歩く、歩く、歩く。
恐れなど無く、あるのは信仰と愛国心…それだけだった。
止まれという声に反応してその足を止める。
ここで歩を進めよう物なら俺は確実に日ノ本に背いた者として自らの腹を裂き、首を跳ねる。
「汝、悪魔の身でありながらこの場へ来る事…その意味を理解しておるのか。」
まるで賢者のような風格の男はそう言って俺を睨む。
…俺はその場で跪き、頭を垂れた。
「この身は悪魔へと堕ちた身なれど、日ノ本への忠誠は変わらず。
天照大神様への謁見をお許し頂きたく来た次第。
名を、源頼光と申します。」
「頼光…?
まさか、汝は…」
「はい、我が祖先は平安にて数々の異形を滅した源頼光であります。」
「……かつて、源家より一人の男児が行方不明となり、刀も消えたと聞いていたが、よもや生きていたとは…そうか、汝は頼光の魂を継ぎし者か。」
「左様でございます。
故に、この日ノ本に背くことはあり得ません。」
「…面を上げよ。」
言われて、顔を上げる。
賢者は俺の元へと歩き、頭へ手を置いた。
神の気…それを俺は確かに感じた。
だが、痛みはなかった。
この方は、俺に配慮して神気を抑えておられた。
「生きて戻ってきたこと、嬉しく思う。
我が名は思金神。知恵の神格である。」
思金神…!
それを聞いた時、背筋がより一層正されるのを感じた。
その顔を見るなど恐れ多い事だ。
天照大神を天岩戸から出す際に八百万の神に知恵を授けたという。
そのような方に会えるとは。
…俺は礼を失していなかっただろうか。
「頼光よ。何故天照大神への謁見を求めるか。」
「日ノ本より、異形どもを追放するためでございます。」
「…左様か。
…汝のこの国を想う心はその声、姿勢で十分に理解した。
私から、謁見の許可を貰ってこよう。」
「…感謝します…!!」
涙が出そうになった。
俺の言葉を無下にせず、受け入れてくれたのだ。
いや、本当は分かっているのだ。
俺の復讐への業火を理解しておられる。
何も言わず、謁見の許可を貰ってきてくれると言うのだ。
感謝以外の何物でもない。
思金神はその場から去った後、俺は正座する。
「…長かった。
あの苦痛の数日を、耐え抜き…ようやく異形どもを滅する力を手にいれた。」
その為に力を借りたのは業腹だが…あれはギリシャの神だ。
日ノ本への被害はない。
元より、俺が人の心での復讐に燃える様を楽しんでいるようでもあった。
故に、俺に力を授けたのだろう。
感謝はすれど唾棄してはならない。
そうして待つこと数分。
思金神は俺の元へと戻ってきた。
俺は再び跪こうとすれば、手で止めるように制した。
「許可は得た。後は、汝次第だ。」
「…この度は、何と礼を言えばよろしいか!
このご恩、一生忘れません…!」
「構わぬ、元より汝が悪魔の身に堕ちたのは我ら日本神話が勝手を許しすぎた故。謝罪をするのは我々の方であった…」
「そ、そのようなことは決して!憎むべきは己の領域を弁えぬ三勢力でございます!」
「…すまんな。」
そう言うと、思金神は消えた。
…この先に、かの天照大神様がいる。
そう思うと、足取りが重くなる。
頭痛は止まず、けれどこの痛みは俺の日ノ本への忠義が消えていない事の証左である。
歩き続けて、巨大な屋敷のような建物を見つける。
屋敷の戸は、俺が来るのを待っていたように独りでにピシャリと開いた。
中に入り、歩く。
…自然と、1つの部屋の前に辿り着く。
『入れ』
厳格な声。
俺はゆっくりと戸を開け、中へ入る。
…顔を見ることは出来なかった。
当たり前だが、薄く暗い幕に遮られる形で。
けれど確かに俺は話すことを許された。
「…天照大神様。」
「よく来た……否、よくぞ戻ってきたと言うべきか。」
「っ…」
「して、何用か。」
声だけで神気を感じた。
「悪魔の元から離れ、長い間さ迷いました。
そして、この世の闇を知ったのです。」
「…」
「私欲の為だけに無力な民を犠牲にしていく異形どもの存在。
…天照大神様は、知っていたのですか?」
「奴等が勝手をした事か。
…以前より、忠告はしてきた。」
「何故追い出さなかったのですか。」
「我が国は来るものを拒めぬ。
そして、在るがままに進んでいくのだ。残酷であれど、全て。」
「日ノ本が異形どもに侵食されているのを分かっているのでは!
なればこそ、国を守るのが…!」
「頼光よ。」
「…!」
その声は、憐れみなのか。
それとも…悲しみなのか。
俺には分からなかった。
知っていて、何故。
神仏が表に出る世界ではなくなったのは分かっている。
だが、それは奴等も同じではないのか。
「お主は、どうしたいのだ?」
「…国のため、何より己がために。
異形どもを討ち滅ぼすのみです。」
それが日ノ本に再びこの名を背負って生まれた俺の役目。
使命であり、運命なのだ。
どのような形になってでも、日ノ本を守る。
「お主は何故、そこまで我が国に忠を尽くす?」
「決まっております。…己は、この国で生まれ、育った。
全て日ノ本で得た物。その恩を、返すためです。」
「…そうか。…すまぬ、すまぬな。」
無力さを嘆くような声。
…分かっている。
既に、俺の知る日ノ本は無い。
戦に負け、国に負け。
故に今がある。
だが…百歩譲って米に負けるのはいい。
裏切られたとしても、それもまた人の世の定めであろう。
だが、三勢力。
貴様らがこの国に何をしてくれた。
病魔をばら蒔き、混乱を招いただけではないか。
幸福を口授すべき子を泣かせたのだ。
許してはおけない。
太陽よ、天照大神よ。
どうかご照覧あれ。
俺は天照大神様の声に答えず、ただ一言。
「天照大神よ、ご照覧あれ。
この日ノ本に蔓延る三勢力を滅して見せましょう。」
それだけを告げ、俺は出ていった。
この時をもって、俺は神の声を聞く権利を捨てたのだ。
されど、太陽よ。
病魔に苦しむ人々よ。
黙して見るがいい。
この頼光が、この日ノ本に蔓延る病魔を切り払おう。
毒であれば、毒でもって…この闇を裂こうではないか。
三勢力。
貴様らを許しはしない。
この日ノ本に毒を撒いたその罪。
死を以て償わせる。
いずれ奴ら全てを焼き払い、斬り払うその日まで。
俺は軍靴を鳴らすのだ。
・
・
・
白い光が走る。
盾が光を弾き、地を砕きながら駆けた。
白のプロセッサユニットを身に纏い、後ろに翔びながら撃ち続ける。
カイネウスと接近戦で戦うのは圧倒的に不利。
記憶の中のお姉ちゃんなら対等以上に渡り合うんだろうけど、私じゃ暴力的な攻撃に耐えられない。
ビームソードを造る際に女神化した時の武装も造ろうと思って作ったのがこのマルチプルビームランチャー…略してMPBL。
剣として使うもよし、ビームガンとして使うもよしな性能にしたけど、近接での打ち合いには向いてない…。
「オラオラオラァ!逃げてばっかじゃ俺は倒せねぇぞ!!」
乱暴、けれども合理的な戦い方。
やられる前に潰す…私じゃ出来ない。
それに、異様に体が硬い。
私のビームソードの刃が通らないなんて…防御魔法を使った形跡もない。多分、元々の体質かな?
駆けながら、ビームを弾き続ける。
疲れを知らないのかな…
「お父さんは…」
けれど、このスピードならまだまだ余裕だからお父さんの方を見る。
煙の怪物を倒しながらペストマスクの人に魔力で攻撃しているけど千日手みたい。
…なら、私が。
上に飛んで、ペストマスクの人に狙いを定める。
「マルチプルビームランチャー!!」
出力50%で少し大きめのビームを放つ。
私の力の源はシェアじゃないけど、似たようなもの。
そして、出力だけなら…私はこの中の誰よりも高い。
光が、ペストマスクの人にぶつかる直前。
「っ、まだ!」
煙の怪物が何体も重なってビームを防ぐ。
実体がないのに…どうやって…?
でも、確かに煙がビームを防いだ。
…うん、防がれたけど私の狙いは当たった。
「隙だらけだ。」
お父さんの黒帯が鞭のように振るわれてペストマスクの人の胴体を裂こうとする。
「くっ…!?」
後ろに跳んで避けるけど…
ペストマスクに亀裂が走る。
パラパラと砕けたマスクは顔を隠すことが出来なくなった。
露になった顔は綺麗で、絶世の美女とも言える風貌だった。
でも、その顔は悔しさで歪められている。
「無視か、女神ぃぃ!!」
「嘘、この高さまで…!?」
気を取られ過ぎて、私の方まで跳んできたカイネウスに反応できなかった。
槍が水を纏ったかと思えばそれを叩き付けられる。
水はしょっぱくて、濁流のように強い勢いで水が噴射されて地面に叩き付けられた。
まさか、こんな高さまで生身で跳んでくるなんて…
立ち上がる。
「ケホッ…やりますね…」
「ハッ、このままぶち殺してやるよ。
テメェも、あの女神も…悪魔も、堕天使も、天使も、神も!
全員殺してやる!」
凄い殺意。
口だけの殺意じゃなくて、絶対にやるという殺意を感じる。
…でも、さっきのは油断しただけ。
次からは、被弾しない。
そう思って、MPBLを握る力が強くなる。
─大きな力をお父さんの方に感じた。
・
・
・
「
「よく調べているようですね…」
「脅威となるだろう物を調べるのは当然の事だ。」
目の前の美しい女、パラケルススは煙を広げながら息を整える。
やはりというか、戦闘向きではない。
後方支援に徹していた方が強いだろう。
だからこそ解せない。
何故アレを使わない。
あれは人の完成形だろう。
「錬金術師が前に出るなど愚の骨頂だ。」
「…そうでしょうね。」
「分かっていながら、か。
貴様らは何がしたいのか。」
「分かっているでしょう?」
「三勢力を滅ぼす…だが、貴様はそうではない。
苦しいか、人間。苦しみを抱えてでもあの救えない人間どもと共にいるのは何故だ?」
「…私は。」
生き苦しそうな道を歩む。
壊れそうな心を補強し続けているのだろう。
悪魔である私には分かる。
心に人一倍敏感な悪魔だからこそ。
「私じゃ、あの人達を止めることは出来ない。
救うことも、休ませることも出来ない。でも、私は…私は、自分だけ逃げるのは、嫌だから。
それなら、私は戦う。病を抱えた仲間を放ってはおけない。」
「…愚か者め。滅びが待つと分からんか。」
「例えそうでも、私は同じ道を歩みます。私はもう救えない。
だからこそ…!」
煙が形を得ていく。
周りに広がった煙を見るにネプギアには行ってない。
…だが、そろそろ来るか。
「私に出来るのは精々が薬を作り、投薬する位。
物を造る錬金術師としての力でも癒せないものは癒せない。
…だから、せめて私はこの力で抗う…──」
「─禁手化、
「■■■…」
煙が形を得たのは…ただの魔獣ではない。
北欧の魔獣、フェンリル。
それが私の前に姿を現した。
そうか、これが…この女の覚悟か。
「フェンリル…そうか、そうか。
素晴らしい…やはり人間を下等種族とは呼べんな。」
至ったのは魔獣創造の機能を手にいれた禁手。
似た部分があるとはいえ…禁手をすればこうなるか。
素晴らしい、やはり戦いは強さを磨く。
より確信できる。
戦いこそが我々の進化を施す。
黒帯の本数を増やす。
この黒帯はあの女神に対抗するべく造った物だが…使い勝手が良すぎる。
あの超越者の怠け者の能力を意識して造ったはいいが少々意識しすぎた。
「だが、フェンリルとはいえ私の敵ではない。」
「傲りが過ぎますね、シャルバ・ベルゼブブ。
貴方もまた魅了されただけの悪魔に過ぎない。」
周りの煙が形を得ていく。
フェンリルが大量に生産されていく。
一人を相手にオーバーキルだな。
だが…だからこそ笑おう。
「この数を相手に、貴方は抗う術はあっても突破する術はない。」
「…ハハハ、素晴らしい!この数…この状況。
神に感謝せねばなるまい。
私の進化にまた新たなピースが加わる瞬間だ…ならばこそ、私はこれを越えようではないか!」
「…イカれた悪魔め!」
大量の神狼が迫る。
黒帯を振るう。
三匹ほどの首を貫いて消し去る。
魔力を放ち、更にもう一体を消して包囲網を突破する。
新たなフェンリルが生まれる。
…なるほど。
「面白い!!」
・
・
・
暑い。
暑いので、キンキンに冷えたお茶を飲む。
皆は爽健○茶派?おーい○茶派?それとも別のお茶派?
俺は爽○美茶派の一誠です。
2年生らしく、アーシアと俺、木場とゼノヴィアで回ってるわけだが…楽しいよ?楽しいんだけど、暑い。
一誠さんは素直なのです…希望などないのです、あるのは絶望だけ。
「お茶が消え失せた…俺の、○健美茶がっ!!」
「さっきからツッコミたかったんだ。
○を移動するせいで隠せてないよね。」
「気にしたら舌噛んで死ぬぞ。」
「お茶を気にしたら死ぬなんてどんな世の中なんだい?」
「こんな世の中…かな。」
「イッセーさん、お茶なら自販機がありましたよ。」
「お、やったぜ。…にしても。」
「
「ゼノヴィア…お前よく食うな。」
団子を食べるゼノヴィアの手には袋があって、その中にはまだまだ団子やら饅頭やらが入ってる。
こいつが一番楽しんでるんじゃないだろうか。
汗掻いてないし。
「暑くねぇの?」
「むぐむぐ……何を言うかと思えば。この程度の暑さでへたばっていては教会の任務などこなせなかったからな。
むしろ、もっと来い。」
「私は暑いです…」
自販機に金を入れてお茶を購入。
スポドリでもいいんだけど、塩飴ちゃんなら既に持ってきていたのだ。
アーシアが持ってるけどな。
「にしたって、お前金あったのな。」
「バイトしてたからな。」
「マジで?」
「うむ、金はあっても困らない。
労働をしたらその分贅沢をすればいい。今の私は労働の対価を買ってるのだ。」
「なるほど。」
こいつバイト出来たのか。
失礼かもだけど…猪突猛進して物を壊してるイメージが。
「流石に私も自重するぞ。」
「俺たちの間でも自重して?」
「考えておく。」
「あはは…それで、次は何処に行こうか?」
「うーん…休憩しませんか?」
「だな、歩き続けて疲れたし。座れそうな場所発見したし休憩!」
「はい、イッセーさんもどうぞ。」
「おお、ありがとな。」
ベンチを見つけて座る。
アーシアが隣に座って、飴を渡してくる。
ありがたく受け取って舐める。
やっぱね、塩分摂取大事だと思う。
皆も今は夏だろう!
水分、塩分の摂取は怠るな!
一誠さんとの約束だ!
え、うるせぇ?そう…
そうして少し日陰のあるベンチで休んでいると
「お兄さん、お姉さん。」
「ん?」
何やら、金髪の女の子がこちらに来た。
何だろうか、異様な雰囲気…というべきか。
この京都に似つかわしくない西洋の服を来た女の子だ。
感情が見えない真顔で俺達を見る。
「えっと…迷子ですか?」
「…うん、間違いない。標的。」
「え──」
女の子はクスリと笑う。
まずい、そう思ったときには遅かった。
「─貴方達に訪れるのは不幸か、幸運か。
鏡の世界がそれを見せてくれましょう。」
俺達の目の前に鏡が現れたと思えば、それは光った。
そして、体が引っ張られる。
木場達も同じようだが…アーシアに手を伸ばして手を掴む。
「イッセーさん!」
「離すなよ!くっ…!!」
「
女の子は真顔で鏡に吸い込まれる俺達を見る。
その目には、俺達は写っていなかった。
…機械のようだった。
・
・
・
鏡を消して、その場を後にする。
パラケルススさんのお陰で周囲にバレる事はない。
私はただ、頼光様の命令に従うだけ。
後は、あの悪魔達がどうなるか。
あの二人に蹂躙されて死ぬだけでしょう。
「ああ、頼光様。パンドラはやりました。
次は、どうすれば?」
貴方の前では、私の箱は幸福のみをもたらしたい。
私には貴方しかいないのだから。
パンドラは、その為に今を生きるのです。
私を救ってくださった。
私の救いは、貴方だけ。
私がもたらす救いも、貴方にだけ。
反英雄派の過去もしっかりと書いていこうねぇ。
まあ、今は戦いなんですけど。