すれ違いの結末   作:ビールは至高の飲料

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その起源は

 その部屋には人工的に生み出された少女達が眠っていた。

 硝子の容器で育てられている物心が付くかどうかくらいの少女達。

 それら全てがまったく同じ顔の、銀髪金眼という容姿。

 容器の中で眠る少女達を眺めながら男は隣の女性に話しかける。

 その女性も銀髪金眼だった。

 眠る少女達は全て女性のクローンであり、ある研究の成果として生み出せた存在。

 

「で? この人形どもを、あらゆる世界に分散させるってか?」

 

「私の可愛い娘達に対して人形とか言うな」

 

 女性は男の脛を何度も蹴り付ける。

 特に痛がる様子もなく鼻で笑った。

 

「こんなガキを色んな世界に送り出してどうしようってんだ? そんな事をしても大半は死ぬだけだろうぜ」

 

 ひでぇ母親も居たもんだと言う男に女性は目の前の容器に触れて独白するように話す。

 

「……本当なら、それなりの年齢になってから送り出したかったのだけれど仕方ないわ。禁忌の研究の成果であるこの子達をいつ奴らが消しに来るか分からないし。一網打尽にさせる訳にはいかないもの。それにあらゆる世界で血を残し続けるのがこの子達の使命よ」

 

「使命ねぇ……」

 

 その言葉に思うところがあるのか、男は若干目を細めた。

 

「次元力を引き出す生体の依り代。数を増やし、より多くの次元力を引き出し、制御させて貴方達次元将と共に奴らを討つ。何度も説明したでしょ?」

 

「代を重ねりゃあ、使命の事も忘れるんじゃねぇか?」

 

「そこら辺は抜かり無しよ。例え代を重ねようと、力の使い方と必要な知識と使命は年齢と共に浮かび上がってくる。子々孫々、この子達は自分の運命からは逃れられないし、逃さない」

 

 これから先の未来。多くの世界で力を付けるために血を流させるであろう自分ですら言ってやりたくなる。

 この人でなしが、と。

 

 これらは全て奴らに対抗する道具を生産する為の畑だ。

 次元力を引き出す生命体へと変え、使命へと無理矢理巻き込む。

 何百何千年とかけて数を増やし、根源的災厄やバアルに対抗する為の戦力として組み込む。

 その結果、原住民の種が滅ぼうと構わないと本気でこの女性は考えていた。

 

「奴らに対抗するならば、あらゆる者は英雄であり、その為に産み出された物は聖剣と呼ばれて良い。それが、どんな犠牲を払って生まれた存在でも、ね」

 

 それが彼女の持論だった。

 

「ふん。だが、こいつらを巻き込む前に俺達が使命を全うするかもしれないがな」

 

 男の言葉に女性は笑みを浮かべた。

 

「それならそれで良いのよ。その時は、この子達とその子孫が、本当の意味で人間に堕ちる事が出来るのよ」

 

 そこで女性は男を見上げる。

 

「だから旅の途中か、使命を終えた後にこの子達かその子孫に会う事があったら、気にかけてあげてね」

 

「俺に子守りなんざ押し付かんじゃねぇよ」

 

 心底面倒そうに男は返すが、女性は聞く耳持たずで頼んでくる。

 

「お願いね。ヴァイシュラバ」

 

 

 

 

 

 その後、72の子供達はあらゆる世界に送られるも、その数は減らしていった。

 

 人が生きていける環境ではなかった。

 戦争に巻き込まれた。

 少女達の力を知られ、体を弄られた。

 使命の重さに子に押し付ける事を拒み、血を残さなかった。

 

 その他、多くの理由から次元力を引き出す少女達はその血を徐々に絶やしていった。

 

 僅かに残ったその子孫は────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フィアラは自分が壊したZONEの破片を手に取っていた。

 手にしたレンズを眺めて苦い顔をするフィアラ。

 

(私が引き出してた次元エネルギーも持ってかれる感覚があった。それにこの惨状、下手したらかなり広範囲であの装置に喰われてたかも)

 

 ZONEの機能で砂となり、あらゆる物が死んでいると思わせる地面を蹴る。

 

「品の無い暴食ぶり」

 

 言って、手にしていたレンズをZONEの壁に向かって投げると、パリンと砕けた。

 そうしていると後ろから声をかけられた。

 

「何をしているの?」

 

「手裏剣を投げる練習」

 

 セツコの質問に真面目に答える気がないのか、適当に返すフィアラに困ったように眉を動かすも、礼を言った。

 

「ありがとう。フィアラちゃんのお陰で助かったわ」

 

 セツコは自分のスフィアを通じてZONEを封じるつもりだった。

 しかしフィアラがZONEを破壊したお陰でそうならずに済んだ。

 フィアラはセツコの方を見ずに砂へ変化した大地を手を置く。

 

「別に。私もコレが邪魔だから壊しただけだし。それに普段してるPMの毒に対する対処の方が難易度は高いから」

 

 素っ気ない態度でこちらに興味無しとばかりに向こうともしない。

 ZEXISに合流し、元ZEUTHの面々からフィアラの事を聞いていたが、容姿と内面の変化にセツコは戸惑う。

 

「ねぇ────」

 

「黙って」

 

 セツコの言葉を遮ると、フィアラは隠すように腰に下げていたナイフを逆手に持つ。

 

「私の歌は、世界を侵す」

 

 すると、フィアラの周囲に見慣れた

 紋様が広がる。

 それはフィアラの周囲からZONEに描き込まれるようにして刻まれていく。

 フィアラの口から歌が紡がれる。

 それは戦闘中に歌っていた歌とは違う。

 亡くなった人達から託された想いを背負って前へと進んでいこうと誓う、哀しくも力強い歌。

 

「────っ」

 

 歌の終わりと同時に手にしているナイフを地面に突き刺す。

 数秒そのまま留まっていると、ナイフを抜いて元の位置に仕舞う。

 

「何をしたの?」

 

「こっちに被害が出ないようにする為の封印。まだ完全に機能が停止してる訳じゃないから。インサラウムに再利用されてもつまらないし」

 

 そう説明されてセツコは笑みを浮かべた。

 

「今の……素敵な歌ね」

 

 この状況にも関わらず、出てきたのは歌の感想だった。

 だがそれは脚色の無い真っ直ぐな気持ちで。

 それを聞いたフィアラは少しの間、首を傾げてから話す。

 

「今の歌? あれ、ジ・エーデルに拾われてからアークエンジェルの人達が生きてるのを知らなかった間に作った、ZEUTH(貴方達)を討つ決意を込めて作ったんだけど」

 

「……」

 

 自分達を討つ為に作られた歌と聞いて何とも言えない表情になる。

 セツコに目もくれずフィアラは自分の機体へと戻っていく。

 

「え!? ちょっと!!」

 

 引き留めようとするセツコだが、その前に別の人物が走って近づいてきた。

 

「フィアラ!!」

 

「オゴッ!?」

 

 タックルする勢いで抱きついてきたエスターにバランスを崩して倒れる。

 エスターが離れると腰を痛そうに擦りながら立ち上がった。

 

「もう! どこ行ってたんだよお前! 別れてすぐにロボットマフィアとの戦闘があっても全然現れないから、何か遇ったんじゃないかって心配したんだからな!」

 

「それよりも先ずは押し倒した事を謝ってほしいんだけど……イテテ」

 

 苦い顔をしてエスターを睨むがあっちはごめんごめんと軽く謝ってくる。

 次に話しかけてきたのはクロウだった。

 

「悪かったな、うちの後輩が。それよりも訊きたい事があるんだが、マリリンの奴とはどういう関係だ? 随分と仲良さそうに見えたが」

 

「……へぇ。仲良さそうに見えたんだ? その節穴だらけの眼球をビー玉にでも取り替えてやろうか」

 

 最後の方は心底不愉快とばかりにドスの利いた声で恐ろしい事を呟く。

 どうやら冗談でもマリリンと仲が良いなどと言われたくないらしい。

 クロウは降参とばかりに両手を上げる。

 

「OK俺が悪かった。だが、いつの間にかあんな奴らと知り合いになったんだ?」

 

「破界事変の時に、破界の王が現れてZEUTHがこっちに来るか来ないかの時だったかな? ある町でいつも通りPMの駆除をしてたら、あいつらが急に現れて、町の住民を人質に取られた事があって、仕方なく機体から降りた」

 

 当時の事を思い出して憎々しげに眉間の皺を寄せた。

 

「その時に、ちょっと反抗的な態度を取ったら、アレの部下や、町の住民に命じて私刑(リンチ)にされた。というか、私の身体の傷の半分以上はあいつらに付けられたモノだし」

 

「あいつら……!」

 

 古巣の連中がそんな蛮行に及んでいたことにクロウは吐き捨てる思いだった。

 以前見たフィアラの身体に付けられた傷。あれが半分以上付けられたと知れば沸々とした怒りも生まれる。

 

「何とか機体を遠隔操作で動かした際に何人か踏み潰して逃げたわけ」

 

「そうか。そりゃあ、災難だったな」

 

 意外にもエグい死に様を想像して嫌な気分になった。

 だからと言って死んだかつての同僚達に同情もしないが。

 そこで話が途切れると、フィアラは再び自分の機体に戻ろうとするのをエスターが止める。

 

「どこ行くんだよ!」

 

「目的は達したから、ご飯でも食べに行こうかなって。なんか、クロウさん? と話してたら日本のラーメンが食べたくなってきた」

 

「なんでだよ!?」

 

 意味不明な連想にクロウが声を上げた。

 今はある場所を除けば、地球のあらゆる国に不法入国し放題なフィアラは気紛れに食べたい物を食べに各国を回っていた。最近ではそちらがメインになりつつある。

 

「じゃ、そういうことで」

 

 自分の機体に乗ろうとするといつの間に近づいたのか、デュオに肩を掴まれた。

 

「まぁ待てよ。そんなに急がなくったっていいだろ?」

 

「もう用事は済んだんだから。私がここにいる理由も話すことも────」

 

「我々にはある」

 

 すると今度はいつの間に戦艦から降りたのか、ゼロが現れた。

 相変わらず胡散臭い格好だと思いながら目を細める。

 

「先ずはお礼を言わせてもらおう。君の尽力のおかげで、我々は大切な仲間失わずに済んだだけでなく、この街を守る事にも成功した」

 

 ゼロの台詞に少しだけセツコの方へと視線を動かす。

 

「大切な仲間ねぇ? ……貴重な駒、じゃなくて?」

 

「……何を勘違いしているのかは知らないが、私は彼女を含めてZEXISのメンバー全員を頼もしい仲間だと思っている」

 

「そういう事にしておこうか」

 

 精々ゼロが僅かでも動揺するのを期待していたが、これ以上の皮肉や嫌味は時間の無駄と判断して切り上げる。

 

「それにしても随分と見積もりが甘い事で。あれだけの次元結晶体。放置すれば、この大陸の1/4はこうなっていたよ」

 

 ZONEによって砂に変わった地面をトントンと踏みつけるフィアラ。

 その発言に息を呑むと同時に話を変える。

 

「以前君と行動を共にしていたエスター・エルハスからPMの目的を聞いた。その事に関して聞きたい事がある」

 

 どうせ拒否されるのは目に見えているが、ゼロはここでフィアラにギアスをかけることも厭わないつもりだった。

 幸いにしてゼロとフィアラは正面から向き合う形であり、仲間も彼の後ろにいる。今ならギアスをかけた事は気付かれない。

 

(話してもらうぞ。貴様が知る全てを!)

 

 そして断られる前にギアスをかけようと────。

 

「……いいよ。前と同じ艦に行けばいい?」

 

「は?」

 

 あまりにもあっさりと承認するフィアラにゼロは間の抜けた声を出した。

 その疑問は周りも同じであり、デュオが問う。

 

「今回は随分と素直だな」

 

「少し、私もそっちに訊きたい事があったのを思い出しただけ」

 

「訊きたいことだと?」

 

 まさかフィアラの方から訊きたい事があるとは思わず、困惑する。

 そのまま自分の機体に乗り込みマクロスへと移動していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スフィアは、全て12個存在して各々に当て嵌めた強い感情に反応して力を引き出す」

 

 マクロス・クォーターのブリーフィングルームで腰を下ろしたフィアラは誰に促される訳でもなく話を始めた。

 

「『嘘』を司る『偽りの黒羊』

『欲望』を司る『欲深な金牛』

『矛盾』を司る『いがみ合う双子』

『虚無』を司る『沈黙の巨蟹』

『忍耐』を司る『傷だらけの獅子』

『悲哀』を司る『悲しみの乙女』

『意思』を司る『揺れる天秤』

『憎悪』を司る『怨嗟の魔蠍』

『反抗心』を司る『立ち上がる射手』

『好奇心』を司る『知りたがる山羊』

『愛』を司る『尽きぬ水瓶』

『夢』を司る『夢見る双魚』

 スフィアはあらゆる宇宙に広がり、これらの力を引き出す所有者をスフィア・リアクターと呼ばれている」

 

 ざっとスフィアの名前を並べるとゲイナーが感心した様子で呟く。

 

「名前には十二星座が使われてるんだ」

 

「尽きぬ水瓶は現在、インサラウムの聖王機とやらに搭載されているらしい。もっともあの様子じゃ、スフィアが発動してる感じじゃなかったけど」

 

「あの機体に……」

 

 自分達の前に出てきた気の弱そうな皇子を思い出す。

 しかしその情報網に疑問を持ったマリンが質問した。

 

「どうしてそんな事まで知ってるんだ?」

 

 スフィアの名前は良いとしても、何故侵攻してきたばかりのインサラウムの聖王機にスフィアが搭載されていることや、況してや発動していない名前まで特定しているのか。

 するとフィアラがとんでもない事を言う。

 

「ヴァイシュラバ────あ~破界の王に先日会って、その時に聞いた」

 

『……はぁっ!?』

 

 思いがけない人物が出てきてガロードは声を上げた。

 

「アイツは俺達が倒した筈だろ! いや、それより大丈夫だったのかよ!?」

 

「何か酷いことをされなかった?」

 

「別に。日本の焼肉屋で一緒に昼食を食べながら世間話をしただけ。そういえば、その内にそっちにちょっかい出すとか言ってたから、戦力を集めるなら早い方が良いと思うよ」

 

 他人事のように喋るフィアラ。

 それにしてもフィアラとガイオウが焼肉を食べている様子を想像して困惑している。

 スメラギが念を押すように尋ねる。

 

「本当に何もされてないのね?」

 

「あの人と私は遠縁の親戚みたいな物ですし。此方から敵対するならともかく、私は本来、破界の王側に就く存在。向こうも理由なしに襲いかかったりはしない」

 

「どういう事だよ!」

 

「大昔に託された使命。私達の祖はその為にあらゆる世界に送られた。もっとも大半は死亡したけど、いつか数を増やし、次元将と共に根元的災厄を乗り越える為に」

 

 何処か遠い場所を見るようにその金の瞳を揺らした。

 

「スフィア。次元力。シンカ。クロノエイチ。多元世界。それらに真相に関わって行くと、同じ存在に辿り着く。PMや破界の王。アサキム・ドーウィン。そしてジ・エーデル・ベルナル。過程は違えど根元的災厄を倒す為に存在する。いや、彼らだけでなく、あらゆる世界にはそれに関わる存在が居る」

 

「アサキムやジ・エーデルも……」

 

 意外な名前も出てきてセツコが呟く。

 

「立ち向かうか、服従するか、逃避するかはともかくとして。あらゆる存在が根元的災厄を意識して活動している」

 

「何なんだよ、その根元的災厄ってのは!」

 

 アポロが問うと、フィアラは小さく息を吐く。

 

「悪いけど、そこから先は破界の王にでも聞いて。私の持っている知識は断片的すぎるし、あの人の方が断然詳しい」

 

「何だよ勿体振って!」

 

 エスターがフィアラの頬を引っ張るがすぐに外させる。

 

「だから代わりにスフィアに関して話した。それよりこっちも訊きたい事がある」

 

「此方に答えられる事なら話すけど……」

 

 はぐらかされた面はあるが、有益な情報を貰った事には変わらない。

 

「エルガン・ローディックが現在何処にいるのか。知っているのなら教えて欲しい。三大国家が併合されてから連絡が取れない」

 

 エルガンの名が出てジェフリーが問う。

 

「知り合いだったのかね?」

 

「こっちの世界に飛ばされた当初、保護されて世話になった。それから世界を回りながら集めたテロリストに関する情報を買って貰ったりと。まぁ色々」

 

 フィアラをこの世界で保護したのはエルガンだった。

 その事実を知ってシンは驚きと共に憤る。

 

「あの人、そんな事は一言も言わなかったぞ!」

 

「気を使ってくれたんでしょ。ZEXISが結成された当初、部隊に参加してほしいって頼まれたけど断ったし。それよりZEXISが再結成されたのなら、エルガンさんから何らかの接触があった?」

 

「悪いが、我々もエルガン・ローディックの居場所は知らない。ZEXISは召集権を預かっていた私が必要だと判断した」

 

「そう……」

 

 ゼロの返答に気落ちした様子もなく、フィアラは椅子から立ち上がる。

 

「私ももう行く。閉ざされた暗黒大陸が開けばPMの世界に行くための準備がようやく整う。だから出来る限りあの大陸付近に居たい」

 

「閉ざされている暗黒大陸が再び開くと?」

 

「さぁ? ただ、向こうには螺旋力とゲッター線がある以上、外がこれだけの騒ぎになっているのなら、触発されて近々開く可能性はある。尤も中がどうなっているかは分からないけど」

 

 前々から言っているPMの世界に移動する件。

 暗黒大陸に行って何をするのかは分からないが、そんな無謀を許す訳にはいかない。

 赤木が心配から止めに入る。

 

「そんなのやっぱりダメだ。危険すぎる。俺達も一緒に────」

 

「却下。別に私はPMを倒しに行くわけでなし。万が一貴方達がPMを殲滅したら、私の目的が達せられない。はっきり言って邪魔」

 

「なんだよそれ!」

 

 フィアラの冷めた対応にワッ太が不満そうにする。

 

「大体、お前の目的って何なんだよ!」

 

 しびれを切らしたアルトがフィアラの目的について問い質す。

 PMを倒すのが目的でないのなら、いったいどうしてそんな場所に行こうとするのか。

 その疑問に対してフィアラは答えない。

 

「完全に私の私情なので貴方達に教えるつもりはないよ。ま、PMの力を手に入れて世界征服とかそういう目的じゃないから安心していいよ? 私の目的には最初から意味がないので」

 

「意味がない?」

 

 両方の人差し指で✕を作るフィアラにセツコは訝しむ。

 

「誰にとってもそうする意味も価値もない。誰かにとって損でもないけど、利益が出る訳でもない。これは、私の感情の問題でしかないから。それに世のため人のために頑張ってる貴方達に話すのは恥ずかしくてね」

 

 だから貴方達には話す必要がないと✕を解く。

 そんなフィアラに戸惑った様子で正太郎が質問した。

 

「あなたは、みんなを助けるために戦っていたんじゃないんですか?」

 

「勝手に私の戦う理由を捏造しないでくれる? 私が戦うのは私の為だよ。大体、他人の為に戦っても怨まれたり憎まれたりするのは当たり前だし? 例えば、街を破壊して虐殺を行ってる敵を止めたら、誰かの怨みを買ったり、とかねぇ?」

 

 皮肉いっぱいに言ったその言葉が、ZEUTHの居た世界でステラがデストロイに乗って行ったチラムでの虐殺の事を言っているだと気付く。

 今でもその事を突いてくるフィアラにエイジが前に出る。

 

「お前、まだそんな事言って────」

 

「だったら、自分の為に戦って憎まれた方がマシ」

 

 最後まで聞かずにそう告げる。

 出ていこうとするフィアラにシンが肩を掴んで止めるが、それはすぐに振り払われた。

 

「あの時は色々と視野が狭くなってて、たくさんお前に酷いことをしたと思う」

 

 向かい合ってシンは当時の自分の言動を振り返る。

 自分の都合と憎しみを優先させてフィアラの大事な場所を傷つけたこと。

 初対面で怒りに任せて叩いたこと。

 そして、次元修復を行うあの最後の戦いで態とではないとはいえ、殺しかけたこと。

 

「ごめん。本当にごめんな……」

 

 頭を下げるシンに周りが目を丸くする。フィアラも含めて。

 しかしその表情はすぐに無表情に戻った。

 

「そう……」

 

 それだけ返すと今度こそ部屋から出ていこうとする。

 それを止めたのがルナマリアだった。

 

「ちょっとそれだけ! もっと何か言うことがあるでしょ!!」

 

「別に。前にも言ったよ。謝罪しても許さないって。謝るのは勝手だけど、それで私の中で何かが変わる訳じゃない」

 

「お前、本当にいい加減に────っ!?」

 

 あまりにも頑な態度にエイジが怒ろうとするが、カミーユがそれを制して止める。

 

「向こうの世界に行ったら、こっちに戻ってこられるか分からない。それまでにPMの対処を見つけておいたら?」

 

 フィアラがこの世界から消える。それはPMの魂を奪う毒に対する対応が出来ないという事だ。

 だけど、それとは別に純粋に彼女が心配で、エスターが問いかける。

 

「何でそこまで拒絶するんだよ! PMの世界に行く目的だって、話せばアタシらだって手伝うのに!」

 

「信頼出来ないから」

 

 ドアに触れて、フィアラは顔半分だけ振り返る。

 

「もしも、ここに滞在して私に危害を加える人間が出てきても、絶対に私の味方にはならない。そう思うから、一緒に行動はしない」

 

 これ以上は絶対に距離を縮めない。

 仲間を想う気持ちが強いこの部隊は、そうじゃない者にはきっと────。

 引き止める声があっても、今度こそフィアラは足を止めなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは宜しくお願いしますね、ティファ」

 

「はい。ラクスさん」

 

 ある依頼を頼みにラクスはティファ・アディールと接触した。

 上手く行けば、ラクス達が居た世界から救援を求める事が出来るだろう。

 

「フィアラに待ち合わせの連絡を入れて、食事にしましょう」

 

「彼女に会ったのですか?」

 

「えぇ。いつも困った顔で、ですけど出来る限り会ってくれますわ」

 

 話ながら、破界事変後に温泉宿で再会したときの事を思い出す。

 

 

 

『私には分からない!! 殺されそうになったのに、簡単に許せるキラさんの考えも! 大事な人を傷つけられても平然としてるラクスさんの気持ちも! 私には全然分からないっ!?』

 

 

 あの宿で癇癪のようにそう叫び、訴えてきた。

 彼女は独りで、許さず、許せず、ずっと訴えていたのだ。

 ラクスは居なかったが、2つに別れたZEUTHでの戦闘。

 その時、キラが乗るフリーダムも、アークエンジェルも、何かが違っていれば全員死んでいた。

 どんな理由があっても、傷つけられたのだから、それは怒って良い。

 怒らなければならないと。

 目の前で消えていった瞬間を見て絶望したフィアラ自身の為に。

 殺されそうになったキラやアークエンジェルの面々の為に。

 そして、残された筈のラクスの為にも。

 例え、ラクス達が水に流したとしても、それは違うと。

 もっと自分を大事にして、傷つけられたことを怒って良い筈だと、フィアラ・フィレスはあの時の感情を忘れず、たった独りで訴えていた。

 独りでずっと怒り続けてくれていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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