すれ違いの結末 作:ビールは至高の飲料
「そんなこと言ったっけ?」
もぐもぐと出されたトマトソースのパスタを食べながらフィアラは首をかしげた。
しらばっくれているわけではなく、本当に覚えてないのだ。
デュオとカトルが質問したのは、以前フィアラがZEXISで倒れた時にした質問。
PMの目的である。
フィアラはその時、多元世界に住む全ての生命の為を救う為と答えたが、そこから先は教えてもらえていない。
「あの時は熱も出てたし。数ヶ月前のそんな些細な会話、いちいち覚えてないよ」
『……』
フィアラの言葉にデュオとカトルは言葉を詰まらせる。
自分が欲しがっている情報を些細な、と切り捨てられた事に思うところがあるのだ。
それでも怒らずに話題を少し変えた。
久々に接触したフィアラは、破界事変の時よりも髪が伸びており、服装も以前は少年のようなパンツルックだったが、今は青いワンピースに黒タイツ。そして破界事変の時に着ていたジャケットを椅子にかけている。
「そういや、随分とかわいらしい格好になったな」
「えぇ。知人に会う度に服をプレゼントされるので」
デュオの話題に少し疲れたようにフィアラは視線を自分が着ている服に落とす。
丁度背丈の関係で買い替えようと思っていたわけだが、どうにも荷物ばかり増える。
買ってくれる相手には悪いが今後は断固拒否しよう。
と、頭の中にある今と関係の無い思考を捨ててさっさと本題を答える事にする。
「……彼らは全ての宇宙を救うために自分達の故郷から旅立った」
突然語り始めたフィアラにその場に居た全員が口を閉じる。
「彼らが戦おうとしたその存在はあまりにも強大で、理不尽な悪神だった。だから彼らは自らの母星を捨てて、一丸となり、その脅威に立ち向かうと決めた。自分達だけではなく、全ての宇宙。そして、そこに生きる生命の為に」
そこで食べていたパスタを食べ終える。
「おかわり貰っていい?」
「あ、あぁ……味は何でもいいか?」
「うん」
デュオが皿を受け取ると、おかわりのパスタを盛り、温めてあったインスタントのソースをかける。
「でも、彼らは何も出来なかった」
「何も出来なかった?」
カトルの疑問にフィアラは頷いておかわりのパスタを食べ始める。
「言葉通り。意気揚々と宇宙に飛び出したのは良いけど、戦いに敗れて壊滅寸前にまで追い込まれた」
井の中の蛙。当事の彼らを表すならそんなとこだろう。
胸には気高い理想と善意を宿し、絶望的な戦いに身を投じようとした。
しかし現実は、そのステージに立つことすら出来なかったのだ。
「それで終わっていれば良かったんだけど、残存した連中はそれでは収まらなかった」
我らはあんなにも多くの期待を背負い、多くの物を犠牲にした。
なのに、何も為し遂げられなかった。
そんな結果は認められない。
認められる筈がない。
「だから彼らは生命体として在り方すら変えて、あんな姿になり、力を蓄える為に他の世界への侵略を始めた。自分達が出した犠牲を無駄にしない為に更に犠牲を重ねて……」
「なんだよそれ!」
今まで黙って操縦席で食事を摂っていたエスターが口を挟む。
「その敵っていうのがどんなのかは知らないけどさ! それで色んな世界にやって来て暴れる理由になるもんか!」
「出してしまった犠牲に報いたいという気持ちは分かります。ですが、それがこれから出る犠牲を容認するというのは……」
「そうでしょうね」
エスターとカトルの言葉にフィアラも肯定する。
犠牲を無駄にしない為の犠牲。そんな負のスパイラルを容認出来るのは本人達だけだろう。
「PMの毒だと思ってるアレは、生命の魂魄とでも言えば良いのかしら? それを奪い取り、自分達の次元に引きずり込んで吸収と同化で自分達を強化する為らしいわ。観測が難しいのは、それ自体、次元の位相がズレているから、らしいわ」
「タチわりい……!」
フィアラの説明にデュオが苦い表情で呟く。
これらの情報はジ・エーデル・ベルナルのところに居た時に教わった事だ。
話も一段落したところで食事も終わる。
そのタイミングでデュオが言いづらそうに話題を変えた。
「そういや、ここ数ヶ月でシン達には会ったのか? 今はOZに所属してるらしいんだが……」
「まったく会ってない。OZの勢力圏にはあまり立ち寄らなかったし。もし会っても、話すことなんてないんだから。放っておけばいい」
面倒そうに返すフィアラにカトルが踏み込む。
「どうしてそこまで、彼らを嫌うんですか?」
「第一印象が最悪な上に叩かれたり陰口言われたり最期には殺されかけたのにどう好意を持てと?」
淡々と返すフィアラにカトルは困った顔をする。
水を飲んだ後に右頬の傷を指で撫でた。
「例えばこの傷を消したからって、日本解放戦線の連中がこの傷を付けたっていう事実が消える訳じゃない。重要なのは、残った傷痕じゃなくて、傷付けた痛みの方。少なくとも私にとっては」
この世界の医療技術なら大抵の傷痕なんて綺麗さっぱり消すことができる。というか、フィアラなら自分で消すこともできる。
だけど、痛みを与えた、という事実が消えるわけではない。
「弱いもの程相手を許すことが出来ない。許すことは強さの証っていうのは誰の言葉だったかなぁ? ────だから絶対に許さない」
フィアラの言葉にデュオとカトルは唖然とする。
自分は弱いから相手を許さなくて良いのだと言わんばかりの態度に2人は眩暈がした。
「それに、怒りや怨み辛みって与えた側は時間と共に風化していくと勘違いするけど。与えられた側からしたら、時間と共に積み重なっていくいくものだし……ねぇ?」
ここには居ない誰かへの嫌味を込めて笑みを浮かべる。
「いや、でもよ。キラ達の方は和解したんたぜ。なら少しは話を聞いてやってもいいんじゃねぇか?」
当事者同士で話が着いている以上、フィアラが1人意地を張るのはおかしいのではないか。
少なくとも、以前キラにまで当たり散らした理由が分からない。
デュオの疑問にフィアラは空になったコップを置くとボソリと呟いた。
「だからこそ許せないんでしょ。あっさりと自分が殺されかけたことすら水に流してしまったのが」
そこまで言うと、フィアラは意図的に話を変える。
「それに、ZEUTHが居た世界で状況を混乱させていたジ・エーデル・ベルナルに与していた私は、PMの問題が終わったらどうなるか分からないし。そもそも、ZEUTHの大半は私と和解したいんじゃなくて、PMに対処するための都合の良い道具を確保したいだけなんだから」
またモルモット行きになるのは当然御免だ。
その時にZEUTHの連中が都合よく庇ってくれるなんて期待してない。
「個人個人で仲良く出来る相手は居るよ。アナ姫とか。でも、ZEUTHっていう組織には今更好感を持てないし、何にも期待してないから。そっちも私に何かを期待するのは止めろと言っといて」
手をひらひらさせてこの話は終わりと明後日の方向を向く。
もうこの話に付き合うつもりは無いのだろう。
どうしたもんかと悩んでいると、エスターがまったく別の話を振ってきた。
「そう言えばさ。フィアラの歌って他にもあるの? 聴いてみたい!」
場の雰囲気を一切読まないエスターの発言と期待の籠った眼差しに唖然とした。
その視線に気付いていないのか、エスターは聴かせて聴かせてと頼んでくる。
「え……と……」
戸惑うフィアラを見て、それに乗っかかることにした。
「そういえば、いつも聴くのは戦場ででしたから。貴女の歌をちゃんと聴いた事はありませんでしたね」
「そうだな。せっかくだから聴かせてくれよ」
男2人の内心は察したが、エスターのウキウキとした表情と視線。
それに食事と乗船賃代わりにそれくらいは叶えても良いだろう。
一度軽く咳をしてから歌を歌う。
その雰囲気はさっきまでの壁を作るような物ではなく、ただ一心に歌うことに意識を集中させていた。
いつも戦場で歌うのとは違う歌。
自身が願うことへとひたすらに進み、手を伸ばす。
そんな気持ちにさせる歌だった。
たった3人だけに聴かせた歌。
しかしそれは間違いなく彼女の想いが込められた歌だった。
目的地に着いた別れ際にエスターから握手され、こんな提案をされた。
『あたし、打楽器が趣味なんだ! だから、今度一緒に音楽をやろうよ!』
そんな事を一方的に約束させられた。
裏表の無い、ああいう人は嫌いじゃない。だからこそ、どう接したら良いのか分からない時はあるが。
そんな事を考えていると、待ち合わせの人物を見つける。
「ラクスさん!」
呼ぶと一緒にいるサンドマンとの会話を切り上げて此方に近づいてくる。
「フィアラ。随分と早かったですわね」
「えぇ。この街にはいつから?」
「2日前からですわ」
ラクスとは破界事変の後に再会してからこうして不定期的にだが連絡を取っていた。
フィアラが無事かの確認と、S4Uの転移システムを利用した各国への行き来とか。
「フィアラ。取り敢えず、取ってある宿に行きましよう。そこで話を────」
そこで街に大きな震動が響き渡る。
振り向くと、この世界の機動兵器であるアクシオシリーズや、紫色のロボットが現れる。
「あれは……」
確か破界事変の時にチョロチョロと動いていた集団の筈。
「ロボットマフィア、だっけ? こんな大胆に動くのは初めて見るけど」
おそらくランカ・リーの護衛なのか、バルキリーと青い見知らぬロボットが応戦し、そのすぐ後にエスターとコロニーのガンダムが加わる。
それを眺めつつサンドマンに質問する。
「行かなくていいんですか? ああいうのを相手にするのが正義の味方のお仕事でしょ?」
「ここは彼らに任せるさ。私達は避難誘導を手伝おう。君の方こそ、行かなくて良いのかい?」
「人間同士の戦いは管轄外なので」
毒を含んだ言葉はあっさりとかわされ、舌打ちする。
その間に青いロボットの操縦者と思しき者の主張が聞こえる。
市民の平和の為にロボットマフィアに立ち向かう子供の声。
それを耳にしてフィアラが思ったのは。
(正義を振りかざして力を振るう子供。気持ち悪い……)
受け付けない何かを感じて背を向けた。
それから時間が流れ、再度ZEXISの集結や、新しい敵の出現などで再び戦乱へと世界は動く。
フィアラはその間も特にZEXISと接触する事もなく、作業的に時折現れるPMを狩っていた。
そんなある日────。
「何あれ?」
突如現れた巨大なレンズ状の建造物。
その周りを守護する最近この世界に現れる聖インサラウムと名乗る異世界からの侵略者。
観測データと自身の感覚を合わせてあの建造物が何なのか、大体の当たりを付ける。
「あれは流石に……!」
フィアラは直ぐ様現場へと急いだ。
次回【キャット・ファイト】