遂に現れた聖書の神。
ネプテューヌとイストワールは納得する答えを見つけられるのか。
おっとり…って訳でもない。でもしっかりとした感じでもない。
酷く曖昧。
蝋燭の炎みたいに吹けば消えそうな印象。
「名前は…」
「…」
目の前の神様は困ったように考え込む。
名前が言えない?
「名乗っちゃ駄目系?」
「…!」
ニッコリと頷いてから、申し訳なさそうにする。
何だろう、大変なんだね…
「じゃあ、神様で。」
「…」
しゅんとする。
うーんこの。まあ、子供に神様呼ばわりは…だよねぇ。
名前、じゃないにしろ…
少し寂しそうに微笑んだ後、もう一度自分の頭を撫で出す。
なに、この…なに?
いや、何となく嬉しいよ?
「くっ…気を失っていましたか…ネプテューヌさん、大丈、夫…」
「ミカエル。」
「…まさか、本当に…?」
「任せて、すみません。」
ミカエルさんが起きて、神様を見ると酷く動揺した様子。
本当に会えると思ってなかったのもあるだろうし、会えて嬉しいのもあるんだと想う。
次第に、しっかりと事態を理解したようで涙が出る。
ミカエルさんが泣いてる。
「ああ、主よ…!」
「はい。」
「今一度、御言葉を…一言でいいのです…!」
神様に対して跪くミカエルさん。
神様はそれを見て、雰囲気が変わる。
静かなそれから厳格なそれに。
「…ミカエル。」
「はい。」
「人の時代です。…分かりますね?」
「…はい。」
本当に一言。
人の時代。
それだけでミカエルさんは全てを理解した。
自分は分からないけど…ミカエルさんは分かったらしい。
頷いたミカエルさんを見て雰囲気が元に戻った神様は微笑む。
「壮健でありなさい。」
「…はい…!」
「ガブリエル達にも、そう伝えてください。」
「はい!」
そうして、二人の会話は終わった。
ミカエルさんは自分といーすんを見て心から嬉しそうに笑った。
よかった…!
「ネプテューヌ。」
「は、はい!」
「…途切れていますね。しかし、感情を得たのは喜ばしい。」
「セイショのカミ…ネプテューヌさんがほんらいのすがたにもどるにはどうすれば…?」
「イストワール。それは意思一つです。」
「いし、ひとつ…」
「貴女の力と、ネプテューヌのシェアの力…その二つがあってあの姿へ成るのです。そして、トリガーは貴女達の意思。」
「…ワタシもまた、ネプテューヌさんどうようにせいちょうするときだと?」
「はい。史書として、そしてネプテューヌを支える者として…」
「…わかりました。」
いーすんは納得したように自分の元へ戻ってくる。
そして、今度こそ蒼い瞳が自分へと向けられる。
だから、自分をしっかりと見つめ返す。
自分の気になっていること…ちゃんと聞かないと。
「ねえ、その本来の姿は分かったけど…カオスの力は…」
「それは貴女自身の戦い、ネプテューヌ。」
「…でも、怖いよ。」
「大丈夫。シェアが、貴女を導きます。」
「シェアが?」
信じる心、シェア。
それが…どうやって…?
「信じる心がシェアとなるのならば貴女もシェアを、他者をより信じなさい。万人にシェアはあるのです。信頼の形に違いがあるのは当然の事…貴女も知っている筈。」
「あ…」
そうだ。
シェアを感じる…最近はそれだけを意識していた。
でも、こうしてシェアをしっかりと認識する前だって同じだったんだ。
皆、自分を信じてくれてた。
言動、行動は違っても…自分の事を信じてくれてた。
忘れてたんだ。
大事なことなのに…忘れちゃいけないことだったのに!
シェアを感じればその人は自分を信じてくれてる…そう考えてた事は否定できない。
…反省する。
「うん…分かった。」
「…」
「もっと、皆を信じる。誰かを信じることを諦めないよ!」
静かに、満足げに頷く神様。
「ねえ…最後に一つだけいい?」
「…?」
「どうして私を創ったの?私は…神様の後継者として生きなくていいの?」
「…」
無言。
自分の問いへの答えを持っている筈なのに…どうして教えてくれないの?
どうして黙ってるの?
「私は…もしかして、興味本位で創られたの?」
「いいえ。」
「なら、どうして?どうしてパープルハート…ネプテューヌを創ったの?」
「…怖かった。」
「え?」
怖い?神様が?
聖書の神様は皆が言うように万能だったんじゃないの?
そんな神様が怖いの?
「私がいない世界。
私が導かない世界。
私が必要とされない世界。」
そう言う神様の顔は暗く沈んだ面持ちで、本当に怖いんだと理解した。
死んじゃった後、自分の子供達や導いてきた人達がどうなるのか不安だった?
「信仰として存在しても、そこに私はいない。心を向けられるだけの虚像。」
死んじゃった事で、その声に何かをすることも出来なくなった事が怖かった。
「人に応える存在が居なくては…傍に寄り添う者が居なくては…」
「だから、私を?」
「天使は、私に従う。しかし、それは私を愛してくれるが故。
貴女は違う、ネプテューヌ…貴女は人に寄り添い、人と触れ合い、人に近しい者。人でなく、人に最も近い者。
私の、娘。」
「…!」
一滴。
右の蒼い瞳から涙が零れた。
儚い笑みを自分にだけ向ける。
娘って言ってくれた。
ネプテューヌを、娘って。
嬉しかった。
ただただ
「天使である皆には押し付けてしまったけれど…せめて、貴女には。寂しくないようにとイストワールを創った。
この世は美しくも荒々しい。力を授けた。
人を守ってほしい、人と共に。
結果、押し付けてしまった。自由であれを崩してしまった。」
「…ううん。」
矛盾を抱えた神様。
自分に自由でいてほしいけど、代わりに人を守ってほしいと願った人。
ごめんなさいを言われる前に手を取る。
「
「何故?」
「自分は、ネプテューヌでネプテューヌじゃないけど。
それでも、自分は自由だったよ。ずっと…自由に選んできたよ。
記憶を失くす前も、失くした後も…自分なりの選択だったんだよ。
人の味方をしたいのは自分がやりたいから、家族を守りたいから!だから、指を咥えて見てるだけって事にならない位力をくれた事…ずっと、お礼が言いたかったんだ。」
自分なりに伝える。
記憶を失って、ネプテューヌ本人の魂も失って、自分っていう誰かがネプテューヌだけど…それでも、生みの親に感謝しないなんてあり得ない。
だって守りたいって心は同じな筈だから。
この体から伝わる正義感に嘘はないよ。
「
「…──」
「だから、改めて誓わせて。一人きりで越えられない事がこの先あっても、悲しみや苦しみばかりだったとしても…皆と一緒に私が絶対に希望を灯して見せるから!主人公として、ネプテューヌとして!」
これから、消えてしまう神様に誓う。
親に対して、子供が夢を語るようなもの。
手を握って、未来を想い描く。
その夢を叶えられるように、頑張りたいって伝える。
視界が涙でぼやける。
この体の、ネプテューヌが神様に会えて嬉しく思ってる。
本当はもっと話していたい。
でも…それでも、もう眠ってなきゃいけない。
「安心して!私は完全無欠の美少女主人公、ネプテューヌだから!」
「…ワタシも、ネプテューヌさんのサポートをぜんりょくでおこなうこと、そしてそのユメをかなえることをちかいます。」
「…ネプテューヌ、イストワール。」
自分といーすんの誓いを、本当に嬉しそうに聞いていた。
名前を呼ばれて、言葉を待つ。
きっと、これが神様本人から聞ける最後の言葉だから。
「…私もまた、シェアと共に貴女達を見ています。
その夢を、現実へと変えてくれる事を…見ています。」
「うん!」
「はい…!」
神様は満足そうにしている。
神様の体が薄くなっていく。
ミカエルさんの方に顔を向けて、一度頷く。
ミカエルさんがどう返したのかは分からないけど…それでも、信じているように見えた。
「───」
「…うん!いってきます!」
自分に何かを伝えようと口を開く。
もう声が出せていなかったけど、理解できた。
だから、しっかりと返事をする。
神様はその蒼い瞳に自分といーすんを焼き付けるように、消えるまでずっと見つめていた──
・
・
・
「─帰ってきたか。」
第七天から第六天へと戻ると曹操とおっちゃんが待っていた。
おっちゃんは待ちくたびれたといった様子だった。
「よう、その様子だと会えたみたいだな。」
「ええ、とてもユウイギなジカンでした。」
「うん、ねぷ子さんもまさか会えるとは思ってなかったけどTHE神様って感じだったよね!」
「俺についてなんか言ってたか?」
「一言も言わなかったね!」
「それはそれでムカつくぜおい。」
「んー…心配ないって事じゃない?まあいいじゃん!」
「うーむ…まあそうだな。」
何だか釈然としない様子のおっちゃんだけど、放っておいて大丈夫だね。
そう思いながら曹操に聖槍を返す。
「どうだった、神は?」
「神様も、矛盾を抱えるんだね。」
「心とは、矛盾するものらしいからな。」
「うん…そうだよね。誰だって、そうなんだ。」
心は矛盾するもの。
いつか自分が消えることも分かってたんだと思う。
そう悟らなきゃいけないことがあったんだ。
けど、そうなった後が怖くて。
…うん、大丈夫。
自分が、私が神様の意思を覚えてるから。
いーすんやミカエルさんも…ほんの一部だとしても、知ったからね。
「ネプテューヌさん。」
「ミカエルさん、どうしたの?」
ミカエルさんが自分に話しかけてくる。
心なしか、神様に会う前よりも気分が軽くなってる印象。
「ありがとうございます。主の御言葉を聞けたのは貴女とイストワールさんのお陰です。」
「ううん、私だけじゃないよ。この中の誰か…いーすんが大半かもだけど、欠けてたら神様は応えてくれなかったと思う。
だから、皆のお陰だよ。もちろん、ミカエルさんも含めて!」
「それでも、ですよ。…主から御言葉を賜った以上、それを遂行せねばなりません。人の時代…私達もまた、過去の過ちを…罪を清算し、人々に寄り添うべきか離れていくべきかを決めねばなりません。」
「うん、悪いことをしちゃったのなら謝らないとだよ。」
「はい。…それと、ネプテューヌさんのご支援もしなくてはなりませんね。」
「え、なんで?」
「おいおい、ミカエル。急にどういうつもりだよ?」
自分への支援。
それは嬉しいけど、どうしたの?
妹だからとかは無しでお願いしたいけど…トップが一人に依怙贔屓してるみたいな感じだとミカエルさんが危ないもん。
おっちゃんの言葉通り、少し疑問に感じる。
ミカエルさんは微笑む。
「ネプテューヌさんは主の仰られたように人々に寄り添い、生きる者です。人の時代を人々が知らぬ裏側でその力で支える…そういう生き方を貴女も選んだ。少しでも力になりたいのです。」
「…そっか。」
ミカエルさんなりの答えなんだね。
人の時代とだけ言われて、表立って人前に出れないから人の味方の自分の支援をする…そういうつもりらしい。
「ありがとう!」
「はい。」
手を差し出す。
ミカエルさんはそれに応じてくれた。
これからもよろしくって意味の握手をする。
神様が繋いでくれた絆。
それを大事にしよう。
「さてと…戻るかねぇ。」
「え、おっちゃん予定あったの?」
「これでも総督なんだぜ?多忙の極みよ。」
「サボってるのでしょう?」
「うっせぇ。あー…そうだな、ネプ子、お前も来るか?」
何かの端末を取り出してからおっちゃんが自分を誘ってくる。
「何処に行くの?」
「もっかい冥界さ。」
「冥界?これまた何で?」
「ミカエルがいっからなぁ…言えねぇなぁ。」
「悪いことしようとしてるんじゃないよね?」
「もしそうなら第五天に投獄しますか。」
「勘弁してくれ、退屈で仕方ねぇ!ったく…オーディンの爺さんは覚えてるだろ?」
「うん、前に来てたね。」
「シュシンみずからがきてたのはおどろきましたが…」
「北欧勢力が俺たちの同盟…まあ、和平だな、それに乗っかろうってんで近々調印式があんのさ。」
「へぇー…」
和平同盟に他の勢力が加わるんだ。
何でかは分からないけど、争いは御免だとか?
まあ、それくらいだと思うけど…そっかそっか、だから前におっちゃんはオーディンといたんだね~
……え?
「待って…それって大事じゃね?」
「…アザゼル、貴方は何してるんですか。」
「総督としてそれはどうなのか。」
「…(^_^;)」
「…おう、その目をやめろ。わーってるよ!さっさと戻るっての!」
「あはは…まあ、おっちゃんらしいよ!うん、行く!」
おっちゃんのやらかしは後で怒っておくとして、冥界に行かないとね。
「お、マジか?いやぁよかったぜ。イッセー達も居るからよー…
というか、約一名からの圧が凄くてな。お前みたいな奴が居てくれると場が和むぜ。」
「そんな理由で誘われたとは思わなかったけど主人公に前言撤回はそうそう無いよ!」
「なら、俺もこのまま同行か。」
「あ…ごめん。」
「いや、謝ることでもない。こういうことも体験だろうさ。」
曹操は人間出来てきてて嬉しいなぁ…
このまま、頼れるリーダーになってほしいね。
ただ…うん、何となくただ調印式やって終わりとはいかないかも。
前のような離反した英雄派の人達や、シャルバ…あっちが関わってくる可能性もあるし、油断は出来ないね。
だとしても、まずは皆に会おうかな。
「では、第一天まで向かいましょう。」
「お、見送りか?」
「ええ、どこぞの堕天使に勝手に動かれる可能性もありますからね。」
「そーかいそーかい!」
「もうやけくそだね…じゃあちょっと急ごっか!」
「はい。(^-^)」
第六天、ゼブルから皆で出た後、最後にもう一度だけ振り返る。
やっぱり大きい建物で、圧巻って感じ。
あり得たかもしれない、自分の居場所。
だけど、自分の居場所はここじゃないから。
第七天のあの光景を思い出す。
─いってらっしゃい。
自分を娘って言ってくれた本当の親。
いってきます。
もう会えないけど…いってきます。
会えた事への喜びともう会えない悲しさを胸に、前を向く。
主人公らしい誓いも立てたし、またまた再スタートだよ!
神様にとっても、ネプテューヌにとっても、イストワールにとっても。
最初で最後の会話。
【ネプテューヌ の スキル が 増えました!】