すれ違いの結末   作:ビールは至高の飲料

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帰還した少女

「だぁ!? 敵多過ぎてっ!」

 

 前後左右上下。何処を見回しても敵敵敵。

 その数は既に点としてではなく面として存在する。

 

「いったい、幾つの世界を喰らったんだ、かっ!?」

 

 側面からの体当たりを盾に受けて体勢が崩れるも、至近距離でビームマシンガンを喰らわせて撃ち落とす。

 

 この世界自体がPMその物であり、今はその腹の中に居るような物だ。

 此方の攻撃をどこにしても当たるが、敵の攻撃も避けようのない面として繰り出される。

 防御フィールドで持ち堪えられているが、それも永続的に続けられる訳ではない。

 

「防御フィールドの冷却に15秒!? 遅すぎる!!」

 

 強制冷却に入ったシステムに難癖を付けるが、その隙に上からフィアラの機体より大きなバケモノが降ってくる。

 回避が間に合わず、押さえ込まれたまま、地面へと落下させられそうになる。

 

「このっ!」

 

 肩の防御フィールド発生機を噛み壊され、肩ごと敵を撃ち抜くと同時に膝蹴りで突き放した。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……チッ」

 

 集団で襲いかかる敵に舌打ちするが、敵は待ってはくれない。

 正に全方位から攻撃されようとした瞬間、PMの動きが止まった。

 

「? 何が……」

 

 襲ってこない敵を警戒していると遠くに肉塊で出来たような城が見えた。

 その映像を拡大してフィアラが見た物は────。

 

「あれは……」

 

 それを見た瞬間、フィアラは我を忘れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボロボロの姿で戻ってきたS4Uは重力に逆らわずに落下していたが目が覚めたように急激に姿勢を直す。

 

「ここ……さっきまで私が居た世界と同じだよね……?」

 

 一応此方に戻れるように準備はしていたが、ぶっつけ本番。全然別の世界に跳んだ可能性もある。

 状況が分からず確認しようとすると、通信が入った。

 

『危ない!? 上っ!?』

 

「上?」

 

 顔を上げるとそこには大きな鉄板がフィアラの機体に目掛けて落下してきた。

 

「は?」

 

 動けずに固まっていると、ウイング0から放たれた巨大なビームが鉄板を消滅させる。

 安堵する間もなくZEXISから通信が入る。

 

『現在この空域は、軌道エレベーター損壊によるピラーのパージから地上の人達を守る為のミッションを行ってます!』

 

「軌道エレベーター損壊!? 何処の馬鹿が! 異星人に?」

 

『それは……』

 

『おい! そんなことより、その機体の状態じゃあ危ねぇ! こっちに来い!!』

 

 戦艦に固定されている機体からデュオが指示する。

 フィアラは即座に転移でこの戦域から離れようとする。

 だが────。

 

「システムエラー!? こっちに無茶をして戻ってきたせいで!?」

 

 転移システムの故障に苦い表情をするフィアラ。

 そんな彼女に悪意を持って近づく機体。

 

『アラアラ。どうしたの~? そんなにズタボロになって。ねぇ、白猫ちゃん?』

 

「!?」

 

 マリリン・キャットが近付くと反射的に残った左足の爪先からビームサーベルを出して攻撃しようとするが、動きを読まれて膝から破壊される。

 

「つっ! この!!」

 

 残ったライフルを向けるが引き金を引く前に肘の破壊される。

 

『甘いわよ~? 本当に分かりやすい』

 

 経験の差と機体の状態により、手足を全て失ったS4Uをマリリンの機体が嬲るように攻撃してくる。

 

「つ、あぁ……!?」

 

『本当はZEXISへの嫌がらせ程度で済ませるつもりだったけど、運が良いわね。お婆様が貴女に興味があるようなの。手土産に連れて帰りましょうか』

 

「誰がっ!!」

 

『なら少しお仕置きしてあげるわ!』

 

 手足を失っても機体を動かして抵抗するが、マリリンの攻撃により顔半分の装甲が剥がれ落ちる。

 

『マリリンッ! テメェの相手は俺だろうがっ!!』

 

『状況が変わったわ。フラフラちゃん、またね~。この子は貰って行くから』

 

『フィアラッ!』

 

 フィアラを連れてこの場を去ろうとするマリリンにクロウとキラを始めにZEXISは阻止しようと動くが、落下してくるピラーや次元獣によって足止めされ、思うように救援に向かえない。

 コックピットの中でフィアラは苦悶の表情をしながら、もう居ない母の言葉が頭に過っていた。

 

 "私達の力をこんな風に使っては駄目よ。もしも、それをしてしまえば────"

 

 頭の中でぐるぐると色々な思考が浮かんでは消える。

 故郷での暮らし。

 自分達家族を売った町の住民。

 大切な家族。

 アークエンジェルに拾われてからの生活。

 そして。

 そして────。

 

「私の歌は……」

 

 マリリンの機体であるパールファングがS4Uを捕らえようと迫ってくる。

 頭の中で、売り飛ばされた研究所や、ファイヤバグにされた暴行の記憶が過る。

 その時の恐怖と苦痛が引き金となって、フィアラは母との約束を破った。

 

「世界を喰らう……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボロボロになって突然現れたS4U(フィアラ)

 マリリンが乗るパールファングによって残った手足を破壊され、完全に戦闘能力を失っている。

 それでも駆けつけようとZEXISはピラーや次元獣を排除しつつも行動するが、すぐに駆けつけられないでいる。

 誰もが歯痒い思いをする中で、事態の変化が起こった。

 

「歌……?」

 

 フィアラの歌声が聴こえる。

 そちらに視線を向けると金ではなく、赤い紋様が帯状となってS4Uを中心に放たれる。

 その紋様に触れたパールファングの腕が、文字通り消し去られた。

 

「なっ!?」

 

 驚いたマリリンは慌てて後退する。

 代わりに次元獣がフィアラへと向かうが、赤い紋様に触れて消し去られていく。

 

「何だよありゃあ!?」

 

 アポロが驚きから声を上げる。

 次元獣もピラーも、等しく赤い紋様に触れると問答無用に消えていく。

 そんな中でカトルがあることに気付く。

 

「あの赤い帯、どんどん軌道エレベーターに近付いてる!」

 

 カトルの言葉に誰もが驚愕した。

 確かに緩やかにだか、赤い紋様は軌道エレベーターに近付いていた。

 

「おい! 聞こえてるか! 歌を止めろっ!!」

 

 呼びかけるが、聞こえていないのか、それとも一度発動したら止められない理由があるのか、歌は止まない。

 

「フィアラ・フィレスの機体を接触する!」

 

「刹那!」

 

 ダブルオーライザーが高速でS4Uに接近しようと動く。

 機体を揺さぶれば或いはと考えて。

 しかし、その接近を警戒してか、帯の動きが明らかにダブルオーライザーを狙って動く。

 

「くっ!?」

 

 GNフィールドも肩部のシールドも意味を成さずにダブルオーライザーの左腕を消し去った。

 

「やべぇぞ!! このままじゃ!!」

 

 あんなものが軌道エレベーターに接触したら、今度こそ本当に崩壊する。

 

「フィアラッ!? 止めろっ!!」

 

 キラが近付こうとするが、それを拒絶するように赤い紋様が邪魔をする。

 もう少しで軌道エレベーターに赤い紋様が到達しようとした時に、赤いバルキリーが間に割って入った。

 

「バサラ!?」

 

「こんな事に"歌"を使うんじゃねぇ! 俺の歌を聴けぇっ!!」

 

 赤い紋様を止めるようにバサラが激しく歌い出す。

 すると、紋様はバサラの乗るファイヤーバルキリーを避けて────いや、掻き消えていく。

 バサラの歌に反応して、徐々に紋様は消えると、空中で静止していたS4Uが力を失ったように落下していく。

 

「フィアラッ!?」

 

 完全に落下速度が乗る前にキラが受け止めた。

 通信からは辛そうなフィアラの息遣いだけが聞こえてくる。

 意識を失っているのかもしれない。

 

「キラ君、彼女を早くこちらへ! 各員も、ピラーの排除を続行してください!」

 

「はい!」

 

 キラがS4Uを抱えたままに1番近かったソレスタルビーイングの母艦であるプトレマイオスへと向かった。

 

 

 この後にマリリンや残った次元獣は撤退し、落下するピラーの排除に成功。

 それでも犠牲は皆無とはならず、軌道エレベーターの下に在った街には破片による大きな被害を被った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プトレマイオスに回収されたS4U。

 フィアラはあれから発熱が続いており、意識が朦朧としている日々が続いている。

 おそらくは軌道エレベーターで使った赤い紋様が原因と予想されるが、結局詳しい事は不明のまま。

 

 キラはその日、自身の機体整備を終えて自分の部屋に戻る前に医務室に寄ろうと歩いていた。

 キラだけでなく、他にも数名が空いた時間に見舞いに訪れている。

 何か出来る訳ではないがもしかしたらそろそろ体調も回復してきているかもしれない。

 そんな期待を胸に医務室へ向かっているとキラが扉を開ける前に開く。

 

「え?」

 

 医務室の中から現れた人物を見てキラは目を見開いた。

 出てきたのは、この艦の操舵士をしているアニュー・リターナー。

 

「キラ、さん……?」

 

 まだ意識がはっきりしていないフィアラが、熱により辛そうな表情でキラを見る。

 アニューに掴まれたまま無理矢理立たされた彼女の頭には拳銃が突き付けられていた。

 どういう事か訊く前にアニューはキラに拳銃を向ける。

 アニューの瞳は、金色に輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 


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