すれ違いの結末   作:ビールは至高の飲料

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フィアラがZEUTHを出ていくまでの話


癒えない心

「なんなんだよ、アイツ……!」

 

 突然現れて好き勝手言い。あまつさえ自分達が死ねば良かったなどとぶつけてサロンを出ていった少女に、グランナイツのメンバーであるエイジが不快感と憤りを露にする。

 それは他の面々も同様だが、どちらかと言えば戸惑いの方が強いようだ。

 

「メール、フィアラを追っかけろ」

 

「ダーリン?」

 

「今アイツを1人にさせない方がいい。何しでかすか分かんねぇぞ」

 

 フィアラと比較的仲の良いメールなら、変に拒絶されることもないだろうと頼む。

 それを察してメールも、うん、わかった! と頷いてサロンを出ていった。

 それを見届けて、一息吐いてからいつもの陽気さを抑えて話し始める。

 

「アイツがUNで話題になってる、PMの毒を無力化してた歌巫女だ」

 

 ランドの言葉に別行動だったZEUTH組が驚きの表情になる。

 

「お前らとドンパチしてた時は偶々月光号に居て、そのまま行動を共にすることになった。キラ……あー、フリーダムとアークエンジェルが墜ちるところもモニターで見ちまってる」

 

 淡々と事実だけを述べる。

 しかしランドの表情には苦いものが浮かんでいた。

 

「アークエンジェルと離れた時はかなり取り乱しちまって、俺達から離れて自分で探すなんて言ってたな。余裕がない状態だったとはいえ、捜索を打ち切った時も納得してない感じだったぜ」

 

 何せ、自分の足だけで探しに行こうとしていたのだ。食事だってまともに摂れなくなった。それだけで彼女がどれだけあの場所を大事に思っていたか、察することが出来る。

 それにシンが怒り混じりに問い質す。

 

「だったら! 戦場を混乱させてたアークエンジェルを討った俺達が間違ってるって言いたいのかよ!」

 

「そういう話じゃねぇ!!」

 

 シンの言葉にランドは声を荒らげる。

 

「ただ 、お前達が討とうとした奴に、メシも通らなくなって泣くくらい大事に想ってる娘が居ることを理解しろってこった」

 

 銃を撃ち、誰かから恨まれる。

 引き金を引く以上、それは当たり前の事だ。

 それを頭で理解して憎まれる覚悟を持つ。

 だが実際に恨みをぶつけてくる相手が現れる事は稀だ。

 だから忘れてしまう。自分が討った者にも、大切に想う誰かが存在するということを。

 簡単に、忘れられるのだ。

 フィアラが出ていった扉を見つめてセツコが呟く。

 

「あの子、泣いてた……」

 

 背中を向けられていた他のメンバーは気付かなかったようだが、横から見ていたセツコだけは見ていた。

 その泣き顔を。

 穢らわしいと払われた手の平を見る。

 セツコもシンがフリーダムに勝つ為に協力した。

 シンがステラの死を乗り越えられるように。

 区切りを付けられるように。

 憎しみで戦ってはいけないと諭しながら。

 セツコ自身、チームを喪った悲しみから、戦争で悲しみの涙が拡がらないようにと戦場に身を投じている。

 だけど、あの子を涙を流させたのは自分達なのだと。その手が震えていた。

 

 フィアラが去って行ったドアを睨み付けているシンにルナマリアが話しかける。

 

「どうしたのよ、シン。あんな小さな子に手を上げて」

 

「……別に」

 

 苛立たしげに答えるシンにカミーユが続く。

 

「何か、余程気に障る事でも言われたのか?」

 

「何でもないって言ってるだろ!」

 

 少しだけ声を荒らげてからズカズカとサロンを出ていく。

 

 ────良かったですね。あの大きなMS。自分の手を汚さずに始末してもらえて。

 

 せせら嗤うように言われたあの言葉に、シンは頭に血を昇らせた。

 あのチラムの街での戦闘。

 もう少しで。もう少しでステラを助けられる筈だったのだ。

 フリーダムが余計なことをしなければ。

 

「何も知らないくせに……!」

 

 ギリッと歯を鳴らして、シンはフィアラを叩いた手を握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前を見ずに走っていたフィアラは途中でキラくらいの少年とぶつかる。

 

「前を見ないで。危ないだろ」

 

 叱るような声で話かける少年。しかしフィアラは少年が着る、ザフトの赤服を見て、目の前が怒りで真っ赤になった気がした。

 

「っ!!」

 

「おいっ!?」

 

 突き飛ばすように押し退けてフィアラは走り去る。

 

 

「なんなんだ……」

 

 納得いかないように1人愚痴る少年にフィアラを追いかけていたメールと会う。

 

「アスラン! 今ここにフィアラ! 銀髪の女の子が通らなかった?」

 

 

「あ、あぁ。そこを通って行ったが……」

 

「そう? じゃあ部屋か……ありがとね、アスラン!」

 

 すぐに追いかけていくメール。

 それを見ていたアスランは納得できないように眉間にしわを寄せた。

 

「なんだったんだ? いったい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メールがフィアラの部屋に着くと、彼女は部屋で身を縮めていた。

 

「……謝りませんから」

 

「……」

 

 拗ねたようにフィアラが呟くと、メールは特に否定することなく棒立ちになる。

 

「謝って……たまるか……!」

 

 項垂れて自分に言い聞かせるように呟く。

 その痛々しい姿にメールは、近づいて寄り添い、頭を撫でた。

 続けていく内に落ち着いたのか、フィアラがポツリと話し始める。

 

「私、あの人達……嫌いです……」

 

「……うん」

 

 メールと視線を合わせずに下を向いたまま続ける。

 先程、僅かに聞いたアークエンジェルに対する風評。

 それは決して好意的な物ではなく、憤りが込もっていた。

 だからこそ────。

 

「もっと、色々と聞いておけばよかった……」

 

 そうすれば、あんな不様な癇癪ではなく、しっかりと反論できたかもしれないのに。

 わめき散らして逃げることしか出来なかった。

 

「……悔しい」

 

 あの研究所から助け出されて。優しくしてもらった。

 自分の力で少しだけ役に立てて、褒められ、それだけで満足し、何も知ろうとしなかった。

 余計なことを訊いて、疎まれたくなかったから。

 ポタポタとフィアラの目から液体が床に落ちる。

 

「ちゃんと、庇うことすら出来ないなんて……それが、悔しい……」

 

「……そんなことは、ないよ。きっと、あんなに真剣に怒ってくれて。それだけで嬉しいと思うよ」

 

 なんて薄っぺらい言葉だろうと、メールは思う。

 そもそも、生存すらまともに確かめようともしなかった自分達が何を言えるのか。

 それでも、それ意外の言葉が見つからなくて。フィアラが落ち着くまでずっと傍にいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セツコがフィアラの部屋の前に立ったのはそれから1日間を置いてからの事だった。

 最低限落ち着くにはそれくらい必要だろうと思って。

 部屋の中から歌が聴こえてくる。

 以前、アークエンジェルで歌われてた歌。

 あの時は心が安らぐような。どこか包まれるような温かさを感じたが、同じ歌の筈なのに、今は空虚で不安を煽る。

 

 歌が終わり、ノックをすると、ドアが開く。

 

「あ……」

 

 ドアを開けてくれたフィアラを見て思わずそんな声が漏れた。

 驚いたのはその瞳。

 どんよりと暗い、金の瞳。

 こちらを飲み込みそうな瞳をセツコの顔に向ける。

 

「なにか?」

 

「あ、その……うん……少し、話がしたくて……」

 

「はなし?」

 

 焦点すら合ってないように感じる瞳でセツコは中へと通されると、備え付けてある椅子を勧められた。

 フィアラも、ベッドに腰かける。もしかしたらセツコが訪れる前からかもしれないが。

 

「……それで、話ってなんですか?」

 

 不機嫌そうな態度を隠そうともせずに問う。

 そんな相手にセツコは呼吸を調えて先ずはシンが叩いてしまった頬について訊く。

 

「シン君が叩いちゃった頬は大丈夫?」

 

「別にアレくらいなんとも」

 

 実際、叩かれた際に派手に倒れたがシンはさほど力を入れていない。現に叩かれて赤かった頬も既に元の色に戻っている。

 

「ごめんなさい。止められなかった私達の責任ね」

 

 サロンに訪れたあの時に来た道を戻らせて遠ざける事も出来た筈。

 躊躇した結果がアレであったのだから多少の罪悪感はあった。

 

「あなたが謝る事じゃないと思います」

 

 対してフィアラは、アークエンジェルやフリーダムを討った1人として好感は無くとも、叩いた本人でもないのに謝罪されたいとは思わない。

 もっとも、叩いた本人にも謝って欲しい訳ではないが。

 それからセツコは本題に入った。

 

「フィアラちゃんにとって、アークエンジェルはどんな人達だったの?」

 

 セツコの言葉にフィアラは目を見開いた。

 アークエンジェルの行動を非難していたZEUTHの言葉を聞いて激昂した姿を見て、彼らの事が気にかかっていた。

 もしかしたら、UNの情報に騙されて居たとき同様に、先入観を持っていたのではないか? 

 もちろん、彼らの行動の全てを肯定するわけではないが。

 だが、非難するにしても何にしても、自分達は彼らの事を知らなさ過ぎる。

 彼らがどんな想いで戦っていたのか、近くに居たこの少女から聞いてみたいと思った。

 

「貴女が知ってる範囲でいいから、教えて欲しいの」

 

 しかしそのセツコの言葉にフィアラの顔がみるみると憤怒の表情に変わる。

 

「いまさら……」

 

「え……」

 

「いまさら、なんでそんな事訊くんですか!!」

 

 座っていたベッドから立ち上がる。

 

「気になってたなら、あの時に戦いなんてしないで話せば良かったじゃないですか!! 他のZEUTHの人達も居たんだから!!」

 

 感情のままに捲し立てるフィアラ。

 

「あの町の時だって、町の人達を助けようとしただけで! それなのに、あのMSを討った事も否定して……!」

 

 あのMS(デストロイ)にはシンの大切な人が乗っていた。それを討ったフリーダム(キラ)を憎んだ。

 セツコがその事を説明しようとしたが、エネルギーが切れたように再び座って顔を手で覆う。

 

「あの時、キラさんにあのザフトを撃つ気はなかった……それを追いかけ回して殺しておいて、いまさら……今更……っ!」

 

 声から滲み出る怒りと憎しみ。

 それはそのまま拒絶へと繋がる。

 

「出ていってください……」

 

「私達は……」

 

「出てってっ!!」

 

 何も聞きたくないと完全に声を上げるフィアラにセツコはこれ以上話をするのは無理かと出ることにした。

 

「……また、来るわね」

 

 それだけを言い残して部屋を後にする。

 フィアラは忌々しげにベッドに顔を埋めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから少しして、また、来訪を告げるノックがする。

 時計を持たず、部屋に引き込もっているフィアラには正確な時刻は分からず、メール辺りが食事を持って来てくれたのかもしれないと手帳に書き込む手を止めてドアを開けた。

 

「だれ……?」

 

 ドアを開けるとそこに立っていたのは見知らぬ男性だった。

 白衣を着た、蟹を思わせる頭髪の中年男性。

 その男性。トリニティエネルギーの開発者である風見博士は笑みを浮かべてフィアラを見下ろしていた。

 何か嫌な予感がして部屋の奥へと下がるフィアラ。

 そして許可なく部屋の内側へと入るとその手が伸び、フィアラの口を覆って押し倒す。

 

「っ!?」

 

 突然の事に怯えるフィアラに風見博士が話し始めた。

 

「ふふふ。解っているぞ。君の能力はPMの毒を無力化するなどという程度のモノではない。あれは、次元力を用いた事象への干渉。そうだろう?」

 

 話ながら懐から注射器を取り出す。それを見てフィアラは押さえられた口からひっ、と声が漏れる。

 

「君の身体を調べさせてもらう。そうすればゴッドシグマは! そしてZEUTHも! 更なる力を手にして地球を守る事が出来るのだ!!」

 

 言って注射器をフィアラに打とうとする。

 混乱する頭でどうにかしようと身動ぎするが、成人男性の力に抗えないでいる。

 恐怖から反射的に手にしていたボールペンで風見博士の眼球を突き刺した。

 

「ぎゃあああぁああああっ!?」

 

 思わぬ反撃から絶叫を上げる。

 フィアラは、上半身だけを起こしたまま、壁まで下がった。

 風見博士の声に、艦内の人間が集まって来た。

 

「どうしたっ!?」

 

 ランドがメールと共に現れる。

 刺された眼球を押さえる風見博士と転がっている注射器。

 そして怯える様子のフィアラ。

 この部屋に居たのが誰かを考えれば、どちらが先に手を出したかは明白だった。

 

「おいアンタ! いったいこの子に何を────」

 

 ランドが風見博士に詰め寄る。

 フィアラは床に転がっている注射器を見た。

 そこで、あの研究所での記憶が刺激(フラッシュバック)される。

 自分達の事を調べる研究者達。

 度重なる実験で死んだ母と姉2人。

 そして後を追う筈だった自分。

 それら全てが頭に駆け巡り、フィアラは恐怖に染まりきった顔で悲鳴を上げた。

 

「あ、あぁ……あああああぁああぁああああっ!?」

 

「フィアラ!?」

 

 ベッドの端に移動し、毛布にくるまって体を隠そうとするフィアラをメールが抱き締める。

 

「大丈夫! ほら、もう大丈夫だから!」

 

 メールが宥めるがしばらくフィアラはその場から動こうとしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 後に風見博士はこの件に関して自らの非を認めず、むしろフィアラを能力に関して調べるべきだと主張した。

 当然、そんな主張が認められる筈もなく、風見博士はフィアラから遠ざけられる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風見博士に襲われた件から更に周りに心を閉ざしたフィアラを心配してメールが外出の誘いに訪れる。

 

「ねぇ、フィアラ。ちょっと街へ買い物に行かない? 引き込もってばかりじゃ体にわる────」

 

 そこでメールは部屋がもぬけの殻なのに気づく。

 

「フィアラ?」

 

 既にフィアラは、ZEUTHの何処にもいない事に気付き、捜索したが、見つからないまま異星人との戦闘に突入し、そのまま戻ってくる事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ZEUTHから飛び出したフィアラは、そのまま宛もなく彷徨っていた。

 あそこに居ては行けないという危機感のままに。

 風見博士のような手合が1人出たのなら、また現れないとも限らない。

 疑心暗鬼に駆られたフィアラはZEUTHを出ることを決めたのだ。

 

 街を出て果てなく続きそうな道路を歩いていると、知らない機体がフィアラを前を塞ぐように着地する。

 中から現れたのは仮面を付けた黒衣の人物だった。

 

「初めまして、フィアラ。かつてオリジン・ローと契約した一族、その末裔。いや、君と話すのにこの仮面は無粋だね」

 

 仮面を取ると、そこには銀髪の美男子がいた。

 馴れ馴れしい態度で男は近づいてくる。

 

「僕は、ジ・エーデル・ベルナル。君を迎えに来たんだ」

 

「迎え……?」

 

「そう。僕が用意してあげるよ。君の剣と鎧。そして翼を。君の為の機体を、ね」

 

 返答を聞く前にフィアラの顔に手を近づける。

 すると、彼女の意識は闇に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんか、この後、何故か第二次の世界に行き、単独でPMのみと戦闘をする模様。

アークエンジェル加入時にランドはともかくセツコが割って入るのに違和感があったのでオリ主と接点を入れてみました。


キラとの再開時。

スメラギ「知り合いなの?」

フィアラ「えぇ。もっとも、MIAになって、生きていることをまったく教えてもらえない程度の薄っぺらい関係ですけどね!」

キラ「…………(目逸らし)」

クロウ(事情は知らねぇが、笑顔でメチャメチャ怒ってんな……)
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