちゃうんだなぁ…」
「そう、それにしては対応が遅れたじゃない。邪龍の方は片付けられちゃったのかしら?」
「ウフフフ、中々お転婆だねぇ!それも紫ちゃんのお陰かな?まあいいや。ディハウザーちゃん、儂ちゃんと手を組む気はないかい?」
「無い。貴方の手を組む、は利用するだけして捨てる体のいい駒を欲してるだけでしょう。」
「ええっ!そんなことないよん!儂ちゃん、すっごく誠実な悪魔だからさ!協力の暁には…ほら、これでね?」
「それは!」
リゼヴィムが懐から取り出した物を見て、イリナが声をあげたのは当然ともいえる。だってそれは私達が奪還すると決めているものの一つ。
「
「そうそう、邪龍だって蘇らせる事が出来る超便利アイテム!
何とこれを使って君の愛しい愛しいクレーリアちゃんを蘇らせてあげましょう!どうよ、最高のお礼じゃん?」
「クレーリアを……」
ディハウザー様はそれを聞いて、動揺しているようだった。
目が揺れていたし、何よりクレーリアを家族として愛していただろうディハウザー様にとって、それは正しく悪魔の囁き。
世界を敵に回す代わりに生き返らせるという甘言。
分かってはいたけど、死者の蘇生すら手札にする…とんだ下衆ね。
いえ、それは…私達悪魔全体に言えたこと、か。
「ディハウザーさん!駄目です!そんなのクレーリアさんは望んでませんよ!」
「望んでないっていうのはさ、生きている君たちの勝手な言い分じゃん?死人に口無し、好き放題言えるのは生者の特権だけどね。
でも知りもしない奴の事で望んでないです~っていうのはちょっと勝手すぎないかねぇ、次世代の女神ちゃん。」
「そ、それは…」
「ネプギア、いいのよ。」
狼狽えるネプギアの肩に手を置いて、前に出る。
勝てるとは思っていない…いえ、私一人でリゼヴィムを倒すことは出来ないでしょう。悪魔としての格差、経験の差…勝てる道理がないといっていい程に。
でも、啖呵切っちゃいけないとは言われていないわ。
「勝手な都合、勝手な言い分…私達は確かにそうかもしれない。
でもね、死んだ者に縋り続けるのを黙って見るくらいなら自分勝手に止めさせて貰うわ。あなたのその勝手な言い分を叩き壊す為に、私達も勝手な言い分をぶつけさせて貰うわ。」
「…へぇ…へ~~ぇ!いいねぇ…その目、その表情…!やっぱりあの紫ちゃんは特異点だ。自分の意思と関係無く善悪を引き寄せて、虜にする。
ケラケラと笑ったと思えば惜しみ無い賞賛を送りながら拍手をしてくる。
やはり、分からない。上層部の老人の方がまだ分かる。
権力にしがみつく姿は滑稽そのものだ。
でも、目の前の悪魔は分からない。何を欲しているのか暗く閉ざされたその先の真実が見えない。
それに、誘い?ここに来たのは誰かに誘われた?それとも…リゼヴィムすら利用する誰かがいて、リゼヴィムはそれに気付いているけど何もしていない?…駄目ね、憶測が重なるだけだわ。
「いやはや…良いものを見せて貰った!本当に、本当に素晴らしい…だからこそ残念だよリアス・グレモリー。君は来るべきじゃなかったんだよ。」
「…言っておくけど、そう簡単にくたばるつもりは無いわよ。」
「いやいやいやいや!違う違う!儂ちゃん、ここに用は無くなっちゃった。だから儂ちゃんは大人しく退散させて貰うってハナシ。
流石に次世代の女神ちゃんと戦うのは時期尚早だからさ。」
撤退宣言。
それを聞いて私は困惑した。
戦ってこっちの戦力を少しでも削いでくるかと思っていたけど…それだけディハウザー様やネプギアがいるこちらと戦うのは割に合わないと踏んだのかしら。
そう思っていた私にリゼヴィムはニンマリとした笑みを向けた。
「真実を明らかにする…確かに素晴らしい行動だ。
君のその探求心は君を助けるかもしれないし、殺すかもしれない。とはいえ考えることをやめた者に価値はない。君は正しい選択をしたよリアス・グレモリー。確かに僕はディハウザー・ベリアルに目を付けていた。」
「あら、捨て台詞?」
「まあそうなっちゃうのかなぁ…置き土産もしようと思うけどね!」
「置き土産…皆、構えて!」
「今度は何をする気!」
「面白い作品が出来たから一足先に見せてあげるって事さ!殺しても良いけど、出来るかなぁ!うひゃひゃひゃひゃ!」
高笑いをしながらリゼヴィムは何処かへと転移し…代わりに暗がりから現れたのは何度か見た顔で。
白髪に人を小馬鹿にしたような笑み、神父気取りの服装…ネプテューヌがシェアを失くした一件でようやく捕まえたはぐれエクソシスト。
フリード・セルゼン…!
脱走した?いえ、リゼヴィムが手を貸したのね…!
幽鬼のように立ち、顔を俯かせるその様子からは正気を感じられないし、何より人間らしくない。
ようやく顔をあげたと思えば…焦点は合ってなく、けれど私達を見て嬉しそうに嗤う。
「ヒ、ヒヒハハハァ!やっと…やっト糞悪マをぶチ殺せルぜぇェえ!!」
「っ、早…くぅ!?」
「イリナ!この…!」
「遅い遅イ遅すぎルんだよぉぉぉぉ!」
声が人のそれとは違い、ノイズが入り混じったような不快な物で。
イリナに飛び掛かってきたと思えば見るだけでゾッとする黒いオーラを纏った剣を振るった。
剣で防いでいたけど膂力が強いのか後退し、私が魔力を放ち…弾いたと思えば軽々とした身のこなしで後ろへと跳んだ。
もう誰かの判別も出来てない…いえ、彼の場合は悪魔と関わってれば同罪だったわね。
「ハははぁ!ウゼェ黙れよぉ!…はは、殺してやる!殺してやるぜぇ!やっとざらついた感覚が取れてきやがった!」
「その力…君には過ぎたものだ!」
ノイズが消えてきたと思えばやっぱり狂った様子で斬りかかってきて…ディハウザー様が避けながら一瞬にしてフリードを囲うように魔法陣を展開して魔法を放つ。
「うざってぇんだよぉおぉぉ!!」
「きゃぁ!?」
「これは…!」
「リアスさん、イリナさん、ディハウザーさん!退いてください!」
フリードを中心に黒いオーラが弾けたと思えば魔法が
行使した本人は力に酔ったかのように恍惚とした表情であり…ギロリとこちらに視線を向けた。
衝撃だけでも背筋が凍るような…何なの、あれは!
気持ち悪いと心の底から否定が溢れる…そんな力。
ネプギアは私達を守るように前に出て、女神化すると共に退くように言う。
「これは良くない力です!女神としての力が…シェアがあれを拒んでいる…私自身、あれに直撃すればどうなるか分かりません。」
「シェアが…?つまり…あれもそれと同じ系統の力?…いえ、ネプギア。ここは全員で退くべきよ!今から動きを止める…指示通りに!」
「…分かりました!」
「私はどうすればいい?」
「撹乱はできる?」
「問題ないわ。それじゃ早速!」
イリナは頷いてフリードの方へと駆けて、拳銃を取り出して二、三発放つ。フリードは当然のように剣で弾き、イリナへと意識を向けるけど…今のフリードはイリナ程の技がない。
あれなら凌げそうね。
「リアスさん、指示を!」
「壁を…あそこ、あそこを破壊して!上は私が壊すわ!」
「なら、私も手伝おう。」
「助かります!」
イリナが時間を稼いでいる内に逃げ場を用意する。
魔力を集め、上を向く。
ディハウザー様も手伝ってくれるなら心強い。
…『無価値』の力があるディハウザー様だけど、それを使わないってことは
ネプギアもMPBLの溜めが終わったようで私の方を向いて頷く。
「イリナ、離れなさい!ハァァァッ!」
「フッ!」
「そういうことだから…じゃあねっ!」
「ヌガ、ぁぁあこの、アマぁぁぁ!」
合図と共に特大の魔力を天井へと二人で放ち、壊す。
壊れた天井が瓦礫となって落ちてきて、フリードへと降ってくる。
イリナは斬り結んでいたようで最後に蹴りを腹に入れて離脱して来た。
後はネプギアね。
「MPBL、往きます!貫いて!」
銃口から放たれたビームは壁の方へと突き進み…見事に破壊した。
それを見届ける前に私達は駆け出して、ネプギアも飛翔する。
フリードは天井に気を取られていたようで私達の方へ来る気配はまだない。対処が忙しいでしょうね!
「クソ、くそクソ糞…!俺から逃げやがったなクソ悪魔がぁぁぁぁぁっ!!」
そんな怒りの声が聞こえたと思えば瓦礫が地面へとぶつかる音が聞こえた。これで終わり、とはならないでしょうね…陰鬱だわ。
無事に破壊した壁の穴から出てきて、すぐにここに来た際に使用した転移の魔法陣へと向かう。
「気狂いが更にレベルアップしたって訳?質が悪い!」
「しかし、彼のあの力は危険だ。負を詰め込んだような…あれに触れ続けていればどうなっていたことか。」
「はい…余波だけでも辛かったです…」
「…特に女神のネプギアへのダメージが高いみたいね。リゼヴィム…一体何をした…いえ、一体…何を見つけたというの…」
分からない。フリード自身、まだ慣れていない様子だったから助かったけど…あの力はディハウザー様の言う通り危険ね。
あんなのに触れていたら気も狂うわ。
辿り着いた魔法陣に乗って、転移をして安全圏に来て…ようやくやって来た疲労感に従うように地面に座り込む。行儀は良くないけれど、流石に肝が冷えたわ…他の皆も同じようで、ネプギアは冷や汗をかいて、イリナはため息をついた。ディハウザー様は首都の方をじっと見ていて、まだ警戒を解いていなかった。
(この事は、ネプテューヌ達とも共有しないと。
…それにしても、結局……)
誰が暗躍しているのか。…リゼヴィム以外に。