すれ違いの結末 作:ビールは至高の飲料
「離して! 離してください!?」
それは、まだこの世界に来たばかりの頃。
PMに対抗する準備をするために各地を転々と旅していた頃だ。
その時はまだ、自分のやるべき事で頭がいっぱいで、身の安全なんて二の次だった。
分かりやすく言えば、世間知らず。
訪れたその地は、出歩いて突然テロに巻き込まれるほど治安が悪い訳ではないが、少なくとも、銀髪金目の目立つ子供が独りで出歩いて何も起きないほど治安の良い地ではなかった。
事前情報で理解したつもりになり、目を引く容姿をしている自分が保護者も連れずに遅い時間に出歩けばどうなるかなど、まったく考えていなかった。
具合が悪そうにしていた男に大丈夫かと話しかけると腕を引っ張られて見知らぬ男逹に囲まれていた。刃物で脅されて連れ去られようとしている。
「大人しくしろ!」
「この間、旦那が"玩具"を壊して替わりを探してたんだ。ようやく見つけた旦那好みの女。怪我をさせるなよ?」
下衆な話をする男逹にフィアラは足を止め、後ろに居た男に体当たりをして逃げようとする。
しかし、小柄な少女の体当たりでは体格の良い男に少しばかりふらつかせるだけで、すぐに腕を掴まれる。
抵抗するフィアラに、苛ついた態度で無理矢理連れていこうとする。
このままだとどうなるのか。それを考えると恐くて呼吸が荒くなった。
思い出すのは、あの研究施設。
壊され、使い捨てられていった母と姉。
記憶に蓋をしているフィアラだが、断片的にその時の事が頭に過る。
気づけば、上着に入れてある、護身用として渡されていた小さな拳銃に手が伸びていた。
フィアラは、その銃で殺すつもりはなかった。
恐怖から反射的に抵抗できる武器にすがっただけ。
だが、肩に当てようとした弾は撃ち方が悪く、男の胸へと吸い込まれた。
「え……?」
胸から血が出て驚いて数秒放心した。
男は胸を押さえて倒れた。
「おい! こいつ、銃を持ってやがる!」
別の男が慌てる様子に、フィアラは即座に逃げた。
それは警察とか、そういう物からではなく、人を撃った恐怖から逃げたのだ。
愛機のコックピット内で震え、数日動くことが出来なかった。
2人目を撃ったのは、中東を訪れた際に宿を取ると、強盗に襲われた時だ。
2回目に人を撃った時は、以前ほど罪悪感も恐怖も感じなかった。
それから、国を移動してトラブルに巻き込まれる度に誰かを撃つ事に対して心が乱れなくなった。
エリア11のテロに巻き込まれた際に残った傷。アレのお陰で近付く人間が減ったので、傷は治さずに残している。
その頃には、誰かを信じるのが怖くなっていた。
「過労、ですか……」
マクロス・クォーターのパイロットと衛生兵を兼任しているカナリアの診断に、フィアラが倒れて心配していた面々が反芻する。
『そうだ。疲労困憊に睡眠不足。栄養失調、その他諸々。限界まで酷使していた肉体が快適な艦内に入った事や、感情を昂らせた事で一気に蓄積していた疲労が吹き出たのだろう。このまま休ませて、起きたら消化の良い物を食べさせれば元気になる』
ここ最近のPMの出現頻度はかなり頻繁で、それら全てにフィアラは対処していた。
いつ現れるのかも分からないバケモノだということあり、肉体及び精神的な疲労は相当な物だったのだろうとカナリアは推測を述べる。
『……尤も、問題はそちらだけではなさそうだが』
ぼそりと呟いたカナリアの言葉はモニター越しのブリッジには届かなかった。
取りあえず大事ではないことに安堵する。
何かしらの病気の可能性や、彼女の能力のデメリット等も想像してただけに、胸を撫で下ろした。
「まぁ、なんだ。色々と衝撃的な嬢ちゃんだったな」
クロウが場の空気を少しでもマシにするために口にする。
と言っても、それは大した意味を為さず、特にZEUTH陣は苦い表情を浮かべていた。
心のどこかで、話し合えば仲直り出来ると楽観視していた。
きっと自分逹の言葉に耳を傾けてくれる筈だと。
不信感が2年間で醸成され、もはやアレルギーに近い感じでZEUTHに敵意を向けている。
「フィアラから、とても強い憤りを感じました。自分自身すら見えなくなるほどに強い」
ティファも表情を僅かに消沈させて呟くと、ガロードが肩に手を置く。
そこでワッ太が納得いかなそうに声を上げる。
「なんなんだよ、いったい! いきなり怒鳴り散らしたりしてさ!!」
ワッ太の声は、怒りからではなく戸惑いに依るものだ。
何故、あんなにも突然怒ったのか理解できない。
キラの言葉にあそこまで怒る理由があったとは思えず、首を捻るばかりだ。
そんな中で、映像に映し出されているフィアラを見ているスザクに、シンが話しかけた。
「どうした? スザク」
「うん。あの子にお礼が言いたかったんだけどね。前にPMが僕達の日本に現れたときに、助けてくれたことを。でも、そんな雰囲気じゃ無くなっちゃったかなって」
残念そうに笑うスザク。
あの時、ブリタニア・ユニオンの軍は現地の住民を無視してPMの討伐を優先しようとした。フィアラが現れなければ、あそこに居た民間人は毒で死んでいただろう。
だからその事に関してお礼が言いたかったのだが、まさかあんなにも荒れるとは思わなかった。
周り全てが敵と言わんばかりの視線。それが気になってスザクはシンに訊き返す。
「そう言えば、シン。あの子を叩いたってどういうこと?」
「う!?」
あまり訊かれたくなかったのか、シンが言葉を詰まらす。
視線を泳がせていたが、一度呼吸を調えてから話始めた。
まだ多元世界が生まれたばかりの各勢力が入り乱れた不安定な世界。
それぞれの目的から集まった組織ZEUTH。
それが二部隊に別れて行動した際に、片方の部隊とキラが所属していたアークエンジェルという戦艦が目的の相違から敵対関係にあったこと。
途中、シンが心を通わせた少女をキラが止む終えず殺害(後に生存を確認)したことで互いの事を知らなかったこともあり、シンとキラの溝が決定的になり、不穏な情報による誤解からZEUTH同士の戦闘に発展したのを機に、シンがキラを撃墜、アークエンジェルもその戦闘で撃沈した。
それからもう片方のZEUTHに預けられていたフィアラは別行動を取っていた2つの部隊がよりを戻したがキラ達の無事を知らなかったフィアラはなし崩しにZEUTHに籍を置く形となった。
そして、シン達が偶然アークエンジェルに対して憤りを口にしていたところをフィアラが聞いてしまい、怒ったフィアラかシンを挑発したことでカッとなってつい手をあげてしまったと話す。
それからますます周りとの関係を拒絶し、風見博士の暴走からZEUTHを去り、多元世界を混乱させていた元凶であるジ・エーデル・ベルナルに保護されていた。
周りにフォローや補足されながら話終えると赤木が質問する。
「でも、そのアークエンジェルとZEUTHはちゃんと和解したんだよな?」
「はい……」
「なら、あの子が起きた時にそこら辺を確りと話そうぜ。シンは先ず謝ってさ」
甲児がそう助言するとシンは気が重そうな表情で分かってると頷く。
しかし、そこで隼人が口を挟む。
「止めておけ。今あの子供に何を言っても、神経を逆撫でするだけだろう」
「どういう事だよ?」
「ヘソを曲げてるガキに何を言っても無駄ってこった」
アルトの問いに竜馬が答える。
「アイツには俺達の言葉の全部が煩わしく感じるんだろうぜ。大体、あのガキが何を怒ってるのか分かってるのか?」
「それは……! きっとジ・エーデルの奴に変な事を吹き込まれて!」
龍馬の問いかけに勝平が言葉を濁しながらも口にする。
世界を混乱に陥れた狂言回しのジ・エーデル・ベルナル。
あの男の下に居たのなら、ZEUTHに対して恨みを募らせるように言葉をかけた可能性はある。
もっとも、それが苦し紛れの言葉だとは言った本人も自覚していたが。
「どうかしらね。でも、今のままだと一緒に行動するのはちょっと無理かな。後ろから撃たれたら堪らないし」
葵が自分の意見を述べる。
あそこまで敵意を向けてくる少女。戦場で自分達、というかZEUTHに対して攻撃してきてもおかしくはない。
本人もPMへの対処はこれからも行うつもりのようだし、放っておけば良いのではないか? とすら思えてくる。
その冗談ではすまない想像を思い描き、沈黙が支配した。
どうしてこうまで拗れてしまったのか。
歯車が何か1つでもまともに噛み合えば、ここまで擦れる事はなかったのに。
どうするべきか。シンは苛立たしげに眉間に皺を寄せた。
集まっていた場から離れて休憩室で座っていたキラにアスランが話しかける。
「大丈夫か、キラ?」
「うん。ちょっとビックリしただけだから」
アークエンジェルの記憶に引っ張られて、まさかフィアラがあんな態度を取るのが予想外だった。
倒れた事も含めて驚きの連続としか言いようがない。
もちろん、言われた事に何も傷ついていない、という事は無いが、今はどっちかと言えば倒れたフィアラの体が心配だった。
「自分の
自嘲しながら訴えてきた言葉。きっとフィアラには、あらゆる言葉が自分の能力を利用する為の甘言に聞こえるのだろう。
そう思いたい気持ちはキラにも少しだけ理解できた。
「僕も昔、アークエンジェルでストライクを動かしてた頃に、同じような事を思ってたことがあるよ」
キラがまだ民間人で、友人らの守るためにストライクのパイロットをしていた頃。
替えの利かない貴重なパイロットである自分に周囲も色々と気を使ってくれていた。
それを、ストライクの替えの利かないパイロットだからと理由はそれだけだと思っていたが、そうではなかった。
自分を死なせたくないからと忠告や話を聞いてくれた人。
ブリッジから戦闘機へと志願してくれた友達。
酷いことをしたのに、それでも死んだと思っていた自分が生きていてくれて嬉しいと言ってくれた友達。
「相手が本心から心配しても、何か優しくされる理由があると、そっちに意識が向いて、素直に受け取れなくなる。フィアラもそうなのかなって」
かつての自分からフィアラの心情を推測するキラ。しかし、やはり推測は推測でしかなく、決めつけるのは駄目だと一旦その考えを保留にした。
「難しいね。気持ちを誤解なく相手に伝えたり、相手の気持ちを理解するのは」
況してや今のフィアラは今日に至るまでの過程と立場が特殊で、会わなかった空白の期間、どうしていたのかも知らないのだ。
「なら、どうするんだ?」
「次は、フィアラと2人で話してみるつもり。大勢居たんじゃ、話しづらい事もあるだろうし。アークエンジェルを離れて、今日までどう過ごしていたのかとかさ。そういうことを先ず聞いてみようと思う。それくらいの時間はあると思うから」
幸いにして、ここの人達は、フィアラの体調が戻るまでは艦の外へ出す気はないらしい。
流石に、体調を崩している少女を追い出すような真似は後味が悪い。
「とにかく、今のフィアラを知る必要があると思う。もしかしたら、それも迷惑なのかもしれないけど」
まだ、諦めたくないのだ。
たった一度の拒絶で、なにもかも関係が絶てるほど諦めが良くなかった。
だから、先ずは自分達の都合を押し付けて協力を求めるよりも、彼女を知ることから始めようと思った。
「だが、あまり悠長にしてる訳にはいかないんだろ?」
「うん。それも、分かってる。結局まだ、あの子の目的とかも教えてくれてないし」
今回のもう1つのソレスタル・ビーイングのように、フィアラを連れ去ろうとする者が現れないとも限らない。
そもそも、PMの存在する世界に独りで乗り込んで、無事に生きて帰って来られるとも思えない。
S4Uは優れた機体だし、フィアラ自身の腕も悪くない。
しかし、やはりそこまでだ。
全てを相手にして無事で居られるほど突出している訳ではない。
そういう意味でも、一緒に行動してくれると安全なのだが。
「本当、難しいね」
全部が全部上手くいくような解答など無いと知っていても、それを求めてしまうのが人間なのだろう。
フィアラが目を覚ましたのは彼女が倒れて4時間後の事だった。
大きく息を吐いてフィアラは目を覚ました。
身体の気怠さと頭痛に顔をしかめつつベッドから上半身を起こす。
「目が覚めたか?」
話しかけてきたのはマクロス・クォーターの衛生兵も兼ねているカナリアだった。
そこでフィアラは自分倒れたのを思い出す。
「えぇ、まぁ。迷惑をかけたみたいで」
軽く頭を下げるフィアラにカナリアは気にするなと言う。
そこでパネルを操作すると、モニターからマクロスのブリッジが映し出され、ジェフリーが話す。
『フィアラ君。目を覚ましたようで良かった。気分はどうかね?』
「それなりには。お世話になりました」
キョロキョロと周囲を見渡して、探していた物を見つけると、ベッドから降りる。
洗濯され、綺麗に折り畳まれた自分の服が入った篭まで歩くと、今着ている検査着を脱ぎ出した。
『ちょっとアナタ……!?』
ブリッジにいたキャサリンが声を上げて止めるが服を脱いで見たフィアラの体を見て絶句する。
右肩から背中の半分にかけて残る火傷の痕。
お腹の横には、素人が傷を塞ぐためだろうが雑に縫い付けた縫合や、太腿には銃で撃たれた傷痕が痛々しく残されている。
そんな傷だらけの裸を見られても気にした様子もなく、自分を服を着始める。
『君、その傷……』
「別に。この世界もちょっと前までテロとか多かったし? トラブルに巻き込まれて怪我することがそれなりに。この傷痕のおかげで下手に拐われたりせずに済んでるから残してあるだけ」
フィアラの能力を使えば傷を消すくらい出来るが、顔の傷も含めて都合が良いからそのままにしてある。命に関わらなければ、だが。
『そんなに傷を付くって、体まで壊して、これからも無事で居られると思うの!』
ブリッジにいた紅月カレンが同性としての心配からややキツ目の口調で問うが、フィアラは答えずに簡単に銃の確認をしてから胸のホルダーに収め、ジャケットを着る。
怠そうに猫背でドアまで歩くが開かない。
『すまないが、そんな状態の君を、外へ放り出す訳にはいかん。体調が戻るまではそこで療養して欲しい』
ジェフリーの提案にフィアラはあからさまに不服そうな表情をした。
ペタペタとドアに触れる。
このドアを開けるのは簡単だが、その後に乗員が連れ戻すのは分かりきっていた。
どうするかなと悩んでいると、斗牙が口を開く。
『大丈夫だよ。何もしないから。短い間だったけど、向こうで一緒に過ごした仲間が具合が悪いのを放っておけないし』
斗牙なりに相手の警戒を解こうとして言った言葉だったが、返ってきたのはハッ、と鼻で笑う嘲笑だった。
『何が可笑しいんだよ!』
フィアラの返しに苛立たしい顔をするエイジ。
「別に。ちょっと疑わしい情報が出たくらいでろくに確かめもせずに見限りあって殺し合うような連中の仲間とか。薄っぺらいと思っただけ」
『なっ!?』
どうやら、ZEUTHの痛いところを徹底的に突いてくるつもりらしい。
「どうせ私が今後、町を無差別に破壊しているとかの情報が入ったら、大して確かめもせずに襲って来るでしょう? 世界の状況も読まずに好き勝手してる奴なんて、攻撃しようがどうとでも理由は付けられるし? 訳の分からない奴だから。勝手に動かれて迷惑だから。命令だから。あの時のように」
あの時、とはZEUTH同士の戦闘でキラやアークエンジェルを撃墜した時の事だろう。
2つの部隊が合流した後も、そう言う発言はしていた。
だが、今は違うと分かって欲しくてシンが言葉にする。
『俺達はもうあんな……!』
しかし、フィアラは聞く気はなく、耳を塞いで寝かされていたベッドに戻る。
シーツを被ろうとしたところでゼロが最後に質問した。
『1つ、訊きたい事がある。あの怪物、PMがなんの目的で動いているのか、君は知っているのか?』
一応の質問だった。
そもそもあの知性の無さそうな怪物に目的が存在するのかも疑わしい。
しかし、意外にもフィアラから答えが返ってきた。
「PMの目的? そんなもの決まってる。存在する全ての多元世界とそこに生きる全ての生命と尊厳の救済。アレらはあらゆる宇宙の希望を守る為に在るのだから」
フィアラの回答にブリッジにいた誰もが言葉を失った。
あの怪物のどこにそんな高尚な物があるだろう。
どういう事か聞こうとするが、フィアラは頭までシーツを被り、話を拒否した。
彼女の体調を考慮してその場は追求することが出来なかった。
眼下に広がる光景に誰もが義憤に駆られた。
嫌悪感を刺激する怪物が人の街に突然現れ、そして無抵抗の人達を食い散らかしている。
吐き気を誘うその暴力も、何度も遭遇することで馴れた。
しかし、心の内から溢れる怒りはどうにも治まらない。そうなって欲しいとも思わない。
「これが……これのいったいどこが、希望を守る為だってんだ!!」
沸き出る怒りのままに現れたPMへとペダルを踏み込んだ。
戦闘のドサクサに紛れてZEXISから逃げようとしていたフィアラは、自分の能力でドアを開けたところでアナ姫と遭遇した。
「あ……」
心配そうな顔でフィアラを見るアナ姫。
彼女が出撃しようとしている事を察しているのだろう。
「まだ、体調も悪いのに、どこへ行く気ですか?」
それでも、一縷の望みから質問する。
答えないフィアラにアナ姫が話す。
「今回は皆さんに任せましょう。そんな身体で、無茶なのはフィアラが1番理解している筈でしょう?」
PMが毒を撒く前に歌ってくれとは言わなかった。
その優しさはまだ信じられる。
それを嬉しいと思ったのか、それとも言うことを聞けない自分が申し訳なかったのか、フィアラは答えない。
「ごめんね……そして、ありがとう」
それだけ言うと、振り払うようにフィアラは自分の機体へと走った。
携帯端末の示す位置へと急ぐ。
格納庫へ着くと、整備兵に声をかけられたが無視してS4Uに乗り込む。
その報告がきたのだろう、ブリッジから通信が入った。
『フィアラ君、止めなさい! まだ君は!』
「ハッチ開けて! じゃないと吹き飛ばすよ!」
ライフルを構えて脅しではないことを示すと、ハッチがゆっくりと開いた。いつものように機体を動かす。
優れたGの軽減システムを積んでいるS4Uだが、弱った体ではその小さな負担すらキツイ。
「関係ない……」
やるべき事は何も変わっていないのだから。
「私の歌は、世界を侵す……!」
通信から聞こえるZEXISの言葉を無視して、フィアラは自分のやるべき事に没頭した。
(熱が、ぶり返して……!)
歌と機体操縦をしながら、目眩や頭痛に吐き気と戦っていた。
特に目眩が駄目だ。謝ってZEXISの機体を撃ちそうになる。
(このくらいで何を弱気に! 頼らず、甘えず、独りで成し遂げるって決めたんだから! 私は姉さんの遺体を……!)
心の中で叱咤しながら近づいてくる敵をシールドブレードで斬り裂く。
先程まで、ZEXISから退がれだの無茶するなだのと通信がきていたが、煩わしく集中を欠くだけなので切った。
(いらない。私には、誰も……!)
そう断じながら最後の敵に真っ直ぐ掲げたシールドブレイドで突き刺して機体を加速させて正面から突き破る。
同時に、力尽きたようにS4Uは町の道路に倒れた。
「転移、起動……」
震える指でパネルを操作して転移場所を指定。
蒼い翼のガンダムが、こちらに向かって来ていたが、その前にS4Uはその戦場から姿を消した。
それから数日、PMが現れた戦場にもフィアラが現れる事はなく、ZEXISも大グレン団のトップであるカミナの死や、月光号の裏切りによる離脱が起き、それぞれが心に折り合い着けながら進んでいた。
ZEXISはそれぞれの事情により部隊を分散し、そして────。
ゼロであるルルーシュは異母妹であるユーフェミア・リ・ブリタニアと特区日本について黒の騎士団のトップとして対話に来ていた。
しかし彼はユーフェミアに自分を傷付けさせることで特区日本を欺瞞な物として崩そうと考えていた。
しかし、ユーフェミアに自分の正体がバレていたこと。王族という立場を棄ててまで自分と妹に手を差し伸べようとしている。
その覚悟にルルーシュは負けを認めて考えを変えざる得なかった。
「それにしても、ルルーシュったら酷いわ。脅されたら私が貴方を傷付けると思っていたなんて」
「いや、違うんだ。俺が本気で命令すると、誰も逆らえなくなるんだよ」
それをユーフェミアはルルーシュの冗談だと思っていた。しかし、ルルーシュは苦笑しながら言う。
その左目に、王の証が浮かんだまま。
「本当さ。俺がもし────」
そこで、ルルーシュの携帯が鳴る。
それは、待機させていた扇からだった。
「どうした?」
仮面を被り直し、扇と話す。
『ゼロ! PMが現れた!』
「なに!?」
予想していなかった訳ではないが、やはり現れれば苦い表情にもなる。
「……フィアラ・フィレスは?」
ルルーシュは彼女をZEXISに招き入れた際に、彼の持つ王の力、ギアスで仲間に引き込むつもりだった。
しかし、彼女のZEUTHに対する怒りが凄まじく、ギアスで無理矢理仲間にしても、そこから自分のギアスに辿り着く可能性を考えて止めた。
すぐに使い捨てるならともかく、長期に一緒に行動するなら、自分にとってリスクが高いと考えて。
『まだだ。あの子は、来ると思うか?』
不安気な声での問い。
「来る。あの少女はPMに関わることを並々ならぬ覚悟で挑んでいる。体調もそろそろ持ち直した筈だ」
根拠の薄い発言でも信頼する相手から言われれば安心だけは得られる。ホッとした声を出す扇にルルーシュはゼロとして命じた。
「だが、万が一の事もある。黒の騎士団は、ここに集まった日本人の安全を最優先に行動しろ!」
『わ、分かった!』
通信を切ると外からスザクがやって来る。
「ユフィ!」
スザクはユーフェミアが無事な事に安堵し、PMが現れた事を報告した。
「枢木スザク。あの怪物は人類共通の敵だ。ここは、ブリタニアも黒の騎士団も関係なく対処したい。いいか?」
ゼロの言葉に躊躇っていると、ユーフェミアが命じた。
「スザク。黒の騎士団と共闘してPMへの対処をお願いします! 集まった日本人の方々の安全を最優先に!」
先程のゼロの命令を復唱するように命じるとスザクが承認した。
本来訪れる筈の最悪の未来が回避されたことを誰も気付かないまま。
PMの現れた戦場を見下ろしながら、フィアラはいつも通りに歌を歌う。
「私の歌は、世界を侵す」
金の紋様が広がり。ドーム状に形成されていく。
ある程度完成したのを確認して戦闘に移ろうとした。しかし────。
『ところがギッチョン!!』
少し前に戦った、赤い粒子のガンダム。その1機が襲いかかってきた。
驚く間もなくシールドで大剣を受け止める。
距離を取ると、今度は銀色のKLFが接近してきた。
『アイムから聞いた! テメエの能力なら、俺達の体を治すことが出来ると! 一緒に来てもらうぜ!』
サーシェスとホランド。2機の強敵に挟まれながらフィアラは地上の戦闘に視線を向けた。
正直、ブラックリベリオンを再世篇でやるならユーフェミアの死亡もそっちでやって、スザクを最後まで使いたかったな、という理由からこうなりました。
次回で破界篇終わりです。